「お頭」
 ノックの硬い音にかぶさってすぐに『おう、入れよ』と明朗な声が返ってくる。
 浮き立つ気持ちでドアを開け、彼のプライベートルームに立ち入ると、ランプの薄明かりに照らされた赤い髪が真っ先に目に入る。
 ソファにゆったりと身を長らえて、お頭――赤髪のシャンクスは、この島の銘酒を満たした杯を実に楽しげに傾けていた。



 
stripper



「お頭」
「二人きりのときは名前で呼べって言ったろ」
 右隣に座らせた恋人のために、新しい杯を出してきて酒を注ぎながら、シャンクスは笑う。
 ついこの間付き合うようになったばかりだから、まだは呼び捨てには慣れない。何か照れてしまうのだ。
 それでも杯を掲げ軽く合わせて、一口含むと、リラックスして彼の厚い胸板に寄りかかってみたりする。
「みんなと一緒に行かなかったのね。なんか、ストリップ見に行くとか言ってたじゃない」
 この島には今日立ち寄ったばかり。長居するつもりはないが、大人の娯楽の多い島だ、今夜は自由行動が許されており、男たちは嬉々として船を降りて行ったのだった。
「おれにはがいるからな!」
 屈託のない笑顔を見ると、かえっての胸には熱くて重いものがズシッと落ちてくる。
 お頭……いや、シャンクスのことが好きで好きでたまらない。でも、以前ならこんなとき皆の先頭に立って夜の街に消えていたのに、彼氏彼女の関係になったから、自分に遠慮して船に残ってくれたのだろうか……そう思うと、彼の行動を制限している自分に対して苦々しい思いが湧き起こってくる。
 シャンクスはいつもと変わらず、鷹揚な笑みを浮かべているけれど。
「ん? 元気ねえじゃねーか。どうした?」
「……うん、私のせいでやりたいことできないと、そのうち付き合うのがイヤになるんじゃないかなって」
 素直な気持ちがこぼれる。シャンクスは一瞬目を見開いて、それから深く笑い、の肩をぐっと抱き寄せた。
「そんなことないって! ストリップなんて面白くもねェよ、以外の女なんてな。……そうだ、今がストリップしてくれればいい、ここで」
「えー何でそんな話になるのよ!?」
 いかにもいいこと思いついた! といった口調で、変なことを言っている。
 お酒の匂いと肩に回っている腕の逞しさに、少年みたいなやんちゃな表情が似つかわしくなく……そのミスマッチがこの人らしさで、惹かれてしまうんだけど……。
 ぐるぐる考えていると、後頭部に手を添えられ、いきなり口付けられる。
 の口中に侵入してきたのは、彼の舌ではなく、冷たい酒だった。
 思わず飲み下す。熱が喉を焼く。
「さァ脱げよ。見ててやるから」
 少し意地悪な、でも甘い声が、背骨に染み入るようで、逆らえる気がしなかった。

 ソファから立ち上がり、テーブルの脇を通ってシャンクスの正面に立つ。
 燃えるような赤髪の恋人は、ただ無言で見守っている。
 笑みを浮かべてはいるが、先ほどのいたずらっ子のようなものとは打って変わり、薄暗い船室の中で、不敵で淫靡なものに見えた。
 その表情だけで促す――早く脱げ、と。
 魔法にかけられたように、はワンピースに手をかけた。前ボタンを一つずつ外し、するりと脱ぎ捨てる。
 風呂上りで、部屋着にしている薄いワンピースの中にはもう下着だけ。さすがに恥ずかしくて、両腕で胸の辺りを覆い隠す。全身から発火しそうだ。
「どうした? もう終わりか?」
「……意地悪!」
 耐え切れず駆け寄って、再び彼の隣に納まってしまう。
「後はシャンクスが脱がせてよ」
「ハハ、可愛い奴!」
 何が効果的だったのか、激しく火をつけたようで、めちゃくちゃにキスされる。
 もう一度、口移しで強いお酒を飲まされ、ベッドへといざなわれた。

「愛してるよ。今夜は寝かせないからな」
 あっという間に脱がされて、肌と肌とを触れ合わせ絡ませる。
 酒臭い息と色っぽい視線も混じり合い、渦のように引きずり込む――快楽の海へと。

 赤い髪と左眼の傷、それから、左の肩。順々に、は触れ、指を這わせてゆく。
 その先にあるべき腕が、この人にはない。
 出会ったときにはすでに左腕を失っていた。赤髪海賊団の仲間に入れてもらったとき、こんなにも魅力的なお頭の左腕代わりになりたい、なんて大それたことを願ったりもしたものだけれど、彼は右腕だけでも誰より強い人だった。
 は女だから、船長の慰み者にされることを覚悟していた。むしろそうされることを密かに望んですらいたのに、全く手を出されることもなく、そういう対象として見てもらえないのかとがっかりしていたけれど。
 実は想いは通じ合っていて、ほんの数日前に、めでたく付き合うこととなったのだ。
 燃え上がったばかりの恋の炎は互いの身を焦がし、いつ果てるとも知れない愛欲に溺れさせる。
 右手と唇、舌で巧みに導かれ、甘く喘げば、イイ声で啼きやがってとからかわれる。
「んっ……だってすごく、気持ちい……」
「ハッ……もっと焦らしてやりたかったけど、そんな顔見せられたら、もうダメだ……」
 今すぐひとつになりたい。
 気持ちが同じなのが嬉しくて、は熱情のままシャンクスの身体に飛びついた。押し倒すような態でそのまま跨り、彼自身を迎え入れる。
 とっくにとろけそうな蜜をたっぷりたたえているのだ、やすやす貫かれ、ひときわ高い嬌声を上げた。
 自分で、いいように動く。息を荒げ髪を乱して、激しく、踊るように。
 シャンクスも右手での細腰を支え、動きをサポートしてくれる。
「あぁ、いいな……すぐイッちまいそうだ……」
「私も……シャンクス……っ」
 のぼりつめて解放して、体の奥に彼を残さず受け止めるまで。

「……」
 果ててベッドに倒れこんでいたら、耳にキスをされた。
 体をまさぐられ、だるくては片目を開ける。
「……何してるの……」
「寝かせないって言ったろ」
 有無を言わさず、愛撫は激しさを増してゆく。
だってまだまだ満足できないだろ。今度はおれが上で……、なっ」
「お頭はさすがタフね……でも、明日起きられなくなっちゃうよ」
 体を反転させて、両腕を伸ばす。シャンクスの首ったまに絡め、赤い髪を撫でた。
「構うもんか。野郎共だって、どうせ起きやしねェ……おれぁとにかく、お前を抱きてぇんだよ。何度でもな」
 愛してるからな。
 本能のままの快楽と、互いを思いやる優しさとを、二つながら分け合って、そうして熱い夜は更けてゆく。
 揺るぎない愛情を土台としているからこそ、裸で交われる――心も体も――そう実感できる時間は、ただただ、幸せだ。


「一緒に広い世界を見て歩こう。この海にはもっと色んなことが隠されてるんだ」
「うん。シャンクスと一緒だったら、私どこでも行く」
 甲板に出て、寄り添いながら朝日を見つめている。
 めいめい手には、湯気の立つマグカップ。結局本当に一睡もしていない。
(本当にこの人、タフだわ……)
 見上げると、生まれたての光に照らされて、赤い髪がオレンジに近く輝いている。とても綺麗だ。
 そして、こちらを見つめている、優しい瞳……。
(……あっ)
 急に腰がくだけ、よろける。
 シャンクスの驚いた顔を見たと思った瞬間、陶器の割れる音がして、の身体は倒れる寸前にしっかりと支えられていた。
「どうした、大丈夫か」
「……大丈夫なわけないじゃない。どうして貴方はそう平気で立ってるのよ」
 苦笑いで、でも安心して体重を預ける。投げ捨てられて割れてしまったシャンクスのマグカップを見た。
「おれは、何かを掴むための手がひとつしかないからな」
 上から降って来た声に、ハッとして顔を上げる。
「何を捨てても、お前を取る」
 微笑まれて、少し、涙が滲んだ。
「シャンクス……」
「ハハッ何泣いてんだ」
 片腕で誰よりも強く、ぎゅっと抱きしめて。
 そうして、キスをくれる。
 幸福感で全身が痺れ、知らず涙が頬を伝っていた。

「……朝から熱いな、お頭たち」
「いいな……ストリップなんかより、やっぱり、カノジョが欲しいよな……」
 濃厚なラブシーンを物陰から覗き見ては、しきりに羨ましがる、朝帰りの仲間たちだった。




                                                             END



       ・あとがき・


長年の夢でした。シャンクスドリーム!
彼には一目惚れでした。ワンピースの連載開始第一回目を、ジャンプで見た(そのときはもうジャンプを買ってなかったから、どこかの店にあったのをたまたま読んだ)そのときから。
長い長い想いでしたね……。ようやく書けました。

シャンクスは好きだけど、ワンピースをちゃんと読んだことがなくて。チョッパーを仲間にしたところまでしかよく分からなくて、それで何年もの間書きたいと思いつつも、ドリームが書けなかったんです。
背景が分からないと、つまりちゃんと全部読み込んでないと、自信持って書けないから。
そんな私、数日前に急にシャンクスが気になってね……なぜか発作的に。それでネットで調べたり、コミックスのシャンクスが出ているところだけ立ち読みしたり、本屋さんにキャラ大名鑑が並んでいるのが目に入って、買ってみたり。あとはよそ様のドリームを読ませていただいたりして、未だに本編通して全部は読んでないけど、何とかドリーム書けるかな? というところまで漕ぎ着けました。
ちょっとした長編ドリームのネタを考えたりもしましたが、私はどうも長編を完結させられないことが多いし、いきなりは無理だと思い、まずは短編で腕慣らし。
ひたすら甘くてベタベタな恋人ドリームにしてみました。
ドリームとしてはベーシックな話だと思うんですが、こんなの書いたの久し振り。しばらく、年齢が低いキャラばっかり書いていたからね。

書いていたらワンピースドリームにはまりそうな気がしてきました。
エースも大好きなので、エースの短編も書いてみたい。あとルフィも。





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