俺が両手のヨーヨーを振り回すと、眼前の愚衆たちは皆恐れ、逃げ惑い許しを請うた。

 ・・・初めてだ。
「スゴーイ! スゴイスゴイ!」
 目をキラキラさせて、大ハシャギした女は。


 リスペクト!


 おかしな女だ、と思った。
 風魔のくノ一のクセに、もっと技を見せて欲しいなどと申し出てきた。
 痛めつけた上さんざん嬲り者にしてやろうと企んで承諾したのだが、いざ二人きりになると、無邪気な歓声を上げる子供みたいな女に、攻撃をする気もなえてしまった。
 犬の散歩のようなごく簡単な技から、相手の指も使ったストリングスなど、乞われるままにいくつか見せてやると、というくノ一は、てのひらが痛くなるんじゃないかというほど両の手を叩き合わせた。赤い頬が興奮を物語っている。
「カッコイイ! 羽とか霧を操るのは見たことあるけど、ヨーヨーは初めて!」
「風魔なんかと一緒にすんじゃねー!」
 両手で連続のルーピングをして見せると、はまた面白いほど目を見開いて、拍手をした。
「妖水すごーい! 尊敬するよ!」
「・・・尊敬?」
 尊敬しろ、と叫んだところで、返ってくるのは怯えたまなざしだけだったのに。
 自分にとっては造作もない、児戯みたいなこんな技で、いともたやすく尊敬などと。
「・・・バカな女」
 警戒心もまるでない。今攻撃すれば、脆い骨は簡単に砕けるだろう。
 その手ごたえが、妖水は好きで好きでたまらなかった。
 だけど・・・。
 なぜか、昔のことを思い出していた。自分が見せるヨーヨーの技で喜んでくれた、回りの人たちの笑顔を。
 今や何人もの血を浴びてしまった己の武器を、じっと見つめる。
 どこでどう間違えたのか、いつからこうなってしまったのか・・・。
(・・・俺、何考えてんだ・・・)
 夜叉八将軍ともあろう自分が、こんな小娘のせいで・・・。
 苛立ちのままにらみつけるが、相手は気付かず、
「いいもの見せてくれて、ありがとー!」
 もう去ろうとしている。
 このまま行かせてなるものか。
 妖水はとっさに右手のヨーヨーを放り、の左手首に巻きつけ拘束した。そのまま強く引くと、自分の方に倒れこんできた身体を抱きとめながら、ヨーヨーは外して手の中に回収する。
「待てよ。俺様の技をタダで見られると思ってたのか!?」
「え・・・お金なんて持ってない・・・」
「ハッ、どう見ても金なさそうだもんな、風魔は。ケケケケケ・・・」
 あからさまにバカにされて、でも図星であるため、は何も返せない。
 しかし妖水の顔を改めて見て、この人結構カッコいいかも、こんなニワトリのトサカみたいな頭じゃなかったら、もっといいのにな。などと思っていた。
 そうしたら、妖水は、笑いながらもっと近付いてきた。
「金がなけりゃ体で、ってのが常道だよな」
 近すぎて思わず目をつぶった、その隙に、キスをされた。
 しかも触れるだけなんて優しいものじゃなくて、舌で荒々しく隅々までを探られるという、が未だ知らなかった、ビックリするようなキスだった。
「・・・ん・・・」
 それでも受け入れてしまったのは、不意打ちだったからというのもあるけれど、こんなふうにされることを、心の中で喜んでしまっていたから。
 気が付くと、自分から誠士館の制服にしがみついて、夢中で初めてのキスを味わっていた。
「・・・あ」
 ようやく離したとき、焦点定まらずとろけて潤んだ瞳と、半開きの濡れた唇を見て、妖水はひとつ肩を揺らし笑った。
「−この次はそんなんじゃ済まないぜ。それでも良けりゃ、またこの場所で・・・」
 ヒュン。空を切るヨーヨーに意識を逸らされるうち、もう夜叉の姿は消えてなくなっていた。
 置き忘れられ、は自分で自分を抱くようにうずくまる。
「・・・妖水・・・」
 思わず呟いた名前にすら、体の奥がじくりと反応した。
 これがどういう気持ちなのか・・・。
 初めてのはずなのに、は、知っていた。

「来たのか」
 ヒュンヒュンと、両方のヨーヨーをいとも簡単に飛ばしてはまた手に戻し、妖水は相変わらずの人を食った笑みを浮かべていた。
「いいのかー? どうなっても知らねーぞ!」
「いいよ」
 見上げてくるその凛とした表情に、征服欲を刺激される。
 泣いて屈すればいいと、そうさせたいと。思ってしまうのだ。
 衝動のままの肩を掴み、その場に組み伏せた。上に乗り、ヨーヨーをチラつかせて見せる。
 それなのに、見つめてくる瞳には怯えの色もない。妖水は興を醒まされた気分で、口を尖らせた。
「ちょっとは怖がれ。面白くねぇ」
「だって怖くなんかないもの」
 挑戦的に言ってのけるものだから。
「泣いてもやめてやんねーぞ」
 ヨーヨーを手にしたまま、唇を重ねた。

 通じてしまったこと、後悔はしていない。
 だけれどは、肌の上のみならず体の奥に残っている熱に、まだ呆然としていた。
 隣に横たわっている妖水は、ゴソゴソと動き、置いていた愛用の道具を再び手にした。仰向けに寝転がった姿勢のまま、上に向けて放っては、器用にキャッチする。
 やはり見とれて、今はむき出しの彼の肩や胸の辺りに、気が遠くなるくらいドキドキしてしまうだった。
「俺もお前を尊敬するよ」
 ヒュンヒュンヒュン! 鋭い音はひっきりなしで、の頬にも風が当たる。
「私の、どこを?」
「・・・何も恐れない強さ、かな」
 混じりけのない真っ直ぐさが、忘れていたことを思い出させてくれた。
 相手を見下すことしか知らなかった妖水にとって、それは初めての想いだった。
 一度もしくじることなく、正確に行ったり来たりするヨーヨーを眺めながら、は少し口もとをほころばせた。
「無鉄砲なだけだったりして」
「無鉄砲ついでに、このまま俺とどっか行くか」
 パシッ。両手とも受け止めて、妖水はこっちを見て笑っていた。
「二人で、今よりももっと面白おかしく生きようぜ! ケケケケケッ!」
「・・・その笑い方と、ヘアスタイルを直すなら考えてもいいけど」
「ンだと、文句あんのか、この俺様に!」
 ガバッと起き上がって、何度目か知れないキスを仕掛ける。
 やっぱり優しくはない、むしろ乱暴なキスで、それでもは覚えたての官能に導かれ、息を荒げてしまうのだった。
「もうは俺のものだからな・・・逃げられやしねえよ!」
「えー、どうしよう・・・」
 口ではそう言いながらも、妖水の高笑いやエキセントリックな髪型すら、何だか愛しく感じ始めている自分に、は少し驚いていた。
 もうハマってしまっている。
「・・・うう・・・確かに、逃げられないかも・・・」
「だろー」
「・・・うん・・・」
 苦笑いのは、自分から抱きつく。
 素肌の触れ合ったところから伝わる熱は、互いを幸せな気分にしてくれた。
「・・・妖水・・・」
「ん?」
「好きに、なっちゃった」
「順番違うだろ・・・」
 照れ隠しなのか、またヨーヨーを宙に放る。
「俺も、のこと好きだ」
 小さな声だったけれど、空気の鳴く音に紛れることなく、の耳にちゃんと届いた。
「・・・順番違うけどね・・・」
 ヨーヨーと一緒に心臓の音を聴きながら、うっとり目を閉じる。
 とても、心地が良かった。



                                                           END




 ・あとがき・

妖水も男前だよね。
ヨーヨーの世界チャンピオン! ドラマ見ただけでも、すごい!って思わせる技ですね。
しかしあのヅラ・・・。紫炎と一、二を争う妙ちきりん・・・い、いや、個性的なアタマだな・・・。役者さんはあのヅラを愛でてましたけどね。

妖水の「尊敬しろー」ってセリフがインパクト強かったので、タイトルが先に決まりました。
ちょっぴりクレイジーで、でも結構本気だったりして。あんまり一貫した感じでは妖水を描けなかったような気もするけど、まーこんなのもいいかな。
すぐひっついちゃうのも、ドリームだからということでご容赦いただきましょう。
このまま二人、愛の逃避行で、妖水は戦線離脱、結果的に死なずに済んだというパラレルでは、いかがかしら。





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