欲求不満
十二もある宮のうち、の一番のお気に入りは巨蟹宮だった。
お菓子やら雑誌やらを買い込んでは、主の在不在にかかわらず、いつも入り浸っている。
「ちょっと前には、この宮一面に死人仮面が浮き出ていたんだ。今でもここには怨念がしみついてるぞ・・・」なんてへたな怪談を聞かされても、ちっとも怖くない。
過去のことなんて知らないし、どうでもいい。ここが、にとって居心地のいい場所であることに違いはないのだから。
「また来てたのか」
呆れ半分で声をかけると、はちょっと目を上げ、ぞんざいに挨拶を返した。またすぐ本に没頭する。いつもの態度だ、まったく、どっちが部屋の主なのか分からない。
デスマスクは黙って隣に座り、横から勝手にお菓子をつまむ。
「新発売のやつだなこれ。うまい」
「デッスー相変わらずお菓子好きだね。太るよ」
「おまえこそ、最近ハラ出て来たんじゃねぇ? ぜってー食い過ぎ」
「うっさい、もう食うな!」
お菓子を取り上げる。やり取りを楽しんでいるから、言葉の乱暴さとは裏腹に笑顔の二人だった。
「・・・なぁ、」
そんなふうにして時間を過ごした後、デスマスクはさりげなく二人の間の距離をつめた。肩を抱き寄せてもみるが、は『何よ?』なんて平然としたものだ。
何の警戒心もないのが悔しい。だからもっと近付いた。はたから見れば恋人としか思われないような体勢まで持ってきておいて、耳元に囁く。
「今夜、泊まっていかねぇ?」
「どーゆー意味よそれ?」
動揺も怒りも何もない。ここに至っても笑い混じりの態度に焦れて、空いた手で髪を撫でる・・・何度も。
「そのまんまの意味だよ。欲求不満なんだよ、俺」
「女買えばいいじゃん」
臆すことのないの瞳は、鷹揚で挑戦的で、デスマスクの気持ちをいやでも煽る。
「バカだな、買えねぇから欲求不満なんだろ」
好きな奴がいるから。
ずっと言いたくて、でも言えなかった。
ずっと触れたくて、でも叶わなかった。
だけど今日は、今日こそはもう止められない。欲求不満も飽和点だ。
「イイ思い、させてやるからよ」
ぐっと抱き寄せると、その場に組み敷く。今までなかった近さで、見つめる。
相手の本気を見せ付けられて、はさすがに抵抗を示した。
「ちょっと何するのよデスマスク!」
暴れる手足など簡単に封じて、キスで黙らせる。
「だから言ってんだろ、おまえを抱きたいんだよ」
こんな言い方しか出来ない。ストレートな気持ち、どこまで真剣に伝わるだろう。
「」
の表情がとろんとしてきたのを、満足そうに見やって、更に唇を重ねる。もはや形ばかりの抵抗など、今まで蓄積してきた情熱の前では、何ら障害になり得ない。
場所をベッド上に移して、丁寧に愛する。未知の体を探るように、最大の快楽を与えるように。
「やだ・・・バカ・・・こんなこと・・・」
まだ嫌がる素振りをする。だが身をよじる仕草はそれ自体誘いだったし、あえぎ混じりの声は艶を帯びていた。
「やめてよ・・・」
素直になりきれないに直接触れ、その態度とは裏腹の淫らな部分にたどり着く。
「すげぇ」
決定的な証拠を突きつけるように、濡れた指を目の前で舐めてみせた。ニヤリ笑って。
「・・・欲しがってんじゃねーか」
もっとゆっくり前戯を楽しむつもりだったが、気が変わった。これを見せつけられては、じらすなんてマネとても出来やしない。
まるでガキみたいだと自らを笑いながら、腰を引き寄せる。想い続け、欲していた体に進入すると、の半開きの口から甘い甘い声が漏れた。
「・・・デスマスクに強姦された・・・」
乱れたままのベッドで、毛布にくるまりよよと泣き崩れる。もちろん芝居がかった仕草だ。
「人聞き悪いこと言ってんじゃねーよ!」
吸いかけのタバコを置いて、を乱暴に抱き寄せる。
「おまえ、本気でイヤがらなかったじゃねーか」
「本気でイヤがったらやめたの?」
「・・・いやそれはちょっと自信がない」
その答えの率直さに、は思わず笑ってしまう。デスマスクも、安心したように笑い返した。
「もう、欲求不満になることもないな。これからずっと」
タバコの味のキスをして、再び、覆い被さった。
「調子に乗るなー!」
怒鳴られても殴りかかられても、怯まない。
本音がどこにあるか、もはや分かっているのだから。
「一回じゃ満足できねーよ。もだろ」
欲求不満は解消されても、欲望はとめどない。
せっかく剥き出しにした性を静まらせないようにと、柔らかな胸元に唇を沿わせる。
は今度は笑って、デスマスクの首に腕を回した。
「・・・こうなったら朝までよ。途中でネを上げるんじゃないわよ」
「受けて立つぜ」
いつものノリで、触れ合う肌を楽しんで。
熱い吐息が混じり合い、欲求のただ中へと二人を巻き込んでゆく。
・あとがき・
思いついて即書きたくなったネタ。ネタ帳には先に考えたものが色々書き込まれているんですが、それらを追い越して書き上げてしまいました。
書きたいものから書くのよ!今回は男友達のように付き合っているヒロインにしました。
私自身は、こういうふうに口悪く言い合うタイプではない(冗談でも悪口を言われるとヘコむので)のですが、きっとこういう関係に憧れる人も多いんじゃないかな? と思って。
デスマスク口悪いし。
でもやっぱり女たらしには書けなかった。どーもそういうイメージで描けない。
ということで、私の書くデスマスクは女遊びの達人ではないです(笑)。
よそ様の書かれる、女関係ハデなデスマスクも、それはもう素敵ですけどね!水の星座はエッチなイメージがあるので、「欲求不満」のお題を見てすぐにデスマスクが浮かんでしまいました。
もっと乱暴な感じにしたかったんだけど、蟹座は情が深く優しいというイメージがあるので、当初予定していたより随分優しくなっちゃった。まぁいいでしょう。
お菓子(食べ物)が好きなのも、蟹座だから。蟹座の人はぽちゃっと太りやすい傾向があるそうです。デスマスクは聖闘士なのでそうそう太りはしないだろうけど。
当初、ピザでもとって食べるというエピソードも浮かんだんだけど、割愛しました。
蟹座生まれは家庭的。料理上手なのかも知れないけど、どーも私はデスマスクが料理するシーンってのも想像できませんでした。でもおいしいお店は知ってそう。だからすごいおいしいピザをデリバリーしてもらうってのを思いついたんだけどね。
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