「気分はどうですか?」
「・・・」
 最初に感じたのは、熱さだった。体の奥からにじんでくるような・・・。風邪とも違う。真夏のほてりとも違う。初めてだ、こんな種類の熱を覚えるのは。
 ラピスは顔をしかめる。
「一体、何を・・・」
 言葉も熱い。
 熱は体の中心に集まってくるようだった。むず痒いような奇妙な感覚に嫌悪感を持ち始めたとき、急に全身の神経が逆立つように張り詰めた。
「・・・ひっ!」
 電気ショックを受けたかのようにはじかれ身を起こす。片膝を立てて座る格好になったが、ベッドに触れている脚やお尻がぴりぴりする。痛痒いというのか・・・。座ってなんていられない。体が物に触れる面積を極力少なくしたかった。
「駄目です。ベッドを降りては」
 鋭い制止を受け、仕方なく立ち膝のような格好に変える。ベッドに張られたビニールに触れている膝や足からぞくぞくするような感覚が昇ってきて、熱と交じり合い、下半身に集まっていった。
「・・・くう・・っ」
 眉根を寄せ、首を振る。熱い。
 神経を過敏にさせるような薬でも飲まされたのだろうか。熱でぼんやりとする頭で、ラピスは必死に考えていた。
 そのうち、肌に触れている服すらも強い刺激となって。いつのまにか屹立していた乳首に服が当たる。体をぶるっと震わす。
 涙のにじむ眼で前を見ると、高松はさっきの椅子に座って紙ばさみを手に、こっちを眺めていた。口元は笑みの形になっているが、その目はぞっとするほど冷たい。
 こっちはこんなに熱いのに、科学者は冷静に実験を進めているに過ぎないのだった。
 そんなことを考えていると、立てている膝もがくがくしてきた。
「服、脱いでもいいですよ」
 感情のかけらもない声で言い放たれる。
 ラピスは顔を真っ赤にして唇を噛む。恥ずかしさよりも悔しさが上回って、もはやにらみつけることもできない。
 体にまとわりつく布の感覚が段々に強烈なものとなる。我慢ならなくなる。
 ラピスは夢中でウエストの紐に手をかけ、外した。もう何も構っていられない。ただ、一刻も早く邪魔なものを取り去りたかった。
 白い布が床にふさりと落ち、蛍光灯の下、ラピスの一糸まとわぬ姿が現れる。ガリガリの体、乳房も貧弱だ。
「なんなのさ・・・これ・・・」
 しゃべるのも辛い。
 ドクターは脚を組んで、もう一本の試験管を手にした。同じ薬が入っているのだろうか。
「教えてさしあげましょうか?」
 すっと立ちあがり、ベッドに近寄る。試験管をラピスの目の前で振ってみせた。
「これはね、媚薬なんです」
「び、媚薬・・・っ?」
「そう。感じやすい体になったでしょう」
 あいている手を伸ばし、ラピスの内股に触れる。
「あっ!」
 身をのけぞらすのにも構わず、指を滑らせる。ぬるっとした液体が高松の指を熱く濡らした。
 無言で目の前に差し出され見せつけられる。自分の体がそんな状態になっているということに今初めて気付き、更に体が熱くなった。
「何もしてないのに、もうこんなに溢れてますよ」
 いやらしさのかけらもなく、単に実験の途中経過を話している調子だった。それがかえって油を注ぐ。
 今やラピスははっきりと思い知らされていた。体が欲していることを。敏感になりすぎている体なのに、実はそれ以上の刺激を求めていることを。
「アナタのです」
 すくい取った指で唇に触れてくる。唇もいつもの何倍も感じやすくなっていた。またびくんと体を震わす。
「舐めて見せてください」
「・・・・」
 どんな刺激でもいい。欲しい。
 もう羞恥心も怒りも二の次だった。ラピスは夢中で高松の指を舐めた。唇に触れる感覚だけではない。五感は全て最大限に研ぎ澄まされている。においも音も味も、全ての刺激は鮮烈にラピスを責め、官能を彩ってゆく。
「効いているようですね。さすがはルーザー様の作られた薬です」
 つぶやきながら椅子に戻る。紙ばさみを取り、ペンを走らせた。
 ラピスには高松の独白など気にかけている余裕はなかった。体の前に手をついて見ると、ベッドにまで透明な液体が流れ落ちている。自分の体から涌き出た熱い蜜は糸を引いて、きらきらと光っていた。
 こうこうと電気の灯る実験室の、どこまでも冷静な科学者の前で。一人こんな状態にさせられ、気も狂わんばかりだ。
 息もあがる。早く、楽になりたい・・・。
「ねえ・・・」
「何です?」
「・・・抱いてよ」
 普通なら口になどできない願いだが、ラピスはすんなり口にした。
 しかし、これもまた簡単に却下される。
「出来ませんね。まだ実験は終わってませんから」
「そんな・・・」
 はあっ、と色っぽい吐息が洩れる。
「お願い・・・」
 もう高松は返事をしなかった。椅子のひじかけに肘を置いて頭を支えるようなポーズを取り、被験者を観察し続ける。
「・・・あ」
 今のラピスにとっては、そうして見られることすら、興奮のもととなるのだった。
 高松にはそのつもりがないかも知れないが、これは立派な視姦だった。冷たい眼差しで犯している。
 もう、本当にダメだ。なりふりなんて顧みていられない。ラピスはベッドについていた手を外し、自らの体に触れようとした。
「やめなさいラピスさん。自分ですることも禁止です」
 そんなのもう、聞いていられるものか。
 指示を無視して一番熱い個所に指を潜りこませようとする。と、その手を取られた。いつの間に回ったのか、後ろから。
「・・ああ!」
 掴まれた手首からビリビリくる。ダイレクトに体の芯に響く。
 また濡れる。
「言うこと聞いてもらわないと、困りますねェ」
 シュッ。右手に持っているのは、さっきの実験用の服のベルトだ。ラピスの細い両手首を背中側でまとめると、素早く縛ってしまう。
「似合いますよ、ラピスさん」
「ん・・・」
 もっと言葉で苛めて欲しい。ぐっしょり濡れているところをかきまわして、めちゃくちゃにして欲しい。
 その指で唇で舌で・・・もっと、して・・・。
  
 
 
 

 

−つづく−

 
 
 



 

 第3話・染まるワイン色



 

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