約束の地
約束の地で、あの人が来るのを待っている。
お菓子を焼いて、二人の好きなお茶を準備して。
呼び鈴が鳴ったら、とっておきの笑顔で出迎えよう。
そうして、大好きな人の、名を呼ぶ。
「アイザック」
少し、声が震えた。
「・・・おかえり、アイザック」
「ヤコフは?」
「氷河のとこに行ったわ。行った、というより、行かせたんだけど」
だから二人きりよ、と冗談めかして言うと、アイザックは少し照れたように笑った。
「生き返っても、傷はそのままなのね」
左眼から頬にかけて大きく刻まれたままの傷跡に、そっと手を伸ばす。
「あの戦いでついた傷じゃないからな」
ハーデスとアテナの間に起こった聖戦が終わり、一度は命を散らした聖闘士と共に、アイザックたち海闘士も生き返ることが出来た。
でも、細かい経過や理由なんて、どうだっていい。
目の前に彼がいる。その事実だけでには十分だったから。
「・・・アイザック」
もっと強く確かめたくて、自分から抱きついた。しがみつくように、存在を感じてみる。
押し寄せてくる喜びに、息もつけない心地で。
「もう、一人にしないでね」
「・・・」
彼の声に、躊躇がある。なぜ抱きしめてくれないのだろう。
がいぶかしんで顔を上げると、アイザックの片目に不安そうな光が揺れているのが見て取れた。
「俺でいいのか・・・? カミュも氷河もいるのに、本当に俺で・・・」
あのとき、海底神殿で、強引に彼女を求めたことがためらいのもととなって、アイザックはに触れることが出来ないのだった。
にもそれが分かったので、再び顔を胸にうずめた。
「あなたが、いいの」
あの出来事は、単なるきっかけに過ぎなかったのだと思う。
自分の本当の気持ちに気付くための。
本当にアイザックのことだけが好きなのだと伝えた。この胸の鼓動が何よりの証拠。分かって欲しくて、もっと身体を密着させる。
「夢みたいだ、」
アイザックもようやく腕をの背に回した。逡巡を越えて、強く抱き返す。
「もう、離さない」
「・・・うん」
苦しいほど抱きしめられて、は幸せだった。
あのときは闇に閉ざされていた二人の未来が、今はっきりと見える。
最愛の人と手をつなぎ歩いてゆく道が、明るく照らされ示されていた。
約束の地で誓う。もう二度と二人は離れない。
「二人っきりね」
「ああ」
窓の外には、寒々とした氷雪の世界が広がっている。
ベッドの上から眺めていると、ほんとうに二人きり、ぽつりと置き去りにされたような気になってくる。
だけど寂しくはない。寒くもない。こうして体温を分け合っていれば。
「ね、今度、みんなで会いましょう。カミュと氷河と、ヤコフも入れて、五人で食事でもしない?」
「・・・う〜ん」
の提案に、アイザックはあまり乗り気ではないようだ。
「どうしたの? イヤなの?」
「イヤってわけじゃないけど。せっかくが俺のことを選んでくれたのに、目移りされちゃ困るなーと思って」
「何言ってるのよ!」
彼の意外な一面を見た気がして、は吹き出してしまう。
まだ、不安なのだろうか? 言葉で確かめたのに。肌で感じ合ったのに。
「みんなに、私たちのこと報告しようよ。結婚式には出席してもらいたいし」
「けっ結婚式って」
「例えばよ。冗談よ」
赤くなって慌てる様子が可愛い。からかいがいのある人だ。
「・・・なんだ、冗談か」
と、今度はつまらなそうなニュアンスで、の肩を抱き寄せる。
「冗談じゃなくなれば、いいな」
「・・・うん」
くすぐったい気持ちだったけれど、も素直に頷いた。
大好きな人と、同じ明日を夢見ている。何て幸せなことだろう。
「ずっと、東シベリアにいるでしょ? アイザック」
「ああ、もちろん、ここにいるよ」
ここが約束の地だから。
「と一緒にいるよ」
優しく優しく抱きしめて、何度目かなんて数え切れないほどのキスを。
そしてここから、とアイザックの本当の物語が始まる−。
・あとがき・
「海底邂逅」の後のおはなしです。絶対絶対、あのままで終わらせていてはいけない! という強い思いだけで書いたものです。
とっても短いけど、いいの。自分の中で安心しました。
しかしアイザック、何となく振り回されてる? もしかしてちゃんはアイザックより年上なのかも知れませんね。
アイザックに負い目があるのも確かだけど。ちょっと自信が足りないみたい。まぁ、カミュや氷河がライバルってのは脅威だもんね〜確かに。どうして海闘士も生き返ったのか、誰が生き返らせたのか、などということを深く考えてはいけません(笑)。
でも、細かい経過や理由なんて、どうだっていい。と本文中にありますが、コレかづなの本音です(笑)。
海闘士も冥闘士も生き返ったよという設定でいきましょう。その方が楽しいもんね。
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