私の犬


「瑠璃男ー」
「へえお呼びですか、お嬢さん」
 瑠璃男はの犬だから、一声ですぐに飛んでくる。
 瀟洒な椅子に背をもたせてかけていたは、つんとして足を差し出した。
「爪、みがいて」
 ヤスリを投げてよこす。
 瑠璃男はかしずくと、それを拾って、言われるまま主のために働き始めた。いろいろ話しかけながら、それはもう嬉しそうに。
 は退屈そうにあくびをし、傍らの雑誌を手に取った。

 は大財閥の令嬢で、瑠璃男はならず者たちから二束三文の値で買われた、の使用人に過ぎない。
 犬と呼んで、犬のように扱うのは当然だと思っていた。
 また、瑠璃男も、お嬢さんお嬢さんと、喜んでに付き従っていた。
 この関係が崩壊するなんて、みじんも考えられなかったのに。
 ・・・そう、あの夜までは。

お嬢さん」
「何よ呼んでないわよ瑠璃男。勝手に入ってこないで!」
 もう寝ようとベッドにもぐりこんだところだったのに。
 これ以上ないくらい不機嫌な顔と声で、は瑠璃男をにらみつけた。
 瑠璃男は聞こえているのかいないのか、後ろ手でドアを閉めると、ゆらり近づいてくる。
 その表情はいつもと同じようでいて、明かりを落とした部屋では何か恐ろしげに見えた。
「・・・出て行ってよ」
 重ねて言い渡してもやはり聞かず、勝手にベッドの端に腰掛ける。・・・いつもと違う。どんな命令にも決して背かない、従順な瑠璃男しか知らないは、戸惑いを隠せなかった。
 そして急に気付いた・・・男が女の部屋に忍んできた、という、現在の状況に。
 ハッとして見上げる。瑠璃男の何かに憑かれたかのような眼・・・たたえた狂気に、今までにない恐怖を感じ取った。
「−来ないでッ」
「何言わはるんですお嬢さん。俺はお嬢さんの犬や・・・そばを離れません」
「人を呼ぶわ!」
「・・・・」
 その言葉を聞くや、瑠璃男はに飛びかかり、いきなり服に手をかけた。
「俺以外の誰を呼ぶっちゅうんですか」
 力任せに引きちぎる。薄手のネグリジェは、ビリビリと頼りない音を立て、いとも簡単に裂けた。
「ひっ・・・!」
 必死に身体をかばおうとするを後ろから抱きかかえるようにして、口元に手を当て声を封じる。あっという間の拘束だった。
「んっ・・・ん・・・!」
 いかに暴れようと、腕力の違いは目に見えている。
「騒ぐんやない・・・こないな格好、誰にも見られたくないやろ。大人しゅうしてや・・・」
 最初ほどの抵抗が感じられなくなったところで、瑠璃男は口から手を離してやった。は肩越しにキッとにらむ、うるんだ瞳では迫力なんてないけれど。
「なんで、こんな・・・! ただで済むと思っているの!?」
 取り乱すを抱きしめ、豊かな髪に鼻を潜り込ませる。いい匂いをかぎながら、瑠璃男はの耳元に囁いた。
「好きに処分してもらってええ・・・殺されても本望や。・・・お嬢さんを、一度抱けるなら・・・」
 滑らかな肌に沿って、するすると両手を下ろしてゆく。
「お情けやと思うて、お嬢さん・・・」
 服の破れ目から手を差し入れ、しっとりとした肌にじかに触れた。
「俺に・・・」
 喜んでの犬になりながら、瑠璃男の心には、使用人として持ってはいけない想いが芽生えていた。
 成長するに従い、それは欲望へと形を変え、瑠璃男の心身を支配していったのだ。
 身分違いも甚だしい。決して結ばれはしない。絶望の中、変わらぬ態度で仕えながら、妄想で何度を汚したことか。
 歪んだ思慕は飽和点を越え、とうとう今夜を迎えてしまったのだ。
「・・・や・・・」
 大声を上げる気はもはやない。そう感じ取ったので、瑠璃男はの体をベッドに横たえ、自分はその上にまたがった。
 無残に破れた薄衣をはだけ、うっとりと見つめる。
「キレイやあ・・・お嬢さんの体・・・」
「見・・・ないで・・・」
 誰にも見せたことのない肌を、こんな、犬ごときに晒している。
 それはとてつもない屈辱だった。
 前を隠そうとする手を、瑠璃男は二本まとめて掴み、の頭の上で押さえつける。
 空いた手で胸をまさぐり、自分にはない柔らかな膨らみを、ゆっくりともみしだいた。
 吸い付くような、きめ細かい肌の感触が、瑠璃男を夢中にさせる。
「お嬢さん・・・お嬢さん」
 吐息が首筋に触れる。はなすすべもなく、せめて目をきつくつぶった。
 許す気になったわけではない。単純に、怖かった。
 瑠璃男の強さはよく知っている。そして、今夜の瑠璃男は、普通ではない。殺されても本望、とまで言うのだ、下手に刺激をしたら何をしでかすか・・・。
 飼い犬に手を噛まれる、なんて・・・そのまんまで笑えもしない。
 瑠璃男のことを心の奥底から犬としか見ていなかったにとっては、晴天の霹靂だった。
「好きや・・・お嬢さん」
 シャツを脱ぎ捨てた瑠璃男の、胸元に彫られた十字架が、やけに鮮やかに目に焼きついた。

「いやあ・・・っ、何すんのッ」
 さんざん体を嬲られたあと、脚を開かされ、はいやいやをした。
 瑠璃男は構わず、そこに顔をうずめ舌を這わす。
「そんなとこ・・・やめて!」
「・・・犬やから」
 ふざけるように返して、しつこいほど舐めまわす。
 ぺちゃぺちゃ、浅ましい音が部屋に響いた。
「うう・・・ッ」
 呻きを漏らし、羞恥に耐えるの目には、涙が浮かんでいた。
「お嬢さんのココ・・・小さいわぁ・・・大丈夫やろか」
 覗きこんでひとりごち、指をそっと差し入れる。
「ダメぇ・・・っ」
「ああ・・・ほんま狭いわ・・・でもええ具合や、締め付けてくる・・・」
「やめて、やめて」
 自分でも見たことのない部分を見られて、あまつさえ舐められて。その上、指で弄ばれるなんて・・・。
「いや、もう、いや・・・」
「何言うてん・・・これからやのに」
 ズボンを脱ぐと、の脚を割りながら腰を進めていく。
「いッ・・・や・・・痛・・・」
 破瓜の痛みに耐え切れず漏れる呻吟も、陶酔しきっている瑠璃男には届かない。
「ずっと夢やった・・・お嬢さんとこうして・・・一つになること・・・」
 熱い体内を感じて、一番奥をさぐって・・・。
 案の定、動作もままならぬほどきつかったけれど、それは瑠璃男にとっては最上の快楽だった。
「俺ホンマに・・・死んでもええ・・・」
 痛みの中、瑠璃男のその言葉だけが、ふわっと意識に広がった。
 気がつくと、口づけを受けていた。さっきからの乱暴な態度とは裏腹の、優しいキスに、の心がほんの少し、ほだされた。
 は、瑠璃男の背にしがみついた。そうしたら、今までとは少し違う気持ちが、芽生えてくる。
「・・・痛い・・・」
「堪忍な・・・もう・・・ちょっと、やから・・・」
 窮屈でも動きをやめない。追い詰めて吐き出したくて。
 構わずの中に、残したくて−。


 それからの、二人はといえば。
「瑠璃男、買い物に行くからついてきて」
「へえお嬢さん、喜んで行きまっせ」
 結局、瑠璃男は罰せられなかった。
 主人と犬という二人の関係も、以前と何ら変わりはない。
 ただし、それは昼間だけの話。
 夜になると、主従関係はすっかり逆転した。
・・・口でしいや」
「・・・うん・・・」
 ひざまずいて舌を使う。精一杯奉仕をするを見下ろして、瑠璃男は満足げに息を吐く。
 一度抱けたら死んでもいいとすら、思っていたのに。
 女に目覚めたは、瑠璃男を離しはしなかった。
 官能が開花すると、今度は奉仕することに喜びを覚えるようになった。
 命令することに慣れきった身だからこそ、隷従という倒錯した快楽を貪りたくなるものか・・・。
「もうええ、脱ぎや」
 乱暴な言葉を投げつけられるほど、理不尽な要求をされるほど、の心身は喜びに打ち震えるのだった。
 身にまとったものを自分で脱ぎ捨てると、胸元に彫られたが、部屋の明かりにくっきりと浮かび上がる。
 白い肌に、それは痛々しくも映えていた。
「へっ・・・こんなんあったら、他の男に肌なんて見せられへんな」
 彫れと命じたのは自分なのに。瑠璃男は嘲るように笑って、自分のシャツもはだけて見せる。
 そこから覗けた赤の十字に、はうやうやしくキスをした。
「私はもう、瑠璃男なしではいられない体になっちゃったもの・・・」
・・・」
 体だけじゃなく、心も欲しい。そう、瑠璃男は言いたかった。
 けれども、この場面でお嬢様が欲しい言葉とは違うから。
「ホンマは誰でもええんやろ。やらしい体やな」
 わざと、吐き捨てた。
「・・・意地悪」
 ほんのり赤くなって、甘えかかるに、お返しのキスをする。
「四つんばいになりや」
 組み伏せて、はいつくばらせた。
には似合いや、犬みたいなカッコ」
「恥ずかしい・・・っ」
「このまんまで、しようや」
 覆いかぶさるようにして、繋がる。
「なっ、ええやろ・・・」
「ふ・・・うっ、あ・・・」
 可愛い嬌声をもっともっと聞きたくて、激しく、動いた。
 の喜ぶように。

 のためなら、いくらでも自分を抑えることができる。
 裏切ったのは、あの夜一度だけ・・・。
 瑠璃男は、どこまでもに従順な、犬、だから。






                                                             END



       ・あとがき・


瑠璃男の純愛(?)ドリームを二本書きましたが、それと並行して、瑠璃男でエッチなドリームを書きたくなっちゃって仕方ありませんでした。
だって瑠璃男って、色っぽいですもんね!!
帝月の立場の女の子。でも帝月は友情みたいな気持ちを持っているけど、ちゃんは本気の犬扱い。
その使用人に、ある日襲われちゃう話・・・なので、一応裏に持ってきました。
無理矢理はいけませんよ。避妊もしなきゃダメですよ。
ちゃんの場合は、結果オーライだったからいいとして・・・。
きっと気持ちも瑠璃男に惹かれているんだと思います。
身分違いの恋か・・・それもいいですね。

時代は明治時代ではないけど、現代でもない感じですね。





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