Happy Halloween,
  Happy Happy Birthday!! 3







「告った・・・?」
「とうとう告ったか・・・!?」
「竜崎そこですかさず手を握るんだ!」
 がしっ!
「神・・・それは私の手です。光栄ですが」
 いつの間にかギャラリーが増えている。
 モンスターたちが窓に張り付いて見守る先、は両手で自分の口を覆い、泣きそうな表情でそれでも何か言葉を紡いだようだった。
 皆一斉に窓に耳をつける、外で何を言っているかまでは聞こえないのに。それはかなり滑稽な光景だった。

「ホントに・・・? 嬉し・・・っ」
 仕事の邪魔にならない程度に、話しかけたりしてアピールしてきたつもりだけれど、Lはいつもそっけないから・・・、興味ないのかもと思っていた。
 勝負の気持ちで、ここに立ったのに。
 ハロウィンでLの誕生日の今夜、特別の魔法をかけられたというなら、魔女になった甲斐があったというものだ。
「・・・私の方が、プレゼントもらったみたい」
 想いが、通じたなんて。
「私も、もらいます」
 さりげなく腰に手を添え、引き寄せる。
 もっと近付いて、顔を近付けて。体を固くしているに、Lはかすかに笑いかけた。
「わざわざ狼男に仕立てたということは、襲ってもいいということ、ですよね」
 まるでいたずらっ子の表情になって。
「そっそんなつもりじゃ・・・」
 などと口走り、真っ赤になるを逃さず、少し首を傾けてやる。
 が観念して目を閉じた瞬間、Lはふいと目線を斜め上に向けた。
 窓にびっしり張り付いているお化けたちを見回し、不敵な顔つきで唇端を上げる。
−よく見ておけ、は私のものだ。二度とちょっかいを出すな−
 そう、言うように。

「あーっ」
「チューしちゃう・・・!」
「粧裕、見るんじゃない!」
「コラッ押すな!・・・あ」
 カシャッ!
 後ろから押されて、マットの持っていたデジカメのシャッターが下りてしまった。
 慌ててデータを呼び出してみると、まさに二人の決定的瞬間が見事に収まっているではないか。
「と、撮っちまった・・・」
「って、撮るために構えてたんじゃないの?」
 ミサに突っ込まれ、マットは眉根を寄せる(ゴーグルでよく見えないけれど)。
「・・・そうだけど・・・いざ撮れてしまうと、何ていうか・・・ああもう、やってらんね!!」
 マットはデジカメをメロに放ると、窓際から抜け出した。
 改めて見ると、ほとんどの参加者がバルコニー側に鈴なりになっている。なかなか壮観だ。
「ホラァ飲みが足りないわよ松田ー!」
「も・・・もうカンベンして高様・・・」
 いや、デバガメには参加せず酒盛りを続けている者も約二名・・・か。うち一名は強制参加で、女王様にすっかり足げにされているが。
「バッチリ撮れてる」
「後で私のパソコンにも送ってください。落書きしますから」
 真顔のニア、一体どんな落書きをするつもりなのかと思うと、メロはちょっと怖くなった。
「いいないいな〜」
 窓の外の二人と写真とをじっくり見てから、ミサは愛し人にチラチラ視線を送る。
「ライトー、ミサにも・・・して」
「・・・いや、こんなところでそう言われても・・・」
 迫られて、額を押さえる月だった。
 中のそんな騒ぎも関知せず、恋人になりたての二人は、再び夜空を眺めながら何事かを囁き合っている。
 今度はぴったりと寄り添って。

「改めて、歳おめでとう」
「ありがとうございます」
 まだぎこちないけれど、現実味のない扮装と柔らかな月の光とが、二人の緊張を取り去ってくれるようだった。
 は、腕の中初めて彼の体温を感じ、うっとりと身を委ねている。今にもとろけてしまいそうに・・・。
「いい年になればいいね」
「きっと、そうなります」
 小さな肩を抱いた左手に、少し力を加える。
と一緒に過ごせるんですから」
「・・・うん」
 彼女としてそばにいる。夢に描いていたことが、これから現実のものとなる。
 胸がいっぱいで、見上げると、Lの顔が今までにないほど近くて。
 自然に、目を閉じた。
 体に添えられていた手が、ひとつからふたつになるのを、感じていた。
「ずっと、祝ってください」
 ほとんど吐息だけで紡がれた言葉が、熱く、の唇に触れる。
 追い打つように、Lの唇が重なった。
(うん・・・ずっと・・・毎年、お祝いしてあげる。大好きなあなたが生まれてきた、大切な記念日だから)
 は息も止まる幸福感の中、二度目のキスを味わった。
 もう今はギャラリーもおらず、冴え冴え光を放つ天空の月のみが、固く抱き合う二人を見守っていた。

 二人でLの部屋に戻ると、スイートルームはたくさんの花たちで飾られていた。
「ワタリか」
『竜崎、楽しまれて来たようですね』
 パソコンの画面がパッと明るくなり、そこにグレーのフード姿のワタリが映し出される。
「おまえまで仮装を・・・魔法使いか?」
「妖精の長老じゃないの?」
『・・・魔導師のつもりですが・・・。捜査の方、私に出来る範囲はやっておきました』
「ずい分、頑張ってくれたんだな」
 データに目を通し、Lは声を詰まらす。
 ワタリまでもが一緒になって・・・。
『花は私からのプレゼントです。おめでとう竜崎、さんとお幸せに』
 そこで通信はプツリと切れた。
 膝を抱え親指をくわえて、Lはじっと、魔導師の言葉をかみしめる。
 おめでとう。
 さんと、お幸せに・・・。
「竜崎すごいよ!」
 こみ上げてきたものは、のはしゃぎ声ですっと下がった。
「お風呂にもお花がいっぱい! 湯船にも浮かんでるの〜!」
「・・・先に、入ってきてください」
「・・・えっ」
 聞き返そうとしたが、Lは澄まし顔で、ワタリが出来なかった分の補填作業を始めている。
 はとりあえず、バスルームに引っ込んだ。胸に手を当て、下を向く。
 ・・・分かっている。部屋に誘われて、自分はついて来た。
 当然、そういうことだ。
「ち、ちょっと展開が早すぎるような・・・どうしよ・・・」
 落ち着かない独り言は、洗面台の前立ち消える。
 どうしようもこうしようも、ない。ここまで来たことで、竜崎に答えを出していたというのに。
 は服を脱ぎ、花で満たされたバスタブに体を沈めた。
 芳しい香りをたくさんまとって、そして、愛する人の前に行こう。
 ドキドキが、こめかみにまで響いていた。

を今すぐ欲しいなんて・・・誕生日だからといって、欲張りすぎでしょうか」
 下を向いたまま声を出せない。首を左右に振るのが精一杯だった。
 の次にLが入浴して、そして今二人は、ベッドの傍にいる。
「無理強いをするつもりはありません。気が乗らないなら、今夜はただここにいてくれるだけでも・・・」
 心から気遣ってくれるLの優しさに、は泣きそうだった。
「そんなことない・・・大丈夫・・・」
 繋がりを持てるなら、むしろ嬉しい。
 言葉で伝えるのは難しく、だからは自分からLの胸に飛び込んだ。
「・・・
「大好き・・・だから」
 三回目のキスは深く、を狂わせてゆく。
 まだハロウィンの魔力が効いているのかと思ってしまうほど乱されて。

「竜崎・・・」
「−Lと」
「え・・・?」
「Lと呼んで・・・ください」
 今や二人を隔てるものは薄布一枚さえもなく、ただ花の香りでむせかえるベッドに共に埋もれて、Lはに、真の名で呼ばれることを望んだ。
「いいの・・・?」
 至高のコードを知られぬため偽名で呼ばせているはずではなかったか。決して口に出してはいけないはずでは・・・。
 そんな思考は、快楽の前にはじけ飛ぶ。
 Lの巧技に、ただ息を上げ、肌を染めて。
「・・・L・・・」
 あえぐように。
 は初めて、その名前を口にのぼらせた。
・・・」
 愛する人の声が、Lの全身を震わせる。それは奮い立つ官能にも近く。
「・・・ありがとう」
 より近付き、肌に肌で触れる。
 そして二人は、ひとつのものとなる。

「もうすぐ、今日が終わるね」
 時計の針を目で追いながら、は呟いた。
 激しく、でも愛情で包み込むように抱かれた身体が、まだ熱い。
「今日のことは一生忘れません」
 振り返れば何と素晴らしい一日だったろう。
 大勢の人たちに祝ってもらえたこと。
 何より、と気持ちが通じ合ったこと−。
 優しく微笑んでくれている、今や本当の恋人になった人を、もう一度抱きしめる。
 今日という日に生まれてきたことを、心から感謝した。
 年生きてきた中で、初めて湧いた気持ちだった。
「・・・L」
 もまた、感謝している。
 彼が生まれて、ここにいることに対して。
 そして、広い世界の中、この人に出会えたことにも。

 思いは言葉に尽くせないけれど、今日のうちに、もう一度伝えよう。

「お誕生日おめでとう、L」
 





 
あとがき

ホントはここまでくる予定ではなく、パーティ会場で話は終わるハズだったのですが・・・。
それだと3だけボリュームが少なすぎるので、追加してしまいました。
ほのぼので終わって欲しかった!という方にはごめんなさい。
で、流れで、本名ネタもまた入れてしまいました。
でも誕生日や本名は、今旬のネタなものだから。飽きるまで使い回そうともくろんでおります。

Lの年齢は変換項目にしておきましたので、お好きな年でお楽しみください。

こんなパラレル設定、大好き。またこういう舞台で書きたいですね。

本当に、Lが生まれてきてくれて良かった。
出会えて良かった。
そんな気持ちを込めて、丁寧に書きました。
私の誕生日も近いので、自分へのおめでとうも含めて。



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