のことを、幼いころから大切に守り、可愛がっていた。
 妹に対する気持ちも超えて、いずれは一緒に・・・とひそかに思っていた。
 そのの様子が、近頃おかしい。
 出かけてくると言い置き屋敷を後にする、その足取りが弾んでいるようなのは、気のせいなんかじゃない。
(今日こそは、つきとめてやる・・・!)
 物かげにでっかい身体をひそめながら、あとをつけてゆく劉鵬は、本職の忍びのクセにかなり素人っぽかった。


 
あなたを追い越した


「黒獅子ー!」
 いつもの場所−神社の境内裏で待っていた夜叉の黒獅子は、嬉々として駆け寄ってくるに、ただ軽い笑みで応えた。
 膝を開き、背を丸めて座るというやる気ゼロのポーズ。金の長い前髪越しに見上げ、片頬をゆがめるように笑う長身の男は、どこからどう見ても品行方正な男子高生には見えない。
 紫色の長いガクランという制服がまた、ガラの悪さを引き立てているのだった。
 だがはほっぺをピンク色に染め、すぐ隣に・・・腕と腕が触れ合わんほど近付いて、腰掛けた。
(黒獅子・・・!?)
 こっそりうかがっていた劉鵬は、愕然とする。頭の上に巨大な岩を落とされたかのようなショックだ。
 自分たち風魔一族の宿敵たる夜叉の、しかも先日、柔道で破った相手・・・その黒獅子となぜが、しかもあんなに親しげに・・・。
(ま、まさか、あいび・・・)
 最後の一文字が頭に浮かぶか浮かばないかのうち、目の前で繰り広げられた信じがたい光景に、劉鵬は叫び出しそうになった。
 が甘えるように更に身を寄せ、その肩を黒獅子が抱き寄せたのだ。
 それだけではない、黒獅子の奴、の顔の方へ首を傾けて・・・も呼応するかのように横を向きあごを上げ・・・
 二人の唇が、近付く。
「・・・待て待て、待てーッ!!!」
 もはや黙って見てはいられない。茂みから飛び出し、二人の前に立ちはだかった。
「・・・劉鵬・・・!?」
 目をまん丸にして口を半開きにしたの驚き顔が、劉鵬の目に焼きついた。

「・・・付き合ってるのか」
 有無を言わさず引き離され、家へ連れ帰られる途中で、劉鵬は初めてぼそりと聞いてきた。
 大きな背中をちらっと見上げ、は気まずさから抜け切れない。
 だがここで黙ってしまっても、自分の真剣な気持は分かってもらえないだろう。
 そう、遊びや興味本位などではなく。敵と分かっていながら、惹かれた。
 それは、兄弟たちに対しては決して感じることのなかった気持ちだった。
 生まれて初めて、好きな人が出来たのだ。そしてその気持ちに、黒獅子も応えてくれた・・・一番嬉しい形で。
 二人は毎日のように待ち合わせ、二人だけの時間を持つようになった−。
「・・・うん」
 ひとことだけ、答えると、劉鵬の肩がぴくり震えた。彼は、躊躇するような様子で立ち止まる。
「・・・皆には黙っておいてやるから、もう会うな」
 宿敵・夜叉の男と付き合っていたことがバレたにしては、兄の言葉は静かで優しいものだといえた。
 だけど・・・否、だからこそ、か。の心には反抗が芽生えた。
「嫌っ」
「・・・
 とうとう劉鵬は振り返る。両のこぶしを握り込んでこちらをにらみ上げるようにしているは、劉鵬にとって、いつものワガママな子供に過ぎなかった。
「初めて山を下りて色んな人間に会って、珍しいんだろうが・・・、あいつだけはやめておけ。夜叉なんて・・・」
「だって!」
 辛抱強く諭そうとしたところが、遮られた。
「劉鵬だって、黒獅子のこと認めてたじゃない」
「・・・それとこれとは別だ」
 確かに、正々堂々と拳を交えた相手である黒獅子に対して、親しみに近い気持ちを感じてはいた。敵同士でなければ良き友になれただろうとまで思えるほどに。
 しかし、それが妹と敵方とが付き合っていいという理由にはなりえない。
「夜叉と付き合って、幸せになれるわけはないだろう」
「どうして、そんなことが分かるのよ」
 も譲らない。
「私もう子供じゃないんだから。誰と付き合うかなんて自分で決めるわ。いくら兄貴だからって、私の幸せまで分からないでしょ!」
「・・・兄貴だからじゃない・・・」
「・・・?」
 風の動きを感じた瞬間、は劉鵬の腕の中にいた。
「劉鵬・・・」
 ふんわりと優しい抱き方だったけれど、いつものスキンシップとは違う。
 は動揺し、反射的に逃げようとした。
 だが劉鵬の腕に力が加わり、それを阻む。
、俺はずっと前からお前を好きだった。夜叉という以前に、他の男にお前を取られることが耐えられないんだ・・・!」
「・・・!?」
 突然の告白に瞠目するも、ぬくもりの中で静かに髪や背を撫でられるうち、ようやくは理解した。
 いつもそばにいてくれたのも。
 あらゆるものから守ろうとしてくれていたのも。
 全てが、彼が今言った気持ちからの行為だったのだと。
 温かさにくるまれ、いつも自分に向けられていた笑顔を思い浮かべると、の胸にも甘さが疼き始める。
「・・・俺の気持ちは別にしても、夜叉と懇ろになるのは認めない。いいな」
 少し厳しく言われた言葉には、頷くことが出来なかった。

 結局、次の日も、は黒獅子に会いに行ってしまった。
「どうした? 劉鵬の奴に叱られたか」
 心の迷いを簡単に悟られ、一応忍びなのに・・・と更にガックリきてしまう。
 だが、すぐ隣に座っている黒獅子を見つめて、心臓の鼓動が高まるのを自覚すると、やはり想いは褪せていないことを知るのだった。
 最初は日本人離れした彫りの深い顔立ちや、金の髪、着崩した制服の胸元にときめいた。
 風魔の兄弟たちの中にはいなかったのだ、こんなけだるげでいかにも悪そうな雰囲気を漂わせている男は。
 でも話をするようになり、気持ちが通じ合うと、彼が意外に優しくてお茶目な面も持ち合わせていることを知って、ますます好きになった。
 こうして毎日会わずにはいられないくらいに。
・・・」
 黙したままの娘を、黒獅子は少し強めに抱き寄せる。
 迷いがあるなら断ち切らせたかった。
 反対されるのは百も承知だったけれど、好いた娘が風魔一族のくノ一だった、というだけなのだから。
 の眼を覗き込み、そこに自分だけが映っていることを確かめようとした。
 揺れる瞳に納得いかず、もう少しはっきりとした形を求めて、の小さなあごを持ち上げる。
「夜叉とか風魔とか、関係なく好きだって・・・言ったよな?」
 は小さく頷く。だが肩を包み込むように抱いている大きなてのひらの熱に、近付くほど香るムスク系のコロンに、胸を圧迫されながらも思い浮かべるのは・・・。
−ずっと前から、お前を好きだった−
 兄と慕っていた劉鵬の、真剣な告白・・・。
「・・・・」
 唇が触れる寸前、黒獅子の肩を強く押し返していた。
「私・・・っ、ゴメン・・・!」
 相手の顔をまともに見ることができない。
 勢い良く立ち上がると、その場を走り去った。
「おいっ
 黒獅子もすぐに後を追う。
 神社を抜けて角を曲がると、そこにが見えた。・・・その兄、風魔の劉鵬と一緒にいる姿が。
 黒獅子は立ち止まり、あごを上げ不敵な笑みを浮かべる。
「よお、劉鵬」
「・・・・」
 を迎えに来た劉鵬は、険しい表情で、にらみ返した。

 ヒュウウ・・・風が吹き抜ける。
 荒れ野原のただ中で、男二人は対峙し構えを取っていた。
「今一度、勝負をつけないわけにはいかんようだな」
「のぞむところだ」
「ちょっと待ってよー、どうしてこうなるの!?」
 は割って入ろうとするが、
「お前はどいてろ」
「ケガするぞ」
 あっけなく、はじき出されてしまう。
 劉鵬と黒獅子はすでに戦闘モードで、互いの目には互いしか映っていないのだった。
「お前なんかにを渡せるか・・・」
 小さいころから見ていた。一生守り抜くと、心に決めていたのに。
 昨日今日会ったような男・・・しかも夜叉の一族などに、取られたくはない。絶対に。
「こっちだって、ハンパな気持ちじゃねーんだよ」
 一人の女性としてのを好きになった。
 一生を共にする覚悟だって、とっくにできている。
「劉鵬・・・黒獅子・・・」
 困り果て止めたいと思いながらも、すでに入り込む余地はないこと、は肌に感じていた。
 私的なことではあるが、この上なく真摯な気持ちで互いに挑む、何ものをも寄せ付けない闘志が二人の間に満ちている。
 忍びゆえに悟り、は退いた。
 杉の木に背を預けることで、体を支える。
 いつもそばにいてくれた兄と、初めて恋をした男とが、今から戦う・・・戦ってしまう。
「行くぞ劉鵬!」
「来い、黒獅子!」

 は胸に手を当て、心の声に耳を傾ける。
 一体・・・、自分自身はどんな結末を望んでいる・・・?



 ☆劉鵬が勝つ。

 ★勝つのは黒獅子!






 ・あとがき・

このジャンルでは初になります、マルチエンディング。
ダブルキャラドリームを書きたいな→風魔と夜叉とのダブルキャラなんて面白いかも→誰がいいかな・・・
と考えたら、なんか自動的に劉鵬と黒獅子に。
ハッキリとライバル同士として描かれていた二人だからね。
気分としては「青春、もうひとつ。」の続きのような感じで書いてみました。
一人の女性を巡って二人の男が決闘とは古典的ですが、ドリームとしては気分がいいんじゃないかなと。
どっちもいい男だから、悩んじゃいますねー。

さてちゃんは、どちらが勝つことを願いますか?




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