Happy Toy
第5話・Happy Toy
夜に音もなくやってきて、勝手に明かりを消すと妹は言った。
「ハーレム兄様、アクアを壊して」
月の雫をいっぱいに浴びた、それは凄絶なほどの美しさで。
「メチャクチャにしてよ」「・・・いいぜ。脱げよ」
自分もTシャツを脱ぎながら、ブラインドを下ろす。ふたが開いたままのウィスキーの小瓶を傾け、妹に口移しで飲ませてやった。
「・・・ん」
いつものようには嫌がらず、喉を鳴らして飲み下す。本当に壊れてしまいたいらしい。
それももっともだ。ほのかに恋心を抱いていたジャンは死に、サービスは片眼を自分でえぐって姿を消した。そしてルーザーまでも、戦死してしまった。最悪の状態の中で、他にどんな手だてがあったというのだろう。
総帥であるマジックは後処理で忙しく、アクアの相手をしてやれない。ハーレムは長兄に頼まれていたのだった。「アクアの面倒を見てやってくれ」と。
だけど本当は分かっている。自分だって、壊れてしまいたい。妹が言うように、メチャクチャに。
一人で抱えるにはあまりにも重すぎることばっかりだ・・・!
もう一口、酒を含んだ。熱のかたまりみたいな液体が喉を焼く。
「アクアにもちょうだい」
求められるまま瓶を手渡すと、妹は一気にあおった。ハーレムも慌てるほどの勢いでがぶ飲みしてしまう。
「おい、大丈夫かよ」
「・・・いいの。アクアどうなってもいいの。早く、しよう!」
アルコールが体中を駆けめぐっているのか、もうおぼつかない足取りになって、ベッドに倒れ込んだ。
「仕方ねえな」
体をさぐる。脱ぎかけの服を全部はぎ取って、酒の味がするキスを交わし合った。
「なめろ」
体を力ずくで引き起こして、自分のものをくわえ込ませる。アクアは素直に手を添え、舌をからめたり吸い上げたりしはじめた。目眩がする。ぐらぐらする。ドキドキ脈打っているのは、自分のこめかみと口の中にある兄とのシンクロで・・・。
「・・・もっとちゃんとなめろよ」
と言いながらも、ハーレムも感じていた。ウィスキーのせいだろう、アクアの口の中は燃えるようだ。熱くて柔らかい口腔内で、もうはじけそうだった。
「ダメだ、イっちまう・・・」
うめいて動きを止めると、びくん、と脈打って、勢い良いものが放出される。アクアは全部口に受けて、飲み干した。
「ちょっとは酒を薄めないとな」
「早すぎるわ兄様」
口の端をぬぐいつつ顔を上げたアクアにのしかかって、脚を持ち上げた。
「うるさいな。すぐ復活すんだよ。何回でもシてやるよ」
アクアをなめてやる。よがる声が切なく色っぽい。
「今度はこっちでくわえな」
言ったとおりすぐ復活したので、いい加減のところでやめて早速入れてやった。強く乱暴に突き上げる。しがみつこうとする小さな手をつかみ取って、ベッドに押しつけた。
「どうだ・・・?」
「ああ・・・! もっと、もっとして・・・!」
猛々しさを小さな体いっぱいで受け止める。アルコールも手伝い、痛いほどの衝撃が快楽へとすり替わるのに、そう時間はかからなかった。
「お願い、壊して・・・!!」二人は部屋を出ず、ろくに飲み食いもせずに裸で過ごした。うとうとと眠り、恐ろしい夢にうなされて起きると相手にしがみつく。そしてまた抱き合い、絡み合い、交わり続けた。全てを忘れるほど貪り合いたかった。
ブラインド越しに僅かに変化する光の量だけが、時のうつろいを伝えている。何度も眠り、何度もキスして、何度も交合を重ねた。
ただひととき忘れられるのなら、それで良かった。「おもちゃみたいに壊れちゃえばいい・・・兄様にさんざんなぶられて、壊れるまでしてもらえたら・・・。そしたら幸せなのに」
おもちゃだったら、こんなに哀しいことになんて、ならなかったのに。何度目かの交わりの後、ハーレムの日焼けした肌を指でなぞり、アクアはつぶやいた。
「ハーレム兄様もマジック兄様も、アクアのそばにずっといてはくれないのかな・・・」
こんなことになるなんて。
いつまでも四人の兄と暮らしていけるんだって、信じて疑わなかったのに。
こんな短い間に、二人もいなくなってしまった。
「アクア、ひとりになってしまうの?」
「・・・・」
ハーレムは何も答えられなかった。
本当は言ってやりたい。「ずっとそばにいてやる」と。
だけど確実に守れないようなことを約束なんて、決してできなかった。
だから言葉の代わりに、両手を差し伸べ抱きしめた。包み込むように、抱いてやった。
「・・・ハーレム兄様」
今までになかった抱擁に、アクアは驚き身じろぎをする。兄の顔を見ようと思ったが、髪をなでられ、そっと顔を胸板に押し当てられて叶わなかった。
いつも荒っぽい接し方しかされていなかった。だからハーレムがこんなに優しい扱いをできるなんて、知らなかった。
「もう一度、しよう」
優しいキスと優しい愛撫を受ければ、泣けてくる。やはり優しく挿入されると、いつもと違う感じにたちまちのうち雲の上の気分で、ふわり、ふわり。
「俺に抱かれながら、誰を思い出す・・・?」
ほとんど息だけで、ハーレムは耳元で囁いてきた。
「サービスか? ルーザー兄貴か? それとも・・・ジャンか?」
「・・・ジャンとは、こんなこと、してないわ」
「・・・そうか」
泣けてくる。
うっすらと目を開けてみると、やはりハーレムも泣いていた。壊れない。おもちゃじゃないから。
忘れられない。どんなにか愛した、あの人たちのことを。
だからこそ辛くて。傷を舐め合いたかった。今だけはそれが必要だった。そしてまた、泣いて。抱いて。
好きなだけそうしていて、いいよね。
この閉ざされた小部屋の中で、二人きり。朝も夜もなくして、時間すら指の間からすり抜けるように。
−おわり−
・あとがき・
アクア小説第二弾! 何と今度はシリアス仕立て(?)。
まあもちろん、そーゆーシーンが書きたいがための小説ですけど。言ってしまえば、第五話だけで良かったんですよ。
「ハーレム兄様、アクアを壊して。メチャクチャにして欲しいの」というセリフを言うアクア、というのだけが浮かんでいて。とにかくそう言わせたかった。そしていつも乱暴に扱っているハーレムが、初めて優しくするシーン。
ただそれだけを書きたかったんだけど、なんか色々長くなってしまいました。
最初っから最後までやりっぱなし。アンタすごいよアクア(笑)。アクアとジャンにもHさせようか、と思ったんですけど。最初はそういう風に書きかけたんですけど。
やっぱりジャンならやんないな、なんて珍しく素になってしまった私。何でもアリの裏小説なのにね。タイトルはまたまたcharaから。何だか、そーゆー歌詞だよね(笑)。 と
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