の好きな人は、いつも頑張っている。
 暇さえあれば修行、また修行。仲間と、師匠と、あるいは一人でも。
 自分の忍道を貫くために努力を惜しまない――そのいちずな姿を見つめていると、の胸はいつも熱くなる。




 マイルール



「お疲れさま、リー」
 が差し出すタオルを、照れながら受け取り、丁寧なお礼を口にする。
 そんなリーの隣にも腰掛け、親しげに言葉を交わす。修練の合間の一休みだ。
 ここにガイ先生がいたなら、白い歯をきらめかせ『まさに青春だな、羨ましいぞ君たち!』と何故か真ん中に割って入り肩を組んでくるところだ。
 だけど今日は二人きり。いや、二人きりを狙って来た。
 邪魔なんて入られては困る。
 だって、今日は。
「……ハイ、これ、リーに」
 ピンク色の可愛いペーパーバッグを手渡す。指先からドキドキが伝わってしまうかも。
「あっ、いつも悪いですね」
 毎度の差し入れだと思ったのだろうか。だが中を覗いて、赤い包み紙のリボンがかかった箱を見つけたリーは、ようやく、今日が何の日か気付いたようだった。
「ああ、今日はバレンタインデー……」
 手元の袋からに、まん丸の瞳が向けられる。これもまた丸い頬が、ぽっと色付いていた。
「ありがとう、さん。女の子からチョコレートをもらうなんて初めてだから、ちょっとびっくりしました。食べるのもったいないな。大切に取っておきます」
 もう宝物のように胸元に抱き寄せているから、は思わず笑ってしまった。
「いやだリーったら、取っておく方がもったいないよ。食べて、おいしいから」
「そ、そうですか。じゃあ一緒に食べましょう」
 快活に提案すると、手早くラッピングを解いて平べったい箱を開ける。
 の心臓は尚強く音立てた。
 ハートのチョコは、メッセージ入りだ。
『大好き』
 ボッ、と音がしたので隣を向くと、まさにそのチョコを見たリーが真っ赤になっていた。燃えるを通り越して焦げてしまったみたい。
「あっあのー、バレンタインだから、ちょっと大胆になってみましたー」
 も照れの反動でおちゃらけてしまう。
 だが次にこちらを向いたリーは、対照的に息詰まるほど真剣な表情をしていた。
さん」
「はっはい」
 濃い眉毛の下にある大きな目、丸い瞳に、吸い込まれそう……。
「あのっボク、実はさんに関する自分ルールをずっと前から決めてあるんです」
「はあ」
 彼が師匠譲りの「自分ルール」とやらを、勝手に作って勝手に適用しているのは知っている。
 しかしその「さんに関する自分ルール」とは初耳だ。
 は相変わらずリーから目を離せない。気が付くと視界いっぱいがリーの眼だ……幻術……? いやいや彼はそんなの使えないはず。
「……もし、こんなボクでも、体術だけで立派な忍者になれたら、さんとけっ結婚、できる、という……」
 噛んだ。
 そしてリーはもじもじと、膝に置いたハートのチョコに目を落とした。
「……もちろんその、断られたら仕方ないんですけど、あくまで自分ルールだから……」
 黒いオカッパ頭に揺れる光の輪っかを、は泣きそうな笑顔で見ていた。胸をくすぐられるような気分で。
「リー……、私の気持ちは、それだから」
 チョコを指差す。ピンクのチョコペンで書かれた「大好き」の文字と、ハート。
「是非頑張って、立派な忍者になってね!」
「オッス!」
 見つめ合って、そして、笑い合う。
 大きなハートは半分ずつ、二人の口の中で甘く溶けた。

(爽やかで甘酸っぱい……まさに青春だ……!)
 出て行きそびれたガイ先生が、物陰からこっそり覗いている。
 今日はバレンタインデーだというのに、まだ誰からもチョコレートをもらっていない。
 チョコの数でライバルのカカシに負けてしまうだけでなく、弟子にまで追い抜かれるとは。
 ほろ苦さに、頬を涙が伝うガイなのだった。







                                                             END



       ・あとがき・


私にナルトのコミックスを貸してくれているCちゃんの、一番好きなキャラはリーくんだそうで、「あんな息子が欲しい!」だそうです。
私もリーくん好き。努力家で可愛い。

今回はちょっと照れ屋さんの感じで書いたけど、初対面のサクラに「ボクとお付き合いしましょう」なんて言えちゃう子なんだよね本当は。
時期なのでバレンタイン話を書いてみました。
短いけど、こういうの好き。

しかしガイ先生で〆とは私も予想だにしませんでした。
あ、でもガイ先生も好きですよ。
今度是非ガイ先生ドリームもね。……ちょっと暑苦しそう……?





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