剣を掲げた姿の巨大なオーディーン像が、賢くも優しい隻眼でアスガルドの全てを見守っている。
そのひざもとに、ヒルダたち王族の住まうワルハラ宮殿はある。宮殿といっても、きらびやかなお城ではなく、長い年月風雪に耐えてきたいかめしい建造物といったたたずまいだ。
「それでは失礼します、ヒルダ様」
「ええ、お疲れさま、」
深々とおじぎをして、は部屋を退出した。
「ニヤけてるぞ」
廊下で扉を守っているジークフリートに言われ、ほてった顔を両手で包み込む。
「だって、ヒルダ様っていつも素敵なんですもの」
ワルハラ宮にてヒルダに仕えるようになってから、毎日同じことを言っている。ジークフリートは、今度はからかいを含んで見下ろした。
「お前も少しは見習うんだな」
「あら、見習いたくても見習えないわ」
高貴な姿に上品で優雅な所作、アスガルドで最も貴い存在でありながら、決して尊大になることなく、誰にでも等しく接する慈悲深い態度、何よりも穏やかでぬくもりのある大きな小宇宙・・・。
全てがの憧れだった。
こんなにも近いところで働けるなんて、自分は何と幸せなのだろうと、喜びをかみしめる毎日なのである。
「だってね、さっきだって・・・」
「私語は終わりだ」
すっかり仕事の顔に戻って、ジークフリートはいつまでも続きそうなおしゃべりを断ち切った。
ヒルダ様がいかに素晴らしいか語り足りないは、口をとがらせ見上げた。
「私は午後のお祈りまでお時間をもらっているわ」
「私は仕事中だ」
にべなく言われ、肩をすくめる。
前を見据える、その厳しいほどの目は、近衛隊員としての責任と誇りに満ちている。引き締まった横顔のラインに目を細め、はあとは黙って立ち去った。
は、官女としてヒルダのもとで働いている。一日二回の祈祷につき従ったり、また神闘士(ゴッドウォーリアー)たちへの連絡係など、お使いのような仕事も受け持っていた。
神闘士というのは、オーディーンより神闘衣(ゴッドローブ)を賜った選ばれし戦士のことである。北斗七星になぞらえ全部で8名(七星とはいうが、ゼータ星の伴星を含めて8つになる)おり、アスガルドに何か起こったとき、この北の聖域とヒルダを守るために神闘衣をまとって戦う役目を担っていた。
城には近衛隊が隙なく配備されてはいるが、この世には普通の力では抗しきれない脅威も確かに存在する。理不尽な侵略から身を守るために、オーディーンが遣わした力、それが神闘士だと考えられていた。
もちろん、そんな力が使われることのないようにと、ヒルダは日夜祈っているのである。
も全く同じ気持ちではあるが、神闘士たちに対しては、おそれるよりもむしろ同志、もっといえば友人のように接しており、相手もそれを許してくれていた。
伝説の神闘士といえど、同じ故郷を愛するアスガルドの民であることには変わりない。
それに皆、自分より少し年上くらいのお兄さんたちといった感じだし、にとってはいい人たちばかりだった。
時間の空いたは、昼食をとり終わると、自分の部屋に戻り外に出る支度を整えた。今日は比較的穏やかな気候だが、分厚いコートやブーツは一年中必需だ。帽子や手袋などの小物、首周りの保温も忘れないようにして、準備万端にすると、布の手提げ袋を大事そうに持って城を出る。
冷たい風を頬に受け、それでも顔を下げたりはしない。見渡す限りの雪景色、凍った木々も、いつ見ても美しい。それに午後が始まったばかりのこんな時間帯が、は大好きだった。
凛とした大気の中、深呼吸をすると微笑んで、は歩き始めた。
・あとがき・
まずはヒロイン・ちゃんの紹介と、神闘士の説明です。
半パラレルのため、アニメとは神闘士の存在など設定が少し違うので。
ジークフリートは仕事に徹するタイプだと思うんですが、あまりちゃんがニヤけていたので、突っ込まずにはいられなかったようですね。ヒルダさんは、アニメだと怖いおねーさんでいるときが長かったので、今回はちゃんの憧れのお姉様で。
あのピシッとつり上がった目のヒルダさんが好きっていう方は多いみたいですけどね。
ここでは、ニーベルンゲンリングは存在しません。しかし短いですね。短いのが繋がって長編になるって、書く方も読む方も楽でいいんじゃないかな? と思います。
何しろ長編ドリーム初心者なもので、温かい目で見守ってやってくださいね〜。
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