大好きな姫子や蘭子に別れを告げ、胸に溢れるほどたくさんの思い出を抱きこんで、は皆と共にふるさとへ戻った。
(色々あったなぁ・・・)
 お風呂上りの清潔な肌に、木綿の浴衣が心地よい。久しぶりの自分の布団は、懐かしい感じさえした。



 
愛×2



「・・・!?」
 気配に居住まいを正したとき、そこにはもう兄弟の姿があった。
 ガクラン姿のまま、正座をして。
「・・・小龍・・・」
 羽使いの弟は、生真面目な表情をこちらに向けている。
 は、無意識に胸のあわせを直し、戸惑いの表情もあからさまに小龍を見やった。
「もう、寝るところだったんだけど」
 警戒の色は硬い声音にもありありと表れていたけれど、は隠そうとしなかった。
 無防備で無邪気な子供では、もはやないのだ。
 小龍は握った両のこぶしを、それぞれ膝の上に置いて、わずか目線を下に逸らした。
「済まない・・・戻ってきて早々、しかもこんな時間に・・・迷惑だろうとは思ったけど」
 途切れがちな言葉を、どうにか押し出すような話し方は、何か思いつめているようだった。
 ある予感に、の心臓は強く鼓動する。
「・・・今回の仕事が終わったら、言おうと思ってたから・・・」
 くらくらする、目まい。
 再びこちらを向いた、小龍の顔が、ブレて二重に見える。
「・・・ずっと、好きだったんだ。俺と結婚してくれないか」
 ・・・二人が、同時に、言ったように聞こえた・・・。

 あの夜、項羽の真っ直ぐな告白を冗談にしてあしらってしまったこと、確かにずっと後悔していた。
 その、贖罪だったのか。
 それとも、ああいった形で双子の兄を亡くしてしまった小龍に対する同情だったのか。
 もしくは、恋か・・・。
 自分でも分からぬうち、は小龍に身を委ねていた。求められるままに。
 小龍に項羽の姿が重なったことだけは、否定できない事実だった。
「辛いのか・・・? 
 そう言って、体を重ねたまま優しく抱きしめてくれる。
 密着する素肌から、胸の鼓動がじかに伝わる。
 耳元にかかる、熱い息。
 意識が混濁して、どちらがどちらか分からなくて。はせめてもと、自分からも腕を差し伸ばした。

「なあ、本当に、良かったのか・・・?」
 戸惑いからか、半ば独白のような小龍の呟きに、は、
「・・・今更だわ」
 少し笑みを含ませ、答える。
 その自嘲じみた響きが小龍の胸に刺さり、いたたまれなくなる。
 そっと身を起こすと、に背を向けた。
「俺は、の意思を無視しちまったのか・・・?」
 拒まれなかったから、良いのだと思った。
 愛しい気持ちと体の欲が混じり合って、止められないほど夢中で抱いた。
 の本意ではなかったとしたら。
 情を通じた今になって、一体どうしたらいいのか。小龍には分からない。
「俺・・・」
「小龍・・・違うの・・・」
 は自分も起き上がり、右手を伸べた。しかし素肌に触れることにまさに今抵抗を覚え、そっと手を下ろす。
 乱れ置かれたままだった浴衣に袖を通し、じっと、小龍の背中を見つめていた。
 夫となった人の背は今、小さく頼りなげで、を切なくさせる。
 急に部屋の温度が下がったようで、浴衣越しに自分の身を抱き、膝で少しにじり寄った。
「・・・正直に、言うね」
 夫婦になったのだ、隠し立てしていても仕方ない。
「私・・・、分からない。はっきりしないの・・・。小龍を好きなのか、それとも、項羽に愛されたかったのか・・・」
 重なった面影が、ずっと離れなかった。
 腕に抱かれても、肌を合わせても、尚。
 亡くした人だから愛しく思えるのか、本当に好きだったのか、それとも幻か・・・幻が、目の前にいる人への気持ちを鈍らせるのか・・・。
 混沌としているうちに、こうなってしまった。
「・・・なんだ・・・」
 こわばっていた肩から、ガクッと力が抜けたのが見て取れる。
「そんなことか」
 一つ、頷くと、小龍は体ごと振り返った。
 今にも泣き出しそうなの表情に気付き、出来うる限り優しく笑んでみせる。
 そんな小龍の心に浮かんでいたのは、兄がいつも見せていた笑顔だった。
 あんなふうに、笑いかけてあげようと。
「あのとき、言っただろう。俺を通して兄貴を見ていたって構わない。・・・だってもう、項羽兄さんは、俺の一部になったんだから」
 焦りや苛立ち、嫉妬など、今は昇華され、兄を近しいものと感じていた。
 自分自身を慈しむのと同じように。
(兄さん・・・)
 そして、項羽もを心から愛していたことを、知っている。
「ねぇ・・・二人分、愛するよ」
「・・・・・」
 ふわり舞う白い羽。
 確かに、項羽が見えた。
 白羽の中で、項羽が微笑んでくれていた。
「・・・小龍・・・」
 今やためらいなく胸に飛び込み、白い羽に包まれながら、はそうとも知らぬうちに泣いていた。
「ずっと・・・一緒だよ」
 ぎゅっと抱きしめながら言ってくれた言葉に、また新たな涙があふれ出る。
 羽越しに、項羽が抱きしめていてくれるのを、感じていた。
 とてもとても幸せで・・・、ちょっぴり、哀しかった。



      END




 ・あとがき・

「風連」本編ラストはマルチエンディングでも面白いかも、と思っています。それぞれのキャラ落ちで。
そう考えたとき、一人くらい夜這いかけてくる人がいてもいいよね・・・と。
じゃあ夜這い担当は小龍で! なんてプロセスで出来たおはなしです。
なし崩し的に関係してしまって、でも悩んでいるちゃん。
それも全部包み込めるくらいに、小龍も成長した・・・ってとこかな。
これでちょっと、原作の小龍っぽくなったかも。
そんなこんなで、めでたく小龍のお嫁さんですよ、ちゃん。




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