ドンドンドンドン!
『うぉーいエース、開けろー!!』
 ドンドンドン!!
「――!?」



 セレブレイト<後編>



 若さの勢いで、行きつくところまで行くつもりだった恋人たちの動きが止まる。
 エースの手など今まさにの胸の膨らみに触れようとするところだったのに。
『早くしろー!』
 ドンドンドン!
「…………!?」
 我に返り、気恥ずかしいながらも二人は速やかに立ち上がった。は髪をなでつけながら椅子の方に移動し、エースは心もち前屈みでドアを開ける。
「やっぱりもいたな! 不良娘め!」
 笑顔全開でシャンクスが乱入してきた。右手いっぱいに飲み物や食べ物を抱え込んでいる……ドアを自分で開けられなかったのは、そのせいだったらしい。
「こんな機会は滅多にないからな、今夜は夜通し語ろう!」
 勝手に決めて、テーブルにジュースや酒の瓶などを並べる。
……何てタイミングで……」
 つい呟いてしまい、自分で自分の口をふさぐ。
 そんな娘を見やって、赤髪の父は口の端を上げた。
「おれの船で不純異性交遊は禁止だ」
「わっわざと……!?」
 知っていてわざと邪魔した!?
「当たり前だろ。エースを泊めたのはおれの目の届く場所に置いておくためだ」
 あっけらかんと暴露して、ひとり笑っている。
 エースにはそれが悪魔の笑みに見えていた。
(手強い親父だ……!)
 は絶望感に打ちひしがれている。
 そんな子供たちの様子には頓着せず、親父は酒の栓を開けて上機嫌であおっている。
「お前たち、宴会の途中で消えちまったろ。まだ話し足りねぇんだよ」
 その言葉には嘘はないらしい。
 やがてエースもも気を取り直し、水入らずで本当に夜が明けるまで話に花を咲かせた。

「エース、お前ウチに入ればいいじゃねェか。それでそのうちを貰ってくれりゃいい」
ったら」
「せっかくだが、おれはおれでやりてェんだ」
「……やっぱりフラれたか」
のことは貰いに来るけどな。おれの欲しいもの手に入れたら」
「……やらねーよ」
「えっ貰えねぇの? お父さんに交際認めてもらえたかと思ってたのに」
「誰がお父さんだ!」
「やめてよー!」

「……真面目な話、どうなってんだよお前たちは」
 一足先に夢の中へと旅立ってしまったを寝かせてきがてら、新しい酒を持って、シャンクスは戻ってきた。
 どんだけ飲むんだこの人、と思いつつ、エースは大きなあくびを一つする。
「……どうって、何もしてねェよ……あんたが邪魔したんだから」
 敬語などなくても咎められないので、エースはすっかり普段通りの口調で赤髪の船長に向かい口を利いている。
「いやそれはそれとして、別々の船に乗っている海賊同士で付き合うつもりなのか? 会えもしねェのに」
「それでもいいって、あんたの娘は言ってたぜ」
「……まァ、両親見てりゃそうなるか……仕方ねぇのかな、海賊って時点で普通に恋愛できるとは思えねぇもんな……」
 独白のように呟き、また酒をあおる。
「おれはが可愛くてしょうがねぇんだ」
「そうだな、見てりゃ分かる」
 赤髪のシャンクスともあろう者が、娘のこととなれば形無しだ。滑稽なくらいに。
「他の男のものになるなんて悔しくてたまんねぇんだが……お前ならいいって思えてきた」
「本当かよ!」
 決定的な言葉に、エースの瞳が輝く。シャンクスはそれでもどこか渋々頷いて、自分を納得させるように笑って見せた。
「……を、頼む」
「……おう……」
 短い言葉、それで良かった。
 男同士、瓶を掲げ上げ、乾杯をした。

 次の日は、スペード海賊団も赤髪海賊団も二日酔いで全滅状態となっていた。
 はエースと最後の時間を一緒に過ごすために、甲板に出た。共に冷たい風に吹かれて見つめ合う。
「エースに、これあげる」
 手渡したのは、赤い石のついたピアスひとつ。小さな宝石だが、光を集めてきらきら光った。
「綺麗だな」
「ママが石の研究してるって言ったでしょ。それもママからもらったの。私のピアスの片方……火になったエースにぴったり」
「ありがとう。大事にするよ」
 小さなものだ、落としたら大変だ。エースはベルトのバックルの中にそれをしまっておいた。
「おれは、お前にやれるような物ないな……帽子でもやろうか?」
「それはエースが被ってなきゃ。私は何もいらないって言ったでしょ。……エースの気持ち以外は」
 上目遣いに射抜かれる。
 今日のはラフな服装で――これが普段の姿なのだろう――自慢の赤髪も無造作に結い上げている。冬島は寒いのでコートを羽織っているが、腰には昔会ったときには帯びていなかった剣を差していた。
「剣を使うようになったんだな」
に毎日稽古つけてもらっているの。この剣は、私の力で最大の効果が得られるようにって、ママが作ってくれたレイピアなのよ」
 細身の剣には、宝石で見事な装飾が施されている。
 母の作ってくれた剣に、父が教えてくれる剣技……。
 何でもたったひとりで得てきたエースには、羨ましい輝きだった。
「いいな、お前は、両親に愛されていて」
 少し本音が滲み出る。は一瞬だけ、困ったともしまったともつかない表情をし、その次に慈しみ深く、笑った。
「エースだって、ご両親に愛されて生まれたに決まってる」
「……ふん……」
 ムッとして、斜め下に顔をそらしてしまった。
 ここは触れるべきじゃなかったんだと反省して、はとっさに腰の剣を抜いた。
「あ……ねぇ、私の剣さばき見る? 結構すごいのよ」
「へぇ……じゃあ見せてもらおうか」
 興味を持ってくれたようで、エースはから離れ、軽く構えを取った。
 は身軽さを活かしいきなり高く飛ぶと、大上段から振り下ろしてくる。エースは避けた。その着地点を薙ぐように剣が繰り出される。
 目くるめく自在な斬撃、なるほど見事だ。ロギアに剣での攻撃など効かないことを知っているから、本気で向かってくる。お世辞抜きで、鳥肌が立った。
「……すげぇ、あのときと見違えたな!」
「本当!? エースに褒められると、嬉しい!」
 にっこりして、剣を収める。
 この細い腕のどこにあんなパワーをひそませているのか、不思議だった。
「お前ってホントいい女……おれの技も見せてやろうか」
「船を燃やされたら困るわ。また新聞で見るから」
「そうかァ」
 残念そうに両手を一瞬炎にして、すぐにおさめる。それだけでも見入ってくれるに、満足を覚えた。
「悪魔の実シリーズでも、稀少にして最強のロギア、メラメラの実……かぁ。すごいなぁエース。もっともっと大暴れするわね。……有名人になっても、私のこと忘れないでよね」
「忘れるかよ。……こそ」
 一応、辺りを見回す。他に人影はない。皆まだぐったりしているのだろう。
 そっと手を繋いだ。物足りなくて、抱きしめる。
「他の野郎のことなんて、見るんじゃねーぞ」
「……エースみたいなカッコいい人、他にいないもの」
 の方からも腕を回して抱きつく。寒さで張りつめた大気の中、互いの体温を感じ合って、心臓の鼓動がシンクロするまでそうしていた。
「ねぇエース、ひとつお願いがあるんだけど」
「何だ?」
 見下ろすと双眸の輝きはそれこそ天然の宝石のようだ。思わず吸い込まれそうになる。
 は艶やかな唇を動かして、囁いた。
「……来年の誕生日にも、会って欲しいの。どこにいても何をしていても、その日、私のために空けてくれない……?」
 何もいらないと言うの、それは本当に、ささやかな願いだった。
 エースは一も二もなく頷き返す。
「分かった。一年後に必ず会おう。……そのときは、邪魔なんて入らねぇ、よな?」
 昨夜の残念な中断を示唆して、冗談めかして笑う。
「もう、エースったら……」
 は少し赤くなったが、うんと背伸びをしてエースの耳もとに囁いた。
「……一晩、時間が取れるなら、二人きりで……ね……?」
「……
 一年後といわず、今すぐにでも! という本音は口には出さず、ますます強く抱きしめる。
「苦しいよエース」
 そう言うを抱き上げて、くるっとその場で一回転させ、また抱きしめて。
 二人の楽しげな笑い声が、甲板に響いた。

「うわーあいつら二人きりだと思って、自分たちの世界作りやがって……それにしても、何話してんだ……?」
「アンタこんなところで何やってんだよ、お頭」
 後ろから低い声がしたので、跳ね上がる。手をかけていた剣が、金属的な音を立てた。
「ベンか。びっくりさせんじゃねェ。バレるだろ」
「覗き見かよ。趣味悪ィな」
 物陰に隠れてこそこそと甲板の様子を窺っているなんて……。これが大頭のやることだろうか。
「人聞きの悪いことを言うな。おれはの操が心配で、あのガキが悪さしねぇように見張ってるだけだ」
「それを覗き見って言うんだよ。ヤボはよせ、お似合いだろあの二人」
 とベックマンはシャンクスの首根っこを掴まえて引きずっていく。
 シャンクスは暴れながら結局退場ということになったが、危機一髪のところだった。
 なぜなら、ちょうどその直後、愛娘とその彼氏は熱いキスを交わしたのだから。

 クルーたちの回復を待ち、ふたつの海賊団はそれぞれの目的に向かい、出航した。
 まだ胸がいっぱいのは、間もなく父に呼ばれた。言われるままについてゆくと、小さな部屋に連れていかれる。
「お前、今日からここに寝ろ」
「え?」
 唐突な言いつけに、理解がついていかない。
 父はいつものように明るい調子でこう説明をした。
「もう決めた奴がいるんだから、おれが守ってやる必要もねェ。この船の若い連中にコナかけられようが、なびきゃしないんだろ。力ずくって言っても、下っ端ごときがお前に敵うわけはねぇからな。おれは今日から安心してひとりで寝るよ」
……」
「でも、眠れないときとか寂しいときは、いつでもおれの部屋で寝ていいからな」
 笑っているのがの目にも強がりに映る。は思わず、父親の胸に飛び込んでいた。
「……おい
、ありがとう……大好き!」

 一つしかない手を、を抱きしめてやるのに使うべきか、じわっと熱いものがこみ上げてきた目頭をおさえるのに使うべきか。
 そんなことで迷っておたおたしていることなど知らず、ただは父の胸の中でその溢れる愛情を享受していた。
 こんなに可愛いの心はもうエースのものなんだと思うと辛くて、でも子離れできないのはカッコ悪い。複雑な胸のうちで、結局持ち前のポジティブ思考がたどり着いた結論は、
(まあ、結局はおれのそばにいるんだから、いいか。恋なんて熱病と同じだからな。離れていればそのうち冷めるだろ。うん。冷めればいい)
 ちょっと黒い笑みを浮かべて、シャンクスは心置きなく愛するひとり娘を抱きしめた。

 初めての自分専用の部屋だ。ははしゃいで、今まではこっそり持っていたエースの手配書や新聞の切抜きを壁に貼り付けた。
 また、母からもらったドレスをクローゼットにしまい、宝石箱も棚の上に据え置いてみる。
 鼻歌交じりで自分の城を構築してゆく、幸せそうな娘の姿を見たなら、父親はがっかりするだろうが……。
 夜になって共同のシャワー室からさっぱりした姿で出てきたは、若いクルーのうちのひとりに声をかけられた。
お嬢さん」
「どうしたの?」
 すごい体格の大男だ。あまり近付かれると怖い。は無意識に身構えていた。
「あのエースって男……お嬢さんの何なんですかい?」
「何って、彼氏よ」
 正直に答えたら、相手はカッと目を見開いた。
「彼氏って……他の船の野郎じゃねえですかい」
「そうだけど」
「おっお嬢さん、おれは前からお嬢さんのことを好きだったのに……あんな野郎と……こ、こうなったら……」
 下っ端はもう喋るのは諦めたらしく、実力行使に出た。
 の体を抱えると、すぐそばの倉庫のドアを開け、中に入り鍵をかけてしまったのだ。
「ちょっと何する気!?」
 明かりがない。真っ暗闇だ。
「おれはもう、追放されても殺されてもいい……お嬢さんをおれのものに……一度でいいから……」
 何も見えない中で、血迷った声だけが不気味に響く。
「ぎゃーっちょっと!」
 近付いてくる気配に青ざめる。抱きしめられる寸前ですり抜けたが、狭い部屋だ、逃げ場はない。
 これが父親の心配していたことだったんだ――! 初めては実感した。今までは船長の部屋に備え付けのシャワーを使っていたから、夜に船内を歩くことなどなかったのだ。
「……」
 大声を出すと刺激してしまう。クレイジーな相手に、もう言葉は通じないと思った方がいい。
 は冷静に、手探りで辺りを探った。棒が手に触れたので、握り締める。ほうきかデッキブラシか……まぁ何とかなりそうだ。
 少し目が慣れてきた。向こうも同じらしく、突進してくる。
お嬢さん、おれのものになってくれー!」
「お断りよ!」
 は相手の懐に飛び込み、思い切り柄でみぞおちを突いた。
 うげえっ、とうめいて、下っ端は倒れる。その大きな体の上を飛び越え、素早くドアを開けた。
「このことは内緒にしてあげるから、二度と変な気は起こさないでちょうだい!」
 聞こえているかどうか分からないが、言い捨ててドアを閉める。
 用心のため、ほうきは持ったまま部屋に急いだ。
(シャワーの行き帰りには気をつけよう)
 でも、これもいい修練になるのかも知れない。
 ポジティブシンキングは父親譲りのだった。

 椅子に座って、エースの手配書を眺める。自然に頬が緩んできて、どうしようもない。
(私はもう、エースのものだからね)
 一年後会えるのが、今から楽しみだ。
 どこで会えるだろう。何をして過ごそう。そのときエースは、どんなに名を上げているだろう……。
 うっとり夢想にふけっていたのを、ノックの音がぶち壊す。
『おーいー、寂しくないかー? おれの部屋に来てもいいんだぞー!』
「…………!?」
 思わずずっこけたの前で、手配書の中のエースが、笑っていた。







                                                             END





 ・あとがき・


はい。というわけで、二人の間は清らかなままでした……。期待していた方すみません。
シャンクスがどんどん「お父さんは心配性」になってきましたが、娘を溺愛しているんだから仕方ないですね。

私のGW前半は一体何だったんでしょう。これ書いて終わりって。ちなみに子供たちは友達と遊びに行き、夫はゲーム三昧。
一日中ゲーム出来るのもスゴイと思うけど、一日中ドリーム書いてるってのもスゴイよね。や、でも普段はそんなこと出来ないんだから、良かったんだよね。
「書きたくてしょうがない」という今に、何も予定がない休みが重なったんだから。

前回「是非コメントを!」と恥をしのんで(?)お願いしてみたんですが、きれいに一つももらえませんでした(泣)。あっ誰も読んでくれてないのね……。ワンピドリームたくさんあるからね。わざわざこんな辺境に来る人いないよね。うんうん。ってスネてますよ私……。
まぁまだ「書きたい」気持ちは続いているので、誰も読む人いなくても逃さず書いちゃいます。書きたいときが書きどき。

次回は一年後。いよいよドキドキの展開を迎えちゃいますかね??




続き→ イニシエイション<前編>




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