「ちょっと待てよ、手違いって何だよ! それじゃまるでオレが仕組んだみたいじゃん!」
「カ、カンクロウ、ちょっと」
 今にも宿のおばあさんに掴みかかりそうな勢いのカンクロウを、羽交い絞めにして止めた……つもりだが、体格の差が大きすぎてがカンクロウの背中にぶら下がっているようにしか見えない。
「いやいやすみませんねえ。どこで間違えたものか、今一部屋しか空いてなくてねぇ」
 すごく小さなおばあさんは、口ほどには申し訳なさそうでもなく、マイペースに帳簿をめくる。
「別に二人で一部屋でもようござんしょ。ふぇっふぇっふぇっ」
 歯がないせいか、変な笑い方をして、カンクロウとを交互に見やる。その目つきがどことなくいやらしい。
「もういい、別の宿探す!」
「この辺に他の宿はありませんよ、お客さん」
「この……!」
「カンクロウ、いいよ私。せっかくだから泊まろうよ」
「……
 肩越しに振り向く先で、は恥ずかしそうに微笑んでいる。
「ハイハイ! お客さんご案内!」
 おばあさんがパンパンと手を叩いた。



 wants 3



「いい部屋じゃない!」
 荷物を置くや窓際に駆け寄り、は歓声を上げた。
「わー景色も素敵!」
 無邪気にはしゃぐに比べ、カンクロウは少し気後れしている。
「……なんか、ヘンなことになっちまったな」
「えーだって、私がイヤなことはしないんでしょ?」
 とはいえ同じ部屋だぜ。責任持てねえじゃん。
 喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 信用してくれているのだ。応えられないハズはない。
 それよりも、せっかくの二人きり。
 無防備な背中に、そっと、手を伸ばした。


 後ろから包み込むように抱かれるのが好き、こんなふうに。
 心臓が激しく拍打つのにつれて、喜びが全身を駆け巡る。
 やっと、会えた。
 やっと触れ合える。顔を見て話が出来る。
 そう、欲しかったのは……本当に欲しいのは……。
「カンクロウ……って、ギャーーッ!」
 振り向いた途端、甘い気持ちなど跡形もなく吹っ飛んでしまった。そこにあるのは、カンクロウの顔ではなく、まん丸の目玉と大きな口の、お世辞にも可愛いとは言いがたい、人形のカオ……。
「傀儡……なんで……?」
 ふざけているのか、せっかく会えたこんなときに!?
「驚かしたか、悪ィ」
 ところが悪びれない。むしろ何故か誇らしげな顔をして、カンクロウは傀儡の肩を抱いている。まるで親友にするように。
「これ、オレのお気に入りなんだけど、にやろうと思ってよ」
「は?」
 ぽかんとしているに、傀儡の右手が差し出される。握手を求めているみたいに。
「いつも離れてるからよ、こいつをオレだと思っていれば、寂しくないじゃん。練習すればでもチャクラ糸作って動かすことも出来るハズだぜ。まーオレみたいに上手くはできないけどな」
(……えーっ!?)
 道理で、男の一泊旅行にしてはカンクロウの荷物が大きすぎると思っていたけれど。
 このカラクリ人形を連れて行けと。カンクロウだと思って部屋に置けと。
 自分の部屋に鎮座する傀儡……このギョロ目で見張られることを想像すると、背筋がぞっとする。夜中手洗いに起きたときなんか、絶対怖い。
 だけど、喜ぶと疑ってもいないカンクロウの前で、は「こんなものいらない!」とはとても言えなかった。
 好意であり、気遣いなのだ、傀儡師たる彼なりの。
「あ、ありがとう」
 手を出すと、カラクリも握り返してくれた。
 その横で、カンクロウは得意顔。
 欲しいものをやるって言っていたのは、もしかしてコレ??? そう思うと、可笑しくなってくる。
 の笑顔を、カンクロウは喜んでくれたんだと思い込んだらしく、彼もまた、笑った。

 傀儡はとりあえずしまいこんだ。部屋の中で差し向かいに座りなかなか豪華な食事を終えると、二人は連れ立って夜の散歩へと出掛けてみた。
 少し歩くと、明かりが何もない丘に出て、そこは星が綺麗なのだと、あのおばあさんが教えてくれたのだ。親切でというよりは、やっぱり例の含みのある笑い方をしながらだけど。
「うわ……本当、綺麗ねぇ」
 凍りつきそうな大気が透明度を増して、星々は尚きらめく。
 月も昇らず、雲ひとつない。今宵はまさに星が主役の星月夜だ。
 カンクロウは何も言わずに腰を下ろすと、両腕を枕にして寝転がる。も、一瞬迷ってから倣った。
 視界いっぱいの星が、降って落ちそうで怖くて、一度目をつぶる。両手を空に射し伸ばしてからそっと目を開けると、の手の中に星が宿った。
「なんか、いいじゃん。来た甲斐あったな」
「うん。ロマンチック」
 吐く息が白い。だけれど寒さは気にならない。
 だって隣にカンクロウがいる。大好きな人、いつもは声しか聞けない恋人が、もう少しで触れるほど近くに。
「……あのねカンクロウ、私、目標が出来たの」
 口からこぼれると、まるで自分の声じゃないような響きをまとう。はそれすら楽しむように、ゆったりと、最近心に決めたことを告げた。
「アカデミーの先生になりたいんだ」
 イルカ先生みたいな。という言葉は飲み込む。無論、イルカ先生に対して尊敬以上の思いはないのだが、彼氏は意外と嫉妬深いのだ。
「先生か。オレも教えてもらおうかな」
「厳しくするわよ」
 軽口の応酬も、さやかな夜だ。
 くすりと笑い、はこぶしを握る。ただ一つの輝きでも、手にしようとするように。
「……だからね、次の中忍試験は、絶対に落とせないの」
「……ああ」
 カンクロウの声も、違って聞こえる。電話越しじゃないせいか、それともこの空間だからか。
 思わずうっとり、してしまう。
なら出来る。頑張れよ」
「ありがとう」
 口にしたことで夢はぐんと身近に迫り、応援されて現実味が増す。
 両手を下ろすと、無限の星空に無限の未来が広がって、きらきらきらきら輝いていた。

 アカデミーの教師を目指すんだとは言った。
 今までも電話で話したとき、折に触れそのようなことをこぼしていたから、意外だとは思わない。
 木ノ葉の未来を担う子供たちを育てるという仕事に、やりがいと魅力を感じているようだった。
 こうと決めたとき、は強い。
(いいじゃん、女教師って)
 カンクロウには、子供たちに忍の基礎を教える将来のが見えていた。またたく無数の星たちの中に。
 だがそこは火の国ではない。風の国だ。教えている子供たちは、木ノ葉隠れの忍候補ではなくて、砂隠れの子供たち。
(……)
 カンクロウはそっと、隣の横顔を盗み見る。星空に夢を描くの瞳にもまた、星が宿っていた。漆黒の中にきらりと輝いて、とても綺麗だ。
は、そうは考えねえかな? 風の国に……オレのとこに来ねえかな)
 姉のテマリがしょっちゅう言うのだ、は将来私の妹だ、我愛羅にもう一人姉さんが出来るんだと。
 だからカンクロウもそうなんだと半ば信じるに至っているのだが、まだ本人の考えは聞いていない。
 口に出来ないのだ。年齢的に早すぎるからというのではなく。
 まだ自分は一介の中忍に過ぎない。
 風影の実子などというのは、自分自身の力じゃない。
 欲しいのは、自信と実力。
 技を磨く、強くなる。どんな任務でもこなし、そして、上忍になる。
 少なくともそれからじゃないと、には言えない。
 だからがむしゃらに頑張っているのだが、を放っておく結果になってしまって、テマリに指摘されたこともあり、そこは反省をした(ちなみにと別れろとまで言っていたテマリだが、温泉旅行に行くのだと告げたら大喜びしていた)。
 そうだ、モチベーションは全てに行き着いてしまう。
(オレはお前がいないとダメなんだよ、
 そっと手を伸ばして、小さな手に触れる。
 包み込むように、握り締めた。
 たおやかでしっとりとして、ひんやり冷たい、手だった。

「ねえカンクロウ、また、会えるよね」
「何だもう次の話かよ」
「違うの。今急に怖くなったの」
 繋いだ手に、力がこもる。
 横を向くと、目と目が合った。星のかけらが互いの瞳に未だ残って、きらり光を放つ。
「私たちは忍……特に貴方は中忍だもの」
「……ああ」
 が何を恐れているのかは分かる。
「オレは死なねえよ、絶対に」
 そんな恐怖は捨てて欲しい。
 カンクロウは体を横向きにして、右手でのウエストをからめるように抱き寄せた。小さな身体が吸い付くように密着してくるから、ぎゅっと強く抱きしめた。
「お前がいるのに死ねるわけねえじゃん」
「……本当?」
 抱きしめる、抱き合う。
 の髪に顔を埋め、ふとまぶたを開けると、空にばらまかれた星屑が目に飛び込む。そのままゆっくりと首をめぐらすと、漆黒のドームに張り付く星、星、星。強くまたたく光たち。
 そして、張りつめた空気の作り出す静寂――まるでこの世界に自分たち以外誰もいないかのようだ。ただ二人きりのような錯覚を覚え、身震いする。が急に怖くなったというのも、分かる気がした。
 孤独の恐怖……だからこそ、この世にいるもう一人への愛しさが膨らんでゆく。

「ん……」
 身じろぐ彼女の頬に、唇を押し当てる。柔らかくて、何かいい匂いがした。
「死なねえから」
「うん……」
 上の空の返事は、夢心地か。
 ゆっくりゆっくり、唇を探し当てて、口付ける。
 甘い蜜みたいで、すぐに夢中になる。
 星に見守られて、二人きり。
 何度も何度も、キスをした。





                                                             つづく



       ・あとがき・


別々の部屋を予約したはずなのに、手違いで同じ部屋になってしまう。そして二人で星空を見る。
この使い古されたパターンを堂々と使ってみました。相変わらず私の頭の中は少女マンガ。
最近の少女マンガは全然読んでないから分からないですが、意外と今やると新しいのかも知れない(笑)。
あとは遭難して山小屋に二人迷い込み、冷えた身体を温め合う展開があれば完璧……今回はないけど。

ちゃんはアカデミーで事務員のようなことをやっていて、先生を目指し始めています。
カンクロウはそんな将来に自分を入れて欲しいと思っているけど、少なくとも上忍にならないと言えないと。
それぞれの生活がありながら、互いに相手を大切に想ってる。こういう恋って理想です。

ここでカンクロウが強く「死なない」と言ったから、この一年ほど後に彼が死にかけたときも、ちゃんは信じて耐え抜きます。そんな話も、いつか書けたらいいですね。

さて宿に帰ると部屋一つ。
どうなることやら〜続きます。





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