「ねっ、お願い!」
両手を合わせるの前には、双子が並んで立っている。
同じ顔なのに、その表情は、正反対といってよかった。
笑って頷いている、兄・項羽。
憮然としている、弟・小龍−。
トライアングル
のお願いとは、こうだった。
「白羽陣を、見せて欲しいの」
聞けば自分の技の参考にしたいとのこと。
双子にはすぐに合点がいった。
は忍びとしての力を発動させる媒体として、花、ことに花弁を好んで用いる。花びらの舞い散るさまに、小さな羽たちを重ね合わせたのだろうことは、想像に難くなかった。
「いくらの頼みでも、それはダメだ」
腕組みをした小龍は、にべもなく断りの言葉を口にする。
「白羽陣は、俺と兄さんの二人で作った、二人だけの技だぞ。そんな簡単に教えられるものか」
「・・・うん。それはそうだろうけど・・・」
小龍の反対に遭うのは予想済みだった。こっそり項羽にだけ頼めば、すんなり通るだろうことも分かっていたけれど、はそれをよしとしなかった。
兄弟で作り上げたという誇りと喜びを持って、項羽と小龍の中では白羽陣という技が特別な位置にあるということを、もよく知っている。
知っているからこそ、きちんと二人から許可を得、その上で見せてもらおうと決めていた。
項羽は、微笑みをたたえて、一生懸命なと双子の弟とを見守っていたけれど、二人の間に言葉がなくなると、彼らしい軽飄さで口をはさんだ。
「俺は別に構わないぜ」
「兄貴っ」
守りたい気持ちをフイにされたようで、思わず向けた鋭い視線の先で、同じ顔の兄は、懐深く笑っている。
「小龍の言うことも分かるよ。確かに、白羽陣は俺たちだけのものだ。・・・だけど・・・」
左手を差し出す。指先から放たれた白羽が風に乗り、ふわり、ふわり、舞い始める。
「技はひとつにとどまらない。風と同じだ、いつも形を変えてゆく・・・」
たった一枚の小さな羽が、風に踊らされるたびに、2枚、4枚、8枚・・・と増えてゆく。もはや数えが追いつかない。
「だってなりのアレンジを加えるんだし、俺たちも、これが完成形ってわけじゃないだろう」
「だけど・・・」
尚も渋っている弟に、項羽はそっと耳打ちをした。
「俺とお前で作り上げたものがの技に活きるなら、それもいいじゃないか。・・・の好感度もアップってことで」
「・・・・・」
冗談じみた最後のひとことに、心を動かされたことは、手に取るように分かった。・・・例え小龍の表情には何も表れずとも。
「・・・仕方ないな」
自慢の技を、に見せてやりたい気持ちも、ないわけではない。
仏頂面を崩せないのは意地っ張りな性格のせいだけれど、小龍も一枚の白い羽を取り出し、ふっと吹いた。
項羽はにっこり笑う。
「ダブルの白羽陣、滅多に見られるもんじゃないぜ」
羽使いの双子を中心として、数知れぬ白い羽が舞い上がり、風に翻弄されるかのように、広がってゆく。
一枚一枚が陽光をはじき、軽さに任せて奔放に踊るさまは、美しく壮観だった。
この中に立っているだけで、魂を奪われそう・・・。
羽は、の身体にもまとわりつき、自由を奪う。
向こうに並んでいる項羽と小龍の、凛とした立ち姿までもが、霞んで見えなくなってくる・・・。
「・・・これが、白羽陣・・・」
項羽と小龍の、オリジナル。
はしかと見、肌に刻みつけた。
技として完璧な威力、そして、圧倒的な美を。
「」
耳元で呼ばれ、初めて気がついた。
項羽がすぐそばまで近寄ってきていることに。
「見せてあげたお礼に、キスしてくれよ」
「えーっ」
小龍の方を気にするそぶりをしてみせるけれど、項羽は大丈夫だよ、と少し腰を屈めて、右頬を差し出した。
「見えないって。ほっぺでいいから、ほら」
羽で全てが隠されるわけはない。見えないはずはないじゃない、と思いつつも、ほっぺくらいならいいかなと顔を寄せる。
項羽は、悪ふざけのときの笑い方をすると、いきなりくるんとこっちに顔を向け、の唇を、さらってしまった。
キョトンとしているうちに盗まれた、それはの、ファーストキス。
「−−−!!」
目を見開いて見る間に真っ赤になり、声も出せない。
同時に、羽たちの流れも、大きな乱れを見せる。それは小龍の心を鏡のごとくに映しているためだった。
「小龍にも、してやって」
ぽん、と背中を押されるままに、弟の方へ歩いてゆく。とことこと、白羽をかいくぐって。
足の下が、雲のようにふわふわとしていた。
(・・・同じじゃなくちゃ・・・)
項羽にキスをされたなら、小龍にも。
そうじゃなくては、の気がおさまらない。
なぜって、二人ともを、好きだから。
項羽のことも小龍のことも・・・同じ顔、同じ姿だからというではなく・・・項羽は項羽として、小龍は小龍として、好きだから。
「・・・小龍」
小龍のもとへたどり着いたは、黒のガクランの袖を引く。
小龍は、今こそは動揺を隠せず、唇を引き結んで固まっていたけれど、の、
「お礼・・・、してあげる」
やわらかに秘密を織り込んだ声には抗えず、ゆっくりと首を傾けた。
は小龍の顔に手を触れ、少し背伸びをすると、唇にキスをする。
さっき項羽にされたほどの軽くて短いキスは、三人の気持ちを、急速に結びつけた。
ゆるり姿勢を正した小龍の正面に、そっくりの姿がある。
白羽舞う向こうで、兄が笑ったので、弟も少し照れながら、笑い返した。
そんな双子たちの笑顔を交互に見て、は止められないドキドキを自覚する。
言葉にせずとも、共通意識は組み上がっていた。
白い羽に包まれた恋は、三人だけのもの−。
その後、は繚花陣という技を編み出した。無論、直に見せてもらった白羽陣からのインスピレーションにより作り上げたもので、「陣」という文字も、譲り受けた。
「お祝いだ」
今度は小龍が先に、キスをしてくれて。
項羽も負けてはいられないと、前に出てきて口づけをくれる。
「・・・ありがとう」
嬉しかったから、は両手を差し出した。右は項羽と、左は小龍と、手を繋いだ。
降りしきる花びらの中、同じ温度の手を握り、三人じゃなくてはダメなんだと、強く感じていた。
END
・あとがき・
風小次でダブルキャラなら、やっぱり項羽と小龍だよね! 一度は書きたかった。
双子といえばサガとカノンで何本かダブルキャラドリームを書いたことがあるけど、やっぱり三人で仲良しというのが一番だなぁ。
私の中ではこんな感じがスタンダード。
時期としては、小龍の回想シーンで二人が仲良く手合わせをしていたころ。小龍が「兄さん」と呼んでいたころですね。
あんなに仲良かったのになぁ・・・。
項羽が生きているうちに、分かり合えれば良かったのにって、本当に残念に思うよ。
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