※ 注
・シビさん独身時代のお話です。
・体に無数の蟲が這い回る……という想像に耐えられない方はごらんにならないようお願いします。
捕 獲
久し振りの女子会は、昔よく集まっていたお店で。
すでに結婚していたり、仕事で多忙なメンバーもいるため、スケジュール調整は大変だったが、そのかいあって当日は大いに盛り上がっていた。
「ところでさぁ、、あんたまだあの忍者と付き合ってるの?」
一通り近況報告が終わるや、一人が早速聞いてくる。
はグラスをコースターの上に置いてから、にっこり頷いた。
「うん、付き合ってるよ」
こんなときの話題といえば、恋がらみに尽きる。他の皆も興味津々で身を乗り出してきた。
「確か、体の中に虫を飼ってるとかいう人だよね」
「なんか想像できないよねー」
確かに。は料理を口に運びつつ、一人納得する。
蟲と契約を交わし、体中を蟲の巣にしているなんて。だって、頭では分かっていても実際のところどうなっているのか、よく理解できていない。
まして彼女らが不思議に思ったり、興味本位で話題にしたり、あるいは嫌悪したとしても、それは当然の反応といえるだろう。
「一緒にいるとき、虫がうじゃうじゃ出てくるってことはないの?」
「うわあー!」
「いやだ食事中に! 想像しちゃったじゃないの!」
遠慮なく大騒ぎする友人たちに、は余裕の笑みを向ける。
「蟲使いだって、人間よ。彼優しいし、とっても幸せよ」
これでもかと溢れ出るハッピーオーラにあてられて、周りはぴたりと黙らされてしまう。
「……ハイハイごちそー様!」
「いいわねぇ、は愛されてて。羨ましい。聞いてようちのダンナなんてさぁ〜」
既婚の友達が、夫の不満を面白おかしく脚色した上で話し出す。
は皆と一緒に、笑ったりはやしたりしながらそれを聞く。
居酒屋の喧騒の中に埋もれる、自分と仲間たち。
アルコールが心地良く回っているのを感じていた。
その後、場所を変えて飲んでいるうち、あっという間に日付を越えてしまった。
家庭のある子、明日早い子などがいとまを告げ始める。
「じゃあ一度解散にしようか」
会計を済ませて外に出ると、真夜中の風がほろ酔いの体をちょうどよく冷ましてくれる。
「はどうする? 三次会行く?」
「どうしよっかなぁ……」
と、目の前の角に立っている人影に気付き、の頬が緩む。
「シビ! 迎えに来てくれたの!?」
「……ああ」
低い声で答える長身痩躯の男、こんな夜闇の中なのに、サングラスをかけている。黒い逆立った髪、襟の高いゆったりとした上衣。
一種独特なたたずまいに、の女友達たちは言葉を失っていた。
「じゃあ私、今日はこれで。また飲もうね、バイバーイ」
だけはこだわりなく、皆に手を振り、嬉々として彼のもとへ駆けてゆく。
「……あれが、噂のカレ?」
「でもちょっとカッコ良くない?」
「シブいよねー」
三次会へ流れてゆく友達のきゃあきゃあ声を背に、は恋人の腕に腕をからめて、歩き出した。
「わざわざ来てくれたの?」
「夜道を一人で歩かせるわけにはいかない」
口調はそっけなく聞こえるけれど、本当に心配してくれていることはよく分かる。
大好きの気持ちのままに、強くしがみつくように密着して歩くの目に、けばけばしいいくつかの看板――連れ込み宿のもの――が、二重になって映る。
吐いた息が、自分でもなまめかしい。
アルコールがの身体をほてらせ、気持ちまでも大胆にしているようだった。
「……酔っちゃった」
頭をシビの腕にすりつけて、ねばっこい声で囁く。
分かりやすすぎるサインだ、陳腐で見え透いた。
それでも、聡くて懐の深い彼は、きっちりと乗ってくれる。
「少し、休んで行くか」
躊躇など微塵もない態度で、の肩を抱くと、最寄の宿へと足を向けた。
「……シャワーを……」
「必要ない」
ごく簡潔に応え、ベッドのそばに立ったままの顔を上向かせる。
いきなり深いキスを仕掛けられ、早くも腰がくだけそうになるの体は、ベッドの上へと運ばれた。
「……酒臭いな」
笑うでもなく呟きながら、シビはサングラスを外す。
はこの瞬間が好きだった。見逃すまいと、枕の上で重たいまぶたを見開く。
どういう理由によるものか、シビは滅多に素顔を見せない。光のない夜中でもサングラスのまま出歩いていたように。
こんなに、魅力的な眼を持っているというのに。
その瞳が迫ってくる。もう一度口付けられ、目を閉じると、器用な男の手によって着衣を乱されてゆく。
「蟲を、使うか?」
すでに息の上がっているは夢中で頷き、これから受けるであろう快楽の予感に、身を震わせた。
シビの体からたくさんの蟲が出現し、の素肌に飛び移っては這い回る。
「……あっ……」
思わず声が漏れる。いつもと違う感覚は、お酒のせいか。もどかしくも気持ちいい。
の体を知り尽くしている蟲たちに身を委ねながら、心のまだ冷静な部分で、考えていた。
――こんなことは、友達にも誰にも言えない。
蟲で感じているなんて。
これがよくて、蟲使いの彼からは絶対に離れられないなんて……!
「んん……っ」
よがりながら薄く目を開けてみると、彼氏は指一本触れることもなく、こちらを見下ろしている。
見られていることを自覚すると、余計に体は熱を持つ。
恥ずかしい。でも、もっと見て欲しい。
――貴方の蟲で、私、こんなに――
それには知っている。無表情でいながら、シビもまた、恋人の痴態を目の当たりにして昂ぶっているということを。
蟲の愛撫でこんなにも乱れる女と、それを眺めて興奮する男。
アブノーマルなんだろう。やっぱり誰にも言えない。
互いが良ければ良いのだと、シビは涼やかに言っていたけれど。
「……あぁ」
息が弾み身をよじり、今にも行き着きそうになる寸前、蟲たちが全て退いてゆく。あっという間に巣に戻り、あの大群がまるで魔法のように、一匹残らずいなくなった。
無論、蟲使いの指示に従ったのだ。
あらわになったの白い体に、シビが近付く。服を脱ぎ捨て、ベッドに上がった。
「続きは、オレがしてやろう」
最後まで蟲に任せてはいられない。ただ見ているのにも限界があるのだ。
にのしかかり、そのまま彼女の中へ入ってゆく。
さっきまでで十分滴っている体は、易々と受け入れた。痺れるような快感が、の全身を貫く。
「……ぁぁぁっ……!」
ぎゅっと抱きつくと、激しいキスをしてくれた。
こうしているとき、は、蜘蛛の巣に捕らえられた昆虫のイメージを浮かべてしまう。
もがいても逃れられない。彼から、蟲から……油女から。
「……ゃああっ!」
唐突に動きを加えられ、悲鳴に似た声が迸る。
「……」
眉間に皺を刻んで、苦しげにも見える表情の彼に、しがみつく。
もう何も考えられない。思考は全て吹っ飛んでしまった。
ただ本能が、行き着きたいと叫んでいる。
「このまま泊まろう」
「……うん」
品のないホテルだけれど、ひとつの布団に二人裸でくるまっていると、楽しい気分になってくる。
の方から軽いキスをしてあげると、お返しに頭を撫でられた。
「シビ……大好き」
抱きつく。この肌の下に、無数の蟲の蠢いていることを想いながら、腕に力を込めた。
捕まったのだ、自分は。何だか、こうやってこのまま、油女一族の人間にされるような気がしていた。
でもそれは、の望むことでもある。
なぜって、愛しているから。
一生捕らえられて、がんじがらめにされていたいくらいに、愛しているから。
そして――
数か月の後。
お腹の中に生命の宿っていることに気がついたは、油女一族に迎え入れられた。
相変わらずポーカーフェイスの旦那様を見つめていると、どこからどこまでが計算だったのかな、という疑問が湧いてくる。
避妊だってしていたはずなのに。
「……何だ?」
「……ううん、何でもない」
まあ、いいか。
は生まれたばかりのわが子を抱いて、慈しむ。黒髪の、シビにそっくりの男の子だ。
「よしよし、シノ、いい子ね」
捕まったおかげで――、今、とっても幸せだ。
END
・あとがき・
NARUTOのコミックスを貸してくれているCちゃんが私に言いました。
「まさか、シノファンが存在するとは……」
って、いやいやシノカッコいいでしょう!
出番少ないけど!
DVD借りて見たんだけど、蟲が動く分、漫画よりも気味が悪かったです。ううう本当は私、虫って大の苦手なんだよ……。でもシノは好き。
今回はパパのシビさんドリームです。
シノはまだ子供だから、まさかこういうの書けないもんね……。大人の恋愛……。
久し振りに色っぽいの書きたかったので、良かったです。
でも蟲が体中に……ってやっぱりリアルに想像すると怖いので、あまり描写しませんでした。
シビさんの言う通り、二人が良ければどんなことでも、アブノーマルじゃないんだよ……。
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