ちゃん。明日の初陣、うまくいったらご褒美ちょうだい」
 いつものふんわり笑顔で言われたから、
「いいわよ。頑張ってきてね、麗羅」
 軽い気持ちで、そう返した。


 ハートに火をつけて


 麗羅は、小龍や霧風と共に将棋部の決勝戦に出掛け、朱麗炎にてみごと妖水を仕留めて戻ってきた。
 力の使いすぎで寝込んでいた竜魔が目覚めたことも重なり、柳生屋敷は喜びに包まれた夜を迎えた。

ちゃん』
 寝仕度をしていたところ、小さく声をかけられたので、ドッキリしながら立ち上がる。
 戸を開けた隙間から部屋の中へすべり入ってきて、麗羅は布団のそばにちょこんと座った。
「なぁに」
「何って・・・、ご褒美をもらいに」
「女の子の部屋を訪ねる時間じゃないわよね」
 の困り顔に、麗羅はかえって嬉しそうに笑った。
「そうだね。そう思われて、良かった」
「?」
 言っている意味が分からない。
 突っ立ったままでいたら、麗羅に袖を引っ張られたので、もその場にすとんと座った。
 そばで見ると、麗羅は本当に可愛い。女の子より可愛いんだから、何となく悔しくなってくる。
「僕もこれで一人前だよ」
「そうね」
 初陣を勝利で飾ったのだ、文句のつけようもない。
「羨ましいな。私にも、戦う機会さえ与えてもらえたらなぁ」
 力はあるのに、望んでいるのに。
ちゃん・・・、僕ずっと君が忍びとして戦えるようになるのを応援してきたけど・・・、やっぱりやめた方がいいんじゃないかって、今日思ったんだ」
「・・・麗羅まで、そんなこと・・・」
 兜丸や劉鵬に、耳にタコが出来るくらい言われ続けていることを、この子にまで言われるとは思わなかった。
「だって重いよ、とても・・・。初めて分かった。劉鵬さんたちの気持ちが」
 じっと、自らの手のひらに視線を落として、麗羅はかみしめるように言う。
 初陣の勝利は、初めて人の命を奪うことで成り立ったものだ。
 忍び同士の戦いに、一切の感情は不要だと理解してはいても−。
は知らない方がいい。・・・知らないままで、いて欲しい」
「でも、とっくに覚悟は」
「それでも」
「・・・」
 は言葉を呑み込む。初めてだ・・・、麗羅が呼び捨てにしたのも、こっちの言葉を遮ったのも。
「・・・僕が、引き受けるよ」
 こちらを向いた麗羅は、すっかり男の顔をしていた。
 朱い炎を宿した瞳が、の胸を熱く射抜く。
「僕が全部引き受けるから。は、そのままで・・・、僕のそばにいて」
「何、言って・・・」
 麗羅は身じろぎをし、の方に両膝を向けた。
「ずっと待ってたんだ、一人前になれる日を。そうすれば、も、男として見てくれるだろうって」
 可愛い弟というポジションに甘んじてはいられなかった。
 に相応しい男になりたかったのだから。
「僕が欲しいのは、の、気持ち・・・」
 風魔の忍びとして認められたら、告げようと、決めていた。
 真っ直ぐに、彼女の顔を見て。
「他には何も、いらないよ」
「・・・・」
 火をつけられたばかりの、苦しいほど熱い胸に手を添える。
「私、そんな風には見ていなかったから・・・」
 ただの弟だった、本当に。
 だからこそ、急にぶつけられた想いに、狼狽を覚えた。
「ちぇーっ、なーんだ」
「ふふ・・・」
 プーンとされて、は思わず笑ってしまう。
「少しくらいは脈があるかと思ってたのにな」
 そう言いつつも、どこか不敵な顔つきで。
「じゃあ、の心にいるのは誰? やっぱり竜魔さん? それとも劉鵬さん? 霧風さんかな、同期だし」
 兄たちの名を次々に挙げてゆく麗羅の瞳が、また燃え出す。
「教えてよ。これから僕が超えるから」
「・・・うん、そうね。麗羅は、これからだもんね」
の、一番になりたいんだよ」
 可愛い顔して、ドキッとさせるようなことを言う。
「私・・・、兄弟は兄弟としか思ってないよ。麗羅だけじゃなくて、みんな」
 本当のことだった。みんなのことは大好きだけれど、恋愛対象とはまた違う。
「そういうの言われたのも初めてだし・・・そう考えれば、麗羅が一番私をドキドキさせてるよ」
「本当? やったー」
 邪気なく笑ってさっと近付き、一瞬のうちにキスをさらった。
 あまりの素早さに、認識が追いつかないは、きょとんとして。
 徐々に真っ赤になり、口もとを押さえる。
「れっ麗羅、何を・・・」
「ご褒美もらうって言ったでしょ。それに、これで更にみんなよりリードってことで」
 立ち上がって手を振る。
「ご褒美ありがと。おやすみ
 まだ言葉を失っているを置き去りに、麗羅は行ってしまった。
「・・・もうっ」
 両手に体の脇にぱたっと下ろし、幼いポーズで呆然としてしまう。
 ストレートな告白に、どう返事をすればいいのか、自分の気持ちすら分からないだったけれど。
(もう、弟なんて呼べないね・・・)
 それだけは、確かなようだった。

 胸に投げつけられた火種が、くすぶっている。
 いつ燃え上がるかも知れないそれを抱いて、多分今夜は眠れない。




                                                           END




 ・あとがき・

初陣で「燃えちゃえ」と言っていた麗羅が可愛すぎでした。
最初見たときから、「あー本当に麗羅だ。ピッタリだー」と思っていましたが、本当、女の子も嫉妬しちゃう可愛さですねっ。
原作では登場したと思ったら武蔵にやられちゃったけど、ドラマでは活躍してくれて嬉しい。
ためらいなく戦っていたけど、妖水を倒した後に何か感じるところがあったようなのが印象的でした。

好きな子がいたら、さらっと告白してさらっと貰っていっちゃいそうな気がします。
ちゃんの方が押されてますね。

仕事忙しくて連日残業なんだけど、書くことでバランスを取っているってところがあるから、昼休みなどにチョコチョコ書いてます・・・。





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