みんなより遅れて来た琳彪が、「小龍の奴もじきに着く」と言っていた通り。陽も落ちかけたころ、小龍も柳生屋敷に到着した。
羽兄弟(前編)
「これで全員だな」
「小龍、待ってたよー!」
は、はしゃいだ調子で小龍の右手を取った。
項羽が戻ってきた後ということもあり、嬉しさひとしおだったのだが、そのことについては胸のうちにとどめておく。
は、小龍の前では極力項羽の話をしないように気を遣っていた。
「、心配してたけど、元気そうだな・・・良かったよ」
「うん」
花のほころぶようなの笑顔は、いつも兄弟たちの気持ちをときほぐしてくれる。
小龍とて例外ではなく・・・壮絶な戦いから帰ってきた項羽が、部屋を出てこなかったからでもあるだろうが・・・、の手を軽く握ったまま、嬉しそうに笑い返し声をかける。
そんな様子を、竜魔たちはほっとするような気持ちで見守っていたのだった。
昨夜、わざわざ真夜中に、小次郎のみならず自分にまで笑えない悪ふざけを仕掛けた項羽を、は追って行ってしまった。
−いつもそうだ。いつもは項羽の方に行ってしまう。−
項羽がわざわざ自分の隣に座ったことにもムカムカしていたところに、小次郎の奴・・・あろうことか間違えた。項羽と自分を。
卵焼きなんてどうでもいい。一番されたくないことを悪気なくされたから、カッとなった。
「・・・ではどちらかが消えるか。さすれば迷うこともあるまい」
食べかけの朝食もそのままに、小龍は立ち上がると、肩を怒らせて部屋を出て行った。
「小龍、いい加減にしろ!」
すぐに劉鵬が後を追う。
「・・・小龍」
も、部屋を出た。
「ちゃんまで、どこ行くの・・・」
「何だよ、卵焼きひとつくらいで、みんな・・・」
と言いながらも、二つ目を小龍のお膳からくすねている小次郎に、兜丸は呆れ顔。
項羽は物言わず、相変わらず左脳を鍛えるために右手で食事を続けていた。
「項羽が心配しているのは、お前のそういう融通のきかないところだ」
劉鵬は、廊下で小龍の肩を掴まえ、彼にしては珍しく怒った調子で言って聞かせている。
は戸口で二人の背中を見つめていた。
「本当はお前だって、項羽の気持ちを分かっているんだろう」
今度は諭すように、声を抑える。
「二人しかいない兄弟じゃないか」
「・・・俺はそういう感情を捨てた。これからも項羽を兄と呼ぶことはない」
とうとう小龍は、乱暴に劉鵬の手を振り払った。
「先に現場に行く」
「小龍」
追いかけようと飛び出したの腕を、劉鵬が掴み上げた。
「、どこへ行く」
「私も小龍と一緒に行くわ」
「小龍のことは放っておけ」
小龍のわがままな振る舞いに、多少なりとも苛立っていた劉鵬の口調は、に対してすらも厳しかった。だがは心を決めていたから、きっぱり強く見上げた。
「放っておけないわ」
劉鵬は、いつも、小龍が悪いんだと言う。
確かに、あんなに心配している項羽に対し、兄を兄とも思わぬ態度を取る小龍を見ていると、そうも言いたくなるだろう。それは分かるけれど・・・。
「・・・認められてないって・・・小龍は思い込んじゃってる・・・。歯がゆいんだよ」
「・・・」
はっとして、劉鵬は手を離した。
「先に行ってるね。現場で、また」
微笑みを残してさっとすり抜けて行ったを、ただ見送る。劉鵬の表情には、先ほどまでの怒りとは違うかげりが降りていた。
実力はあっても認められない・・・そこに、共感をしているのだろう・・・。それはの優しさであり、のいいところというのか・・・。
『劉鵬の分もいただきッ!』
部屋の中で小次郎が大声を出している。
まだ食う気か。
「・・・食うならの分を食え」
自分の分を食べられたらかなわない。劉鵬は急いで食卓に戻った。
項羽が黙々と右手でご飯を食べているのが、ふと目についたが、空腹には勝てず箸を手にしてご飯をかきこんだ。
「・・・なんでまで来たんだよ」
今回は美術コンクールということで、会場はしんとした美術館。
ふてくされる小龍の隣に立って、は笑顔を見せる。
「いいじゃない。小龍とは久し振りなんだし」
「・・・他の奴らと一緒の方が楽しいだろ。俺なんかよりも・・・」
言いたいのはこんなことじゃない。
心の中で慌てるも、一度口から出た言葉を引っ込められるわけはなく。こっそりの横顔を盗み見、ただうつむく様子に胸を痛める。
悲しませたくはないのに−。
いつもいつも、傷つけてしまう。
それでも寄って来てくれるに、どうせ項羽の次なんだろうとか、ついでなんだろうとか、つい意地を張って・・・またひどいことを口にしてしまう。
本当は違う。笑顔を見たいだけ、そばにいて欲しいだけ・・・項羽の前で、そうしているように・・・。
(・・・また・・・!)
尖ったものが胸にこみ上げてくるのを止められず、小龍は切歯した。
ぎゅっと握ったこぶしが震えているのを、は自分も辛そうな顔をして、見つめていた。
『弟の小龍・・・あいつは俺と同じく、天才さ』
項羽が劉鵬に、こんな話をしていたとき、も一緒にいた。
ちゃっかり自分のことを天才って言ってしまっている辺り、項羽らしいなんて笑っていたけれど。
『あいつの敵は俺じゃなくて、自分の硝子だってことが分かってない・・・』
兄として小龍を心配する気持ちがこもった言葉に、は優しい表情になって、項羽の横顔を見上げていた。
血の繋がりっていいものだな・・・じんわり、思う。
項羽はこんなにも大きな心で、見守ってくれているのだから、今はちょっと屈託してしまっている小龍だけれど、いつかは分かり合って、二人が昔の二人のように仲の良い兄弟に戻ってくれることを、は信じていた。
心から、望んでいた。
「俺は項羽の贋作ではない・・・」
小次郎が絵画の贋作を暴き、騒然となった会場で、ひとり呟いた小龍の切なさ苦しさを、だけが聞いていた。
つづく
・あとがき・
鈴原さんからのリクエスト、「風連」本編です。本編はしばらく書いてなかったね。
武蔵とのドリームを本編沿いで、というリクエストもありましたが、今回はもう一つのリク、小龍で。
「白羽の想い」では項羽を中心に書いていたし、その後も小龍とのことをほとんど書いていなかったので、ちょうどよかった。私も小龍のことを書きたいとずっと思っていたところでした。
小龍があんなにひねくれていて、項羽との仲が最悪という、ドラマ独自の設定。自分なりに消化して書けるか、実は心配なところもあったんだけど、ちゃんの目を通したら少し書きやすくなった気がします。
ちょっと短いですが、中編に続きます。
「羽兄弟」中編
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