、入るわよ」
 ドアを開けるが父の姿はない。バスルームからの水音で、シャワーを浴びていることを知り、はソファに座って待つことにした。
 自然に、お腹に手を添えていることに気が付く。
 少し、ドキドキしていた。



 sham marriage



「おう、いたのか」
 バスルームから湯気と一緒に出てきたシャンクスは、タオルで赤い髪をがしがし拭いてから、ビールの瓶を持ってきての隣に座った。
「ちょっと、ズボンくらい穿いてよ」
 いくら親子だって、パンツ一丁はいかがなものか。
 シャンクスは納得いかないような顔をしながらも、パジャマ代わりにしているゆるいズボンを穿いて戻ってきた。
「まだ飲まないで」
 早速瓶に伸びた手も、が止めてしまう。
「何だよ注文が多いな」
 一日の終わりに裸でビールという、親父らしい楽しみをことごとく奪われて、シャンクスはムクれている。
 は構わず、きちんと座ってきっぱりと言った。
に、改まってお話があるの」
「はい……、何でしょう」
 シャンクスも思わず背筋を伸ばし、右手を膝に置いた。
 はドキドキしたままで、口を開く。父の顔が近すぎて一瞬たじろいだが、意を決すると一気に告げた。
「私、赤ちゃんができたの」
「ふーん……って、えーっ!!?」
 思わず流しそうになってから、発言の重大さに気付き止める。文字通りソファから飛び上がり、さすがの赤髪も二の句が継げなかった。
「ち、ちょっと待て、
 右手で、娘の左肩を掴む。
「……本当か?」
 は慎重に頷いた。
「さっき、船医さんのところに行ってきたの。設備がないからハッキリ確かめることは出来ないけど、間違いないだろうって……」
「……」
 この上なく真面目な顔になって、愛娘の顔に腹部に、探るような目を向ける。
 やがてシャンクスは、低く呻くような声を出した。
「……誰の、子だ……? まさか、ティーチの……」
「――!?」
 一瞬で、の顔に朱がさす。羞恥ではなく怒りだと気付いた瞬間、シャンクスはみぞおちに強烈な一撃を受けていた。
「うぐっ!」
「何言ってんのよ、のバカー!」
 大声を出してめちゃくちゃに殴りかかってくる。
「黒ひげには何もされてないって言ったのに! 、私の言うことを信じてなかったのね!? よりにもよって一番最初に何であんな奴の名前なんか出すのよー!!」
「まっ待て落ち着け、悪かったって、こら!」
 手首を掴んで、の体をソファの上に押さえつける。
「暴れると体に良くないぞ、落ち着け」
「……」
 ハッとして、も動きを止める。
 父の言う通りだ、何かあったら大変だ。
 お腹の中の、小さな赤ちゃんに……。
 力を抜いて、息を吐く。シャンクスも手を離し、座り直した。
「……それにしても、ひどいわ。にそんなふうに疑われていたなんて」
「いや、疑うっていうか……、だってよォ、普通に考えて、お前みたいな女を捕まえたらさ……、特に黒ひげみたいな貪欲な奴は……だからさ……」
「……もうっ……」
 言い訳がましい一生懸命さに、はついには吹き出してしまった。
 シャンクスはほっとして、これもまたふうっと笑う。
「……すまん。お前の言うことを信じないなんてな……」
「いいのよ。はいつだって、私のことを心配してくれてるんだもんね」
 じっと、見つめる先には、三本の傷がある。
 はつめていた息をようやっと吐いた。
「確かに危なかったけど、私思いっ切り抵抗したのよ。そしたら黒ひげも、さすがに諦めたんだわ」
「お前の抵抗じゃ、そりゃタダじゃ済まねェなあ」
 さっき殴られたみぞおちを、大げさにさすってみせる。は微笑んだ。
「……それじゃあ、お前の腹にいるのは……」
「……そうよ」
 喜びが溢れそうなのに、揺らぐ不安が邪魔をしている。そんな抑えた表情で、はゆっくり頷いた。
「エースの、赤ちゃんよ……」
「……」
 シャンクスは娘の、まだぺたんこのお腹を見つめた。その目が、徐々に細められてゆく。
 一本の腕を伸ばすと、娘をふわりと抱き寄せた。いつものような強さで抱かなかったのは、お腹に遠慮したためだ。
「……そうか! すげぇなあ……エースの奴、最高のものを遺してくれたんじゃねェか。良かったな! 、良かったな!」
「…………!」
 本当は不安だった。このことを打ち明けたら、父は何と言うだろうかと。
 戸惑うだろうか、焦るだろうか、もしかして、怒り出すんじゃなかろうか。
 だが、そのどれでもないどころか、父は喜ぶことにためらいを持たなかった。手放しで喜び、抱きしめてくれた。
 温かな腕の中で、の幸福感もいっきに解放される。涙と共に。
「うっ…………、私、産んでも、いいんだよね……?」
「当たり前だろォー、体、大事にしろよ。あ、おれ、爺さんになるのか。まだ30代なのにな。まぁ何でもいいや。本当にすげぇことだ!」
「うわーん!」
 石鹸の匂いのする父にしがみついて、ひとしきり、泣いた。

「さてと、考えなきゃいかんことが山ほどあるな」
 涙を拭いている娘の頭を撫でてやりながら、シャンクスは呟く。
「エースが公開処刑されることになった……、その理由、知ってるだろ」
 は黙って頷いた。父の言わんとすることはよく分かっている。
 エースが海賊王ゴールド・ロジャーの実子だったからだ。政府は大犯罪者の血を根絶やしにしたかったのだ。
 そうまでして絶ちたかった血が、ここに繋がっている。今のところ誰にも知られずに。そう思うと痛快だ。だが同時に、政府に狙われる運命の命を授かったということでもある。シャンクスの最大の心配は、そこだった。
 はお腹に手を当て、目を落とす。
「ばかげてるわ。子供だ孫だって、一体何代まで殺す気なのかしら。それが正義だなんて。子供に何の罪があるっていうの……!?」
「ああ、お前の言う通りだよ。だから何としても、守ろう」
 の手にシャンクスの右手が重ねられる。父の大きく温かな手は、エースを想い昂ぶった気持ちを鎮めてくれた。
「ちょっと、守るための一番いい方法を考えてくるからさ……」
 シャンクスは立ち上がり、洗いざらしのシャツを羽織った。
「お前ここで待ってろよ。眠くなったら寝てもいいけど」
 明らかに浮かれた様子で出て行く。きっと副船長のところだろう。ベン・ベックマンはいつも冷静で、未だにちょっとやんちゃな船長をうまいこと操って……もとい、的確に補佐してくれているのだ。
 そういうわけで、何か問題が起こると、まず彼に相談するのが常だった。
 まだ眠くはない。は暇つぶしに机にあった本を持ってきて、ぺらぺらページをめくる。フィクションとノンフィクション半々くらいの、海賊小説だった。多分父も誰かから借りたのだろう。
 海賊が海賊の小説を読むなんて可笑しい、少なくとも冒険譚には事欠かない日常だというのに。そう思って読み始めたものの、結構面白く、いつしか没頭していた。
 そのうちシャンクスが戻ってきたが、開口一番言うことには、
、偽装結婚だ!」
「――はい?」
 口がぽかんと開いた。

「今すぐにでも、誰かと結婚したことにしてさ、政府にそういう情報が行くようにするんだ」
「えーっ、イヤよ私、偽装とはいえ結婚なんて!」
 エースとだって結婚してないのに、他の男となんてとんでもない。
 渋る娘に、父はそれでも笑顔を向ける。
「お前が嫌がるのは分かるけどさ。とにかく対外的にはエースの子供じゃねえって言い張るんだ。そうすりゃ誰もうかつに手は出せなくなる」
「でも……」
 勢いはなくなり、口ごもる。
 にだって理解は出来る。それが一番いいってこと。自分自身、つい最近まで隠れていたように、安全のためには政府の目をごまかすしかない。
 ……頭では、分かっている、けれど……。
「お前はもう母親なんだ。自分の感情よりも優先させなきゃならないものがあるだろ?」
 優しく諭す、父の言葉の正当性も、分かる……はず、だけど。
「……考えさせてもらっても、いい……?」
「ああ……だけどあまり時間はないぞ」
「うん……」
 心配する父親に、一人で大丈夫だと言い置いて、は自分の部屋に戻った。
 ベッドに丸まると、写真を取り出して眺め、ため息をつく。
「エース……」
 本当はエースと結婚したかった。エースのお嫁さんになりたかった。
 それは永遠に叶えられず、子供を守るためとはいえ、他の誰かの妻と呼ばれることになるなんて……。
「そんなの……耐えられる……?」
 また泣きそうになる。涙はいつになっても涸れそうにない。
 涙を止める必要はないと教えられた通り、流れるままにしていた。写真がぼやけて見えなくなった。

『……おれは、お前と結婚したも同然だと思ってたけどな』
「……エース……」
『写真撮ったし、指輪を嵌めてやったし、全部見せ合った……子供まで作ったじゃねェか……なァ、……世間がどう認識しようと関係ねェよ。どうせおれたち海賊だしな。真実は、おれとお前の中にだけ、あればいい……』
「……エース!」
 ハッとする。いつかウトウトしていたらしい。
「夢……?」
 左の薬指に重さを感じる。掲げてみてびっくりした。指輪が嵌っていたのだ。普段はつけていない。さっきまでだって、なかったはずなのに。
 不思議な気持ちで、ダイヤモンドのきらめきを眺める。涙の名残りが光を増幅させ、強く大きく輝いた。
 エースがくれた指輪。大切な、約束と思い出のしるし。
「そうよね、エース……」
 指輪を嵌めた手で、お腹を抱く。ひとりじゃないと思うと、何より心強く、勇気が湧いてきた。

「そうか、分かってくれたか!」
「うん。エースが夢枕に立ってくれたから」
 朝食の席で、が大真面目に本当のことを言うと、は大らかに笑って頷いた。
「エースも分かってくれてんだな。さすがだ」
 あれ、自然に信じちゃうんだ。は自分で言っておきながら、拍子抜けした気分だった。みぞおちの一撃が効いて、娘を疑うことを一切やめてしまったんだろうか。
「お嬢、体の調子は大丈夫なのか?」
 心配そうなヤソップに、頷いてみせる。幹部連中には既に話がされていた。
「しかし驚いたぜ……まさに忘れ形見だな」
「お頭の孫だけど、ゴールド・ロジャーの孫でもあるんだ。将来楽しみだ」
 みんなに喜んでもらって、心配してもらって、はまた泣きたくなる。この間から、涙腺が崩壊してしまったみたいだ。
「おれ、昨夜考えてたんだけど、偽装の相手さ」
 ご飯をおかわりして、フォークを持ち直しながらシャンクスは、ちょうど向かいに座っている副船長に目線を向けた。
「……ベン、お前、どう? と結婚したフリ」
「……どうって」
 ベックマンは胡散臭げに我らが船長を見返した。いい考えだろ! といわんばかりの自信満々の笑顔にげんなりする。
「……イヤ年が離れすぎだろ。若い奴の方がいいって」
 本人ではなくヤソップが言う。シャンクスは即座に「だめだ!」と言い捨てた。
「若ェのは、フリだってのに絶対そのうち本気になる。ベンならそういう心配ねェし、まァ今はこうだけど、元々は髪も黒かったから、黒髪の赤ん坊が生まれたとしても不自然じゃないだろ。それに副船長くらいの方がハクつくし」
 この提案はにとっては予想外だった。どうせウソっこだから誰でもいいのだが、まさかベックマンを推してくるとは。
「お嬢だってイヤだろ、親子みたいなもんだぞ」
「いいんだよ、年の差婚はやってるし」
「どこではやってんだよ……」
 なぜか当人たちを差し置いて、シャンクスとヤソップの間で盛り上がっている。
 が上目遣いで見ると、ベックマンと目が合った。朝食を食べ終えた副船長は、いつものように煙草を吸い始める。そのポーカーフェイスからは彼の心理など全く読めない。
「なっ、もいいだろ?」
「う、うん……」
 父の言うことももっとものような気がしてきた。確かに彼なら安心だ。シャンクスが今度はベックマンの意向を尋ねると、煙を吐くついでのようにこう言った。
「お嬢が良けりゃおれに断る理由はねェよ」
「よし。じゃあ悲しんでるを慰めているうちにそうなったってセンで」
「そんな設定までつけないでよ、生々しい」
 すぐ調子に乗るんだから、面白がっている場合じゃないのに。
 そうは思いながらも、シャンクスの大らかさ明るさは、にとって救いでもあった。
 エースとの赤ちゃんが出来たことを知った瞬間、心の底から喜んではしゃいでくれたこと、きっと一生忘れない。

 ひと嵐越えてから、すっかり晴れ渡った空を二人並んで見上げている。
「……いい天気ね」
「そうだな」
 赤い髪をなびかせて微笑むの隣に、煙草をくゆらせているベン・ベックマン。にわかカップルのためぎこちないことこの上ない。
「おいお前ら、もうちょっとくっつけよ」
 外から見えないようにしゃがみ込んだシャンクスが指示を出す。
 今ちょうど海のパパラッチがこの船の周りを飛び回っているという報告を受け、お目当てのを存分に撮らせてやろうとの大頭の作戦だ。ただし、隣にフェイクの恋人を寄り添わせて。
 そうやって二人の仲がいいことを匂わせておいてから、結婚したと発表すれば尚効果的だと張り切るシャンクスに、とベックマンは連れ出されたわけだが、どう見てもシャンクスがひとり監督役として楽しんでいるようにしか思えない。
「ベン、顔が怖いぞ」
「生まれつきだ」
 正面の海を眺めたまま返した言葉のそっけないこと。思わずが吹き出してしまったくらいだ。
「それじゃ恋人同士に見えないって。肩くらい抱けよ」
「アンタに殴られそうで怖ェよ」
「殴らねェって」
 ベックマンは軽くため息をついた。
「いいのかお嬢」
「いいわよ」
 ごく軽い返事に、親父と同じ感覚でいることを副船長は知る。毎日あれだけ強制的なスキンシップを受けているのだ、オヤジにくっつかれるのは慣れたものだろう。
 安心したようながっかりしたような、変な気分で、ベックマンは赤髪のお嬢さんの肩に手を回しかけた。
「うわーやっぱりくっつくなー!」
 大頭の右ストレートは予測済み。難なくかわすが、思い切り立ち上がったシャンクスの姿は丸見えになってしまった。
「もう、台無しじゃないの、
「いや、逆にリアルだろ。お嬢にくっつく男を前にした大頭の正しい反応だ」
「……ぷっ、あははは……本当ね」
 可笑しがって、しばらくの笑い声は尾を引く。
 シャンクスも声を上げて笑った。娘が楽しそうに笑ってくれたのが、嬉しかった。
 ベックマンもついには口もとをほころばしたが、その様子を遠くから覗き見ていたカメラマンは、「何をしたいんだあの人たち……」と首をひねっていた。

「何だよ全然効果ナシじゃねェか」
 雑誌での特集が組まれていると聞いてわざわざ取り寄せたが、だけの写真ばかりが掲載されていて、せっかくチャンスをあげたツーショットが一枚もない。
「……でも可愛く撮れてるな。カメラマンってのはさすがだな。あ、こっちのもいい。美人だ。お前ママよりも大人っぽいな、顔立ちは似てるけど、雰囲気全然違うよな」
 徒労を悔やむのは一瞬で終わり、あとはニヤニヤして愛娘の色んな姿を観賞し楽しんでいる。
「うわー何このセクシーショット。お前薄着で出るなよ」
「だって暑かったんだもん、そのとき」
「くそー、こんなのが世界中の男どもに見られるなんて……でもおれも嬉しいけど、嬉しいけど許せん……複雑だ」
 意味不明の独り言を呟くと、雑誌は丁寧に机の上に置き、気持ちを落ち着かせるように大きく息をする。
 いつもの夜のひととき、今後のことを相談するため、父娘はこれまたいつものようにソファに並んで座っていた。
「さて、陸よりもどこよりも、この船の上が安全だ……。ここで産んで、ここで育てるのが一番いいが……」
「うん。私もそのつもり」
 四皇の父のもとが一番安全なのは確かだ。エースは白ひげに守られていたんだと、センゴクが言っていたのと同じように。
「女手が必要だな。産婆でも乗せるか。でも乗ってくれる婆さんいるかなぁ」
 父の頭の中では、赤ん坊を取り上げるのはお婆さんに限るらしい。はくすくす笑った。
「そういえば、ママが助産師の資格持ってるって言ってたわよ」
 実は妊娠の報告は、父より先に母に済ませていた。やはりこういうことは女親だろう。そのとき母は大興奮し「でかしたわ!」と大喜びしてくれた。そして、「私、助産師の資格も取ってあるから、もし必要なら頼ってちょうだい」と、こともなげに言ってを驚かせたのだった。
 そして今、父親も驚いている。
「……知らなかった。さすがは得体が知れないな」
「それ、褒め言葉に聞こえないわよ」
「あ、もとい、才能豊かだな。じゃあママさえよければ、来てもらおう」
 父は明らかにテンションを上げた。やはり母に会えることは単純に喜ばしいらしい。
 も嬉しくなる。両親仲良いことは何より幸せなことだ。
「お前にとっても一番心強いだろう?」
「うん」
 確かに心強い。それに、赤ちゃんをきっかけに両親がこの船に揃うなんて、思ってもみなかった。にわかに楽しみになってきた。
「安心して、大船に乗ったつもりでいろよ」
 髪をくしゃくしゃ撫でられる。は片目をつぶった。
「つもりじゃなくて、実際乗ってるけどね」
「ハハハ、そうだな」

 数日後、新聞記事になった四皇・赤髪の発表は、世の一部の男性を驚かせ落胆させた。
「結婚だと…………」
 特に反応したのがこの男、黒ひげことティーチだ。赤髪の娘への執着は彼女を手放してからが激しくなったようで、今も新聞を持つ手が震えている。
「……どういうことだ? エースが死んでからまだ二か月も経ってねェ……それなのに赤髪のところの副船長と結婚……」
 最後の最後までエースを信じ、エースを想い、抵抗をし続けていたの頑固さを思い起こす。あのが、手のひらを返すように他の男と結婚など。
「何かあるぜこりゃあ……。の奴、どうしておれのものになるまで大人しく出来ねェんだ」
 ティーチの黒ひげに囲まれた口もとは、しかし、笑っていた。
 そんなだからこそ、手に入れたい。途中経過はどうでもいい、最後に奪えればいいのだ。

(エース、守ってみせるわ。私とあなたの、赤ちゃん……)
 写真を見つめて思いをはせる。前にエースが話してくれた、エースのお母さんのことを思い出していた。
 エースの母はサウスブルーのバテリラという島に住む女性で、ポートガス・D・ルージュという名前だったそうだ。エースは父を嫌い、母方の姓を名乗っていたのだ。
 ルージュさんは海賊王ゴールド・ロジャーの子供を身ごもった。ほどなくゴールド・ロジャーは処刑されたが、その血を根絶やしにせんと執拗に捜索を続ける政府の手から逃れるため、何と彼女は赤ちゃんをお腹の中に20か月も宿していたというのだ。
 今、その話を思い出すと、エースのママの母としての強さに、頭が下がる思いだ。
 自分は父をはじめ多くの人に守られている。それなのに、ルージュさんはたった一人だった。たった一人で、守り切ったのだ。
 命がけで守った命は、ここに繋がっている。
 海賊王と、ルージュさん。
 赤髪と、赤髪に愛された海賊オタクの母。
 そして、最強の火拳。
 全部がここに繋がっている。
 責任は重大だ、なりふりかまっていられない。
「そうよ偽装結婚が何だっていうの。私の心は……」
 写真のエースの、すました顔をそっと撫でる。
「私の心は、生涯、あなたのものだからね」
 微笑みかけると、心なしか、写真の中のエースも笑ってくれたような気がした。






                                                             END





  ・あとがき・

前回の話を書いたら、レッド・フォース号でのちゃんの暮らしぶりが気に入ってしまって、もう少し書きたいなと思い、続けて書いてしまいました。
実は、冒頭のお風呂上りのシャンクスを書きたいというのが一番の目的だったりして。
ちゃん、みんなに愛されていて、幸せですね。それに、赤ちゃんを守らなきゃいけないんだから、いつまでも悲しんではいられない。
エースも時々夢に出てきてくれるみたいだし。

偽装結婚の相手がベン・ベックマンって、最初は別にそんなこと決めてなかったんだけど、何となくそんな感じに。ベックマン、シャンクスより確実に年上だよね……。
赤髪海賊団のほかのメンバーの名前も知りたいです。あの、サル連れてる人とか、ドクロの帽子被ってる人とかさ。ちょっと名前知らせてもらえたら、書けるのになー。

ちゃんのお母さんもちょこっと出てきましたね。番外編で、シャンクスとの出会いなんかも書けたらいいな、いつか。

続きは今のところ書く予定はありませんが、いいネタが浮かんで話が繋がったら、書くかも知れません。
エースの赤ちゃん、男の子かなー女の子かな。







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