全身で受ける風の暖かさ、土の濃い匂いと、そこに咲き始める花たち。
風魔の里にも、春が来た。
新しい季節
中央アルプスにひっそりと存在する里の、冬は長い。
きりり身の引き締まる冷気も、全てを白く覆い尽くす雪も、嫌いではないけれど。春の訪れは、理屈抜きのワクワク感をもたらしてくれるのだった。
何かが蠢き、新しく始まる。そんな季節だから。空気を吸い込むだけで、ドキドキしてくる。
(春って、いいなぁ)
縁側に座り、は浮かれ気分で足をぶらぶらさせる。
雪の衣を脱ぎ捨てた大地に草花が萌え、エネルギーが満ちているのを感じていた。
「、ここにいたのか」
兄弟の声を聞いて、ははしゃいだ気持ちのまま振り仰ぐ。
「劉鵬。・・・あんまり気持ちいいから、サボってたの」
何て堂々としたサボリだ。と思いつつも、劉鵬もすぐ隣に腰を下ろした。
「俺も少しサボろう。今日は任務もないことだし」
互いの腕が触れるか触れないかの距離は、をますます楽しい気分にさせた。
「ようやく、春らしくなったな」
「うん。ホント春だね」
大して意味のある言葉は交わされなくても、一緒にいるだけでこんなにも心地良い。は両腕を上げてうーんと伸びをした。
「のんびりしようよ。劉鵬は、いっつも気を使ってばっかりなんだから」
「そんなことはないぞ」
「・・・そう?」
少し子供っぽい仕草で、小首をかしげるように見上げると、劉鵬は微笑んでいた。
その笑顔がたまらなく好き。そう思うと、突発的に彼に触れたくなる。
体中駆け巡る衝動は、やはり季節がもたらしたものだったろうか。
は、劉鵬の方へすりすり移動し、首を傾けてぴとっと寄り添ってみた。
「・・・・」
少し驚いた気配はあったけれど、劉鵬は声を発することもなく、真っ直ぐ前を向いたままだった。
膝の間で組んだ指だけが、落ち着かない様子で動いている。はいたずらな気持ちでそれを見つめていた。
「劉鵬は、いつも私の心配ばっかりして、私を守りたいって言うよね」
「・・・ああ」
「守るだけで、満足?」
すぐそばにを感じながら、身動きもせず、劉鵬は生真面目に正面ばかりを見ている。
「・・・ずっと守りたいってことは、ずっとそばにいたいってことだ・・・。守るだけ、って言うけど、実際は大層な望みだよ」
明日の命も知れないさだめだというのに、何と貪欲なことだ。
ぬるい風に吹かれ、劉鵬は切なさに息をつく。
「じゃあ私、早く一人前になって、劉鵬の任務について行ってあげるからね!」
「イヤだからそーじゃなくて」
能天気なには、全然通じていないらしい。
「・・・一緒にいたいよ、私も」
「・・・」
少し、ズレている気もするけれど、とりあえず両想い・・・ということか?
笑っていると、目を合わせる。
細い二の腕をそっと掴み、もう少し接近しようとしたとき。
突然、はひらり立ち上がり、劉鵬の膝と膝の間にすとんと納まった。それはまるで蝶々のように気まぐれで身軽な動きだった。
「わーい、座椅子みたい」
遠慮なくよりかかってくる。勝手に座椅子にされて、劉鵬はちょっと困り顔だ。
「・・・気持ちいー」
全身まるごとくるまれているような、この上ない安心感に、は両目を伏せる。
いつもそばにいて、守ってくれる存在を、当たり前のように思っていた。
だけど、それは、得がたくかけがえのない愛情なんだって、気が付いた。
「・・・」
両腕を前に回すと、そっと抱き、背を屈める。
これほどに密着して、それでも劉鵬の心は穏やかだった。
春の日差しの中で、二人きり。それだけで十分幸せだ。
束の間の安らぎと、分かってはいても。
守るために、戦いたい。
里で待っていてくれるのためなら、風魔の過酷な務めも、こなしてゆける。その末にあるのが死でも、受け入れるから−。
いつの間にかすっかり午睡に落ちてしまったを、膝の上に抱き直す。
腕の中のあどけない寝顔を、微笑みながら静かに見守っていた。
新しい季節の中で、通い合った心を、大切にして。
END
・あとがき・
私の住む北国でも、ようやく春の気配を感じ始めている今日この頃です。
まだまだ寒いけどね・・・。
春って大好き!
縁側でひなたぼっこなら、劉鵬と一緒がいいな、ってことで考えた話だったけど、書いているうちに少し切なさが入ってきちゃったかな。
劉鵬の笑顔が大好きです。
彼、真面目そうだし、あんまり手が早くなさそう。ということで、ちゃん眠っちゃっても優しく見守ってあげています。
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