「オイ、ちょっと聞きたいんだけどよー」
 夕食後に行ってみると、中から戸を開けてくれたくノ一は、なぜかニヤついていた。
「なになに〜? 明日のデートのこと?」
「・・・なんでお前知ってんだー!?」


 初めてのデート(前編)


「え、だって姫ちゃんが、明日は小次郎と出掛けるから護衛いらないって言ってたんだもん」
「あ、そっか。じゃ話は早えや。あのさ・・・」
「私も行くから!」
「ハアッ!? 何でだよ!?」
「だって私は姫ちゃんのそばにいなきゃいけないんだもーん」
「いらないって言ってんだろ、ジャマすんなよッ」
「まーまー、熱くならない」
 ポンポン、肩を叩かれ、ここでようやく小次郎も、が単に反応を面白がっているだけなんだと気付いた。
「大丈夫、二人の仲を邪魔したりはしないから」
 は声を低め、小次郎の方に顔を寄せながらニッコリする。
「ただ私も遊園地に行ってみたいってだけだから」
「・・・またお前、オレをダシにしやがって・・・」
「いいじゃないの。あ、一人じゃつまんないから、私も誰か誘ってデートしよーっと」
 思いつきに従って、小次郎を押しのけると、はデートの相手を探しにか行ってしまった。
「おい、オレにアドバイス・・・ってもういねぇし」
 ふてくされたように、小次郎は腕組みをする。
 どうすればデートを成功させられるか、絵里奈もも教えてくれないとなれば、もはや頼れるのは一人しかいない。
「仕方ねえ、蘭子に聞くか。アイツも一応、女だしな」
 諦めて、の部屋の戸を閉めた。

「デートデート。誰か一緒に行ってくれないかな」
 先に目的ありきで相手を探しているという本末転倒ぶりにも気付かぬまま、はキョロキョロしながら廊下を渡ってゆく。
「あっ兜丸」
 今夜の見張り番であるらしく、木刀を片手に立っている兜丸を見つけ、嬉々として駆け寄った。
「ねえ兜丸、明日私とデートしない?」
「・・・・」
 あまりに唐突なお誘いに、声も出せず、兜丸はガランと木刀を取り落としてしまった。

「で、何で俺なんだ?」
 小次郎と姫子が出掛けるから、自分も行きたい。それには相手が必要なんだというの説明に、兜丸はちょっとドキドキしながら尋ねてみた。
 しかしの答えは、
「だって、竜魔のあんちゃんは病み上がりだし、兜丸が今たまたまここにいたから」
 実にあっさりとしていた。
(・・・たまたまかよ・・・)
「あ、無理ならいいの。他の人誘うから」
 少しの落胆を、拒否と受け取ったか、また簡単にそんなことを言う。
(その程度か、そーだよな)
 要するに目に付いたから声をかけただけで、デートの相手は誰でもいいと。
 分かってはいても、がっかりしてしまう。
「・・・いや、いいよ。行くよ」
 それでも、承諾してしまう自分が。
「えっホント、やったー!」
 飛び跳ねて喜ぶを見ただけで、嬉しくなってしまう自分が。
 我ながら滑稽だと思ってしまう兜丸だった。

 次の日、外はいい天気。まさにデート日和である。
「じゃーん!」
 は着替えた姿を兄弟たちにお披露目した。
 鮮やかな色のタンクトップにロング丈のパーカーを重ね、ショートパンツを履いてオーバーニーのソックスで決めている。
「この間、渋谷に行ったときに姫ちゃんと選んで買った服なんだー」
 くるり一回転してみせると、パーカーのフードが元気に跳ねた。
「フ・・・フトモモ・・・、ちょっと隠さないと・・・」
「えーこれくらいフツーだよ」
 いつもセーラー服のスカートで隠されていた大腿が、白くて眩しくて見ていられなくなって、劉鵬は顔を逸らした。
ちゃん可愛い! 遊園地、僕も行きたいなー」
「デートといえば一対一だから、麗羅は今度ね」
「えーっ」
「じ、じゃあ俺と二人で行こう。別に兜丸じゃなくたっていいじゃないか」
 必死の劉鵬。ひそかに小龍も頷いている。
「だって、兜丸と約束したんだもん」
「・・・そーゆーコトだ」
 兜丸は立ち上がると、の肩を抱くように、腕を回した。
「そろそろ行くか、
「うん!」
「悪ィな、じゃあな」
 肩越しに振り返って手を振る兜丸は、どこか勝ち誇ったような笑顔を浮かべていて、残された男たちの嫉妬心を煽る。
「ちぇっ・・・何だよ」
「だいたい、デートって・・・」
 悔しがる麗羅、どちらかというと悲しんでいる劉鵬と、押し黙ってしまった小龍。三者三様のゆらぎが交錯する中で、霧風が竜魔にごく静かな声で聞いた。
「いいのか? 遊園地なんて」
「・・・昨夜、が俺に許可を得に来た」
「そ、それで竜魔、いいって言ったのか?」
 必要以上に険しい顔をして、劉鵬が切り込んでくる。だが当然ながら、竜魔は動ずることもない。
が出立するときにも言っておいたが、これがあいつの最初で最後の遠征となる。思い出のひとつやふたつ、作るのもいいんじゃないか」
「・・・・」
 思えば、この間、姫子と渋谷に遊びに行きたいと言い出したを快く送り出したのも、竜魔だった。
 里の外での思い出を持たせ、その後は・・・。
「もう二度とちゃんを里から出さないの・・・?」
 少し悲しそうに、麗羅が言った。
 がどれだけ、忍びとして戦いたいと願っているか、よく知っている。
 ただ、先日の初陣で初めて人の命を奪う重みを背負ってしまった麗羅には、以前のようには言い募ることが出来なかった。
「・・・今回の仕事が終わったら、お前たちのうち誰かに嫁がせようかとも考えている」
 高校生の年で結婚は早すぎる観もあるが、風魔一族は総じて早婚であり、十代後半で祝言を挙げるのもそう珍しくはなかった。
「無論、双方の合意あってのことだが・・・」
 竜魔の言葉に、一瞬のうちその場の空気が張り詰めた。
 緊張と探り合いで、互いに顔を見合ったり、目を逸らしたり。
 その末に、劉鵬がそっと進言する。
「竜魔が貰ったらいいじゃないか・・・はお前のことをあれほど慕っているんだ」
 自らの想いを重ねているのか、劉鵬の声は苦しげだった。
「・・・俺は、長くはいてやれない」
 短い言葉に、誰もが声を失ってしまう。
 戦いのたびに命を削りながら、竜魔はそれでも超能力を使うのをやめない。
 の気持ちに報いてやるよりも、風魔の長兄として生き、そして死ぬことを選ぶという竜魔に、それ以上何を言えただろう。
「・・・ちゃん、誰のお嫁さんになるのかな」
 花嫁姿を思い浮かべ、麗羅はほやんとしている。
「そう急ぐことではないだろう。第一、まだ夜叉との戦いは終わっていない」
 冷静に告げる小龍を、劉鵬は黙って見つめていた。
 双子の兄の面影を、知らずのうち重ねていたのだ。
 項羽がに対し何らかのアプローチをしたこと、今や劉鵬は確信していた。
 明らかには、前のとは変わってきているのだから。
「・・・あ」
 思わず声を漏らした劉鵬に、皆の視線が集まる。
「兜丸も、もしかしたら・・・」
 二人きりで遊園地、という願ってもないチャンス、活かさずむざむざ戻ってくるだろうか。
 いくら兜丸といえど、だ。
「あーやっぱり俺が行きたかったー!」
 がばっと頭を抱える劉鵬を、
「劉鵬さん、大丈夫かな」
「ふーん・・・結構、マジなんだ・・・」
 麗羅と小龍は、遠巻きにして見守っていた。







                                                  つづく




 ・あとがき・

「告白」の回、かなり胸にきました。
良かったなぁ、小次郎と姫子ちゃん。
さてこのシリーズでは・・・やはりちゃんも黙っていられず、遊園地に出かけます。
当初、皆で出かけるというふうに考えたんだけど、やっぱりデートということで一対一がいいなぁと。あれこれ考えた末、兜丸に白羽の矢が。
正直、私が今までドラマで見た部分では、兜丸ってあまり目立ってないし、原作でも登場してすぐに死んでしまったから、あんまり思い入れがなかったんです。
だから、デートの相手が兜丸だとどうかな・・・と思ったんだけど、プロット立てているうちに「いいかも」と思えてきました。
兜丸の運命を考えると、また切ないけどね。

続きますー。



 初めてのデート(後編)




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