アカデミー在学中に、一年後輩のキバと付き合い始めた。
 毎日のように一緒に散歩したり、技を磨き合ったり、週末には街に繰り出したり……本当に、周囲が羨むほど仲が良かった。
 当時を思い出すと、今でもの頬には自然に笑みがのぼる。それは全く子供らしい、純粋で楽しい恋だったから。
 しかし、が卒業してから、歯車がズレ始める。
 立場が変わり、環境が変わり、すれ違いが増え。不満を隠そうともしないキバをなだめるのに疲れ、イライラすることが多くなって。いつしか会えばケンカばかりになってしまい、とうとう耐えられなくなったがキバに告げた。
『友達に戻ろう』
 キバは渋っていたけれど、ぎくしゃくしていたのは確かだし、がそう言うのなら、と、最後には承諾してくれた。
 ――それから一年ほど、友達づきあいを続けている。
 ケンカもなくなったし、付き合い方も以前とそれほど変わらない。前よりもずっと気楽でよかった。
 結局、未熟で余裕のない自分には、彼氏を作るなんてまだまだ早かったんだろう。
 それは今でも同じこと。中忍試験にも落ちたのに、浮ついたことを考えている暇はない。



 傀儡師の恋 2



 そういうわけでは、キバ同様、カンクロウにも友達付き合いを求めた。
 カンクロウはよく夜に電話をくれる。最初は緊張していただけれど、カンクロウと話すのは意外に面白くて、今ではこちらからかけることもあるほどだ。
 ただそのことはわざわざキバに伝えたりはしなかったし、カンクロウにもキバのことは言わなかった。
 別に問題はないだろう。どちらとも付き合うと言っていない、ただの友達なのだし、と同じ班の男子の方がむしろ一緒にいる時間も長く、互いのことをよく知っているともいえる。キバにとってヒナタがそうであるように。
 ずっとこのままだったら楽しいし、楽だな。
 はそう思っていた。

 そんなある夜、いつもの電話越し、カンクロウは挨拶もそこそこに興奮した声で喋り出した。
『今度またそっち行く任務があるんだけどよ、今回はちょっと時間が取れそうなんだ。もその日あけてくんねぇかな。デートじゃんデート。な、いいじゃんよ!』
 また突然の、しかも強引なお誘い。やはり慣れず、は面食らう。
 しかし面食らいつつも、その日のスケジュール調整を頭の中で算段し始めているのが、自分でも不思議だった。

 さて首尾よく休暇を勝ち取った約束の日。約束の時間より少し前に、は約束の場所に立っていた。
 毎晩のようにカンクロウとデートの話をしているうちに、の気持ちも盛り上がってきたもので、新しい服まで買ってしまったし、今日はやけに朝早く目が覚めてしまった。
 髪なんかも念入りにブローしたりして……。
 何故か浮かんでくる笑いをかみ殺しつつ、毛先を指にからめていたら、誰かがこちらに近付いてきた。
 背が高く、ごつい体格をした若い男。茶色いツンツンした短髪で、目つきが悪い。どう見ても健全に育ってきた青少年のようには思えない。
 ヤンキーはニヤニヤと不穏な笑みを浮かべつつ、のすぐそばまでやってくると、少し背を丸めるようにして顔を寄せてきた。
 は警戒心もあからさまに、いつでも逃げ出せる体勢を取る。一般人だと思って難癖つけてこようとしているのだろうが、こちとらくノ一、いざとなったらドロンだ。
 男は意地悪そうな笑みを深くすると、
「おねーちゃん、暇? どっか行かねぇ?」
 個性も工夫も皆無のセリフを、臆面もなく吐いたではないか。
「待ち合わせ、してるの」
 身構えるから硬い声が出る。
 男はとうとう手を出し、の細い手首を掴んだ。
「待つ必要ねーじゃん」
「――やめて!」
 振り払おうとするも、離してくれない。なんて力だ、ただのヤンキーのくせに。
 は腕をぶんぶん振り回し、
「キャー、おまわりさーん!」
 か弱い女子のフリをして大声で叫んだ。
 慌てたのはヤンキーだ。
「おいコラコラ、!」
「!?」
 は目を剥く。
 茶髪のヤンキーが、なぜ名を知っている!?
 男は困り顔をして、今度は自分自身を指差していた。
「オレだってオレ、カンクロウ。お前本当に分かんねーのかよ!」
「……えっ?」
 なぜヤンキーが、カンクロウの名を名乗る!?

「ショックじゃん。あれだけ話してたのに、声で分かってもらえないなんてよ」
「……ゴメンってば。だってまさかそういう格好で来るなんて……」
 とりあえずお茶でも、と言うことで、喫茶店に落ち着き、注文を終えたところだ。
 は上目遣いで、向かいに座る不良……ではなくカンクロウを、改めて見やった。
「いつもと違いすぎて、分からなかった」
 隈取りも頭巾もないし、ラフなTシャツ姿で、の知っているカンクロウとはまるで別人だ。
「あれは任務用。化粧すると気合入るじゃん。せっかくとデートだってのに、あんな格好で来るかよ。……な、結構いい男だろ?」
「またそんなことを自分で言う……」
 カタギには見えなかった、とは言わないでおこう。
「……」
 カンクロウは不意に真顔になって、テーブルの上に少し身を乗り出すようにしてきた。
「どうしたの?」
 は逆に、椅子の背にもたれるように上体を引く。
「本当のところ、どうだよ。に素顔見せんの、一応、躊躇したってゆーのか心配したってのか……今でも緊張してんじゃん」
「……どうって……」
 見慣れない顔が、本当に心配そうにこちらを見ている。
 が答えあぐねているところに、店員さんがやってきて、二人の前にそれぞれ飲み物を置いていってくれた。
 氷の入ったグラスから再び彼の方へと視線を移し、は軽く頷いてみせる。
「我愛羅くんともテマリさんとも、あんまり似てないね」
「ああ、まあ……それよく言われるな。きょうだいなのに似てないって」
 ようやく、緩んだ。もほっとする。
「うん。よく見ればカンクロウの面影がある」
「面影も何も、これが素顔だっつーの」
 体を起こし、カンクロウは声あげて笑った。
って本当に面白い奴」
「そうかなぁ」
 面白いなんて、そんなことを言うのはこの人くらいのものだ。
「カンクロウが面白いから、つられちゃうんだと思うけど」
「くっくっくっ……お前の面白さを引き出してやってんじゃん」
「何で上からなのよ」
 普段の電話の調子になってきた。
 最初は怖く感じたカンクロウの顔も、笑えば案外可愛い。
 二人はお茶を飲みながら、時間を忘れてお喋りを楽しんだ。

 デートっぽく二人で歩きたいというカンクロウの願いを聞いて、街をぶらついていたら、玩具屋の店頭で糸操り人形を見つけた。
「おっ、オレこれ得意じゃん」
 早速二体を片手ずつに持って、構える。
 人形の足が地面に触れた瞬間、命が宿った。人形はただの人形ではなくなったのだ。
 カンクロウが両手で巧みに操る小劇に、道行く人たちも思わず立ち止まり、見入ってしまう。
「すごーい!」
 は大はしゃぎで、拍手をした。
「これくらい軽いじゃん。いつもはもっとでっかい傀儡を二体も操ってるんだからな」
「器用ね」
は不器用そうだよな」
 自分の優位がそれほど嬉しいのか、また意地悪く言ってくる。がムッとすると、やってみろ、と手板を差し出された。
「何よ、これくらい」
 息巻くが、人形はぎくしゃく変な動きをするだけで、焦れば焦るほどうまくいかない。しまいには糸がこんがらがってしまった。
「ほらやっぱり不器用じゃん」
 カンクロウは大声で笑っている。も最後には笑ってしまった。
「じゃあこれ買ってやるからよ、家で練習すりゃいいじゃん」
 絡まった糸をあっという間にほどいてしまうと、店の主人にそれを渡す。カンクロウがお金を払い、糸操り人形の包みはの手に納まった。
「ありがとう」
 小さなお礼に応えたのは、言葉ではなく笑顔で、それを見た瞬間、の胸はとくんと音を立てた。

 紅に染まる雲と眼下に広がる町並みを、二人肩を並べて眺めていた。
「いい景色でしょ。ここお気に入りなの」
 裏山の中腹からの眺望は、確かにちょっとしたものだ。
「お気に入りに連れてきてもらえるなんて、光栄じゃん」
「うん。今日楽しかったから、お礼の代わりに」
「……」 
 ちょっと切なそうな声と同時に肩を抱かれて、体が硬直する。顎に指をかけられ、上向かされて……気が付くと、視界いっぱいがカンクロウ……。
「キャーッ!」
 思いっ切り突き飛ばしたら、カンクロウは不満そうに口を尖らせ、怒鳴った。
「何で拒否るんだよ。今すげえいい雰囲気だったじゃん!」
 も負けずに言い返す。
「雰囲気でキスしようとしないでよ! 付き合ってるわけでもないのに!」
「キスって雰囲気でするもんじゃん。ってか、まだ付き合ってくれねーのかよ……」
 だんだんに勢いを失っていったかと思うと、がっくり肩を落としてしまった。
「……なあよ、オレのこと嫌いなら、ハッキリ言ってくれた方がいいじゃん……」
「きっ嫌いじゃない! ……けど、好きかどうか……分からない、かな……」
 あいまいな語尾があいまいに消えゆく。はカンクロウの顔を見る勇気がなくて、目の下の景色に視線を逃していた。
「……友達じゃ、ダメなの?」
「そうやっていつまでも焦らされるのはイヤだね。オレはと付き合いたいって、最初から言ってんじゃん」
 確かに、カンクロウはずっとブレてない。
「……こうやって、友達でいるのと、カンクロウの言う付き合うっていうのと、どう違うの? 滅多に会えもしないのに」
 電話で話をして、たまに時間が取れたらこうして一緒に遊ぶ。
 それでいいのに。
 やっぱり男の子だから、さっきみたいにキスしたりとか、他に色々したりとか、したいんだろうか……。
(いやーっ!)
 そこまで思考を進め、一人で真っ赤になる。
 悶々としているの様子に気が付かないカンクロウは、しばし考えた挙句に口を開いた。
「どう違うって、を独占したいんじゃん。オレだけのものになって欲しい……ステディって、そーゆーことじゃん」
 は軽く目を見開いた。ステディなどという単語を実際に使う人がいるとは。
「まぁでも、がまだその気にならないなら、無理強いもできねぇしな。嫌われたくもないし。しばらくはトモダチで我慢するしかないじゃん」
 自らに言い聞かせるように、最後はちょっと無理して笑っている。
 がようやく顔を上げると、カンクロウもこちらを見ていた。
 二人の目が合う。
「……どうして、私なの?」
 口が勝手に動いたようだった。気が付いたらそう聞いていた。
「……さあ、な」
 カンクロウもほとんど自動的に答えて、ゆるりと視線を外す。
 町を見下ろすカンクロウの横顔を、赤金色の光が縁取っていた。
「何でだろうな。自分の国にも女なんてごまんといるのに、何でなんだろうな……何でじゃないとダメなんだろう……」
 苦しくて潰れそうな胸から吐き出された言葉のようだった。
 夕焼けの切なさとあいまって、の心にまで染み入ってくる。
 泣いてしまいそうだった。

「また会ってくれんだろ?」
「うん……機会があれば」
「機会作るじゃん。じゃあな」
 腰を屈めたと思ったら、あっという間のこと。
 はおでこにキスをされていた。
「これくらいなら、いいだろ」
「……もう、油断も隙もない!!」
 いたずらっ子の笑顔に、殴りかかるフリをしながらも、唇の触れたおでこに感じる熱を、気のせいには出来なかった。






                                                             つづく




傀儡師の恋 3




       ・あとがき・


なんか書いていてキュンキュンしてしまった……。
もうちゃんはカンクロウに惚れちゃってるじゃないですか! もう付き合っちゃえ!
デートに現れた素顔のカンクロウに、気付かないヒロインっていうのを、この話考えた当初からやりたかったんです。ネタとしてはありがちですが。
隈取りでデートに来たらその方が怖いよ。

モトカレ=キバというのは、最初から決まっていたわけではなくて、誰にしようかと最初は悩んだんですが、結局は消去法でキバしか残らなかったんですね。
キバと付き合っていた学生時代はそれは楽しかったハズ。そのときの話も単体で書きたくなってしまいました。

カンクロウは自信満々で強引なように見えるけれど、彼なりに不安に思ったり心配したりしているんです、実は。
それでもグイグイいけちゃうカンクロウと、進めないちゃん。

また続きます。






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