欲しいものなら、力で手に入れる。
 力で手に入れられないものなんて、この世にはひとつもない。
 そう信じて、夜叉の中で生き残ってきたから。
 どうしても自分のものにしたい娘−という名前の−を、つかまえた。
 抱きしめたとき、そのあまりの小ささと柔らかさに、ひるんで。その上がおびえて泣き出したものだから、思わず、手を離してしまった。
 泣きながら逃げて行ったの小さな背中を、黒獅子はただ呆然と眺めていた。


 
恋とは不思議なことばかり


「・・・それは、お前がそれだけちゃんって子を大切に想っているってことだろ」
 いいことじゃないか。と言い添えて、劉鵬は微笑んでいる。
 黒獅子は何となく身の置き場がない。人一倍でっかい身体だというのに。
 もやもやする気持ちを持て余し、しかし夜叉の奴らに話したところでまともな返答を得られるとは思えなかったから、思い切って風魔のこの男に相談をした。
 いまいましくはあったが、正解だったと思う。劉鵬は笑いも茶化すこともせず、真剣に話を聞いてくれたし、気付かせてもくれた−そう、初めて気付いた。
 を、大切にしたいという気持ちに。
 ただただ押さえつけ、意志も無視して自分のものにするのではなく。彼女の方から飛び込んできてはくれないだろうか、と、願っている。
「俺はどうすればいいんだ・・・」
 何しろほとんど一目惚れで、黒獅子はのことを手下を使いあれこれ調べたものの、はこちらのことをよく知りもしないのだ。
 ・・・それなのに抱きついたりしたなんて、単なる変質者と思われたのではないか。と劉鵬は心配したが、生まれて初めての感情に翻弄され思い悩んでいるらしい黒獅子を素直に応援したい気持ちになっていたので、努めて明るく提案をした。
「プレゼントでもしたらいいんじゃないか。花とか」
「花・・・か」
 の好きな花も、調査済みだったはず。
「・・・礼は言わねーぞ!」
 いきなり突っ張りつつ立ち上がった黒獅子を、劉鵬は相変わらず穏やかな表情で見上げた。
「礼は、うまくいってからでいいよ」
「言わねーっつってんだろ!」
 ダッシュで走り去ってゆく。
「・・・可愛いなぁあいつ」
 くすっと笑う。彼女も、奴の良いところに気付いてくれればいいのだが。

、最近元気なくない?」
 仲良しの友達と二人での帰り道、は、そんなことないよ、と笑って見せるがその笑顔も弱々しい。
 不良っぽい大きな男にいきなりつかまえられたショックが尾を引いているのだった。
 非力で気も弱い自分が、あんな怖い人に目をつけられでもしたら・・・。
(おしまいだわ・・・)
 季節は春爛漫だというのに、ちっとも気が休まらない。
「ホントに大丈夫? 
「う、うん・・・」
「おい!」
 野太い声が背後からしたので、女の子二人は同時に振り向く。
「あっ・・・」
 の顔からさーっと血の気が引いた。
 金髪、彫りの深い顔立ちの、体格の良い男・・・この間の人だ・・・が、道の真ん中に仁王立ちしている。それだけならまだしも、彼は右手に、なぜか桜の木を支え持っていた。
 花の咲いた木をどこからかひっこ抜いてきたのだろうか、木の根っこには土がたくさんついている。
 普段の通学路に全くそぐわない、異様な光景としか言いようがなかった。
「これを、やる」
 ぶっきらぼうに言われ、桜の木を示される。
 やると言われても、わけが分からない。
 だが、さっきまで土の中にしっかりと根を張っていただろう桜が、不自然なかたちでこの乱暴な男の手の中にあるのを目の当たりにして、は黙っていられなくなった。
 彼女は、花の中でも桜をことに好んでいたのだから。
「どうして、そんなことをするの、ちゃんと戻してあげて・・・桜が、かわいそう!」
 言ってからハッとした。
 友達も、目を見開いてを見ている。・・・こんなに大きな声でものを言うような子じゃないのに。
 不良は、あっけに取られたように立ち尽くしている。今のうちに、と、友達はの手を引いて逃げた。も、恐怖に全身が震える心地で、とにかく走った。
 大好きなに、怒られ逃げられてしまい、黒獅子はしばらくの間、その場を動くことすら出来なかった。
 金の髪に、紅の花弁がはらはら降り注いでいた。

「怒って逃げていってしまったぞ!」
 お前のせいだといわんばかりにスゴまれても、劉鵬はのんびり口調で、
「え・・・花を贈って怒るかなぁ」
 ことの顛末をつぶさに聞かされてさえ、唇に微笑を浮かべ黒獅子を見上げるのだった。
 恋をしている男の一途さを、羨む気持ちはあっても笑うなどとんでもない。
ちゃってコ、優しいんだな。それで、その桜はどうしたんだ?」
「元に戻した」
「じゃあ、あとはストレートに伝えるしかないよな。何も悪気があったわけじゃなくてその逆なんだから、ちゃんと言えば分かってもらえるよ」
「・・・もうお前のアドバイスは信用しねぇ!」
 花を贈れだのストレートに伝えろだの。やはり相談相手を間違えた。
 黒獅子は乱暴に立ち上がると、ドスドスと去っていった。

「・・・桜、ここから取ったから、ここに戻した」
 別に待ち伏せていたわけでも何でもない。けど。
 花を見ながら考えていたら、たまたまが通りかかった、小さな公園の桜の下。
 はこちらに気付くやまたも逃げようとしたけれど、大きな声で呼び止めたら、ぴたっと動かなくなった(恐怖で金縛り状態になったのかも知れない)。
 しかし黒獅子の言葉を聞くと、ぎこちなくだが微笑んで、
「・・・良かった」
 と呟いた。
 友達はあれからのことを心配したり、あのゴツい男は悪い奴に違いないと、どこまでも妄想を広げたり大忙しだったものだが、今現実に遭遇した彼は、なぜか怖くない。
 桜の下だからかな、と、は思う。
 自然な状態で花開いた桜たちは、景色をふんわり優しいものに変えてくれるから。
 その魔力に似た秘密を、は知っている。
 危険なようで、それでも、惹かれてしまう。
 締めつけられるような胸の痛みが、に伝えている−。
「きれい」
 つと近付いて花を見上げる、の横顔の清廉な白さ。
 手を伸ばせば届く距離に自ら来てくれたことは、黒獅子を驚かせ、また同時に喜ばせた。
 だけど今度は自制した。
 触れればたちまち散ってゆきそうな儚さを恐れてもいたし、希望を持ってもいたのだから。いつか優しくこの腕に抱ける日が来るのかも知れない・・・そんな、新しい希望を。

 花の中に、二人で立っていた。
 ただそれだけで、心が満たされ幸せな気分になれることは、黒獅子にはちょっとした不思議だった。
「また、会えねぇか」
「・・・明日ね、また、ここで」
 交わされた小さな約束。
 もっとたくさんの不思議にこれから出会うのだろうかと、黒獅子はほんの少しだけ恐れつつ、の小さな後ろ姿を見送った。




      END




 ・あとがき・

リクエストいただいていました黒獅子ドリームです。大変遅くなりましたー。読んでいただければ嬉しいんですけど・・・。
書き始めたころは、桜まだ咲いていませんでした。今年は本当に寒くてね、桜も遅かった。
しかし今は、梅雨・・・(笑)。
しかもこの話、プロットは一年以上前に作っていたんですけどね。

ちょっと可愛い純愛話。黒獅子の相談相手は、劉鵬しか思いつきませんでした。ま、パラレルだからということで、敵同士なのに友達みたいになってますね。

ひそかに身長差カップルが好きだったりもします、私。





web拍手を送る ひとこと感想いただけたら嬉しいです。(感想などメッセージくださる場合は、「恋とは不思議なことばかり」とタイトルも一緒に入れてくださいね)


お好きなドリーム小説ランキング コメントなどいただけたら励みになります!





ドラマ版に戻る


H22.6.26
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送