新世界のとある島――気候の良い美しい島に、レッド・フォース号は停泊した。
 白ひげとエースの埋葬を、目的として。



 reborn<後編>



、エースに最後のお別れを」
 父に言われて棺のそばにひざまずく。白ひげの親父さんは、既に土の下に眠っている。今度はエースの番だ。
「エース……」
 さっき摘んできた花を、エースの顔のそばに置く。
 大好きなエースの、微笑み。癖のある黒髪、そばかす……見納めだ。
 もう涙は涸れたかと思ったのに、また溢れてくる。白ひげ海賊団の皆が大勢見守る中、は構わずに身を屈め、エースの唇にキスをした。
 透明な熱い涙が、そばかすだらけの頬にこぼれかかる。最後のキスは、凍りつくほど冷たかった。
「さようなら、エース」
 震える、微かな声で、別れの言葉をそっと告げて。
 そうして区切りをつけたつもりなのに、いざエースの棺が納められ、土がかけられ始めると、は思わず駆け寄ろうとする。
 土の中に埋もれてしまうのは、いかにも苦しそうでエースが可哀想。いっそ自分も一緒に埋めてもらいたいと、切実に願った。

 父に後ろから抱かれて止められる。それでも腕を差し伸ばす。
 その先で、白ひげ海賊団の男たちの手によって、どんどん土がかけられてゆく。
「……」
 精一杯伸ばしていた手も、ぱたりと落ちた。
 墓標が建てられるのを、霞む視界の中ぼんやりと見守っていた。

 大きな墓標は、白ひげエドワード・ニューゲートの眠るしるし。薙刀の先に掲げた彼の海賊旗と大きなコートが風にはためいている。
 その隣の小さい方の墓標には、ポートガス・D・エースと刻まれていた。帽子と短剣が奉られ、火拳と呼ばれた二番隊隊長の姿を偲ばせる。
「……すまん」
 たくさんの花に囲まれた、大小二つの墓の前で、シャンクスの隣に立ったのは、白ひげ海賊団一番隊隊長のマルコだった。
 も彼のことは知っている。新聞などでも目にしていたし、エースからも話を聞いていた。
「赤髪……何と礼を言ったらいいか……」
 あのままでは、海軍によって二人の首が晒され、その死を冒涜されていたことだろう。こうして弔うことが出来たのは、シャンクスのお蔭に他ならない。
「つまらねェことを言うな。敵でも「白ひげ」は敬意を払うべき男さ……センゴクですらそうだった」
 マルコはシャンクスに深々と頭を下げると、の方に歩み寄ってきた。
、これは船にあったエースの遺品だ……あんたに引き取ってもらった方がいいと思って、持ってきたよい」
 箱を手渡される。は両手で受け取った。
「ありがとうございます」
「……」
 マルコは正面からを見て、少し眩しそうに目を眇める。
「エースからおれもよく話を聞かされていたよい。しかしエースの自慢の彼女が、赤髪の娘とは知らなかった……驚いたよい」
 そういえばティーチも、エースは酒の席でよく彼女の自慢をしていたと、同じようなことを話していた。一体エースは皆の前で何を言っていたのだろう。少し気になる。今となれば本人に聞くことも出来ないけれど。
「エースは本当にあんたのことを大切にしてた……辛いなァ……」
 は微かに頷く。そう言うマルコも親父と慕っていた白ひげとエースとを同時に失って、どんなに辛いことだろう。皆辛いのは同じだ、自分だけじゃない。は涙を飲み込んだ。
「エースの大切な人だ、何かあったら、おれたちは必ずあんたの力になるよい」
 右手を差し出され、も手を出した。力強く握手をされ、その大きな手のぬくもりにほっとする。
「ありがとう……」
「……じゃあ、おれ達はもう行く」
 父に身振りで促され、も最後に二つのお墓を見上げてから、後ろ髪を引かれる思いで歩き出した。
「ああ……ありがとよい」
 白ひげの一団が見送る中を、何度も振り返りながら、父と共に船に戻る。マルコから渡された箱を大事に抱えて。
「出航だ!」
 レッド・フォース号は動き出し、白ひげとエースの眠る地を後にする。
 は船尾に立って、小さくなってゆく島を見つめていた。
……、あの島に留まるか?」
「え?」
 父はの隣に立った。
「今なら引き返せる……エースのそばで暮らしていってもいいんだぞ、お前の人生だからな……」
「……ううん」
 風を受けて赤い髪がなびく。同じ色の髪を持った父親を見上げた。その瞳に、迷いの色はない。
「エースはあの島に眠ったけれど、あそこにいるわけじゃない。私はと行くわ、海賊だもの」
 少しだけ微笑む父から、また島へと視線を転じる。もう点ほどに小さくなっていた。
「それに、ルフィのことを見ていてあげたいの……エースの代わりに」
 今やには分かっていた。エースはいつも言っていた通り、くいを残さず死んだのだ。あの笑顔は、それを伝えるための笑顔だったのだと。
 あんなに深く、愛してくれた。全身全霊を傾けて、愛してくれたのだから。
 ただ心残りがあったとすれば、弟ルフィのことだろう。
 ルフィの生死は今のところ不明だが、きっと生きていると、は信じていた。白ひげ海賊団はじめ皆がエースの意思と認め、最後まで守り抜こうとしたのだ、そう簡単に吹き消されはしないはずだ。
「……そうか。それでこそおれの娘だ」
 肩に腕を回される。は父親に寄り添うようにして、もうすっかり見えなくなった島の方向を、ずっと眺めていた。
「……あそこにはいない……エースは、どこに行ったのかしら……」
 自分で言った言葉に、自分で首をひねる。
「どこって、そりゃお前……」
「――!?」
「どうした
「しいっ! 黙って……聞こえない!?」
「えっ?」
 急にあちこちを見回して何かを探す素振りをする娘に、シャンクスは心配そうな顔を向ける。ショックは大きいのだ、どんな行動に走っても不思議はないと思ってはいたが、今の今まで正常だったため、さすがに面食らってしまう。とにかく危険なことだけはしないように、そっと見守ってやることにした。
 しばらくキョロキョロしていたは、やがて目を閉じ、少し顎を上げて、耳を澄ませるような仕草を見せた。
 シャンクスは黙って、声も音も立てないように、息すら潜める。もしかしては、エースの声を聞いているのかも知れないと思った。死者の声が届くなんて、そんな話あるはずはないのだが、娘の様子を見ているとそうとしか思えないのだった。

――、おれはお前のそばにいる……会えなくても、見えなくても、今までよりずっと近くにいるよ――

「エース……」
 確かに聞こえた。エースの声。の心に、届いた。
 目を開ける。大きな声で最愛の人の名を呼んだ。
「エース――!!」
 声は海と空との狭間に消えてゆく。たくさん溢れる涙は、今までのとは違う涙だった。
 そのとき、の下腹が急に熱を持った。まるで火が宿ったかのごとく、熱い。焼けるようだ。
「――!?」
 苦痛はないが驚いて、父にすがる。
?」
 一瞬ののち、熱が引く。さっきまでの焼け付くような熱さが嘘のように。
 信じられない心地で、は自分のお腹に目を落とし、そっとさすった。
……私、もしかして……」
「?」
 いつまで待ってもその続きとなる言葉は出てこない。ただ、顔を上げた娘の美しさに、シャンクスはほとんどたじろいだ。
 我が娘ながら綺麗だとは思っていた。自慢にもしていた。が、こんなだっただろうか。
 こんなにも強く眩しく、光り輝くような美しさを、いつの間に備えたのだろう――。
「……エースはお前に、何て言ったんだ……?」
「それは……」
 以前の子供っぽさを覗かせて、はぐらかすように笑う。
にも秘密。私とエースだけの」
「……そうか」
 なぜかほっとした心地で、つやつやの赤い髪を撫でてやる。
 父娘は寄り添って、いつまでも船尾にたたずんでいた。

 それでも、夜になり、一人きりの部屋にいると、哀しさに押しつぶされそうになる。は涙でかすんだ視界に映るエースの手配書を壁から外した。新聞記事なども丁寧にはがし、マルコに貰った箱と一緒にしまっておく。
 今はまだ、エースの顔を見ることが出来ないのだ。ただこうしているだけでも、苦しく、辛い。喘いで、耐え切れなくなり、は枕を抱えると父の部屋をノックした。
 シャンクスは震えながらしがみついてくる娘を抱いて、眠らせた。夜中に怖い夢を見たといって泣き出せば、子供に対するように優しく撫でさすり、また寝かしつけた。実際、シャンクスは子供のころに十分にしてやれなかったことを今やってあげている気持ちでいたのだった。
 が元のようになるまでに、いくつこんな夜を越えなければならないんだろう。
 痛む胸から、深いため息がこぼれた。

 マリンフォード頂上戦争では、今まで隠されていた事実が次々と白日の下に晒された。
 エースの父親が海賊王ゴールド・ロジャーだったこと。
 ルフィの父親が革命軍総司令官、世界最悪の犯罪者と呼ばれるドラゴンだったこと。
 そして、もう一つ――。
「うーむ、これじゃほとんどアイドル扱いだな」
「何ニヤけてんだよお頭」
 シャンクスが見ている新聞には「四皇・赤髪の娘はエースの恋人だった」云々の見出しにの写真がでかでかと掲載されている。大事に隠していた箱入り娘の存在が、あの戦争によってとうとう世間にバレた。赤髪の娘でこれだけの美女、更にエースの恋人となれば、話題性は抜群だ。新聞での書かれようも悪意はなく、むしろの美貌を謳い上げ、「これからも動向を追っていきたい」などという言葉で締めくくるなど、ほとんど週刊誌のような浮つきようだった。
「それにしても、もう少し当人の気持ちも考えて欲しいものだな」
 恋人を失ったことすら、お涙頂戴の悲劇に仕立て上げようとしているのが見え見えなのには腹が立つ。
「記者なんてそんなものだろ。あることないこと書き立てるんだ、あいつらは」
 ラッキー・ルウが、相変わらず骨付き肉にかぶりつきながら言い捨てた。
「しかし、こんなに大々的にお嬢の顔が知られるとは……」
 副船長ベックマンはタバコをふかしながら苦い顔をしている。
「仕方ねェよ。あの場でこっそりを連れ去るのは不可能だったんだ」
「イヤ可能だったろ、お頭があんな大騒ぎさえしなけりゃ」
 あの日戦場でを見つけたときの大頭の喜びようと騒ぎようといったら。あれさえなければ、こんなに目立たせることもなくお嬢さんを連れ出せたろうにとヤソップは頭を抱える。ついでに、「赤髪」登場から渋くキメてたのも台無しだった。
「うわこの写真、またよく写ってるな……実物もっといいけどな。やべェよ嫁にくれって申し込みが殺到したら……片っ端からやっつけよう。そうしよう」
「アンタのん気だな」
 とはいえ、それでこそのお頭だ。ベックマンはもうそれ以上何も言わなかった。
「みんな、おはよう」
お嬢さん!」
「おはようございまーす!」
 が現れると男たちの表情もその場も空気も、明るく華やかなものになる。
 あんなことがあったばかりだが、も自然に振る舞おうとしていたし(自然にというのは、泣きたいときには泣くということだ)、周りも腫れ物に触るような態度はやめようと申し合わせていた。
「お腹が空いたわ」
 コックのところに行くと、待ってましたとばかりにゴージャスな朝食が提供される。「おれたちのとはずい分違う」というブーイングも、の「おいしそう!」と喜ぶ声が聞こえれば、すぐに立ち消えてしまった。
「おう、これ見ろよ」
 席に着くと早速シャンクスが新聞を差し出す。
「だから何喜んでるんだって……」
 ベックマンは呆れ顔だ。
「なあに」
 新聞を受け取るの目は少し腫れていた。
「……いやだ、こんなに大きく……せっかく今まで黙ってたのに……」
「この人のせいだ」と言わんばかりに、ヤソップが大頭を指差しているが、シャンクスはどこ吹く風。
「問題ねェよ。何があってもお前はおれが守る。マルコも力になるって言ってくれてたしな。しかしアイツ、おれがこの間スカウトしたときには完全無視だったクセに、には甘いのな」
 ぶつぶつ文句を言っている父親の隣で、は斜め読みした新聞を傍らに置き、朝食を食べ始めた。
「おいしいわ」
「そりゃお嬢さん! 腕によりをかけたからな!」
 コックが胸を張る。
お嬢さん、飲み物は何がいい? おれ持ってきてやるよ」
「お嬢さん、後で手合わせしてくれよ。お嬢さんが留守の間、おれも腕を上げたんだぜ」
 みんな我先にとの元に集まる。
「うるせェてめえら! に馴れ馴れしく近付くんじゃねェ!」
 船長が一喝すると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「……まったく」
 苦々しげにしてから、シャンクスはの方に身を乗り出して、顔を覗き込んだ。
「でもまァ、あいつらはあいつらなりに、お前のこと心配してんだよ」
 小さい声で言うと、娘は泣き腫らした目のままでくすりと笑った。
「分かってる。……こんなに皆に心配してもらって、幸せね私」
「……ー! お前は何ていい子なんだ!」
 愛しさと切なさが募って思わず抱きしめる。
「やめてよ、食事中よ!」
「いいじゃねェか……あっそうだ、またおれが食べさせてやろうか、あーんって」
「ひとりで出来るー!」
 久し振りに出現したうっとうしい過干渉ぶりに、も周りも呆れながら、どこか温かい気持ちになっていた。

「…………まさかとは思ったが、あいつが赤髪の娘だったとは」
 黒ひげティーチは、巨大な丸太舟の上にあぐらをかき、新聞を眺めている。
「逃がした魚はでけェなァ……こんなことなら、あのとき情けなんてかけずに犯しておけば良かったぜ」
 写真を眺め、やっぱりいい女だ、アッチも相当いいんだろうななどと下世話な独り言を呟く。
「まァいいさ。全てを手に入れるんだ、も例外じゃねェ……いずれおれのものだ……ゼハハハハ……!」

「赤髪の娘か……」
「道理で、あの太刀筋……」
 スモーカーとたしぎも例の記事を一緒に覗き込んでいた。
 また、マリージョアでは、五老星の間で重々しい会話が交わされている。
「赤髪の娘から目を離すな」
「とはいえ、相手が赤髪では、むやみに手を出すわけにも……」
「しばらくは様子を見るだけだ。エースと懇意にしていたとなれば、万が一ということも有り得るからな」
「ああ……エース自身がそうだったように」
 長老たちは鋭い眼差しで、頷き合った。

 戦争から三週間経ったころ、新聞を賑わしたのは今度はルフィの記事だった。
 ルフィがジンベエや冥王シルバーズ・レイリーと共にマリンフォードに現れ、水葬の礼、オックス・ベルを16点鐘し、その後に黙祷を捧げたと記事は伝えている。ルフィが麦わら帽子を胸に当て、黙祷している写真が大きく掲載されているのを、は見た。その右腕には、何だろう、3D2Yの文字――3Dは×で消されている――以前は彼の腕にこんなものはなかったと思ったが。
「何でもいいわ、とにかく、生きてて良かった……ルフィ……」
 エースの大切な弟。にとっても弟同然だ。は思わず新聞を抱きしめた。
 父もことのほか喜び、「野郎共、今夜は宴にするぞー!!」と久し振りの号令がかかった。
 いっきに賑やかさを増した船の中で、も笑む。そういえば喪に服すというのか、ずっとこんなことはなかった。
 でもルフィが生きていたのだ、も今夜は騒ぎたい気分だった。

 大賑わいの夜も更けて、三々五々解散となると、はまたもや父の部屋に邪魔をした。
 シャンクスはひとりでまだ酒を飲んでいたが、娘の来訪を喜び、ソファに座らせる。
「今、あのときのことを思い出してたんだよ。お前とエースと三人で飲んで喋って、夜を明かしたときのことさ」
「私の17歳の誕生日の日ね。冬島で……」
 あの夜、二人きりになっていい雰囲気に流されそうだったところを、父に思い切り邪魔されたのだ。今思い出しても気恥ずかしい。
「……ちょっとは思い出話も出来るようになったよな」
「うん」
 ついこの間までは触れるだけで苦しくて痛くて涙が出ていたから、考えないように日中はわざと忙しくし、夜は父の胸にすがって眠った。それでもほんの少しの隙間を狙うようにして、思い出してしまっていたけれど、それは仕方がないんだし、それでいいんだと父が教えてくれたから、感情のわきおこるまま、涙の流れるままにしていた。
 そうしているうち、徐々に、自分から思うことが出来るようになってきた。
 こうして父と思い出話で供養することも、これからはどんどん出来るようになるはずだ。もちろん、辛くて哀しい思いが消えることはこの先ずっとないだろうけど。
「お前も飲めばいいじゃねェか」
 酒を勧められるが、は笑顔でかわす。
「未成年よ」
「海賊のクセに固ェのな」
 仕方なさそうに自分のグラスに注ごうとするのを、が横取りして注いであげた。
こそ、父親のクセに子供にお酒を勧めるなんて」
 シャンクスは肩を揺らして笑うと、すぐにグラスの半分ほどを空けてしまう。
「……エースと酌み交わしたときに、おれはあいつならいいって思ったんだ……本当に、息子になってくれればってな。……こんなことになるなら、……」
 必要以上に大きな音を立ててグラスを置くものだから、はビクッとした。
 こっちを見る目が据わっている。酔っているのだろうか。
 そうして父は、変にドスの効いた声で言うのだった。
「……出会わなきゃ良かったんだ……好きになんてならなきゃ……そうすりゃ辛ェ思いもせずに済んだし、ずーっとおれのものにしておけたのに……」
「……
 何となく、最後の一言が本題のような気がする。本当に親バカもたいがいにしてほしい。
「出会わなきゃ良かったなんて、本気でそんなことを言うの? も、ママに出会わなきゃ良かったの?」
「――まさか。第一、お前がこの世に生まれて来ねェよ、おれたちが出会えなかったら」
「……その通りよ」
 何という奇跡、何という神秘。はそっと、自分のお腹に手を添えた。
「私は、エースに出会えて良かったと思っているわ。結果的にエースとはこんなふうに別れることになったけど……失いたくないから最初からない方がいいなんて、バカげてる」
 熱のこもった想いは、父の酒も醒ましたか、シャンクスはいつしか真面目な顔をしてを見つめていた。
 はにっこりしてみせる。
「エースは、たくさんのものを私にくれたの。エースが死んだって、それはなくならないわ」
 シャンクスは「そうか」とだけ呟いて、何となく面白くなさそうに、酒をあおった。
、飲みすぎちゃダメよ。私そろそろ戻るわ」
「ここで寝て行かねェの?」
「もう、一人で大丈夫よ」
「ちぇっお役御免かよ。子供なんてもんは身勝手だな、親の気も知らねえでよ」
 ぶーっと口を尖らせて、手酌で飲んでいる。どっちが子供か分からない。
 笑いながらも立ち上がったは、急にふらついて、口もとを押さえる仕草をした。
「どうした、お前、具合でも悪いんじゃねェか」
「……ううん大丈夫よ。病気じゃないわ……」
 何か確信があるかのように落ち着いた声音で返すが、やはり気分がすぐれないようだ。
 シャンクスは慌てて立ち上がって、娘の顔色を見たり額に手を当ててみたりする。
「医者に診てもらってから寝ろよ、連れて行ってやるから」
「それには及ばないわ、ちょっと風に当たれば良くなるから……心配しないで。おやすみ
 ひらっと手を振って、笑顔で出て行くが、無理をしているようにしか見えない。
「本当に大丈夫かよ……」
 疲れがたまっているのかも知れない、体にも心にも。何しろ色んなことがありすぎたのだ、ストレスもかかりっぱなしだろう。
 エースの死はもちろんだが、黒ひげに捕まっていたこともシャンクスには気になっていた。は「何もされなかった」としか言わないから、それ以上は聞けないでいるが――。シャンクスは無意識に、左側の額から頬にかかる三本の傷に手を触れていた。
「……おれの隣で寝ればいいのに」
 未練たらしく呟きながら、新しい瓶を開ける、のんだくれ親父だった。

「エース……」
 廊下で、ポケットから出した写真を眺める。アラバスタの写真館で撮ったものだ。
 のは黒ひげに取られたきり返ってこなかったが、これはマルコがくれたエースの遺品のひとつだった。
 泣きそうな笑顔で見つめてから、ポケットに戻すと、は甲板に出る。今夜は風が良い。今は背中に垂らしたままの赤い髪が、さらさらなびいた。
 こうしていると、エースに抱きしめられているような気がする。海を渡る風が、彼の逞しくも優しいかいなのように、体を包み込んでくれるから。
 知らず微笑み、は海に向け両手を差し出していた。
 会えなくても、見えなくても、そばにいてくれる。
 そうしてまた、繋いでゆくものがある。
 肘を曲げ、自分で自分を抱くように、胸の前で腕を交差させた。そうしてからその両手を、また優しく、おへその辺りに当てる。
「愛してるわ、エース」
 囁きほどの声に、応えるように、
 とくん……。
 小さな小さな鼓動が、聞こえたような気がした。






                                                             END





  ・あとがき・

前半がもう泣きそうだったので、後半はもうちょっと明るめに書いてみました。主にシャンクスが明るいんですけど。
シャンクスはもう、父親というよりちゃんに片想いしてる男くらいの気持ちで書いてます。冷静に考えれば異常なくらい娘に執着してるんですけど、ドリームとしてはこれくらいの方がいいなぁ、私は。

失ってしまった悲しみは、いつまで経っても消えないですね。でもちゃんは、周りの皆に愛されているので、少しずつでも進んでいけたらと思います。
まぁ何やらエースから遺されたようですが……またひと波乱起きますねぇ、ちゃんの存在も世界的に明るみに出されてしまったことだし。

続きも書けたらいいなと思います。




続き→ sham marriage





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