小次郎の気合いの入った声と、風林火山が空を裂く音が、庭に絶えなくなって幾数週。
 木々は黄や茶に色変わりした葉を、はらはら手放し始めた。
 そんなふうに、すっかり秋の深まった柳生屋敷にて、涼しい風を正面から受け、心地良さに目を閉じていたら、
「何か食べるものない? ちゃん」
 明るく声をかけられた。


 メッセージ(前編)


 振り返ると、麗羅がにっこりして立っている。
 も笑い返した。麗羅の笑顔の前では、ムッとしている方が難しい。
「珍しいね、麗羅がおやつをねだるなんて」
 風に弄ばれる髪を軽く押さえるのそばに、麗羅はゆっくり歩み寄る。きらっと、イヤリングが陽光を弾いた。
「小次郎くんにと思って」
 休みなく特訓を続けている小次郎に、差し入れを・・・なんて、は全然思いつきもしなかった。
「偉いわねぇ、麗羅は。・・・そうだ、おイモがあるよ」
 生のサツマイモを取り出して見せると、麗羅は笑み深くして両手で受け取った。
「僕が焼くよ」
「うん。いっぱいあるから、どんどん焼いて。みんなで食べようよ」
「オッケー」
 ボッ。その場で炎を出すと、麗羅の手の上でサツマイモはたちまち火だるまになった。
 麗羅の能力は、兄弟中一番実用的だとは思う。
「一丁あがり!」
「ほいっ!」
 ちょうどいい焼き加減のところで放られたヤキイモを、上手くカゴでキャッチする。素手ではヤケドしてしまいそうだ。
 そうやって全部焼いてしまうと、はカゴを抱えて麗羅と一緒に台所に移動した。庖丁で二つに切ってみると、ほこっと黄色い中身が見え、湯気と共に何ともいい匂いが立ちのぼる。
「おいしそう! 上手に焼けたね」
「そりゃあ、気持ちをこめて焼き上げましたから」
 暇さえあれば風林火山を振るっている、小次郎のために。
 気を張っている、みんなのために。
 麗羅の想いに同調し、は頷いた。
「私も、ご飯作るときいつも気持ち入れてるよ。力が出るように、良い体になるように、ってね」
 体のもとは、何といっても食べ物だから。
「うん。・・・伝わってる。いつもありがと、ちゃん」
「・・・エヘヘ」
 改まってお礼を言われると、ちょっと面映い。麗羅と目を合わせて微笑み合った、そのとき。
「おーいい匂いだなぁ」
「・・・劉鵬、鼻いいね。はい、秋の味覚」
 焼き立てのサツマイモを受け取り、劉鵬は早速かぶりついた。
「うん、うまい」
 手もとに目線を落としたまま、甘さにとろける笑顔でもう一口。
「ホントうまそー」
 その劉鵬の肩に肘をかけるような格好で、いつの間にか兜丸が立っている。
 忍びはみんな神出鬼没、も特段驚くこともない。
「じゃあ兜丸にも」
 渡すときにちょっと指先が触れたから、はやや慌てて手を引くと、胸に当てるようにして下を向いた。
 ・・・遊園地でのデート以来、何だか意識してしまって・・・。
「・・・ん?」
 もじもじしていると、照れた様子の兜丸とを、交互に見比べ、劉鵬はにわかに動揺し出した。
「なっ何なんだ、お前ら・・・」
 いつも注意深くのことを見ているのだ、とっくに気付いてはいた・・・あの日、二人の間に、何かあったのだろうと・・・。だが、こう目の当たりにしては、平静ではいられない。
お前・・・」
「あ、劉鵬、もう一本どう?」
 はっきりそれと分かる作り笑いで差し出されたヤキイモを、反射的に受け取ってしまう。が、後ろから伸びてきた手がさっと横取りした。
「それ以上食うと、また太るぜ。劉鵬」
 まだ成長途上の小龍が、劉鵬と兜丸の間からひょこっと顔を出す。
「あー小龍、また人の気にしていることを・・・」
 聞く耳持たずで背を向けて、小龍はヤキイモをおいしそうに食べ始めた。
 その隙に、兜丸とはひそやかにしかし素早くアイコンタクトを取り、くすぐったい気持ちになって小さく笑うのだった。
 麗羅は、そんな二人を見守るように黙って微笑み、
「じゃ僕は、小次郎くんと食べてくるよ」
 まだ切っていなかったヤキイモを一本持って、外に出て行った。
「そうだ、竜魔のあんちゃんにもあげなきゃ! それに、そろそろ蘭子おねーさまが姫ちゃんと一緒に帰ってくるよ」
 半分に切ったヤキイモを山盛りにしたカゴを手に、も元気に台所を出てゆく。
「姫子さん、来るのか」
「また何かの試合かな」
 男たちも、イモをぱくぱく食べながら、後について行った。

 姫子の今回の話とは、パティシエ大会についてで、パティシエという単語に馴染みのない風魔の面々はキョトンとしていたものだが、結局、麗羅と兜丸が出向くことになった。
 もちろん、もついてゆく。応援に行くという姫子の護衛ではあるが、コンビニに売っているデザートが大のお気に入りのだ、お菓子作りの大会と聞いて心躍らぬわけはない。
 姫子の隣に座って、おとなしく観戦しながら、バニラの香りにニコニコしてしまうのだった。
 兜丸と麗羅は、ひそかに警護してくれている。それを知っているから、オーブンの中で小さな爆発が発生し、せっかくのクリームブリュレ生地が灰のごとく真っ黒になってしまうというアクシデントにも、は動ずることはなかった。
 −事故なんかじゃない。あれは誠士館の妨害行為だ。
(相変わらずセコい真似ばっかりするのね、あいつら)
 どうせ下忍の仕業だろうが。
 窓の外には兜丸がいる。これ以上の邪魔が入ることはないはず。
 見るも無残なクリームブリュレを前に、呆然としているパティシエ部の女の子には、麗羅がついてくれた。
 麗羅にパティシエ服はよくお似合いで、は思わず拍手をしてしまう。

「何してるんだ」
 姫子と蘭子に小さな声でたしなめられ、ちろっと舌を出す。人知れず手助けをしている麗羅の姿が見えるのは、同じ忍びである自分だけなのだった。
(−!?)
 強い・・・闘気・・・否、殺気。
 感じた瞬間に、もうは動いていた。
「・・・?」
 姫子が気付いたとき、隣の椅子には誰も座っていなかった。









                                                  つづく




 ・あとがき・

11話のアバンタイトルが好きです。相変わらず微笑ましいなぁ、風魔の兄弟たちは。
みんなでヤキイモ食べてるし、竜魔が真面目な顔でおかしいこと言ってる〜(パチ・・・スエ)。
まさかあんな結末になるとは・・・ねぇ・・・。
でも、麗羅も兜丸も、原作では登場→即武蔵にやられる、だったので、ここまで生きてくれて良かったなぁと、思ってしまうのです。

ともかくも、ヤキイモにちゃんをからめたくて、こんな感じに話を組み立ててみました。
兜丸とちょっとイイ感じ? それまで何とも思っていなかった相手でも、好意を表してくれたとたんに意識してしまう、ということがあるんじゃないかと。
お互いを意識しまくっている小次郎と姫子ちゃんがあんまりにも可愛かったので、マネっこしてしまいました(笑)。

続きます。




 メッセージ(後編)




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