Happy Halloween,
  Happy Happy Birthday!! 2





「おめでとう!」
「おめでとう竜崎さん!」
 全員が一斉に駆け寄り、Lを取り囲む。
 普通なら感無量の良いシーンだが、お化けたちに迫られるのはちょっとこわい。
 及び腰のLを皆で押すようにして、「Happy Birthday to Luxaky」の下に連れ出した。
 黒猫のニアが近くのドアを開けると、ワゴンを押しながらが入場してくる。
 ワゴンの上には、たっぷりの生クリームとイチゴで飾られた、大きな大きなバースディケーキ。
「みんなからのプレゼントよ。竜崎の大好物」
「本当のプレゼントは、これじゃないけどな・・・」
 ローソクに火を点けながらマットが意味ありげに呟くが、の強い目線で黙らされてしまう。
 特製ケーキに個の炎が揺れ、会場の照明が落とされた。
 みんなは仮装でも隠せないほどの笑顔で「Happy Birthday to you・・・」と歌い出し、ローソクにほのかに照らされたLを見つめる。
 恥ずかしいのか戸惑っているのか驚いているのか、自分でも分からないほど呆然と、Lは猫背のままで中央に突っ立っている。
 気がつくと歌は終わっていて、次の行動を期待する目に囲まれていた。に「ほら吹き消して」と促されるままに、ローソクを吹く。
 飛び交う祝辞と盛大な拍手の中で、元のように部屋は明るくなった。
 が持ってきてくれた椅子にいつものように座ったけれど、何だか体中こそばゆいようで、Lはこのケーキだけ持ってどこかに隠れたかった。
「さーみんな並んで並んで、記念撮影ですよ!」
 松田が仕切って、ケーキと狼男を中心に、化け物たちを整列させる。
 カボチャ大王には懲りたらしく、巨大ジャック・オ・ランタンは今やすっかり会場の装飾と化していた。
「ハイハイ笑ってー」
 笑う死神、笑うマミーに笑うジェイソン。
 シャッターはホテルのスタッフが切ってくれた。みんなワイワイ言いながら、デジタルカメラに記録された画像を回し見る。
(・・・いい写真)
 一生大切にしたい思い出・・・。
 はにっこり微笑んだ。

「ホントはこんなのイヤだったんだけど、がどーしてもって言うからさ」
「なんて言いながら、メロが一番乗り気だったんですよ」
 敬愛するLにまとわりついて、言い合ったり小突き合ったり。
 立食パーティにも関わらず椅子の上を動かないLは、そんな彼らを黙って見守っている。Lにとっては、メロやニアは弟たちのようなものだ。
 はそこに、切り分けたケーキを持っていってあげた。
「竜崎のだけ大きいです」
「贔屓だ
「主役なんだから当然でしょ」
 一番いいところを大きく取ってきたお皿を、Lの前に置く。
 Lは小さく「ありがとう」と告げ、フォークを手に早速食べ始めた。
 ケーキを口に運ぶL狼の図はなかなか可愛いけど、実際のところLはどう思っているんだろう。
 にとっては、気になって仕方がないところだ。
 Lの誕生日がハロウィンだと知ったとき、瞬間的にひらめいた。ハロウィンパーティという名目ならすんなり連れ出すことも可能だろう。途中からバースディパーティに切り替えて、大勢で賑やかにお祝いしてあげるというプロジェクトだった。
 月やメロ、ニアたちに話したら、皆喜んで賛同してくれて、楽しく準備を進めてきたのだけれど。
 黙々とケーキを食べるLを見て、今思う。
 もしかして、Lにとっては負担だったのではなかろうか。
 こんなふうに祝われたくはなかったのかも知れない・・・。
 どんなときでもポーカーフェイスを崩さないLを、はがゆく思う。
(今、何を考えているの・・・? 竜崎・・・)

 嬉しかった。
 嬉しくて嬉しくて、どうにも落ち着いて食べていられないくらいだ。
 誕生日というごく私的なアニバーサリーを、こんなにも大々的に祝福されるのは気恥ずかしい以外の何物でもなかったが、ハロウィンと合わせて皆で集まり騒ぐ名目に使われたと考えれば、それでも良い。
 仮装して食べたり飲んだり喋ったりしているみんなの顔を眺めていると、こっちも楽しい気分になれた。
 そして、何よりもLを喜ばせたのは、このパーティを発案したのがだということだった。
 例え、特別な想いではないにしても。が誕生日を知ってくれていた。その上でこんな企画をしてくれた・・・一年に一度の、自分にとってだけ多少は特別な意味を持つこの日を、共有してくれようとした・・・というだけで、十分幸せな気分になれる。
 胸に温かなものが、溢れてくる。

 宴もたけなわ、ケーキはいくらでも食べられるけれど、入れかわり立ちかわりやってくるハイテンションな怪物たちを相手にするのも、さすがに疲れてきた。
「ちょっとォ〜、そこの変態!」
 不本意な呼称にちらと目だけで顧みると、カボチャ大王・・・もとい、カボチャ女王が仁王立ちで一升瓶を振りかざしているではないか。
「酒乱なんですね高田さん・・・」
 ブラウスのフリルももはやグチャグチャ、スカートも着崩れて、これでは清楚という枕詞は返上せねばなるまい。
 しかし、松田が屈した巨大カボチャを堂々と被りこなしている辺りは、さすがと賛辞を贈りたい。
「ケーキばっかり食べてないで、飲みなさいよホラ〜!!」
 どぼどぼどぼ・・・。
 盛大に注がれる日本酒をグラスで受けているのは、なぜか松田だった。
 ちゃっかり身代わりを立てたLは、バルコニーへと退避する。もちろん、ケーキの皿とフォークを持ったままで。
「あたしの酒が飲めないって〜のォ!?」
「い、いえ滅相も・・・」
「じゃ飲みなさいよ! 早く!」
 高様の女王様気質大解放である。
「な・・・なんで僕が・・・」
 ぼやいても仕方がない。松田はそういう星の下に生まれているのだ。

(竜崎・・・)
 一人バルコニーに出て行った後姿を、目で追っていた。
「チャンスですね」
「ああ、今しかねぇな」
 いきなり背後に湧いて出た黒猫とジェイソンが、文字通りの背中を押してやる。
「ちょっとっ」
 押されるまま窓際まで歩き、は慌てた声を出した。
「待ってよ!」
「何だよ、「誕生日プレゼントに私をあげる」とか言ってただろ」
「言ってないそんなこと〜!!」
 とはいえの気持ちは周囲にバレバレで、皆が快く手伝ってくれた裏には「じれったい二人を早くくっちけちまえ」という思惑も潜んでいたのだった(もちろんLの誕生祝いが第一の目的ではあったが)。
「つべこべ言わずに行ってきてください」
 バルコニーへのドアを開き、を放り出す。
「まったく世話が焼けるぜ」
 ドアを閉めて、メロとニアはパパラッチよろしくデジカメ構えているドラキュラにギョッとした。
「・・・マット」
 くわえタバコの吸血鬼は、メロたちの方を見もせずに外に目を光らせている。
が他の男のものになる瞬間を、押さえておいてやる・・・」
 興味本位というよりは、悔し紛れといった口調だ。
「マット意外とに本気だったんだな・・・」
「そう言うメロは違うんですか」
「・・・お前こそ」
 結局、三人並んで窓に張り付いた。

 早くも西空に傾いている半月に、淡い雲がからんでいる。流れの速い雲に隠されまた姿を現すさまはホラー映画のひとコマのようで、ハロウィンらしいといえばそれらしい。
 Lはひとりバルコニーの手すりにもたれ、ケーキを口に運びつつそんな月と雲とを眺めていた。
 華やかだけれど息苦しいパーティからの解放は、Lの心に平穏を運んでくれた。
 今日は本当に嬉しかった、とその心で思う。
 後でにお礼を・・・そうだ、これを口実に、プレゼントなり食事に誘うなり出来ないだろうか。
 ・・・ここまで考えて、苦笑を滲ませる。
 どんなに多くの人の中にいても、ただ一人だけを・・・。空を見上げながら、彼女のことだけ、浮かべている・・・。
 ガチャ!
 ドアの音と同時に、室内の熱気と喧騒が漏れ聞こえる。すぐに閉められると、それらも遠いものとなった。
 Lは、ふわふわした毛皮の肩越しに、背後を一瞥した。

 バルコニーに出された途端、毛むくじゃらの彼がこちらを振り仰いだ。
 揺れる尻尾、口の端についた生クリーム・・・つっつきポイントは山ほどあるのに、心の準備も何もなかったは、言葉を失ったまま、固まっていた。

 会場のまばゆい照明が逆光となって、魔女の黒衣を幻想的に彩っている。
 Lは惹かれるままに身を開いた。
「ここに、来ませんか」
 自分でもびっくりするほどすんなりと、言葉が口をついて出た。

 遠慮した距離を保ちながらも、二人並んで、手すりにもたれている。
 秋風は火照った頬には心地よいけれど、どうしてもクールダウンには至らない。
 互いに、隣の存在が気になって・・・。
「あの・・・」
 沈黙に限界を見て、が口を開く。
 もう少しでケーキを食べ尽くすところだったLは、内心ホッとしていた。
「・・・さっきは、ゴメン」
「・・・いえ」
 一瞬何のことやら分からなかったが、の視線を頬に受け、ビンタのことかと思い至った。
「何てことありません」
 確かに強烈だったけれど、もう跡もすっかり消えている。
 Lの顔は、元のように白かった。月の下では際立って、それはほとんど青白かった。
「・・・クリームついてるよ、ほっぺ」
「そうですか、取ってください」
 そのほっぺを差し出されて、ドキッ。
 断る文句も浮かばず、は恐る恐る人差し指を近付けた。
 白いクリームをすくい取る。
 次にはその指のやり場に困って、結局、自分の口に持っていく。
「・・・おいしっ、我ながら」
 わざとはしゃぐようにして、ごまかした。
 そうでもしないと、体中の緊張に耐え切れず、倒れちゃいそうで。
「このケーキも、さんが作ってくれたんですね・・・私の・・・ために」
「う、うん」
 それはもう心を込めて作った。込めまくりすぎて、呪いに近くなっていたかもしれない。
「竜崎がいくら食べてもなくならないように・・・超特大ケーキにしたの。頑張ったんだよ」
「・・・嬉しいです、とても・・・」
 ぼそっと、呟くようなひとことが、の胸にぱあっと広がる。
「よかった・・・迷惑かと思って・・・ワタリさんに誕生日聞いて、みんなでお祝いしてあげたかったから・・・」
 声が、詰まりそうだった。
 でもは、もう少し、勇気を出そうと思った。
 今日、Lの誕生日に、伝えよう。
 温めていた大切な想いを、じかに、伝えよう・・・。
「ほ・・・本当は、私一人でお祝いしてあげようかなって思ったりもしたの・・・」
 ワタリが「竜崎は私以外に誕生日を祝われたことがないんですよ」とつけ加えた、その言葉がやけに寂しかったから。
 賑やかにみんなでパーティしてあげようって、決めた。
 みんながLを好きで、みんなが祝福していることを、伝えてあげたかった。
 でも・・・、Lの誕生日を誰にも教えないで、抜け駆けするようにこっそりプレゼントを持って行こうかと考えたのも、事実だ。
「竜崎のことを、何でも知りたかったから・・・それで、それを自分だけの秘密にしておきたかったから」
 押し出すように言い切ったから、棒読みのように聞こえたかも知れない。
 顔が熱い・・・外の空気はこんなに冷ややかなのに。
 伏せた目を上げられない。
 伝わっただろうか。いや、その辺の鈍い男とは違う。伝わらないはずはない。
「・・・回の中で、一番嬉しい誕生日です」
 Lは、すっかり空になったケーキ皿の上をフォークで尚もつつきながら、ぽつり呟いた。
 こんなときですら声に情感を込められない、自分自身が情けない。
 恋慕っていたが、自分のことを知りたいと、それを秘密にしておきたいと。そんなふうに、言ってくれたのに。
「・・・こんなに大勢に集まってもらって・・・おいしいケーキも・・・」
 たどたどしく付け加える言葉に、我ながら嫌気がさす。
 こんなときに、気の利いたセリフの一つも言えないなんて。
 仕事のためならいくらでも言えるのに。女性を喜ばせる言葉くらい、知っているはずなのに。
 もどかしい思いで見上げた中空、雲が切れ、半分欠けた月が濃い光を放った。
 そのさまを上目遣いで見上げていたら、ひとつの決意が心の中に固まった。
 横を向くと、魔女の可愛らしい顔にも、月光が優しく注いでいる。
 きれいに化粧を施しているのに、まるで子供のようにあどけなく、無垢に見えた。
 が三角帽子を取ると、髪がさらり肩に落ちる。
 つやつやしいその髪にも、こまやかな光がまぶされ、きれいだった。
「竜崎・・・」
 黒い帽子をぎゅっと掴んで、は一心に、大好きな人を見上げる。
 まん丸の瞳を鋭くしているクマも、対照的に白い肌も、姿勢の悪い背中すら。
 何もかもが・・・。
「・・・好・・・」
 膨らんだ気持ちのままナチュラルにこぼれた言葉を、止められた。
 唇の前に、そっと人差し指を立てられて。
「竜崎」
 せっかく、言うところだったのに。言えると思ったのに!
 少し恨めしく見上げると、Lは人差し指をの口近くから外し、自分でくわえた。
「私から言わせてください、
 それから改めて、正面で、向き合った。
「・・・好きです」
 ごくごく小さな声なのに・・・月の下さやかに広がった。
 魔女の耳も、聞き逃しはしなかった。


                                つづく



 
あとがき

2で終わらせるつもりだったのに・・・もう少し、続きます。
10/31にアップできれば良かったけど。

下書き段階ではちゃんの方から告白だったんだけど、流れとしてLからの方が自然かな?と。
「男の方から言わせろ」的なのが好きなんですよ。




Happy Halloween,Happy Happy Birthday!! 3



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