第1話・身勝手な道楽者


「ねえ、兄様」
「何だよ」
 ため息に似た囁きが、ベッドの上に落ちる。
「たまには、優しくしてよ・・・」
「バーカ。そーゆーのはサービスにでもねだりな」
 いつものように、三番目の兄は粗雑な扱いをやめはしない。アクアマリンはそれでも押し寄せる官能の中に埋もれ、声を上げた。痺れるような感覚。兄ハーレムの金髪がブラインドから洩れる光でちかちかしている。
「んん・・・」
 激しさを叩き付けられ、身を反らす。のぼりつめる。
「いくぜ、アクア・・・」
 ハーレムの声も揺れている。
「アクアも・・・いく・・・あっ・・・」
 白くはじける。体の奥に熱いものを受け止め、同時に沈み込んでいった。
「よかったろ?」
 末妹の長い金髪をすくい取って、ハーレムはニヤッと笑った。
「イヤだイヤだって言う割にゃ、よがってんだもんな」
「・・・またそんな意地悪」
 子供の表情で、むくれてみせる。3時に、本当は次兄ルーザーのところへ行こうと思っていたのに。大好きな兄におやつを食べさせてもらおうと考えていたところにハーレムがやってきて、押し倒されてしまったのだった。
 ルーザーのおやつの方が甘くて好きなのに。起き上がって、アクアは着衣を整えた。服を乱暴にまくり上げられたのだ、まるで強姦だ。
「いじめなきゃ、ハーレム兄様ももっと好きになれるのに」
「・・ハッ、何言ってんだ」
 ハーレムも服を着る。ベッドに座ったまま口をとがらせている妹に、顔を寄せた。
「お前は俺のことを好きなんだよ」
「・・・そうかなあ」
 三番目の兄は一番強い顔つきをしている。簡単に言えば派手な顔立ちだった。それを近づけられて、ドキッとする。強烈な視線に貫かれるような錯覚から逃げたい。でも同じくらい、溺れたい。
「抱かれたくなるだろ?」
「・・・そうかな」
 兄は笑って、ベッドから離れた。椅子の背にかけていたシャツからタバコを取り出し、火をつける。
「ハーレム兄様、アクアの部屋は禁煙よ」
 それ以前に、未成年だ。
「固いこと言うな。やった後の一服がうめえんだよ」
 何となくオヤジくさいことを言っている。これ見よがしに吐き出される白い煙に、妹は眉をひそめた。
「兄様ったら」
 ハーレムはブラインドを上げた。明るい光がたちまち部屋を満たす。外は春爛漫の良い季節だ。
「いいお天気ね」
 アクアも窓の前に立つ。
「ああ。こんな日に部屋に閉じこもってセックスにふけるたあ不健康だな」
「ハーレム兄様が無理矢理したくせに・・・」
「どうせルーザー兄貴のところで同じことするつもりだったんだろ」
 妹をからかって、窓の外に目をやった。アクアの部屋は三階にあり、ちょうど外門に続く道を見下ろすことができる。
「見てみろよ、新しい隊員たちだ」
「ハーレム兄様たちの同期生ね」
 ハーレムとサービスは、この春に士官学校を卒業し、晴れてガンマ団員になっていた。
 門への道の脇は原っぱのようになっており、そこに男たちがてんでに座って談笑している姿がよく見える。真新しい制服はまだ板についていなく、アクアの目から見てもフレッシュで微笑ましい。
「サービス兄様もいるわ」
 ちょうどこちらに向いた角度で、草の上に腰掛けている。ストレートの髪は双子の兄弟には似ていない柔らかさで太陽光を集めていた。いつ見ても綺麗な兄だ。
「あら」
 しばし見とれてからふっとサービスの隣にいる男に目を向けると、アクアは小さな声を上げた。
 サービスとは対照的な黒い髪が、つややかな天使の輪を持っている。制服越しでも分かる逞しい体がをした男が楽しそうな様子で話をしていた。明るい笑顔が、アクアの目に眩しく焼き付く。
「・・・ステキ」
「はぁん?」
 妹の顔を覗き込むと、既にぽわっとした目をして。どう見てもフォーリンラヴ。タバコをはさんだ指で窓わくに手をかけ、ハーレムは首を傾げた。
「ジャンじゃねえか。おまえ、ああいうの好みなのか?」
「ジャン? ジャンって言うの・・・」
 覚え立ての名前を口の中で繰り返す。ジャン。あの人は、ジャンって名なんだ。胸の辺りがかあっと熱くなって、うるさいほどドキドキし始めた。
 短めの黒髪、朗らかな笑顔。その存在自体が、まるで太陽のよう。焦がれて焦げて、もう本当に恋しちゃう。
「ハーレム兄様、ねえ、紹介してよ!」
「マジかよおまえ」
 目をきらきらさせて頼んでくる妹を、呆れ顔で見下ろす。充分味わったタバコをジュースの空き缶でもみ消した。
「どこがいいんだよ」
「ステキじゃない! お願い、ジャンをアクアに紹介して」
「やなこった!」
 ぐっと体を引き寄せて、唇を奪う。苦手なタバコの臭いにもがくアクアをますます強く抱きしめて、深く深くキスをした。
「やあん、見られたらどうするの!」
 ようやく放してもらうと、焦って窓の外を気にする。幸い誰も上を見上げている者はいなかったのでホッとした。
「でもホントいいわ・・・」
 再び見とれていたら、いきなり視界を遮断されてしまった。ハーレムがブラインドを降ろしたのだ。
「兄様ったら、嫉妬?」
「阿呆」
 背後に回ると、胸の膨らみに手を伸ばす。もう片方の手はスカートの中に忍び込ませ、下着の中に指を割り入れた。
「あ・・・」
 まだ完全には鎮まっていない体が、再びねっとりと液体をたたえる。それをすくい取り、女の一番敏感な場所に塗りつけてやった。
「んっ、ハーレム兄様ったら」
 熱くて硬い。指先で巧みにせめると、せめた分だけ正直に反応する妹が愛しい。
「こっち向け」
 体を反転させ、せっかく付けた下着をまた取ってしまうとそのまま突っ込んでやる。繋がった相手を両腕でがっしり抱きかかえ、揺すってやった。まるで子供をあやすような格好。
 背に窓の冷たさを感じて、アクアは一瞬身震いをした。この窓を隔てて外には、ジャンがいるんだ。眩しい、太陽のような男。
「あーっ!」
 不安定な体勢がますます気を高めてゆく。爪を立てるほどしがみつき、声を上げた。
「ん、ああ、ハーレム兄様、気持ちいいよ・・・」
「いいのか・・・? 俺もいいよ」
 二人の声と音が、アクアの部屋に淫靡に響き続けていた。

 夕食の後にはサービスのもとへ出向き、アクアは先ほどハーレムにお願いしたのと同じことをねだった。
「サービス兄様、ジャンって兄様の親友なんでしょ? とっても素敵な人ね。アクアにも紹介してよ」
 しかしサービスの反応も芳しいものではなかった。ストレートの金髪に手をやりながら、困ったように綺麗な顔を曇らせている。
「うーん・・・。アクアの頼みなら聞いてあげたいのは山々だけど、あんまり団員と親しくなるのはね・・・」
 アクアも分かっている。それは総帥マジックの方針で、よく言って聞かされてもいたのだ。総帥の妹であり、青の一族唯一の女性であるアクアマリンがガンマ団員と個人的に親しくなるのは慎むべきだと。
 これ以上言っても、愛する兄を困らせるだけだと分かったので、アクアは口を閉ざした。
 だからといって、諦めたわけではない。絶対、親しくなりたいから。
「サービス兄様、そのことはもういいわ。それより気持ちいいことしよ」
 自分から手を伸ばして、兄のシャツのボタンを外す。男性のものとは思えぬ透けるような白い肌は、いつ見てもため息ものだった。そこにキスを散らして、ともどもベッドへもつれ込む。
 いつもこうして触れている兄だけれど、今日は何だか特別な体のような気がした。
 昼間、ジャンがそばにいたから・・・。
 ただそれだけなのに、丁寧な愛撫をしたくなったアクアだった。
 

 

−つづく−

 



 

  第2話・一人でも動ける力を頂戴



 

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