「ハハッハハァ……このベッド最高だな、なァ、よォ!」
 そんなことを言いながらの中で暴れるから、ベラミーの巨躯に耐え切れず、その最高にふかふかのベッドがギシギシと悲鳴を上げている。
 そこに、更にの悲鳴も重なった。
「うぁ……っ、苦しい……ベラミー、そんなに、しないで……」
 の小さな体では、受け入れるたびに苦痛が伴う。かすれがちで消え入りそうな抗議はしかし届かず、逆にますます動きは激しくなってゆく。
「うう……っ、いや、あ……」
「おれは、いいぜ……の体も最高だ、ハハッハハ……」
 大きな体がのしかかってくるのが。浅黒い肌が。ぎょろりとした目、その右目の上の傷が。
 怖い。
 いつも彼はこうやって、好き勝手に、の体で自分のありあまる性欲を満たす。
 そのたびに、殺されるのではないかと、は恐怖するのだった。



 ハイエナの呪縛



 海賊たちの町ともいえるモックタウンで、ベラミー海賊団の面々は、トロピカルホテルという静かで綺麗な宿泊施設を貸し切り、しばらく遊んでいく予定にしていた。
 今日も昼から賭け事をした挙句、メチャクチャな言いがかりをつけて相手を痛めつけ、舌を出して笑っている。そんな狂犬みたいな船長、ベラミーの隣に、は座らされていた。
 同じくベラミーの船にいる女たちには、「こういうのを楽しめるようにならなきゃ、この船にはいられないわよ」と、忠告のような蔑みのような調子で言われるのだが、は楽しむどころか怖くて嫌でたまらない。
 元々は、とある海賊にさらわれて、下働き兼キャプテンの愛人をさせられていた。それがこの間、ベラミー海賊団の襲撃を受け、もといた船は全滅、なぜかベラミーの目に留まったらしいだけが命を助けられ、今度はベラミー海賊団の下働き兼ベラミーの愛人にさせられたのだ。
 全く自分の運命を呪わずにはいられない。
 ベラミーはハイエナと言われて喜んでいるような男だ。乱暴で残虐で、人の物を奪うのが何より好き。その上、ロマンとか夢という言葉が大嫌いで、目の前の快楽のためだけに生きているような、から見れば最低の部類の男だ。
 前のキャプテンの方が、見た目はイマイチのオッサンだったけど、野望らしきものを持っていた分、ベラミーよりは幾分ましだったように思える。
 どちらにせよ、非力なが生きていくためには、おとなしく従うほかない。海賊なんてろくでもないけど、そのろくでもないものの下でしか、命を繋げやしないのだから。

 そんなだから、麦わら帽子の賞金首、ルフィを見たときには嬉しかった。
 自由で強くて、友達思いの彼は、空島に行くんだときっぱり言った。
 また、その仲間にオレンジ髪の女子がいたのだが、サーキースが金でお前を買ってやると言ったときの見事な啖呵、同じ女として痺れた。自分が言いたかったことを言ってくれたという感じだ。……もちろん、力も度胸もない自分には、とても言えやしないが。
 海賊にもこんな人たちがいるんだと、はすがすがしい思いで見ていた。
 麦わらに一発でのされてしまったベラミーの方は、見向きもせずに。

 その後、ドンキホーテ・ドフラミンゴという、ベラミーの親玉というやけに派手な男が現れ、そのドフラミンゴに操られたサーキースによってベラミーは瀕死の重傷を負った。
 これはチャンスだ。この隙に逃げ出そう。
 包帯だらけのミイラみたいな姿で寝ているベラミーの枕元で、は決心を固めかけた。
 ここから逃げて、自分の好きなように生きるんだ――。
「……」
 早速背を向け、行こうとしたところが、前に進めない。不思議に思って振り返ると、これまた包帯だらけの手がベッドから伸びていて、自分の服の端がしっかりと掴まれているのだった。
 青ざめてそーっと枕の方を見ると、ベラミーの大きな目がぎょろりとこちらを向いていたので、飛び上がった。
「ぎゃー、生きてる!」
「……悪かったな……」
 声はかすれていて、ごく小さい。ようやくしぼり出しているといった感じが、痛々しい。
 は仕方なく、元のようにベラミーの方に向き直った。
……」
「な、何よ……」
 思わず身構える。ベラミーはを真っ直ぐに見ていたが、その目にいつもの力がない。
「……お前も、おれを捨てるのか……?」
「……」
 こんなに弱っているベラミーを初めて見たせいか。
 いつも舌を出して笑っている彼の、まるですがるような目を憐れに思ってしまったか――。
 思わず、は、ほだされてしまった。

 がベラミーの船に乗せられてすぐのことを思い出す。
 その夜は勝利の宴が開かれ、酒に酔った男たちは戦利品の女にちょっかいを出し始めた。
「命拾いしたんだから、しっかり働けよ」
「まずはご奉仕でもしてもらおうか」
 恐怖で動けないの腕をロスが掴み、リヴァーズの手が胸の膨らみに伸びる。
「おれはもっとボリュームがある方が好みだな! ハハハハ……!」
「おい、もう剥いちまえよ」
「ちょっと、今ここでヤッちゃう気ィ?」
 サーキースに寄り添っているリリーが眉をひそめるが、そんなことで止まる男たちではない。
 誰かの手が太腿を這い回り、服に手がかけられる。
 劣情に満ちた目に囲まれ、はただ恐怖に震えていた。下働き人生の中でも、こんな扱いは今までなかった。
「いっいや……」
「立場ってモン分かってるか? お前に拒否権はないんだよ!」
 Tシャツをまくり上げられ、脱がされそうになった、そのとき。
「その辺にしとけ、てめーら!」
 船長の一喝が響き渡り、皆の動きが止まる。
 ベラミーは立ち上がり、男たちをどかしながらに近付いた。
「この女には触るな。おれのものにするんだからな」
 舌を出しながらニイッと笑って、の二の腕を乱暴に掴む。
「あらら、船長がそういう娘、お好みとはね」
 セクシーな船医のミュレがからかう。男たちも笑い声を上げたり、品のない言葉ではやし立てたりする。
「ヘッ、うるせェ」
 言いながらもどこか嬉しそうな表情をしたのを、今でも印象深く覚えている。
 そのときは、そのままベラミーの部屋へ連れ込まれ、体を奪われた。
 気ままに乱暴に犯されたけれど、あの人数に何かされるよりはマシかと、諦めの中で思ったものだった。

 腐れ縁だか同情だか、何だか分からないけれど、結局は自分の意思でベラミーのそばにいることを選んでしまった。
 もう、言い訳も不幸なフリも通用しない。
 だけど、少し動けるようになるや否や、早速襲いかかってきたベラミーの大きな体の下で、は早くもほだされたことを後悔していた。
「あっ安静にしてないと! 傷口開いちゃう!」
「うるせー! たまってんだ、やらせろ!」
「いやーっ!」
 ドフラミンゴさん、何で徹底的にやっちゃわなかったんですか。
 何だろうこの、がんじがらめの呪縛は。この人から逃げられるような気がしない。
「……やだってば……!」
 自分勝手なベラミーは、前戯もそこそこに、もう狭い入り口に無理矢理ねじこもうとしている。
「いやっベラミー、無理……痛い……」
「黙れよ……ホラ……咥え込めって……」
「ダメ……」
 暴れても押さえつけられる。何て回復力だろう。
 拒否しているのに、体の奥がずくずくしてきて、中から溢れ、いつか迎え入れていた。
「……あっ……」
「あァいいぞ……はァ……たまんねェな……」
「……ぎゃーベラミー、血ィ出てる!」
 体に巻いた包帯の胸の辺り、白が赤く染まり始め、じわじわと広がっている。度を失ったが逃げようとするも、腰を掴まれますます深く交合させられる羽目になる。
「血が……」
「騒ぐな血くらいで……ハアッ……やっぱりお前の体……最高だぜ、……」
 血走った目をして、凶悪に笑いながら、自らを傷めを傷め、達してしまうまで激しく動くことをついにやめない。
 貪った証をの腹の中に残し、そのまま、ベラミーは気を失ってしまった。

 ケガ人相手に何をしているんだと、ミュレにしこたま叱られたが、無理矢理された挙句に巨体の下敷きになって潰されそうになったの方こそ災難だ。
(ああっでも、逃げられないのね……)
 こんなにぐっすり寝ている、今しかチャンスはないかも知れないのに。
 まじまじと見ていると、寝顔に何故か今までにない親しみを感じてしまった。
 まさかこんなひどい扱いを受けた相手を、好きになるなんてありえない。けど。
 離れられないのは事実のようだ――。
 は吸い寄せられるように近付いて、ベラミーの唇に、軽く、キスをした。







                                                             END



       ・あとがき・


ベラミーが登場するところを見たとき、結構好きだなこの人、と思ったんですよ。
ちょっとルフィに似てる(あくまで外見が)、とか。
悪ガキっぽい顔してるよね、実際は悪ガキどころか極悪人だけど。
しかしこの人やドフラミンゴが言う「新時代」ってのが何なのか、一回読んだだけの私には分かりませんでした。まだそこには触れられていないのかな?
ともかく、せっかく「ちょっといいな」と思ったキャラなので、今のうちに書いてしまえ! という勢いだけで走ってしまいました。

最初はちゃんを船医にしようと考えてたんだけど、調べてみたらちゃんと女子の船医がいたので、ただの下働きに格下げとなりました。
力がないので、従うしかない。たいがいはこんなものかと思います。……が、ちゃんはそうしていながら何か芽生えてきたみたい。

今度ベラミーを書くことがあったら、バネバネの力をからめた話にしてみたいな。今回そこ書かなかったので。






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