白羽の想い <前編>



 ボーリング大会の行われている裏で、夜叉八将軍の不知火と対峙した竜魔は、自らの内に眠っている能力を解放させることで、勝者となった。
 そして、柳生屋敷に戻ってきた竜魔は、そのまま深い眠りに就いた。

「・・・・・」
 抜き足差し足忍び足で竜魔の部屋までやってきただったが、今度もまた別の兄弟に出くわし、部屋から遠ざけられた。
「・・・何度行けば気が済むんだ」
 今回、を捕獲したのは、霧風だった。
「だって、心配なんだもん」
がしているのは、回復の妨げでしかない」
 強大すぎる能力の後遺症だ、静かに休ませておけば大丈夫だから。と幾度となく兄弟たちに諭されていたのだが、ものの30分も経たないうちまたそわそわして、自分の部屋を抜け出してしまう。
「ちゃんと寝ておかないと、明日も早いぞ」
「はーい」
 結局、部屋に戻されたは、叱られた子供みたいにしょぼんと肩を落とし、戸を閉める。
 そんな一部始終を、他の兄たちもしっかり見ていた。
「・・・またか、は」
「仕様がないな。あいつの竜魔への執着は、尋常じゃない」
 劉鵬は首を振る。
「脚を貫かれた小次郎のことは、放置なのにな」
 兜丸の言葉に、劉鵬と共に項羽も笑ったが、ふっと真顔になり呟く。
「・・・でも報われないな。相手が竜魔じゃ、いつまで経っても」
「・・・項羽?」
 一人歩き出した項羽は、軽く振り向き、二人に笑ってみせる。
 その笑顔は、劉鵬と兜丸に、何か一つの決心のようなものを感じさせた。

「つーかまえた」
 15回目にも及ぶ見舞い作戦も、未遂に終わったことを悟り、は仕方なく項羽に捕まったまま回れ右をした。
 何だかんだ文句を並べているを、後ろから抱きつくように拘束して、項羽はそのまま部屋の中まで運んでゆく。
 小さな部屋の真ん中に敷かれてある布団をちらりと見てから、の頭にそっと顔を近付け、花のいい匂いに酔うように目を伏せた。
 狂おしくなって、抱きしめる腕に力が入りそうになった、そのとき。
 がいきなり、振り向いた。
「ちょっと項羽ー、いつまでくっついてんの。お金取るわよ!」
 普段通りの調子に、つい笑いながら、それでも腕は外せない。

 今、言う。もう心は固まっている。
「里に戻ったら、俺の嫁になってくれないか」
「・・・はいっ?」
 もう一度項羽の顔を見ようとして、出来なかった。どうしてか急に怖くなって。
 いつものような冗談とは違うと、の肌に伝わっていたから。
「お前がどんなに想おうと尽くそうと、竜魔は応えちゃくれないさ」
 の頭は真っ白で、項羽の言葉が入ってこない。
 寝耳に水だ。まさか項羽が、こんなことを言ってくるなんて。全然気付かなかった・・・そういう対象として、見られていたことに。
 腕の拘束が、ようやく緩んだ。ホッとするのも束の間、項羽が目の前に回りこんできて、の両肩に手を置く。
 どうしようもなくて見上げた項羽の顔は、いつもとまるで違っていた。
 ドキッとするほど真摯な、男の顔をしていた。
「俺だったら・・・大事にしてやれるよ」
「・・・項羽・・・」
 天与の才をひけらかすこともなく、一人前の忍びと認められた今も努力を続ける羽使い。最強にして、美しい・・・。
 それでいて普段は明朗で人当たりが良いから・・・というよりも、悪ふざけのインパクトが強すぎるせいで・・・、忘れがちだけれど、項羽は本当はそういう人だ。
 嬉しくないはずはない。こんな素敵な人から申し込まれて。
 でも・・・。
「項羽ったら・・・」
 どうしたらいいのか、分からない。
「そ、そんな冗談ばっかり、言ってる場合じゃないでしょ」
 いつものおふざけのせいに、してしまえば・・・。
 目を合わせることすら辛く、少し下向けた視界の中で、項羽の唇がまだ何か紡ごうとしているのを見た。
 だがそれが声にならぬうち、肩に置いた手をそっと外す。
「・・・考えといてくれよ」
 ぽつり、一言だけ残して、項羽は静かに出て行った。
 真っ直ぐ顔を見ることは出来なかったけれど、項羽は、笑っていた。
 ちょっとだけ寂しそうに、笑っていた。
「・・・・・」
 脱力してしまい、は布団の上に座り込む。手を当てた胸から、激しい鼓動が伝わってきた。
 求められるのは嬉しいことだけれど、何か不潔な気がぬぐえない。気持ちが揺さぶられていること自体が、竜魔への一途な愛情を裏切っているようで、後ろめたくもあった。
 それにしても、項羽があんなことを言ってくるなんて・・・。そういう目で今まで見られていたなんて・・・。何があっても、自分には竜魔しかいないのに・・・。
 さまざまな想いが、胸の中去来し交差して、ぐるぐる乱れる。
 その晩、はなかなか寝付くことが出来なかった。

「竜魔のあんちゃん!」
 次の朝、案の定ちょっぴり寝坊したが竜魔の部屋に飛び込んだとたん、入り口に立っていた霧風に勢いを殺がれた。
「竜魔はもう大丈夫だそうだ。静かに・・・」
 部屋の中では、こちらに背を向けるように、竜魔が座していた。
「・・・全くお前は」
 裏腹に、声には微笑が含まれていたから、は喜んで竜魔の隣に座ると、大好きな兄の顔を覗き込んだ。
「顔色いいみたい、安心したわ」
「俺のことより、外に行ってみた方が面白いぞ」
 と目を上げる。閉じられた障子戸の向こうから、小次郎のくぐもった笑い声が遠く聞こえていた。
 項羽の悪ふざけが発動されている。
 すぐに思い至ったものの、はにわかに動きはしなかった。
 いつもなら項羽と一緒になって小次郎を突っついては大喜びするなのに、珍しい・・・。そう思いながら、霧風は腕組みをして入り口にもたれたまま、を眺めていた。

 今日は、弓道部の試合がある。
 小次郎を木の幹に縛り付けたまま、出掛けて行く項羽の後ろ姿を、は黙って見送っていた。

−せめて一声でも、かけてあげれば良かった−

 夜になっても。また日が昇り、新しい一日が始まっても。
 項羽は戻っては来なかった。





                                                           つづく




  ・あとがき・

ここのところ毎日、ドラマのDVD2巻を見ているので、項羽のお話をば。
本当に人が死んでしまって、生き返りもしない話なので、風小次を書くときって切ないんです。
ドラマ作成に携わった人たちもきっと色々思うところがあったでしょうね。
私も、私なりに書いてみたいな、と思いました。本来であればキャラが死ぬ話なんて書きたくはないんだけど。

項羽のプロポーズ。いいなー(笑)。
ちゃんはあんまり竜魔に一途すぎて、他の兄弟たちの気持ちに全然気付いてなかったんですね。
ただの仲の良い兄弟だと思っていたから、女として見られていたことにちょっと嫌悪を感じてしまう。潔癖なお年頃なので・・・。
最初、布団に押し倒してプロポーズ、なんてふうにも考えたんだけど、それはあんまりだなと思ってやめました(笑)。
麗羅の出番がなかったですね。

続きます〜。



「白羽の想い」中編




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