宝の島だと思ったら全然違って、やけくそで宴会してたら、なぜか白ひげ海賊団の二番隊隊長なんて大物が紛れ込んできた。
 あっけに取られ、うっかり飲むのを忘れていたバギーが、ようやくジョッキを持った。――そのときだ。
 きらめく白刃が、背後から襲ってきた。



 ハデに恋すりゃ君にバラバラ



 スッパリ斬られて真っ二つになった胴体が、すぐにきれいにくっつく。何事もなかったように道化の船長はビールを一口飲んだ。
「……おれに斬撃は効かねぇって、よく知ってんだろ」
 振り向きもしない。
「うるさーい!」
 今度は100トンハンマーをだるま落としの構えで背中に叩きつける。
 これはさすがに効いた。バギーは奇っ怪な叫び声を上げ、本人好みの「ハデに」吹っ飛んだ。デッキの向こうまで。
「ずっと連絡もよこさないと思えば、こんな美人と仲良くやってるなんて!」
 感情のまま怒鳴り散らすのは、一人の娘。剣やハンマーを扱うところを見れば、ただの女ではないことが知れる。
「おお……ありゃじゃねェか」
「本当だ、だ。しばらく顔見ねェから、船長と別れたのかと思ってたぜ」
 カバジとモージがと呼んだその女の子は、真っ直ぐにアルビダを指差していた。
 ソファにゆったり身を預けている女海賊アルビダは、鼻先で笑う。
「バギー、あんたにこんな可愛い彼女がいるなんて聞いてなかったわよ。隅に置けないねェ」
 の指先がぷるぷる震える。余裕の態度が気に食わない……可愛いなんて、バカにしている。
「いやいや、待てよ、これにはわけが……」
 全身バラバラにしてダメージを最小限に抑えたバギーが、元の体に戻りながら歩いてくる。は腕組みをして、思い切りそっぽを向いてやった……向いた先に、ひとりの男の姿を捉え、目を見開く。
「あれ、あの人……もしかして火拳のエース!? 本物!? キャーッ!!」
 全身をミーハーな喜びの塊にして、飛び入り参加の男のもとへすっ飛んで行った。
「……何だよ、畜生」
 バギーは面白くない。

「完全に誤解してるね。私はあんたにゃこれっぽっちも興味がないってのに」
「それ、に言ってやってくれよ」
「やだよ。面倒ごとはゴメンだからね」
「……」
 アルビダの近くで酒を飲みながら、バギーの目線はさっきからの方に張り付いて動かない。
 はエースとかなり話が弾んでいるように見える。ころころ笑い、喋って……触れ合ったりまで、してる……!?
「くうっ!」
 気が付いたら、走り出していた。

「さすがすごい筋肉! かっこいい!」
 エースの体に触らせてもらって、ははしゃいでいる。
「お前、あの赤っ鼻の女なんじゃねェの?」
 言われて反射的に船長の姿を探してしまう。バギーはあの美女と親しげに言葉を交わしていたので、見なければ良かったと口を尖らせた。
「フン……誰があんな奴」
「ヘェ……」
 エースは笑って、声を低くして囁く。
「じゃあさ、今夜……」
「くらァーー!!」
 エースの言葉を遮るように割って入り、バギーはの腕を引いて無理矢理立たせた。
「何よ痛い!」
「うるせェ! 来い!」
 なりゆきについていけないエースを残して、船長室へと引っ張ってゆく。
 中に入れ、ドアを閉めると、壁に押し付けるようにして動きを封じる。
「……何だよお前、おれの前で他の男と……」
 は彼の、素顔なのにピエロみたいな顔を強く見上げてやった。
「バギーこそ何よ。もうあの女に気持ちは移ったんでしょ!」
「だからお前はハデに誤解してんだよ! お前に気持ちがなかったら、部屋になんか連れて来るかよ」
 が黙ったので、バギーも声のトーンを落とす。
「お前も、ここまでついてきたってことは、エースには本気じゃないんだろ……?」
 引っ張ってはきたが、が抵抗するなら部屋に二人きりなんてなれなかった。
 拘束していた手を離してやると、不意に泣きそうな顔になって、は自由になったばかりの両腕を差し出してくるのだった。
「……好き……ずっと好きなの、バギー!」
 ぎゅっと抱き……つこうとしたところが、両腕で作った輪っかは空を抱く。肩すかしを食らって、見てみると、バギーは腰から真っ二つに分解している。わざわざ体をバラしてまで抱擁を避けたのだと知り、の顔に一瞬で血が昇った。
「ふ、ふざけんなー!」
 ところがバギーは、真面目な、神妙といえた顔をしている。
、聞いてくれるか」
 重い雰囲気だ。何かありそうだ。振り上げたこぶしも、一旦は下ろすしかない。
「何よ……」
 バギーは上半身を浮かせたまま、静かに話し出す。
「おれぁずっと不思議だったんだよ。お前がおれなんかに本気だってのが。最初はお宝目当てで近付いてきたのかと思ってたが、宝なんか欲しがらねェしな」
「そりゃあ、私が欲しいのは……」
 その先の言葉は身振りで止めて、バギーが続ける。
「年も結構離れてるし、おれはこんな見た目だ……。離れてりゃさめるかと思ってわざと連絡もしなかったのに、それなのに、お前は来てくれた。……何でだ、おれでいいのか? エースみてえな若くて男前の奴じゃなくていいのかよ」
 いつもよりちょっと上の位置からゆらゆら見下ろしていると、の上目遣いの可愛さに悩殺されそうになる。
「……そうよね。どうしてあんたみたいな赤っ鼻の、デカっ鼻を……」
「……コラ」
 他の誰かが言ったのなら、町ひとつ吹っ飛ばしてやらないと気が済まないところなのに、怒れないのは、惚れた弱みなのだろうか。
「その上卑怯者で、実力以上のでかい口叩くわ、やることが残酷だわ、ドジでマヌケだわ……」
「おいおいおいおいっ、ずい分言いたいこと言ってくれんじゃねェかよっ」
 惚れた弱みにも限界はある。
 きっと爆発していた。が、最後にとろけるような笑みを見せて、こう言わなけりゃ。
「――だからね、何でか分からない。何でこんなに、好きなのか……」
 再び、差し伸ばしてきた手をそれでも避けたのは、自分の方から抱きしめたかったから。
 ぎゅーっと、強く強く。
「あー分かった……じゃあもう離さねェ。いやだって言っても、おれのものだ……」
 久し振りに抱きしめたの体は、相変わらず柔らかくて、何ともいい匂いがする。
 丸い大きな鼻をすりつけるようにして、しばし堪能していた。
「あれバギー、足は?」
 上半身だけの人間に抱きしめられるのは、変な感じなのだろう。がキョロキョロし始めたので、バギーはいつものおちゃらけた態度になって、を部屋の奥に導いた。
「下半身はもうスタンバイ済みでしたー! ぎゃはははは」
 ベッドの上にリラックスして横たわっている……腰から下だけが。シュールな光景だ。
「……」
「合体ー」
 ふわふわと上半身がベッドに飛んで行き、待ち構えていた下半身とドッキングする。いつ見ても不思議で不気味、バラバラの実の能力。
「このままともハデに合体するぜ! さあ来い!」
 両手を広げてカモン! とあからさまに誘われ、はみるみる赤くなる。何だハデに合体って。
「バカーのバギ! 違ったバギーのバカ!」
 めちゃくちゃに殴りかかってきたところで、バラバラになって避ければ終了だ。
 元に戻ったタイミングで抱き寄せると、ベッドの上に倒れ込み、観念したようだった。
「……キスするのに邪魔。その鼻、取ってよ」
「取れるかっ!」
 キスを奪うことでうるさいの口を封じる。確かに鼻は邪魔で仕方がない。
「……、愛してるぜ」
「バギー……やっぱり、バギーの顔って……、面白い!」
 我慢の限界とばかりに笑いを弾けさす。
 バギーのこめかみに、青スジが浮かんだ。
てめェはー!」
「だって、この至近距離だと可笑しくて……」
「ケッ笑ってろ!」
 服に手をかけ、乱暴に乱してゆく。
「あっ嫌あ!」
「嫌じゃねェ! 全部知ってんだ……の感じるトコロも好きな体位も……笑ってられなくしてやる!」
「……っ」
 あっという間に肌を露出させ、やはり荒々しく触れる。の怖がりながらも反応するさまを見て、バギーはこれから略奪をする、というときの悪い顔をした。
「ハデに啼いてよがれよ」
「やっ、嫌……」
 不安そうな目で見上げてくる、いつもは気の強いが。
 精一杯しがみついてきて、甘い声を上げる。許しを請いながら――ときに涙をこぼして。
 それを見たくて、わざとひどく扱ってしまう。
 にこんな顔をさせるのも、こんなことを言わせるのも、自分だけの特権なんだと思うと、ますます愛しくてますますいじめたくて、ベッドの中で征服してやるその瞬間が好きでやめられなくて。
「離さねェよ……ずっといろよ、おれのそばに。毎日シてやるからよ」
「嫌、いやっ……体が壊れちゃう……」
 今だって、こんなに激しく。
「お前が、欲しがってんじゃねェか……」
「あ……あ……」

 必死に耐えているのが可愛くて、思わずキスをした。
 やっぱり鼻が邪魔だった。

「戻って来ねーな、ちゃん。呼んでくるか」
「ヤボだよ」
 立ち上がりかけたエースを、アルビダが止める。
「今ごろ、仲良くしてるんじゃないかい?」
 エースはとりあえず腰を下ろしたが、何とも奇妙な表情を見せた。
「本当にあの二人、付き合ってんのか? つり合わねェなあ。……ちょっと狙ってたのにな、ちゃん」
 ヤケ酒だ! とジョッキをあっという間に空にして、即座ったまま寝ている。
 アルビダはそんなエースを眺め、口もとに妖艶な笑みを浮かべていた。
「蓼食う虫も好き好き……恋のことは、当人同士にしか分からないのさ」
 ワインを一口含むと、芳醇な香りが広がった。

「……」
「大丈夫か、気を失ってたぜ。そんなによかったか、ぎゃはははは!」
「バギー! このド変態!!」
 グーで思い切り殴ってきたのを、緊急脱出も間に合わずまともに食らった。
 バギーが悶絶している間には服をかき集め、急いで身に着ける。
「あんたのそばになんか、いてやるものか!!」
 出て行こうとするドアの前に立ちふさがる。いや、立ってはいない。またもや上半身だけがふわふわと飛んできて、ドアとの間にはさまったのだ。
「さっきはあんなに可愛かったのによ」
「うるさーい!」
 また振り上げたこぶしを掴んで、耳もとに囁……こうとするが、鼻がつっかかる。それでもめげずに囁いた。
「でも、今日のでよく分かった。もう疑ったりしねェから」
「じゃあ、いいでしょ。私がどこにいようと」
「何だ本当に行くのかよ」
「こんなところにいたら、体がもたない。たまにでお腹いっぱいよ」
 バギーの目の前に、の指がぐんと迫ってきた。と認識した瞬間、目に激痛が走る。
「うぎゃあァ!」
「じゃあね、バギー!」
 楽しげな笑い声とドアの音だけを残して、愛しいは行ってしまった。
 バギーは目を押さえて再び悶絶している。
「あ……あのヤロ……ハデに目潰ししやがった!!」
 ベッドでゆっくりしていた下半身が走ってきて、上半身とくっつく。目を押さえたまま手探りでドアを開け、走り出した。
「待て、ー!」

「あ、ちゃん」
 さっきまで寝ていたくせに、急にパッチリ目を開けて、喜色満面のエース。だがはその横を走り抜けた。
「ごめん、もう帰る。縁があったらまたね、エース!」
「えーっ何だよ慌しいな」
「待てェ、!」
 次にバギーが飛び出してきたときには、もうは自分の船の上にいた。
「今度はマメに連絡ちょうだいね! またね!」
「くそー」
 バギーはまたもや二つに分かれて、上半身だけで海の上追いかける。
「ストーカーかあんたは」
「うるせー、さっきのお返しじゃー!」
 有無を言わさず抱きしめて、柔らかな唇を奪ってやった。
「! 何すんの、バカ!」
 押しのけられる前に離れ、攻撃を食らう前に逃げる。
「バギーなんて大嫌い!」
 ナイフが飛んでくるが、もとより効かない。バラバラになってまたくっつきがてら、の方を振り向いた。
「嫌いでも、また来るんだろ? 待ってるぜー、ぎゃははははは!」
 アカンベーをしてやると、ムクれた顔が見えたが、それすら愛しくてたまらない。
 皆の前でキスなんてしてしまったから、すぐには戻れなくて、海の上に浮かんだままで見送っていた。
 の小船が、水平線の向こうに吸い込まれてゆくまで、ずっと。








                                                             END





 ・あとがき・

シャンクスの若いころを見ていたら、バギーも可愛いなと思えてきて、頭の中ですぐに話が出来上がったため、書いてしまいました。
バギーってあの鼻とか顔といい、バラバラの能力といい、「ハデに」って口癖といい、面白ファクター満載のキャラなので、それを繰り返し使ってみました。自然と元気なヒロインに。でも二人きりのときはバギーに押さえつけられてしまうという、その二面性もまたいいかなと。

バギー、ドリームのお相手キャラとしては正直どうなのかなと思ったんですが……自分でもコンプレックス持っている通り、カッコいいとは言えないし、年も結構ね、上だしね。
けど、書いてみたら意外と楽しく書けました。需要があるのかは微妙ですが。
あの鼻、キスするのに邪魔どころか、キスなんて不可能なのでは? と思うのですが。

ちゃんの背景をほとんど書かなかったんですが、ドリームのヒロインは最小限の設定でいいと私は思っているんですね。
多分どこかの海賊団に属していて、時々小船で彼氏に会いに来ているんだと思う。……不親切かな。

タイトルは、いつものように中身を書き上げてからも決まらず、仕事帰りに歩きながら、「ハデに恋した」か「君にバラバラ」にしようかな……などと考えていて、もうくっつけちゃえって。
君に薔薇薔薇……という感じ。ヤング置いてけぼりですみません。





この小説が気に入ってもらえたなら、是非拍手や投票をお願いします! 何より励みになります。
  ↓

web拍手を送る ひとこと感想いただけたら嬉しいです。(感想などメッセージくださる場合は、「ハデに恋すりゃ」と作品名も入れてくださいね)


お好きなドリーム小説ランキング コメントなどいただけたら励みになります!





「ONE PIECEドリーム小説」へ戻る


H24.6.28
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送