白羽の想い <後編>



 項羽を倒した夜叉の白虎が、項羽に化けて入り込み、琳彪を不意打ちにした。
 二人の仇は小龍が取ったが、兄弟たちを失った食卓は寂しく、誰もが言葉少なだった。
 それでも、は、黙々と食べていた。
 残さず、食べた。

「里に帰れ、
 縁側に座って月を見上げていたら、いきなりそう声をかけられた。
 微動だにしないの隣に、兜丸は片足投げ出すように座り込む。
「これから先も、何人死ぬか・・・」
「覚悟の上よ。竜魔のあんちゃんが言ってた通り、項羽も琳彪も務めのために死んだのよ」
「・・・」
 確かには、一族の掟や役目について、よく理解している・・・小次郎よりも、よっぽど。
 を前線に出したくはないと思う方が、忍びに不必要な情なのだろうか。
 それでも。
「お前には無理だ」
「どうして無理なの!?」
 はバッと立ち上がり、怒りもあらわに兜丸をにらみつけた。
「兄弟たちが死んでも、自分が死ぬことになっても、受け入れるわ。それが私たちの一族なんだから。戦いだってできるのに・・・他に必要なものって何なのよ!?」
「・・・
 伝わらない・・・言葉が、足りなすぎて。
 兜丸は唇を噛んだ。
「とにかくもう、そーゆー話は聞きたくないから!」
 兜丸に背を向けたとたん、何かにぶつかった。
「・・・劉鵬」
「もう少し、月見でもしよう」
 劉鵬はを座らせた。
「兜丸も俺も・・・、多分他の皆も同じだ。を守りたいんだよ」
「自分のことくらい、自分で守れるわ」
 予想通りの憮然とした答えに、劉鵬は笑む。
「お前が里にいて、俺たちを迎えてくれると思えば、ずっと戦いがいがあるってことだ」
 守るべきものがあれば、強くなれる。
 とっておきの笑顔で待っていてくれたら・・・と、思うのだ。
「・・・項羽も、そう願っていた・・・。だろ?」
 カマをかけたつもりだった。
 果たしては、月光に照らされた顔を一瞬こわばらせ、下向けた。
「・・・知らない、そんなこと・・・」
 心に広がった波紋が、声をわずか震わせる。悟られたくはなくて、は話を戻した。
「・・・私は置いていかれたくないの。みんなと一緒に戦いたい・・・どんなことがあっても。一族に生まれたさだめを全うしたいの!」
「・・・」
・・・」
 重ならない、望みと願い。
 それぞれで見上げた月は、冷たく冴えていた。

 シンクロの大会も終わった、後日のこと。
 霧の名残を全身にまとわせ、は小次郎の前に姿を見せた。
「・・・
 小次郎の隣で立ち止まり、道端に目を向ける。
 石を積み重ねた小さな塚が二つ並んでいて、それぞれに青い花が供えてあった。
 小次郎が一人で勝手に作ったお墓・・・琳彪と、項羽の・・・。
「こんなことして・・・。霧風に、叱られたでしょ」
「ああ。この間さんっざん小言食らった」
 だからそれ以上は言わなくてもいい、というように、小次郎はを目でけん制する。
 は、お墓をぼんやり見つめたまま、かすれた声で言った。
「風魔のすることじゃないわよね」
「お説教は聞き飽きたってんだよ」
 うんざりだと、耳に指を突っ込みぐりぐりやっている。
 里にいたころから、見て見ぬふりをしていた。忍びらしからぬ、小次郎の行動。
 でも、小次郎はこのままでいて欲しいと思う。
 例え、風魔の忍びとして認められずとも・・・。
「・・・私にも、手向けさせて」
 は二つのお墓に向き直ると、花びらを降らせ始める。
 お得意の技かと思い身構える小次郎だったが、普通の花だと気付いて肩から力を抜いた。
 白い花びらが舞い踊るさまは、項羽の白羽陣を思わせる。風に翻弄されながら、香りを振りまき、ひらひらと降り積もってゆく。
「・・・琳彪は、私に技を教えてくれたけど、項羽は、形あるものは何もくれなかった・・・」
 残ったのは、形のない切なさだけ。それは、真剣な想いを真っ直ぐ受け止めてあげなかったことへの、後悔・・・。
 花びらが敷き詰められた光景は、ぼんやりとした夢の中のようで、胸が苦しくなってくる。
「・・・私、項羽に悪いことをしてしまって・・・。謝ることも、できないまま・・・」
 相手は弟の小次郎なのに・・・いや、だからこそか、は口にせずにはおれなかった。
「・・・」
 霧によってわずか湿った花を踏みしめ、小次郎はの横顔を見る。
 そこにはっきりと刻まれた憂いに、内心、驚いていた。
 も他の兄弟と同じように、二人の死を割り切っているように見えていたから。
・・・」
 いくつか、かけるべき言葉を考え、また打ち消して、その末に小さく呟く。
「・・・亡くしてしまってから、ああすれば良かったとか、あんなことしなきゃ良かったとか、思っちまうモンだよな・・・」
 ふいとお墓に目を向ける。の白い花にうずもれて、そのたたずまいは清しかった。
「おめぇが何やらかしたのか知らねーけどさ。大丈夫、項羽の兄貴なら笑って許してくれてるさ」
 心がけて声を上げ、小次郎は両手を頭の後ろで組む。
「・・・そうかな・・・」
 それでも浮かない顔・・・見てはいられない。小次郎は両手を伸ばし、の口端をくいっと持ち上げてやった。
「なにすんのよ」
 にっこりの形をした口で、ムゴムゴとは抗議する。
「元気の出るおまじないってやつだよ。友達に聞いたんだ」
 小次郎はいつもの快活さで微笑んでいた。
「・・・友達?」
 誰それ? おまじないって?
 いくつか疑問は浮かぶが、小次郎が心配してくれているのはよく分かった。
(小次郎に心配されるようじゃ、おしまいだわ・・・)
 も、両手を小次郎の顔に持ってゆき、唇をぐにっと持ち上げてやる。
 なるほど笑った顔に見えた。
「・・・くっ・・・」
「・・・ふふふ・・・」
 互いの顔が可笑しくて、自分達のやっていることに吹き出して。
「あはははは!」
 重なる笑いが、止められなくなる。
「ははははは・・・!」
 笑い声は天に吸い込まれてゆく。
 尚も二人は、笑い続けた。
 大きな声で、笑った。
 涙が出るまで・・・、笑い合った。



                            END




  ・あとがき・

う〜ん、やっぱり切ない。
でも風小次って、こういうお話なんですよね。特に原作では、人がバタバタ死んでいくのに、感傷もなく・・・。
といっても、こうヒロインを据えて書くと、やっぱり何でもないふうには出来ない。ドラマで小次郎が素直に感情を出しているのも、同じような理由でかな? と思います。
あそこまで無感動に徹した(?)車田先生はスゴイけど、どーしても、情を入れたくなってしまうよ・・・。そういえば、アニメ化されたときもそう思ったなぁ。アニメでは小次郎、死に目にあって叫んでいたような気が・・・(おぼろげな記憶)。

自分には能力もあるし、覚悟もできているから、戦いたいというちゃん。この点に関しては、竜魔に言われたとしても、ちゃんは譲りません。
でも、どこまでも守ってやりたいと考える兄弟たち。
今の時点では、結末がどうなるのか考えていませんが・・・。

小次郎の言うとおり、失ってからあれこれ後悔しちゃうものだけど、項羽はきっと、ちゃんと気持ちを伝えられたことで満足していたんじゃないかな。
死ぬのは里に残してきた者のため、というのも、語り継ぐ話の中で生きるというのも、原作にはない考えだけど、いいな・・・と思いました。

さて次はどこのシーンを書こう。
蘭子さん全然書いてないなぁ。
小龍のことも書いてない。
まぁ、楽しく迷うとしましょうか。





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