「こんにちはー!」
 小さなが、友達のシカマルの家にしょっちゅう遊びに行くのは、実はシカマルよりも、シカマルのお父さんが目当て。
「よお、よく来たな」
 おじさんの笑顔が、の一番の幸せだった。



 Crazy for you



ね、おじさんのこと、だいすき! おおきくなったら、おじさんのおよめさんになるの!」
 膝の上に抱き上げてもらい、上機嫌のが言うと、
「おお、早く大きくなってお嫁に来い。待ってるぞー」
 ひげ面で頬ずりしてくるから、くすぐったくて嬉しくて、キャッキャと笑っていたものだ。
 しかし、シカマルやチョウジと一緒にアカデミーに通うころになると、同じことを言っても、おじさんは苦笑いで、
「そーゆーことはシカマルに言え」
 だの、
「嫁はムリだが娘にならなれるぞォ」
 だの、にとっては物足りない返事をしてくるようになった。
 そして、今現在。
 下忍として任務に就くようになったは、プライベートでシカマルのお父さんに会う機会すらなかなか作ることが出来なくなっている。
(おじさん……)
 会えなくとも、想いは日に日に募って、胸焦がす。
 思い余って周りの友達に相談しても、年の差がありすぎるとか、シカマルの方がお似合いだとか、不倫は良くないとか、そんな聞きたくない意見ばかり。
 この燃える恋心の持って行き場がない。
 こうなったら、もう自分で何とかするよりないだろう。
 はクローゼットを開き、服を物色し始めた。

「おおー、、久し振りじゃねえか。シカマルならいねぇぞ」
 縁側にあぐらをかいているおじさんは、のんきな挨拶を放ってまた新聞に目を戻す。
 知ってる。シカマルはおろか、おばさんも留守だ。そんなこととっくに調査済み。
 だから今日、今の時間に来たのだ。
 は勝手に縁側に腰掛けた。出来るだけ、距離をつめて。
「……シカクさん」
 名前で呼ぶのは初めて。大人っぽく、色っぽい声を作ってみたつもり。
 さすがのシカクも、目を上げる。スリット深いスカートから覗く白い太腿が、絶対今、視界に入ったはずだ。
「好きです」
 瞳をとらえてはっきり告げると、相手はくしゃっと相好を崩した。
「ああ、おっちゃんものことが大好きだぞォ」
 昔から変わらない、大らかな笑顔が、今はの胸に痛い。
 めげずに、もう少しにじり寄ってみる。体が密着するくらいまで。
 ボタンをわざと多く外した薄手のブラウスから、精一杯寄せて上げた谷間が見えていればいいけど――でも、見えていると思えば熱を持ってしまう。
 ぼうっとしていたせいで、は、いくつかシミュレーションしていた言葉のうち一つを口走ってしまった。
「……抱いて」
 何言ってんの私!? 顔から火が出た瞬間、肩に腕を回されていた。
 女性にというよりは息子に対するときのような、気安く乱暴な抱擁に、はかえって気持ちが冷やされてゆく。
「何だ、寒いのか? そんな薄着じゃまだ厳しいだろ。それとも悩みごとでもあんのか? おっちゃんに何でも言ってみろ」
「……」
 いつもいつも……、子供扱い。
 好きだと言ったのに。抱いてとまで言ったのに!
 怒りともどかしさと愛しさが煮えたぎって、じき沸騰点に達してしまう。は相手のベストにしがみついていた。
「ひどい! 私本気なのに! どうしていつもはぐらかすの!? どうして分かってくれないの……!?」
「おいおい、……」
 困ったようになだめにかかる、未だ失わない余裕が憎たらしい。
 は自分のブラウスを力任せに引っ掴んだ。布の引き裂かれる音と共にボタンがはじけ飛ぶ。
 勢いでそのまま縁側に倒れこみ、大好きな人の首に両腕を回した。
「……お願い……」
 なぜ、彼の顔がぼやけて見えるんだろう。
 まばたきをすると熱いものが目尻を伝って落ちて、それでようやく輪郭がはっきりとした。
 彼の顔――今までになく真剣な――怒っているのかと身体を強張らせたが、目が悲しそうだったから、は思わず腕を緩めてしまった。
 シカクはそっと上体を起こし、のことも支えて起こしてやると、手近にあったタオルケットをたぐりよせて、少女の肩に優しくかけてやった。
「……すまなかったな、。お前にこんなことまでさせちまって……お前の気持ちをないがしろにしていたオレのせいだ」
 後悔と哀れみのないまぜになった、ほとんど沈痛といっていい声に、も戸惑いを隠せない。
「お前の気持ち、ちゃんと受けるよ。……だけど、な」
 少し優しくなった調子に、かえっては身構える。
「応えるこたァできねえな。オレには何が何でも守りたいモンがあるからなァ」
 くしゃくしゃ、頭を撫でられる。まるっきり子供にするように。
「……一回だけでいいから……一回だけ私の望みを叶えてくれれば、もう言わないから……」
 我ながらだだっ子そのものだ。この扱いに相応しく。
「誰にも内緒にして……黙ってれば、いいでしょ?」
「バレなきゃいい、なんてのは、おっちゃん感心しねぇなぁ」
「でも!」
 思わず顔を上げると、厳しい表情にぶつかった。
「バレなきゃ何してもいいのか? 違うだろ。お前の誇りはどこにいった?」
 厳しさの底には優しさが広がっている。だから頭で納得する前に心に染み入り、は肩でため息をついた。
「どうしても、ダメ?」
「ダメだな」
 最後のあがきも、きっぱりと拒否してふっと笑う。
「嬉しいんだけどな、こんなオヤジを好いてくれるなんてよ。だけど……だからこそ、ダメだ。お前が好いてくれるのに見合うような男でいさせて欲しいからな」
 何を、言っているんだろう?
 嬉しいなら応えてくれたらいいのに。女として見てくれるなら、断らなくていいのに。
 きょとんとするに、シカマルの父は、彼女の一番好きな屈託のない笑顔を見せたのだった。
「ちょっと待ってな。シカマルの小さくなった服があったはずだから」

 それから、数年後。
 きれいな花嫁衣裳に身を包んだは、シカクの前に立っていた。
 隣にはシカマル。旦那様になる人。
 はシカマルとちゃんと恋をして、今日の日を迎えていた。幸せいっぱいのの顔は晴れがましく、輝きに満ちている。
 今日ここに立っているのは、シカクさんのおかげ。シカクさんが何一つ壊さないでくれたおかげだ。
 今なら、あのときのことがよく分かる。シカマルのお父さんは、守るべきものを守り切る、そういうかっこいい人だ。その大きな、優しい心で、家族だけではなく幼かった自分のことまでも、守ってくれた。
 そしてその息子であるシカマルも、自分のことを何があっても守り切ってくれるのだろう。
 はシカマルの父に、そしてその隣に立つ母に、微笑みを向けた。
 今は素敵な思い出となった初恋を、心の中にしまって鍵をかけて。
 そして今日からは、自分もこの大好きな家族の一員になる。
「どうぞよろしくお願いします……お義父さん、お義母さん」
 ありったけの感謝と敬愛を込めて。
 は深々と、お辞儀をした。



                                                             END



       ・あとがき・


iPhone買って嬉しくて、ツイッター始めちゃって。ナルト関係のボットで遊んでいたんですが、一番お気に入りになったのがシカクさんボットでした。なかなか夢的な受け答えをしてくれる。
そのイメージで話を作ってみました。
子ども扱いがちゃっと不満。やたらシカマルとくっつけようとするのも不満。本気なのに!
その気持ちをちゃんと受け止めた上できちんとお断り、という形にしました。流されるのも話としてはもちろんアリだけど、私は書かないことに決めているので。
最後はシカマル落ちになってますね。でもシカマル、一言もセリフがない……。多分シカマルはが自分のお父さんを好きだったことも知ってると思います。
シカクさんみたいなお義父さん、いいな。

タイトルが最後の最後まで決まらず困りました。
最終的にまたcharaの曲タイトルからもらいました。





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