休日の午後という最高にのどかな時間を、シノは自分の部屋で過ごしている。
飼っている昆虫を観察したり、本を開いてみたり、自由気ままに。
だけどひとりじゃない。
同じ空間に、がいる。
きみとふたり
はさっきから黙って、でも微笑んで、シノを目で追っている。
退屈じゃないかと問うたら、シノが趣味に没頭しているのを見ているのは楽しいから、と穏やかに答えてくれたものだ。
二人の間にはほとんど会話もない。
とても静か。
だけど、満ち足りている。
「ひとつ、変なことを聞いてもいいか」
最終的に、日だまりの特等席に二人身を寄せ合う形で納まって、恋人らしいシチュエーションに内心ドキドキしながら、シノはの髪を遠慮がちにいじっていた。
目を上げたに優しく先を促され、シノは静かに口を開く。
「は、いずれオレのところに嫁に来てもいいと、思ってくれているのか?」
ゆったりとした休日に、擬似的に家族の安らぎを重ねていた。
それに、この間、父親が「ちゃんがこの家に来てくれたらいいのにな」と、珍しく軽口めかして呟いていたのが心に留まっていたせいもある。
「……」
は答えず、肩にもたせた顔をうつむけてしまった。
シノはがっかりして、髪をもてあそんでいた指を止める。
当然といえば当然か――。
油女は特殊な一族。体全体を蟲の容れ物としているのだ。
自分の一族を誇りに思ってはいるが、蟲というものが女の子には特に好かれないということもまた事実だと、シノは知っている。
そんなところに……こんな自分のところに、来てくれる女性はなかなかいないだろう。
そう考えると、急に怖くなった。
「……忘れてくれ」
あんなことを聞くのではなかった。
「……」
「……シノったら」
手に、手が重ねられる。
床に置いたシノの手の甲に、触れるの手のひらは柔らかく、温かかった。
「どうして、変なことだとか忘れてくれだとかいうのよ。大切なことなのに」
「……」
はもう一度顔を上げた。すぐ近くで、微笑んでくれている。頬が上気して、赤く色付いていた。
「私、考えたり想像したりするよ……シノとの将来。ひとりで盛り上がったり、熱くなったりしながら……」
それはまだ少女らしい甘い夢。
「お前は、オレの一族のことを……、蟲のことを、どう思っている?」
少なくとも自分の方が現実的だと思っているシノは、硬い表情のままだった。
「シノと付き合ってるんだよ、私。今更そんなこと聞くの、おかしい」
声も笑みも、甘いままで。優しく手を握ってくれる、の小さな愛しい手。
「油女一族を誇りに思っているシノだから、好きなの」
とこしえに守り続けたい、存在――。
「……」
今改めて、心を決めた。
シノはの華奢な身体を、自分の両腕の中に閉じ込めた。
女の子の柔らかさとふんわり立ちのぼる匂いに酔い、目を閉じる。
「本当に、そんな将来だったら……いいな……」
抱きしめた腕の中でじっとしながら、は少し笑った。
「そんな将来にするのよ。そのためにもちゃんと出世してよね!」
後半は冗談っぽくも強い口調で。
これはもしかしたらカカア天下かも知れないと、シノは苦笑する。
そうして、の髪を何度も撫でているうち、加速する愛しさを止められなくなり、頬に手を添え可愛い顔を上向かせた。
「キスをしても、いいか?」
「……改めて聞かれると、なんか恥ずかしいけど……」
ムード無視で断りを入れてくる辺りが、律儀というかシノらしいというか。
二人の顔が近付く。こんなときですら外されないサングラス。その向こうの瞳は、どんな色をたたえているのだろう――そう思いながら、は目を閉じた。
甘い吐息がかかり、ほんの少し、唇が触れ合った。
その瞬間。
気配を察知したシノが、から素早く離れる。
夢から醒めて置き去りにされた気分のが、ゆるりと振り向くと、扉がいつの間にか開いていて、お盆を持ったシノの父親が立っているのだった。
「あっ……あっ、おじさん」
無意味に取り乱すとは対照的に、シノそっくりの父は静かに入ってくると、湯気の立つ湯飲みを二つとせんべいの入った菓子盆をテーブルに置いた。
「……ごゆっくり、ちゃん。よければ夕食も食べていって」
「あ、ありがとうございます」
赤い顔してお辞儀をするを、父はいとおしげに見つめる。が、やはりサングラスのせいで傍からは分からない。
(シノ、ちゃんと仲良くな)
邪魔をした張本人なのに、息子へそんな無言のエールを送り、去ってゆくのだった。
「……」
「……」
今更やり直しというわけにもいかず、何となく気まずくて、シノとは少し離れて座り、せんべいをつまんだ。
「……親父も、のことを気に入っているんだ……」
「あ、安心してお嫁に来れるわねっ」
冗談めかして照れ笑いをする……この可愛いと結婚して、子供が何人か産まれて……そんな未来も夢ではないのだと、そう思うと、胸に何かが詰まっているようで苦しくて、シノはお茶を一口含んだ。
もう少ししたら、もう一度、抱きしめてみようかなと思う。
そしてやっぱり、キスをしたい。
今度は邪魔しないでくれよ、親父。
そう思いながらも満たされて、とても幸せな、休日の昼下がりだった。
END
・あとがき・
私の中に、久々、ドリームの波がやってきました。NARUTOキャラで立て続けにネタが降ってきて、いっきに四本もプロット立てちゃった。
その中でまたもやシノ夢です。シノ、大好き。
でも今23巻まで読みましたが、出番少ないわー。そして8巻と14巻は買っちゃった。
お父さんのシビさんも好きです。シブい!
お母さん出て来ないけど、どんな人なのか気になる。
蟲使いと付き合ったり、ましてや結婚となると覚悟いるだろうな、と思って考えたお話です。
キスが邪魔されるのは古いパターンのお約束。
この後無事にキスできればいいですね。
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