第2話・一人でも動ける力を頂戴


 次の日。
 アクアはおやつの時間前に早々とルーザーのところに行くことに決めていた。ハーレムに捕まらないように急いで研究室のところにある小さな私室にたどり着く。部屋には誰もいなかったので、いつものように勝手に待った。
 次兄の部屋はいつも綺麗に整頓されている。テーブル上にはアクアの好きなお菓子で満たされた可愛らしい箱があるので、ふたを開け、ヌガーを選んで口に放り込んだ。
 兄がやってきたときには、3時はとっくに回っていた。部屋の中に末妹の姿を見つけると、穏やかな笑顔になる。
「ルーザー兄様」
 飛びついてきた小さな体を抱き上げて、ぎゅっと両腕を回してやる。アクアは喜び首ったまにぶらさがるようにして、お菓子の味のキスをした。
「昨日は来なかったね、アクアマリン」
「だってえ、ハーレム兄様が押し掛けてきたんだもん。でも、そのお陰でいいこともあったのよ!」
「へえ、何だい、いいことって」
 妹を抱いたままでベッドに腰掛ける。膝の上に座り直させ、今日は背に下ろしている長い髪を撫でた。
「それは・・・」
『素敵な人を見掛けたのよ。ジャンって言うんだって』
 言おうと思って、やっぱりやめた。また困らせるに決まっている。
「ヒミツよ」
 今度ばかりは一人で動かなきゃ。
「なんだ」
 拍子抜けしたような兄に、もう一度キスをする。そこでアクアは、ルーザーが少し疲れている様子なのに気が付いた。それは、いつもこうして近くにいる妹だからこそ感じ取れる、微妙なほどの変化だったのだけれど。
「兄様、忙しいの?」
 頬に手を添えてあげると、ルーザーは軽く片目をつぶる。くすぐったそうに。
「今、新入隊員の血液検査を担当しているからね。早く終わらせないといけないんだ」
「そう・・・大変なのね」
 兄が着ているシャツのボタンに指を伸ばした。わざとじらすように、一つ一つ外してゆく。
「じゃ今日はアクアがしてあげる」
 三度目のキスを求め見上げる青い眼は、16才の少女のものではなかった。それは女のもの。貪欲に欲しがる、一人の妖艶な女の。
 吸い寄せられるように口づけをする。舌と舌で、ゲームみたいに探り合う。からめながら、アクアは兄の上半身をそっと倒した。ようやく唇を離し、またぐような格好で座ったままシャツの前をはだけた。
「ルーザー兄様、綺麗よ」
 マニキュアが似合うように伸ばしている爪で、肌に触れる。兄の体が好きだった。マジックのような筋肉はないけれど。サービスのように透き通るほど細くなめらかでもないけれど。それでもしなやかで綺麗に整ったこの体は、愛すべきものだった。
「おまえも、可愛いよ」
 短めの髪をベッドに乱して、ルーザーは優しく微笑み、ゆっくりと浸みてくる心地よい感覚に身を任せる。
「うふふ」
 瞳と指と。いや、体全体が誘っている。腰つきや小悪魔のような笑顔も。
「気持ちいいとこ、全部知ってるわ」
 自分でシャツワンピースを脱ぎ捨てると、上に覆い被さり首筋から舌を這わせる。
「ルーザー兄様の気持ちいいとこに、いっぱいキスしてあげる」
「アクアほんとに上手だね」
 わずかなあえぎ交じりの声は、アクアの官能を高める最高の媚薬だ。体の芯を痺れさせ、頭の中までいっぱいに満たしゆく。濡れて溢れてしまう。まだ指一本だって触れられてはいないうちに。
「おまえにも、してあげるよ」
「ううん、いいの」
 肌を重ねる。巧みな導きによって、二人が一つになる準備はとうに整っていた。
「今日はアクアが全部してあげるの」
 座り込むようにして、ゆっくり迎え入れた。湿った壁が、侵入してくるものとこすれ合ってそこから体中に電気が走る。途切れがちな声を上げ、アクアは相手が喜ぶような動き方をした。
「気持ちいい・・・」
「気持ちいいね・・・」
 一度動くのをやめて、ルーザーの顔や髪や肩や胸に手を触れてみた。丹念に熱心に触れた。
 好きで好きで、たまらない。体の一部だけじゃなくて、全部一緒になれたらいいのに。

 研究棟から部屋へ戻るとき、アクアは外を回るルートを選んだ。もしかしたら、の、予感めいた期待がそうさせたのだ。
 花はあらかた散ってしまったが、新緑の芽吹き始めた良い時節だ。強くはない風も緑の匂いをはらんで、五感に心地よい。
 アクアが木陰にその人を見つけたとき、なぜか浮かんだのは『やっぱり』という言葉。
 会えそうな気がしていた。黒い髪と瞳、逞しい太陽のひとに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

−つづく−


 

 第3話・ほっとかないでね



 

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