春の日、休日、ぽかぽか野原で。




 オレとと赤丸と



 いつもはひんやりとした朝露を払いながらの散歩だけれど、今日は日曜日でアカデミーもお休みだから、三人(二人+一匹)でゆっくりのんびり過ごす予定。
 ひとしきり歓声上げて走り回った後、陽気に誘われたのかうとうとし始めたキバの頭を、は膝に受け止めてあげる。
「気持ちいー……」
 口もとを緩め、やがて寝息を立て始めるのを、優しく見守っていた。自身も眠たくなりながら。
 気が付くと、かたわらで赤丸も丸くなって寝ている。
 キバと赤丸は一心同体、デートにも当然毎回ついてくる。だけどは赤丸のことも大好きだから、邪魔だなんて思ったこともない。
 気持ちは伝わっているのだろう、赤丸もになついてくれていた。
 は手を伸ばし、シロツメクサを何本か摘むと、ゆったりと編み始める。
 ふとキバに目を留め、その無防備で無邪気な寝顔に、息苦しいほどの愛おしさを覚えた。

 頬に生温かい感触。は目を開ける。
「赤丸……」
 小さな赤丸が、しっぽをちぎれんばかりに振っている。どうやらもいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「起こしてくれたの……?」
 まだボーッとしながら起き上がると、キバももう起きていて、すぐ隣に片膝を立てる格好で座っていた。
「赤丸ばっかりずりィ! オレも!」
 何がずるいのかには謎だったけれど、キバがいきなりほっぺにキスしてきたから、ああこれかと納得してしまう。
 時々キバは、赤丸に張り合うような嫉妬するような言動を見せる。
 赤丸をいっぱしの男と認めているのか、独占欲が強いのか……両方だろうか。
「……いい匂い……」
 キバは今度はの首筋に鼻をくっつけてきた。背中がぞくぞくするけれど、はじっとしている。胸が強く速く鼓動している。
「オレ、の匂いが大好きだ」
 ゆっくりと顔を上げて、頬にすり寄ってくる。
のことが、大好きだ……」
「キバ……」
 言葉は続かなかった。キバの唇にのみこまれて。
 初めての感触は、ほんの軽く触れただけなのに、甘い刺激となって指先まで痺れさせる。
 触れたときと同様、離れるときも突然だった。
 夢の中に置き去りにされた気分で、が目を開けると、キバの顔に朱の色が広がっていた。
「あ……あ……」
 もう耳まで真っ赤。
「キバ?」
「い、行くぞ赤丸!」
 どこに? とが聞く前に、キバは勢いよく立ち上がり駆け出す。
 そのときは、赤丸がこちらに背を向けて丸くなっていたことに初めて気付いた。見ないように、気を遣ってくれていたのだろうか。
 そう思うと可笑しくて、でも恥ずかしくて、キバを追って赤丸も走って行った後、作りかけの花冠を手にしながら一人照れ笑いのだった。

 完成したシロツメクサの冠を頭に載せ、今朝早起きして作ったお弁当を解いていたら、キバが赤丸と一緒に戻ってきた。
 の目の前で、虫かご代わりにしていた両手を開いてみせると、一匹の蝶がふわりと飛び立つ。
「わあ……」
 瑠璃色の蝶を空に見送るの頬に、笑みが浮かぶ。
 大好きな笑顔を見て、キバは明らかにほっとしたようだった。
……怒ってないか? さっきの……」
「……キバ」
 は目を丸くする。気にしていたなんて。
 彼にはよくあることだ、考える前に動いてしまって、事後に我に返る。こんなふうに、心配したり反省したりというのは珍しいけど――それだけ自分のことを想ってくれているということなら、怒るどころかその反対だ。はゆるくかぶりを振った。
「怒ってないよ。……好きよ、キバ」
「……へへ」
 鼻の下をこする仕草をして、次にキバは大きなお弁当箱に目を輝かせた。
「オレ腹ペコだぜ! 赤丸もだろ!」
「ワン!」
「早く食おう、!」
 わざわざ向かいからのすぐ隣に移動してきて、赤丸と一緒に腰を下ろす。しかしキバが手を伸ばして触れたのは、お弁当ではなくが上手に編み上げた花の冠だった。
 息遣いも届くほど近い。は彼の頬に赤色で描かれた逆三角の模様を見つめていた。心臓の高鳴りが苦しい。
「ずっと、一緒にいような。オレとと赤丸と、ずっと一緒な……」
「……うん」
「……ワン」
 と赤丸の返事が重なったのが可笑しくて、小さく笑い合う。
 ぬくみをはらんだ風が吹いてきて。赤丸は目を伏せて。
 そしてはもう一度、キバと唇を重ねた。

 永遠という言葉にさえ、疑いのかけらも抱かなかった。
 全てが恋の色に染まっていた、あの春の日。




                                                             END



       ・あとがき・


傀儡師の恋を書いたときに、すでにキバと彼女の過去話を書きたいと考えていました。
そんなに仲良かったなら、べたべたラブラブ、私の好きな話が書けるなぁと。
春が近いので、こんな感じ。いつもの私のパターンです。
こういうの繰り返し書いてるなー。

どうもキバが、聖闘士星矢のフェンリルと重なってしまう。私の中では。
フェンリルは狼に育てられた少年だったけど、人間同士の親友みたいに仲良しの存在がいるということで。

キバと赤丸、いつも一緒だから、デートにももれなくついてきます。
赤丸とも仲良くならないと、キバと付き合えないね。

アカデミー在学中のころなので、ずっと子供っぽい二人です。
春と初恋。あまずっぱくていいな……。





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