「昔、ここにはルーザー様という方がいらっしゃいました。私の最も尊敬する、素晴らしい科学者です」
 試験管の液体を通して、過去を見る。
「・・・この媚薬は、ルーザー様が作ったものです。ルーザー様にはアクアマリン様というそれは可愛らしい妹様がいらっしゃいましてね・・・」
 そっ、と試験管を外すと、金髪碧眼の娘が切なげな顔で身悶えしている姿が目に入った。両手を封じられ、体の中からの熱になすすべもなく焦がれている。
 高松は唇の端を吊り上げて笑うと、立ち上がった。白衣の両ポケットに手を入れる。
「その妹様を悦ばすためだけに作られたのですよ・・・。だからメモの一つも残されていません。僅かに残されていた物を私が分析して作ったんですがね」
 声は届いていても、話の一割も理解できてはいないだろう。内容の異常さになど、気付くはずもない。今や身に触れる空気にすら快楽を求めているラピスには。
 コツ、と靴を鳴らし近付く。
「実際に使う前に試さなければと思ってたところでした。ちょうどよかったですよ、ラピスさん」
「・・・・ん、あ・・・」
 自ら濡らしたベッドの上にぺたんと座って、いましめを解こうと後ろに回された両手を振ってもがいている。無駄な抵抗だった。痩せた胸が揺れるだけで。
 冷たい光に照らされた金髪と白い肌を見たとき、高松にふっと閃いたイメージがあった。
 白衣を翻して隣に続くドアを開ける。ゆっくりと戻って来たドクターの両手には、黒っぽい瓶が握られていた。
 器用にコルクを抜いた瞬間、赤ワインの華やかな香りが広がる。嗅覚にすらいつもの何倍も鋭敏さを備えたラピスには、むせかえるような鮮烈さだった。何て官能的・・・・こうしているだけで酔ってしまいそう。
「今のアナタにぴったりだと思いますよ」
 焦点の合わない目の前に瓶を掲げて見せて、ドクターは右手でワインのボトルを握ると、いきなりラピスの頭の上でそれを傾けた。
「・・・・あ、うっ!」
 とくとく、という音を聞いた瞬間、体の表面を何かが這いまわり始めた。ビクンと反応し目を見開く。その眼界も染まる、ワイン色に。
 髪から滴るお酒が、背中を胸を流れ落ち、ラピス自身の液と混じり合ってゆく。
 待ち望んでいた刺激を思ってもみなかった形で与えられ、不快なうずきと背中合わせの悦楽に全身は打ち震えた。
「ああああ・・・・っ!!」
 背をのけぞらすと、体を流れるワインが妖しい光を織り成す。
 濡れた髪が首筋に張り付く感覚にゾクッとする。
「思った通りですね」
 最後の一滴まで注ぎ尽くし、空になった瓶をテーブルに置くと、高松は少し引いた場所から、ボルドーに染まった少女を眺めていた。
「その色と香りがアナタにはよくお似合いです」
 ニヤニヤ笑いながら、ポケットに手を入れる。そのとき高松は、自分の白衣にもワインが飛び散っていることに気付いた。赤くシミになっている。
「もう・・・許して。何でもするから・・・」
 今まで決して見せることのなかった哀願の眼差しに涙まで浮かべて、紅の娘は必死に口走る。
「あたしを、いかせてよ・・・っ!」

「・・・では、第二段階に移りましょうか」
 再び近付いたとき、床の赤い水溜りを踏んだ。それはワインとラピスの混合、世にも淫靡な液体だった。
 構わず、同じ色に濡れ芳香を放つ髪を撫でる。実験対象へのせめてもの憐憫のように。ただそれだけでも反応する体に含み笑いをした。
「アナタのお望み通りにしてあげますよ」
 くいと顎を持ち上げ、口付ける。口腔内は熱を持っており、香り高い。
 ワインのキスを思う存分味わって、ようやく離してやると、ラピスは大きなため息をつき、たまらず前かがみになった。
「ちゃんとしてください。欲しいのだったらね」
「・・・・・・」
 ハアハアと荒い息をして、何とか上半身を起こす。ワイン色になった髪が胸に触れ、また感じる。
「従順ですね」
 従わざるを得ない状況にあることを知っていながら、ワザと意地悪く言っている。ラピスにはもはや反抗など思いもよらないことだった。
 ラピスの右肩を軽く掴むようにして、高松は腰をかがめ、左胸にキスをする。
「・・・ひぁっ・・・!」
「高かったんですよ、このワイン」
 戯れのように、舐めとってゆく。
「美味しいですね・・・」
「あっっあ・・・」
 もがくようにしながら、声も徐々に大きいものとなる。二人きりの地下室に、艶っぽく反響する。
「感じますか?」
「ああ・・ん・・・」
 痩せた体も、香気と艶色をまとえばセクシーに、科学者の目を惹きつける。
 そして、カウントダウンが、3・2・1・・・・。
「・・・ラピスさん、予定変更します」
 今、ここにいるのは男と女だけ。
 お互いがお互いを求めていた。
「実験は終わりです」
 ラピスの自由を奪っていた紐を外してやる。横になることをようやく許した。
 ワインのはねた白衣を脱ぎ捨て、高松も同じベッドに上る。
 激しく息をしているラピスの赤い肌に舌を這わせる。びくん、びくんとのけぞる体から、アルコールを舐め取った。
 丁寧に丁寧に、一滴残さず吸い尽くそうとでもいうように・・・。
「あ・・・あああーー!!」
 ほとんど叫ぶような声を上げ、背中にしがみついてくる。暴れるようにもだえるのを、両手で押さえ付けた。ベッドと体の間で、ワインがびちゃびちゃ下品に鳴っている。
「あーー!!」
 こうされることを望んでいた。気が狂うほどに。
 科学者ではなく一人の男として、高松も理性を忘れ味わっている。簡単に脚を開かせ、いっそう濃厚なジュースを淫らな音と共に啜る。
「すごい・・・すごくいい・・・!! あ・・!」
 あっという間に上り詰め、一瞬グッタリと力を失うラピス。高松はしかし、責めることをやめはしない。
「ああ、あ・・・」
 また息が上がる。水の音と重なり合い、全てに敏感なラピスの耳に妖しく響く。
 一体何回到達させられるのだろう、ただこの舌づかいだけで。
 
 

 

−つづく−

 
 
 
 
 



 

 第4話・Count Down
 



 
 

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