「グラララララ! 小娘が、頭冷やして出直せ!!」
 豪快な笑い声の後叱り飛ばされて、船長の部屋から猫のようにつまみ出されたのは、白ひげ専属ナースのひとり、
「あら
「あんたまた船長に言い寄ってたの?」
 たまたま通りかかった二人の同僚ナースが、の両脇を固めてつつきながら歩き出す。
「……オヤジ様ったら、私が本気だって言ってるのに、全然相手にしてくれないの」
 がっくり下がったの頭越しに目を合わせて、ナースたちは苦笑したり、ため息をついてみたり。
「船長を本気で好きなんて、報われないわねぇ」
「周りは若くていい男がいっぱいだっていうのに……変わった子」
 オヤジ趣味の友人を、両側から抱えたままで角を曲がる。ちょうど向こうから歩いてきた男の姿を認めて、二人は再び目配せを交わし、小さく笑いをこぼした。
「あっちからも、報われない人が来たわ」
「かわいそう」
 こっそり囁き合う間に、向こうもこちら……というか真ん中でうなだれているナースに気付き、小走りになって近付いてくる。
「おー、どうしたんだ、捕まった宇宙人みたいになって」
「……エース」
 がようやく顔を上げると、黒髪そばかすの二番隊隊長が何故かニヤけながら目の前にいるのだった。
「この子、落ち込んでるの。慰めてあげてよ」
「頼んだわよー」
 ナースたちは気安く声をかけ、を置いて去って行ってしまった。
 そっちには気も留めず、エースはの顔を覗き込む。
「おれの部屋で、飲まねぇか?」




 ジェラシー合戦



「……ほんとにさ、オヤジ様ったら、私のことを子供扱いして……」
「……」
「どうすれば女として見てもらえるのかなぁ」
「……お前、こんなときにまでオヤジの話すんなよ」
 ベッドの上、二人は一糸まとわぬ姿で毛布にくるまっている。すでに互いの欲を解放した後で、満足の中横たわっているのだ。
 それなのに、ピロートークが実らぬ恋の相談だなんて。
 エースは口を尖らせながらちらっと横を見た。のけだるげな表情、なまめかしい肩のラインに、見とれてしまう。
、何でお前、おれと寝るんだ?」
 誘って断られたことがない。いつもは楽しそうに喋って、酒をしこたま飲んで、その続きのようにベッドで奔放にふるまう。……自らの恋心を口にしながら。
「オヤジのこと好きとか言ってるクセによ」
「それとこれとは別よ」
 あっけらかんと答える。――心と体は、ということか。
 彼女にとっては男と寝るなんて大したことじゃなくて、例えばゲームをしたりタバコを吸うのと同じような、単なる娯楽の一つに過ぎないのかも知れない。
「他の奴とも……やるのかよ」
「隊長クラスじゃないと嫌。弱い男は嫌いだもの」
 だからオヤジ様が一番好きなのだと。
 エースも、がよく隊長やそれに次ぐ実力の男と夜を共にしていたのを知っている。皆と同じ軽い気持ちでを誘ったのがそもそもの始まりだ。
「でもそう言われれば、最近はエースばっかりだなぁ。エース上手なんだもん」
 相性がいいみたい、体の相性が。そう言ってくすくす笑う。
「そうか。じゃあもう一回……」
 単純に嬉しくて、再び体の芯に火をつけられて。の上にのしかかり、キスをしながら触れてゆく。
 柔らかな身体から立ちのぼるいい匂いに、目を閉じて陶酔する。今のところ独り占めだと知って、飛び跳ねたいくらいの心持ちだった。
 そうだ、いつしか本気になっていた。
 この上は、体だけではなく心も……の全てを欲しいところだが……。
 こうして体を繋げて、獣みたいに快楽を貪っていると、そんなこともどうでも良くなってしまう。ただただ気持ち良くなって、出るまで動き続けてしまう。
 その後、部屋にひとりにされて、とてつもない空しさと恋焦がれる気持ちにさいなまれ、きっと苦しむのに。
 それでも、繰り返してしまうのだ。
 男なんて、どうしようもない生き物だ――。
 エースは自嘲する。自嘲しながら、二度目の熱を吐く。
 冷たいベッドで、眠りに就く。


 そんなある日、白ひげ海賊団はとある大きな島に着いて、その夜は大宴会。
 男たちのでたらめな歌や怒号が飛び交い、わいわいがやがや騒がしい中で、はエースの姿が見えないことを気にしていた。
 いつもならバカ騒ぎの中心にいるのがいやでも目に入るのに、今夜に限ってはあちこち目を走らせても、どこにもいない。
 手にしたジョッキの中身を飲み干すと、立ち上がりゆるりと歩き出す。
 夜風に当たりながら、エースを探そうと思ったのだ。
「おお、どうしたい?」
「マルコ。エース知らない?」
 同じく風に当たっていたのだろうか、一人でたたずんでいた一番隊隊長に尋ねると、マルコはちょっと斜め上を見るようにしてから、島を親指で指し示した。
「ああ、エースなら女探すって島に下りていったぞい」
「――えっ」
 頭を殴られたようなショックで、一気に酔いが醒めた。急に冷たい風が頬に当たる。波音がひときわ高く響いた。
「エースが、まさかそんな」
「あいつだって男だ、別に不思議はないだろよい」
「……」
 エースが、この島の見知らぬ女と……。
 そんな場面を想像すると、胸にもやもやと黒い霧が広がってゆく。
 マルコの言う通り、健康な男として普通のことなのに。なぜか、許せない。
 エースは誰のものでもないはずなのに――。
 酒のせいではなくよろけたの身体は、マルコの腕にしっかりと支えられていた。
、エースなんて放っとけい。それより、今からおれの相手をしてくれよい」
 耳もとで囁かれ、焦点の合わない目をして首をゆるく振る。
「今日はちょっと……」
「そう言うない。前はしただろい」
「でも……」
「何で、エースなら良くておれはだめなんだい?」
 荒っぽく腰を引き寄せられ、身体をこわばらせる。一番隊隊長に捕まっては、ちょっとやそっとじゃ逃れられない。
 マルコの腕の中、はしばし呆然としていた。
――そうよね、何で、この人だとだめなの?――
 以前ならこだわりなく、誰とでも戯れで触れ合っていたのに。いつの間にかもう、嫌になっていた。他の男に抱きしめられるのも我慢ならない。
 今、はっきりと知った。
 いつの間にか、エースだけになっていたことを。
 そう、船長への想いすらフェイクで……。
「なっいいだろい、
 思考は途中で遮られる。マルコにますます強く抱きしめられ、顔を近付けられ……キスを、される……?
「やめ……」
 腕を突っ張って抵抗しようとしたとき、急に視界の隅にオレンジ色の光が揺れた。驚いて見ると、そこに置いてあった樽が勢い良く炎に包まれているのだった。
「!?」
 樽はもはや跡形もなくなり、燃えカスだけが残る中、全身を炎に包まれた男……いや炎そのものの男が、ゆらりと立ち上がった。
「エース!?」
 急激に燃え上がった炎をおさめながらこちらに歩いてくる。そして、エースは急に怒鳴った。
「マルコ! そこまでしろって誰も言ってねーだろ!」
 受けてマルコは不敵に笑う。
「おれにもこれくらいの役得がなきゃ、こんなアホなことやってられんだろい。あとは勝手にやれい」
 言い放つと、あっさりとから手を離し、皆のいるところへ戻って行ってしまった。
 二人きり残されて、心音も一際高く波音にシンクロするのを聞きながら、はエースをきょとんと見上げていた。
「何……? どういうこと?」
 エースは頭をかくような仕草をして、いつものようににへらっと笑う。
「いやー、おれが女のとこに行くって聞いたら、も嫉妬してくれんじゃないかと思ってよ。マルコに頼んだんだ」
 そこでさっきのシーンを思い出したのか、ふと不機嫌そうになって舌打ちをする。
「にしても、あいつちゃっかりに抱きつきやがって。人選間違えたな」
「……エース」
「いつもおればっか嫉妬してんだ、どうだ少しはお前も――」
 皆まで言わせず、はエースの胸に飛び込んだ。
……」
 彼女の方から抱きついてくるなんて、初めてのことだ。エースはにわかに信じられなくて、こっそり自分のほっぺをつねってみた。
「いて……夢じゃねェ」
「エース、私、気付いたことがあるの……」
 そっと、背伸びをして。
 エースの耳に囁く、大切な言葉――。

「何だい、あっさりうまくいきやがって」
 有頂天のエースがの肩に手を回して、二人で船室に下りていくのをマルコは面白くもなさそうに見送っている。
 そこに近付いてきたのは、と仲良しのナースたち。
「良かったー。丸くおさまったじゃないの」
「マルコ隊長、良ければ今夜は私がお相手しますわよ」
「あらズルイ、私よ」
 ヒョウ柄ブーツの長い脚をからませられて、マルコも満更ではない。
「グララララ……似合いじゃねェか、ガキ同士でよォ! おい酒だ酒!」
「船長、ですからお酒は控えて……」
「うるせェー、あいつらの仲に祝杯を上げろォ!」
 もうまとわりつかれないと思ってか、ことのほか上機嫌の船長を囲んで、まだまだ海賊たちの宴会は続く。

 そんな賑やかさをよそに、改めて想いを伝え合った二人は、部屋の中ひそやかに抱き合っていた。
「私、エースじゃなきゃダメになってたの、気付かなかった……」
「本当かよ。じゃあもっと、おれだけにしてやるよ」
「やぁん」
 いつもと同じ愛撫にも、気持ちが加われば何倍も感じやすくなる。
 気ままに生きるんだから、体の面で一人の男に縛られるのはゴメンだと思っていた。
 ただ一つの恋心が、こんなに素敵なものだって、知らなかったから。
「ねぇもっと、ぎゅーってしてよ」
「ああ……」
 こんなに幸せなんだって。

 何度も体は繋げたけれど、心ごと抱いたのは初めてだった。
 今までにない深い満足の中で、エースはの寝顔を見つめている。
 いつもは楽しみが終わるとさっさと帰っていたが、無防備に眠ってしまった――自分の腕に抱かれたままで。
 冷たいベッドでの空しい一人寝じゃないんだ、今夜は。
 そう思うと眠ってしまうのがもったいなくて、安らかな寝顔を飽かず眺めるエースなのだった。






                                                             END



       ・あとがき・


エース。エース大好き。カッコいいよね! 火拳最高!
エースのドリームを色々考えて、ちょっと淫らなこんな話になってしまいました。苦手だった方すみません。
海賊ってならず者だし、自由に奔放に生きるのが多分モットーだから、男女関係も乱れてるイメージがどうしてもあって……あんな狭い船の上に男女がいたら、何かが起こるって絶対。

白ひげのナースたちはセクシーですよね……ミニの白衣にあのブーツ。あんなである必要はあるのか!? 白ひげの趣味!?
そりゃあ男たちも黙ってはいられないだろうと。

マルコの口調がよく分からなくて困りました。こんなんでいいのかな。






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