傀儡師の恋


おまけ


 裏山のあの場所に、は立っていた。
 今日も風は肌に優しく、空も青く澄んでいる。眼下の町並みも美しく、目に眩しいほどだ。
「――
 声をかけられるのと、後ろから拘束されるのとは同時だった。息が止まる。心臓も一瞬止まったかも知れない。
「……カンクロウ……」
 直接会うのは、糸操り人形を買ってもらったとき以来だ。
 あのときとは違い、今は恋人同士。
 もちろんも会いたい気持ちは同じだったから、気配を殺して背後から近付き、のみならずいきなり抱きついてきた無遠慮も、許す気になっていた。
 体温を感じる。カンクロウの大きな身体に、すっぽり包まれている。
 しかしの肩に回されたのは黒い袖だった。手にも黒の指なし手袋。
 そっと振り向くと、やはり彼の顔にはえんじ色でしっかりと隈取りが施されていた。
「いやーっ!」
 思わず腕を振りほどき、前に大きく一歩、跳んでしまう。
「……また逃げんのかよッ!」
「だってその顔、近くで見ると怖いー!」
「任務終わってすっ飛んで来たんだから仕方ねえじゃん」
 片手を腰に当てて、カンクロウは憤然としている。
「だいたい素顔でもこの顔でも逃げるじゃんお前。オレどうすりゃいいんだよ」
 ……確かに。
「やっぱり、電話で話しているのが一番なんじゃない……?」
「……帰る」
「あっウソウソ! 待って帰らないで!」
 黒子の服の端を掴んだら、体ごと振り向いたカンクロウに再び捕まった。今度は正面から強く抱きしめられ、息が詰まる。の目はカンクロウの肩すれすれで、視界の下半分は黒で占められていた。
 それでも彼の体温や匂いが嬉しくて、は両腕をカンクロウの背中に回し、自分からも抱きついた。
 そうしたら、頭の上から声が降ってくる。
「……約束だからな、チューするじゃん」
「だからチューってその言い方……えっ今? 会ったばっかりなのに?」
「……いいじゃん」
 心の準備がまだなのに、上向かされる。歌舞伎顔に、やっぱりひるんだ。
「やっぱり無理っ。化粧してる人とチューはいや!」
 何だか色が移りそうな気がして、抵抗がある。
 カンクロウはがっくりしたが、すぐに企みを含んだ笑みを浮かべた。
「じゃどっかで化粧落とさねぇとな。の家とか」
「えっダメダメ! 絶対変なこと考えてる!」
「いやいや顔を洗うだけじゃん。別に何にもしねえからよ」
 ニヤニヤしながら何もしないなんて、全く信用できない。
「近くに川があるから、案内してあげる」
「……チッ」
 悪だくみは失敗に終わったようだ。

「……水がなくても落とせるんじゃない」
「うるせぇ」
 の前には、素顔のカンクロウ。隈取りをすっかり消して、頭巾も取っている。
 そのまま何も言わず、カンクロウはに向かって両手を広げて見せた。
 吸い寄せられるように、はその懐に飛び込む。
 あったかくて、幸せな居場所だと思った。
「すごく、会いたかったよ……カンクロウ」
 返事の代わりか、腕に力がこもる。逞しい体に密着させられて、苦しくも幸せな気分になる。
「愛してる、じゃん。
 今度こそは、逃げない。
 夢見てたキスは……、の知らないような濃さと深さと激しさで、決意とは裏腹にやっぱり逃げ出したくなったけれど。
 全部委ねて受け入れていたら、不思議な熱に満たされて、いつかめくるめく思いでただ未知の感覚に夢中になってしがみついていた――。

 気が遠くなるような長い時間交わしていたキスから解放されるや、崩れ落ちそうになった身体を抱きとめられる。
「おい大丈夫かよ、
 ともどもその場に座り込んだ。
「力、入んない……」
 キスをしたことがないわけじゃないけれど、こんなのは初めてだ。
「……可愛いじゃん」
 座ったままで、もう一度強く抱きしめられる。
 はなすがまま。彼の傀儡みたいに。

「ね、街に行こう」
 一番近い位置で目を合わせると、何となく照れくさい。
 はさり気なく彼から離れ、自分で立ち上がった。
「おぉ、もうちょっと待ってからな」
 カンクロウは膝を少し浮かせたあぐらの格好で、動こうとしない。
「何を待つの?」
「男の事情じゃん」
「?」
 何だか分からないながらも、聞いてはいけないような気がして、は景色を眺め吹き付ける風を愉しみながら時間をつぶす。
 やがてカンクロウはのそっと立ち上がり、右手を差し出してきた。
「よし、行くぞ」
「男の事情とやらはもういいの?」
 きょとんとしているに、カンクロウは吹き出す。
「ああ、もういい。ほら」
 空っぽの手をじれったそうに振って見せる。
 も左手を伸ばし、指先のない手袋の大きな手を握った。
 手を繋いで歩くのは初めてだ。いかにも恋人らしくて、ちょっぴりくすぐったい。自然に笑ってしまう。
 そんなを見下ろしながら、今日こそはもっと気の利いたものをプレゼントしてやろうと決意を固めるカンクロウだった。

 手を繋ぎ寄り添いふざけあう。
 仲の良い二人の背中が、街の喧騒の仲へと消えてゆく。





                                                             END



       

カンクロウが、今度会ったときチューするなんて言っていたので、チューまで書いてあげた方がいいのかと考え、結局おまけという形で付け加えてみました。
カンクロウとちゃんの歳でこーゆーのってどうなの? と思ったりもしたんだけど……ダメかな?

ちなみにちゃんは、キバと付き合っていた当時、軽いキスは経験済み。
カンクロウは実は女の子と付き合ったのは初めてなので、知識だけ得ていた感じかな。

付き合うことになって初めて会った二人の、ベタベタラブラブぶりを書くことが出来て、楽しかった。






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