「」
城の廊下を一人で渡っていたら、後ろから声をかけられた。は笑顔で振り向く。
「シド」
短髪の、涼やかな目をした青年は、兄の古くからの友人で、にとっては「もう一人の」のような存在だった。
シドは微笑んで近づくと、マントを払い懐から何かを取り出した。何気ない一つ一つの所作も、見ていてきれいだと感じるほど洗練されている。それもそのはず、彼は貴族の出で、その家柄と育ちの良さから、どんな動作にも気品がにじみ出るのだった。
しかし、それが嫌味にならないのは、彼の人柄なのだろう。
は家格からいえばまったく及ぶものではなく、悪い言葉で言えば「成り上がり」(本当に悪い言葉だが、神闘士のひとりに面と向かってこう言われたことがある)なのだけれど、シドは最初からそんなことは気にせず、ジークフリートとに親しく付き合ってくれていた。
彼が兄と同じように神闘士に選ばれ、ゼータ星ミザールの神闘衣を得たときも、は心から喜んだものだった。
「君に、これを」
手渡されたのは白い封筒だ。
「ラブレターだよ」
その言葉に周りが真っ白になってしまった。は目を上げ、相手を思わずじっと見つめてしまう。
「ラブレター? シドが、私に・・・?」
しかし、シドが今にも笑い出しそうにしているので、からかわれたのだと知る。
「人の悪い冗談だわ」
「嘘は言っていないよ」
声には笑いが含まれていない。が封筒に目を落とすと、表にある「様」の文字は確かにシドのものとは違っていた。シドの字はもっと整っている。
裏返すと、そこにつづられたサインはには覚えのない名前だった。
「近衛隊のひとりでね。姫に、と、私が預かってきた」
「どうしてシドが?」
「自分で渡す勇気はないらしい・・・と・・・」
何か言いかけて、シドは口をつぐむ。それは彼らしくない歯切れの悪さで、は違和感を覚えた。
「なあに、どうしたの?」
シドは少しバツ悪そうに首をすくめた。
「いや、最初はジークフリートに渡したらしいんだが・・・」
ちょっと考えたら、にも推測できた。きっと兄は、近衛隊員から預かった妹へのラブレターを、握りつぶしてしまったのだ。
昨夜、突然あんな話をしたのにも、合点がいく。ミーメのことにかこつけたりして・・・。
自分あてのものを勝手に処分されたというのに、不思議と腹は立たない。逆にはちょっと可笑しくなった。
「ったら」
どんな顔をして、ラブレターを捨てたのだろう。
「君の態度に何の変わりもないのを見て、彼もジークフリートに手紙を預けた愚かさに気付いたんだろう。それで、今度は私に」
「そ、そうなの・・・」
こんな手紙をもらうのは初めてで、嬉しいような、くすぐったいような、どうにも落ち着かない気持ちになってしまう。は、もう一度差出人を見てから、手にしていた書類入れに封筒をしまった。
「えっと、どんな人なの?」
やはり、自分にラブレターをくれた人のことが、気になる。
近衛隊の少年といっても、数が多くて、目立つ数人を除いてはほとんど覚えていないのだ。
「私が先入観を植え付けてはよくないだろう。自分で確かめて、返事をすればいい」
「確かめて、と言われても・・・」
しかも、返事なんて。
の、途方に暮れたような顔を見て、シドはやさしく笑った。
「本当に君は、そういうことに関してはまだまだなんだな。ジークフリートが心配で安心しているわけだ」
「心配で安心って」
反対の言葉を普通に並べて言うので、吹き出してしまう。
「も、昨日、矛盾することを言っていたわ。男には気をつけろ、でもいい男を連れて来て紹介しろ、って」
何でも言える存在だから、いつでもありのままを話している。
「ジークフリートの気持ちも、分かる気がするよ」
いつもなら妹への度を越えた心配ぶりをからかうシドなのに、そう頷きながら言って、身振りでを促した。長い廊下を、共に歩き出す。
「しかし、あのジークフリートが納得する男なんて、なかなかいないだろうな」
「シドなら、も文句言わないと思うけど」
さらりとそんなことを言われ、シドは動揺した。彼には珍しいことだ。
表に出さないようにするので精一杯のうち、はのんびりとこう続ける。
「でも、シドは私のお兄さんだもんねー」
「・・・そ、そうか・・・」
とたんに心の揺れはなくなり、あとはただ音もなく沈む。
どうせ、そんなことだろうとは思ったけれど、何だか力が抜けた心地だ。
それでもシドが出した声は、変わらず穏やかなものだった。
「私は、君の兄にしかなれないのかな?」
「え・・・?」
くるんとした淡い瞳を、真っ直ぐ見ることは出来ても、続く言葉はない。
仕方がないので、別のことを口にした。
「今度、夕食に招待してもいいかい?」
「嬉しいわ、ありがとう」
何も裏のない、いつもの笑顔を見て、シドの気持ちも「の兄」に落ち着いてゆく。
今度は、その場しのぎではない言葉が出た。
「兄さんも君に会いたがっているよ」
シドには双子の兄がいる。双子といっても、ゆえあって、シドとは長く別れて暮らしていたため、にとってもまだほんの短い付き合いだった。
「ええ、私も会いたいわ。にも伝えておくわね。それじゃ」
軽く手を振って、自分の仕事に戻っていく。
を見送り、シドは人知れず、ため息をついた。
「お兄さん、か」
それは、彼女にとっては親しみと信頼を込めた呼び名なのだろうけれど。
「フラれたも同然だ」
ほんの少し、自嘲を添えた。
・あとがき・
「みんなと友達」というようなドリームを目指しているのに、何か逆ハーになってますね。
結局みんなちゃんを好きなんじゃないか・・・でも、みなさんにほのかに想われるのもオイシイですよね。愛される存在なのです。ラブレターって、もらったことありますか? 私は、ないです!(笑)
出したことはあります!(笑)
今は、ラブレターという言葉自体、あまり聞かなくなりましたね。恋文。死語と化しています。
でもアスガルドなら違和感ない。むしろ「ケータイでメール」の方が違和感よ。
サブタイトルを「ラブレター」にすれば、ちょっとドキッとしてもらえるかな、と思いました。内容からすれば「もう一人の」なんだけど。
ラブレターくれた人とのからみは、この先、ありません。だから名もなき人。シドは紛れもない貴族の出で、育ちのよろしいおぼっちゃまなのよね。
気品があって、穏やかで優しい人だと思っています。そしてジークフリートと親友だと思っています。昔読んだ同人誌の影響で。
しかし、シドは昔からあまり書いたことがないですね。いまだに単独ドリームは書いていないし。フェンリルの「この遊びを恋とわらって」ラスト近くにちょっと出てきたくらいかなー。
本当は、もっと書きたいキャラです。
リアルタイム時は・・・「デコ出てる!」と思った(笑)。星矢の中でも珍しい髪型よね!
当時は良くも悪くも、ほとんど話題にしてないキャラでした。ごめんね。今こうして注目してみると、なんか結構、好きかも。貴族だし(しつこい)。
育ちの良さを鼻にかけてないところが好きです。誰かと違って(笑)。ジークフリートとシドは親友、と勝手に思っているので、自然とちゃんにとっても幼なじみのお兄さん、という感じに。
ジークフリートの実妹で、シドも兄同然なんて、いいじゃないですか〜。バドとは、アニメの設定どおり、引き離されて育っています。でも今は和解しているという設定でお願いします。
H16.12.14
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