「ラブーン! 昼ごはん食べた?」
『プオオ〜』
「じゃあ食後に一曲、聴かせてあげるね」
 愛用の竪琴を構えて、テンポの速い明るい曲を弾き始める。海の中のラブーンは喜んで、声を合わせてきた。は笑って、曲もますます弾んでくる。
 竪琴弾きのも、クジラの子ラブーンも、このルンバー海賊団の仲間だ。



 恋はいつでもハリケーンだから



「……お前、ラブーンとずい分仲がいいのな……」
「あらヨーキ船長」
 ご機嫌のまま演奏を続けていたから、は気付かなかった。
 隣に立ったヨーキ船長が、苦い顔をして、自分とラブーンとを見比べていることに。
「……
 突然、肩を抱かれる。はびっくりして手を止めた。急に音楽が止んだので、ラブーンはプオ? プオ? と不思議そうな声を上げ始める。
「船長やめてよ、こんなところで」
 やんわりとどめたのに、聞いてくれない。それどころか今度は両手でかなり強く抱きしめられ、いきなりキスまでされてしまった。
「あー船長、イチャつくのは二人きりのときにしてくれよ」
「見せつけてくれるねェ……」
 口笛まで吹かれて、真っ赤になったが見回すと、クルーたちがやんやとはやし立てている。
「……いやっ!」
 恥ずかしくていたたまれなくて、思い切り船長の体を押しのけた。
「ヨーキ船長のバカ! 大嫌い!」
 泣きそうな顔をして言い捨て、走って逃げていってしまった。

 その夜、は船長の私室に来なかった。
 いつもは寝る前に必ずやってきて、竪琴を弾きながらきれいな声で唄ってくれたり、軽く酒でも飲みながらお喋りしたりして、二人きりの夜を楽しむのに。
 その後は泊まっていくことも、何もせずに帰っていくこともあるけれど、とにかくが来ない夜なんてなかった。
(……やっぱり怒っているのか)
 がっくり肩を落とす。とりあえず風に吹かれてこようと、酒瓶を持って船尾の方に出た。

「ヨーキ船長、どうしたんですかこんなところで」
「……ブルックか」
 振り返りもせず、酒をあおる。
 バイオリンを手にした長身痩躯の音楽家は、やさぐれている船長の隣に立った。
「昼間のことですか? さん、人前であんなことされて恥ずかしかったんでしょうね」
「……お前らに見せるつもりだったんじゃねェ……ラブーンに見せたかったんだ」
「ラブーンに?」 
 意外なことを聞いて、ブルックは首をひねる。思わず水面を見回すが、こう暗くてはラブーンどころか何も見えなかった。
「……があまりラブーンと仲いいから、はおれのものだってことをラブーンにきっちり分からせようと……」
 自分で言っているうちに、その内容の頓狂さに気が付いたのか、急に吐き捨てるような調子に変わる。
「――おれはラブーンに嫉妬したんだ! おれたちの仲間のクジラにな! 笑っていいぞ」
「ヨホホホホー」
「笑うなっ!」
 ゲンコで思い切り頭を殴る。が、アフロに衝撃は吸収され、思ったほどのダメージはなかったようだ。
「ひどいな船長、笑っていいって言ったのに」
「そんなに思い切り笑う奴があるか」
 瓶を傾けて、中身がもうないことを知り顔を歪める。
 回れ右をするようにして海に背を向け、柵にもたれた。
「自分がこんなに小さい男とは知らなかった。何だよ子供のクジラに嫉妬って」
 だが、あのとき、もやもやしてしまったのだ。ラブーンのためだけに演奏をして、ラブーンに向けて笑顔を咲かせていた、を見て。
 みんなの前だということも目に入らなくなっていた。ただラブーンに分からせなくてはと、それだけで動いた――抱きしめてキスをしてしまった。
「アホかおれは」
 頭を抱える。そんな船長を、ブルックはサングラスの奥の優しい目で見ていた。
「恋はいつでもハリケーン、と言います。自分でも思いもしないことが起こるものですよ」
 クジラに嫉妬なんて、確かに思ってもみない出来事だ。ヨーキ船長はまだ頭を抱えている。
「こんなんじゃ、おれは腑抜けになっちまう……あいつのことになると、自分が分からなくなるんだ」
 狂おしいほどの愛しさが、募りに募って、いつかとんでもない方向に暴走しないとも限らない。
 船長として、男として、ヨーキは恐れているのだ、そんな事態を。
「……いいえ、船長」
 ブルックは落ち着き払った態度でバイオリンを構えた。
 それは甘美なメロディが、ゆったりと流れる。心を落ち着かせるように。
「愛は何より人を強くします。さんを想う心が、ヨーキ船長の力になると、私は信じてます」
「……ブルック」
 背の高いアフロ頭を見上げると、唇の両端を上げるようにして笑っている。
「この間も、ラブーンを守るためにと皆で力を合わせたじゃないですか。それと同じように」
 海獣が現れたときのことだ。確かにあのとき、大切な仲間のため、皆はいつも以上の力を出せていた。
 そう言われてみれば、ヨーキにも思うふしはある。敵襲があったとき、を船の一番奥に隠して戦うのだが、ここで負けたらはどうなる、と思うと、勝つ以外の道はなくなり、体の奥から力がみなぎってくるのだ。
 ヨーキは己の両手のひらを見つめていた。そのとき、ブルックの奏でる曲が変わった。一番好きな唄の、バラードバージョンだ。
 船長は笑う。いつものように、陽気に。
「すまんな、こんな船長で」
「いいえ、本音を言ってもらえて嬉しいんです私。さんにも本音を言ってくださいね」
「おう」
 いつもの旋律を口ずさむ。それに合わせバイオリンは少しテンポを上げてくる。
 暗い海に、楽しげな唄が吸い込まれていった。

、悪かったな。おとなげないことしちまって」
 ブルックが奏でてくれた曲に勇気を得て、そのまま恋人の部屋のドアをノックした。沈んだ顔をしながらも中に入れてくれたに、洗いざらい話し、頭を下げる。
 皆の前で抱きしめてキスなどという羞恥プレイの真相を聞いて、はさすがに戸惑っていた。まさかラブーンに嫉妬とは思ってもみなかったのだろう。
「お前は人前でイチャつくの、イヤなんだもんな。もう二度とお前のイヤなことはしねェから……許してくれねェか。この通りだ」
 もう一度、深々と頭を下げる。船長という立場にある者が、躊躇もなく。
 は口もとをほころばし、首を振った。
「……いいのヨーキ船長。私も、嘘を言ったわ。ごめんなさい」
「嘘?」
 顔を上げると、はもっとふわんと笑った。
「大嫌いって言ったの、嘘よ」
「……
 部屋には二人きりだ。ヨーキは思う存分、の小さな体を抱きしめた。
「でも、本当に恥ずかしかったんだから」
「二度としねェよ。仲直りしような」
「うん……」
 ほんの軽いキスを、仲直りの証にかえた。
 ちょっと情欲が湧いたようで、ヨーキはの体のラインをなぞりながら、もっと深いキスを仕掛けようとする。はやんわりとそれをとどめた。
「今日はダメ。……ダメな日なの」
「あ、そーなの」
 拍子抜けの顔をして、でもヨーキはすぐに笑って言った。
「いや、でも血くらいおれは平気だから。仲直りの記念に……」
「私がイヤなのよ! 何が平気よっ!」
 ぼふっと、クッションで殴りつける。
「そういうところがデリカシーないのよ、ヨーキ船長は!」
「……面目ねェ……」
 海賊船の船長もかたなしだ。
「じゃあ、せめて添い寝させてくれよ」
 返事は待たずの体を軽々抱き上げ、ベッドに運ぶ。狭いところに一緒にもぐりこみ、横向きになったの体を後ろから抱きしめた。
 手をの下腹にそっと当ててやると、温かいと言って喜んでくれた。
「……なァ、いつかおれの子供を産んでくれるか?」
 口をついて出た言葉に、自分でドキリとする。
 この手の触れているところに、女しか持ち得ないあの神秘の器官があるのだと意識したら、言わずにいられなかったのだ。
 は身じろいだ。自分のたおやかな手を、ヨーキの無骨な甲の上に重ねる。
「もちろん、子供を産むなら、ヨーキ船長の赤ちゃん以外には考えられないわ」
「…………」
 胸がずきずきする。何だか泣きそうだ。
 のいい匂いがする髪に鼻を埋めて、ヨーキは目を閉じた。
「ありがとうな……愛してるよ」
 もっともっと強くなろう。己の夢のためはもとより、のため、いつか生まれる二人の子供のためにも。
 うとうととして、宝と、たくさんの子供たちとに囲まれながら、と共に笑っている夢を見た。








                                                             END



       ・あとがき・


またもやヨーキ船長です。もうこの方のカッコ良さにはかなり私、参ってますので……。
DVDも借りて見たんですが、アニメの方が年が上に見えますね。でもカッコいい。ただ、「ぬはははは」って笑ってくれなかった。なんで!? そこが残念。ヨーキ船長といえば「ぬはははは」でしょ!? どうしてアニメでは採用されなかったんだろう……。

前に書いた「愛の夢」と同じヒロインちゃんです。
ラブラブ仲いいところを書きたかった。
多分、ふたりの初めてのケンカですね。
ブルックはいい仕事してくれます。しかし「恋はいつでもハリケーン」って何……?






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