せっかく八将軍になったばっかりだったのに。
 夜叉は風魔につぶされてしまい、誠士館はガタガタ。
 仕方なく、それまで自分が制圧していた地区に戻った雷電を待ち構えていたのは・・・。
 バチーン!
 彼女(という立場だ、一応)のが放った、強烈なビンタだった。


 浮気とケンカと


「な・・・っ」
 あっけに取られたのは、一秒間だけ。
「何すんだーッ、ッ!!」
 噛み付かんばかりの勢いにも、はひるまない。
「そりゃこっちのセリフよ! しばらく会ってもくれないと思ったら、浮気してたって!?」
 負けないほどの大声に、雷電は目を丸くした。
 赤星の矢で招集をかけられてから、確かに全然会っていなかったけれど、それにしても、浮気とは・・・。
「してねーよ!」
 は腕を組み、冷ややかな目で、相変わらずカッカしている雷電を見やる。
「他の女のそばにいたんでしょ」
「他の女って・・・」
 視線を宙にさまよわせ、思い当たったのは一人しかいない。
「そりゃ夜叉姫だろ。俺は夜叉最強の八将軍なんだから、夜叉姫のもとで働くのは当然のことで・・・」
「・・・フン」
 はとうとうそっぽを向いた。
 出会ったときからこの人・・・雷電は、えらく得意げな様子で、俺は夜叉一族なんだ、八将軍に選ばれたんだと、しつこいくらい話しかけてきたけれど、はヤシャもハチ将軍も何のことやらさっぱりだったし、高校生とは思えないイガグリ頭で声だけ大きいこの男のことを、ウルサイのがつきまとってきた、としか思っていなかった。
 思うに、彼は気を引きたくて必死だったのだろう・・・、のことが好みのタイプだった、というのは後に語られた話。
 その想いが通じたというのか、が折れたというのか、いつの間にか彼氏彼女の関係になっていた。その矢先に放っておかれたのだ、心中穏やかではない。
 がぷんっとしたままなのを見て、雷電はがっくり頭を下げた。
「・・・ま、夜叉はもう消えちまって・・・、俺も八将軍でも何でもなくなっちまったけど・・・」
「・・・・・」
 いまだに夜叉の何たるかを分かっていないだけれど、雷電のらしくもなくしょげた様子に、それ以上怒りを持続できなくなった。
 しゅんとしている雷電なんて、本当に珍しい。
 は腕をほどくと、いったんは雷電と同じような表情をしたが、意識して口角を上げ、声を弾ませた。
「じゃ、今度の日曜日は一日デートね! に行こう。オゴってくれるなら、今までのことは許してあげる!」

 日曜日、天気は上々。
 部屋の姿見には、着替えた雷電の姿が映っている。
 もう少し身長が欲しいところだ、とは思うが、体にぴったり沿うトップスも我ながら似合っているし、まぁ全体的に悪くない。久し振りのデートが嬉しくて、自然に緩んでしまう顔を引き締め、決めポーズを取ってみた。
「・・・完璧」
 時計に目をやると、財布と携帯を持って、部屋を出た。

(雷電、まだかなー)
 めいっぱいおめかしして街に出てきたは、デートの相手がなかなか現れないので、携帯と周りとをそわそわ見比べている。
 と、いきなり視界が遮られた。雷電が普段着ているのと同じ制服が、三つも、目の前に並んでいる。
 びっくりして顔を上げると、見覚えはないがいかにも悪そうな顔つきの男どもが、ニヤニヤしながら自分を取り囲んでいるではないか。
「おねーちゃん、待ち合わせ?」
「俺たちがいいところに連れていってやるから、来いよ」
 は知らなかったが、彼らは夜叉の下忍たちだった。もはやバラバラになってしまった夜叉が、ウサ晴らしに出てきた街で女の子でもつかまえて遊ぼうとしていたのである。
 腕をつかまれて、は顔色を失う。ガラ悪い男は嫌いだし、怖い。
「さー、行こうか」
「いや・・・」
 ジャラジャラッ!!
 をつかまえていた男の腕に、あっという間に鎖が巻きつく。ひるんでから手を離した瞬間、青白い電撃が男の全身を貫いた。
「うわぁぁぁーー!」
「俺様の女に、手出すんじゃねー!!」
「・・・!」
 振り向いた男たちの前には、雷電が次の鎖を構えて立っていた。口調も表情もやけに生き生きとしているのを見て取ったは、軽い頭痛を覚える。
 ・・・ホントに、ケンカっ早いんだから・・・。
 大立ち回りが始まるかと思いきや、からんできた男たちの方が「八将軍に敵うわけがねェ!」と怯えすくんで、逃げて行ってしまった。
「チッ」
 しぶしぶ鎖分銅をしまいながら、いかにも残念そうな顔をしている。を助けられて良かったという気持ちはカケラもなく、暴れるチャンスを逃したのを悔しがっているのは明らかだ。
「チッ、じゃないわよ」
 あんな物騒なものを何本も、一体どこに隠し持っているんだろうと思いながら、は先に立って歩き出す。
「何だよ、あいつらは俺が八将軍だって知ってっから、あんな慌てて逃げて行ったんだぜ。だから言ったろ、俺は・・・」
「もういいから、黙って歩きなさいよ!」
 ぴしゃり遮り、雷電のうるさい口が止まったところで、は彼の腕に自分の腕をからめた。
「あんた声大きすぎるんだから。恥ずかしくて隣を歩けないでしょ」
 そう言いつつ、笑いかけてくれたから。
 雷電も、あとはわめき立てたりせず、可愛い彼女と腕を組んで、町の人ごみへ紛れていった。

 一日いっぱいを楽しんで、食事もしたら、もう日も暮れかけていた。は送ってくれるという雷電と一緒に、家路につく。
「やっぱり、触り心地いいよね〜」
 坊主頭をぐりぐり撫で回してははしゃいでいる。
 いつもはこれをやってくるのだけれど、それくらいは好きにすればいいと、雷電もされるがままになっていた。
「たまには伸ばしてみるかな」
「えー、ダメダメっ!!」
 思いついて言ってみたことを全否定され、さすがに顔をしかめるが、
「このちくちく具合がいいんだからー」
 ニコニコしてまた撫でられ、喜んでくれているならまぁいいかと思い直す。
「またに行こうね」
「・・・ああ」
 周りの風景を見回しながら、の家が近いことを思い、雷電はなぜだか息苦しくなってきた。それは、と離れたくない、を離したくないという、単純だけれど強い気持ちがもたらす痛みだった。
 夜叉一族はなくなったけれど、八将軍という最強の肩書きも同時に失ったけれど。(元々は興味のかけらもなかったが・・・)
 今はただ、と一緒にいたいと、思う−。
「オゴってくれてありがと。じゃあね」
 とうとう家が見えてきた。手を振ってもう行こうとしているを、
「待てよ!」
 とっさに、止めた。
「なに?」
「・・・感謝は、態度で示せ」
 きょとんとしているの腕を引いて、強引にキスをする。二度目のビンタも覚悟していた雷電の首に、の腕がゆるりと巻きついた。
「・・・ありがと、雷電」
 うっとりとした目をして、今度はの方から雷電の唇に吸い付く。
「ふふ・・・ごちそうさま」
 オゴった夕食に対してか、それとも今のキスにか。
 そんなことを考えつつもやはり離しがたく、雷電はを強く抱きしめた。
・・・、明日も会おう」
「雷電・・・」
「あさってもその次も・・・、毎日会おう」
「苦しいよ・・・」
 軽くあえぐようにしてみせても、拘束はゆるまない。それどころか、ますます腕に力を加えるようにしてくる。
 熱が伝わって暑くて、少し息苦しくて、でもそれほど愛されていると思えば、は嬉しかった。
「もう浮気とかケンカはしないでよね」
「浮気はしてねーし、ケンカしないって約束はできねぇよ」
「・・・バカっ」
「仕方ねぇだろ」
 それでも間近で目が合えば、互いに笑ってしまって。
 舗道に長い影を引きずったまま、今日の最後にして最高の、キスをした。




                                                    END




 ・あとがき・

パラレルで、生きていました雷電・・・ということで(あまり深く突っ込まないで・・・)。
なんか陽炎のと同じような話になってしまった気もしますが、まぁせっかく生き残ったなら、幸せになって欲しいなぁと。
からまれているところを助けられるというパターンは大好物です。使い古されていようと、何度も使っちゃいます。

雷電って、ドラマでは次々あの鎖が出てきたけど、一体どうやって携帯してるんだろうね。さすがは忍びだ・・・(笑)。





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