分厚いカーテンが引かれた自室で、ジークフリートはソファにもたれていた。くつろいだ体勢でいながらも、手にしているのは仕事の書類であるところが彼らしいというか何というか。
は、丁寧に入れたお茶を二つテーブルに置き、黙って正面の椅子に腰掛けた。こんなときにうっかり話しかけようものなら、本気で怒られるから要注意だ。
でも、マグカップを傾けながら、湯気越しに彼の真剣な顔を眺めるのも、は嫌いではなかった。
北欧神話においては「龍殺し」と呼ばれた勇者の名・・・それがジークフリート。
ジークフリートは近衛隊として常にヒルダ様の側についている。それに、アルファ星ドウベの神闘士に選ばれてもいたので、の仕事上の相手でもあった。
しかし、もう夜と呼べる時間に彼の部屋にいることでも分かる通り、二人はそれだけの関係ではない。
「冷めてしまう前に、どうぞ」
書類を置いたところで、はそっと告げた。ジークフリートは顔を上げもせず一口含み、ため息と一緒にカップを戻す。
「ミーメの家に、しょっちゅう行っているようだが」
話に前置きがなかったので、はきょとんと答えた。
「竪琴を習っているだけよ」
「二人きりなんだろう」
ジークフリートの声は少しいら立っていた。しかしそんな様子に、は軽く笑ってしまう。
「あ、それってもしかして・・・嫉妬?」
「まぜっかえすな。私は真面目に話をしているんだ」
アイスブルーの瞳が鋭さを増したのを見て、肩をすくめる。
「ごめんなさい、」
はジークフリートの実妹なのである。
誰より強くて、しっかりしていて、おまけに格好いい兄は、の一番大好きな人だった。幼いころからいつも「、」と、あとをついて歩いていた。
今に至っても、それは変わっていない。
そしてまた、ジークフリートが、妹を大切に思い、何が何でも自分が守ってやらなくては、と固く心に誓っているのも、昔から同じなのだった。
要するに兄離れ妹離れをしていない−本人たちはそう思ってはいなかったが−ベッタリ兄妹で、仲の良い友人たちには、「まるで恋人のようだ」などと、かっこうのからかいの種になっていた。
「男の家に通っているなんて、変な噂が立ったら困るだろう」
「が困るの?」
ピンと来ていない。には、この小さな国の中で、噂の口にのぼるとはどんなことなのか、分かっていないらしい。
「違う。縁談も来なくなるぞ」
「縁談だなんて、まだ私はそんな」
きゃーと言いながら頬に手を当てる妹を見て、二度目のため息を落とした。
「実際、男と二人きりというのは危険なものだ」
「ミーメはいい人よ。だって知っているでしょう」
疑いもしない無防備さが、ジークフリートには危うく思えてしょうがない。
自分の意識がどうであろうと、確実に女らしくなっていくのに。花開き、芳香を振りまくのに。
「どんないい奴に見えても、男は男だ。竪琴を習うにしても、二人きりはダメだぞ」
「はーい」
兄の言うことに間違いはなかった、今まで。だからいつも、は従ってきた。
ミーメには、悪いけれど王宮まで出向いてもらうようにお願いしてみよう。
頷いてみせると、ほっとしたのか、ジークフリートは口調をゆるくした。
「まったくいつまでもお前は子供で困る。そろそろいい男でも連れて来て、私に紹介して欲しいものだな」
「なんだか矛盾している気がするけど」
男には気をつけろ、と言いながら、いい男を連れて来い、だなんて。
「それに、なかなか素敵な男の人っていないわ」
これは本当のところだった。もちろん、の周りには若者がたくさんいるし、神闘士たちだって、トールもミーメも他のみんなも、素晴らしい男性ばかりだ。
だけど、恋のお相手ということになれば、やはり違うのではないかと思う。
きっとそれは、ハッキリとしたときめきであるはずだ。まだが経験していないような。
「困ったものだな」
言葉の割には、なぜか嬉しそうなジークフリートだった。
「のせいでもあるのよ」
口の中で小さく呟く。けげんそうな兄を正面から見て、ごまかすように笑った。
が大好きだから・・・。
と、つい比べてしまうから・・・。
好きになる相手なんて、なかなか現れない。
それでも今は構わないし、自分にとってそこまでの存在である兄を、誇らしくさえ思うのだった。
「おやすみなさい、」
「おやすみ、」
軽いキスを挨拶にして、兄の部屋を出る。
自分の部屋に戻ると、不意に高鳴った胸に、手を当てた。どきっとして目を見開く。
いつか、兄を越える人に出会ったら・・・。
予感めいたひらめきに、息苦しさすら覚えて。
ベッドに座り込むと、袋からそっと竪琴を取り出す。
とは別の人が「大好きな人」になる・・・?
期待もあるけれど、少し怖い。
そんな日が来るなんて。
ひとつ呼吸をすると、指を添え、やさしい旋律を紡ぎ上げてゆく。
さんざめく心を静めるための夜想曲−ノクターンを。
穏やかな眠りにいざなってくれるようにと、願うように奏で続ける。
・あとがき・
さん、あなたはジークフリートの妹です!
もしも「」という呼び方がジークフリートに似合わないようでしたら、どうぞインデックスのほうで登録しなおしてくださいね。「なんだこのベタベタ兄妹は!?」と思ってもらえたらOK。ドリームにおいて、キャラの妹設定の場合は、もう恋人なみにベッタリなのが好きなんです。まともな兄妹ドリームはバレンタインの「失敗」しかまだ書いたことがないんですが、「失敗」も、まさにそんな感じでしたね。
冒頭は「え、もしかして恋人?」と思わせるような書き方をしておいて、途中ヒロインに「」と呼ばせる。これも「失敗」と全く同じやり方です。
セルフパクリですね! それくらい好きなパターンです。
兄妹というより、恋人感覚で書いています。この長編を頭の中で練っていたとき、神闘士の妹設定にしようと思ったらもうジークフリートの妹しか考えられませんでした。
どうしてだろう。やっぱり神闘士ナンバーワンだしね。それなりのステータスが欲しかったのよね。
シド&バドとかアルベリッヒの妹とかでも面白そうだったけど(笑)。
ジークフリートは仕事に厳しそうだけど、「妹には甘い兄」という設定が違和感なくハマったと思います。ちなみに、北欧神話ではジークフリートは「シグルト」という名前で載っていました。シグルトでもなかなかいい名前だと思いますが。
「龍殺し」という呼び名はジークフリートドリームの「六月の雨」でも使っていますが、なんか気に入っているので、再び出してみた。しかし前にも書いたけれど、ジークフリートというキャラはリアルタイム時、私たちの中ではお笑いキャラでした。代名詞は「ワカメ頭」で、なんかかなりネタにしていた気が・・・。
カッコいいのになあ(笑)。
H16.12.10
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