しんと冷える夜の、静かな寝入りばなのこと。部屋の外から、不意に声がかかった。
『劉鵬、入ってもいい?』
妹・・・の、いつも通り快活な調子に、劉鵬の意識はいっきに冴え渡り、布団から跳ね起きた。
凍える夜には
「・・・で、こんな時間に、何の用だ?」
とりあえず中に入れると、は掛け布団の乱れに素早く目をつけ、勝手に枕元に座り込むと足を伸ばして布団の中に入れた。
「あったかーい」
コタツにしているらしい。・・・それにしても、何しに来たのか・・・。
状況が掴めず突っ立っている劉鵬を、背中を丸めたままのが見上げている。
「寒いからなかなか寝付けなくて。そんなときにはやっぱり人肌だよね、って思ったの」
「・・・えーっ、おいおい・・・」
確かに何年か前には一緒に寝てやってもいたけれど、もう子供じゃないのだ、そんなことが許されるわけはない。
だって分かっているはずだろうに・・・。
劉鵬には、妹の真意がはかりかねていた。
「・・・ダメ?」
「ダメだろ」
あっさり即答されると、は勢い良く立ち上がった。掛け布団がさっきより更に乱れる。
「じゃあいいよ。小龍か霧風か誰かのところに行くから」
身軽に畳の上を渡り、戸に手をかける。
「あ、待て待て、ちょっと待て!」
背中で慌てている劉鵬に、したり顔では舌を出した。
もちろん、劉鵬にその表情は見えていない。
劉鵬は、他の奴のもとへ行かせることだけは阻止せねばと必死だった。
「・・・あのなぁ、俺だって男なんだぞ」
「うん、知ってるよ。劉鵬が女じゃないことくらい」
「・・・・・」
結局、元通りに布団に足を入れて丸くなり、ムリヤリ暖を取っている。
劉鵬は相変わらず棒立ちで、そんなを扱いあぐねていた。
「もっとあったかい方がいいな・・・。劉鵬、ここに来てよ」
自分のお尻の隣にある枕を、ぽんぽんと叩く。劉鵬はいよいよ困り果て、腕組みをした。
「・・・いくら寒いからと言って、嫁入り前の娘のすることじゃないだろ」
「いいのいいの。私、劉鵬のお嫁さんになるから」
あまりに軽い調子で言い放たれたものだから、うっかり流してしまうところだった。
劉鵬は思わず目を見開いて、を凝視した。
にこにこして頷いて見せているの様子は、冗談のようにも見えない。
「ねっだから隣に来てよ」
無邪気に大胆に誘われて、劉鵬は目を逸らした。
「お前はそれで良くても・・・俺は・・・」
「えっお嫁さんにしてくれないの?」
「あーいやいや、そうじゃない。お前さえ良ければ、そりゃいつでも・・・もらうよ」
すねるようなが可愛くて、言葉の最後で劉鵬は笑っていた。
前から好きだった。妻にできれば、と願ってもいたのだから。
「やったぁー。じゃあいいでしょ、あっためて」
「うーん・・・」
二人で布団の上なんて・・・はあったまりたいだけかも知れないが・・・、襲ってしまいたくなっても仕方ないシチュエーションではないか。
結婚前に、それはいけない。理性で抑えることは可能だろうが、こっちが一方的に苦しむことになる・・・。
「・・・・・」
劉鵬が一人悶々と思い悩んでいるうちにも、は期待に満ちた瞳をキラキラと注いでくる。
とうとう腕組みをほどき、劉鵬は息を吐いた。
「・・・今日は特別だぞ」
結局のところ、に逆らえやしないのだ・・・自嘲しながら、しかし劉鵬の表情は朗らかで優しい、いつもの兄貴のものだった。
枕を外して、の隣に座る。二人こたつに並んでいるような格好になった。
「わーい」
早速ぴたり寄り添ってくるを、肩を抱き寄せるようにして受け入れた。
劉鵬としては結構思い切った行動だったが、やましい気持ちはなかった。
いずれ一緒になってくれるというのなら、何も今焦る必要はない。それよりも、が安心して暖かく眠れるなら、そのために役に立てるなら、それでいいと思えた。
「でも、もう寒いからって来ちゃダメだ」
釘を刺すのは忘れない。
こんなことがしばしばあっては平静ではいられないし、里の者の間にあらぬ風評の立つのを恐れるのだ。
は体重を預けたまま、小さく頷いた。
頼もしくて温かくて優しい、大切な人に包まれて、早くも夢見心地・・・。
「・・・じゃあ、早くお嫁さんにして・・・。いつでもあっためてもらえるように・・・」
自分の声なのに、遠くで揺らいでいた。
わずか身じろぎをする気配に、が首をめぐらすようにして見上げると、大好きな人は大好きな笑顔でこちらを見つめている。
「・・・春にでも」
もゆったり微笑む。
「早く、春になればいいなぁ・・・」
まだ年も明けぬというのに、今から待ち遠しい心地で、もっとすり寄った。
劉鵬は腕に力を加え、強く抱きしめてくれたけれど、それ以上は何もする気がないようだった。
半分ほっとしたけれど半分がっかりして、はそれでも、こうしているだけでぬくぬく幸せだと思い直す。
(春になったら・・・)
それまでは兄弟として、思い切り甘えることも許されているのだから−。
は目を伏せる。本当に、眠たくなってきた。
動かなくなった将来の花嫁を、劉鵬は優しく見守り続ける。
二人きりの部屋は、火の気もないのにほんわりと暖かだった。
END
・あとがき・
なんか前に書いた春の話と似た感じになっちゃった。劉鵬ってこんなイメージなのね、私の中では。
冬本番を迎えたので、大好きな人に温めてもらう話を書きたいな、と思いました。白羽の矢が立ったのが、劉鵬。
考えてみれば、私、劉鵬ドリームを一番多く書いているような気が・・・。大好きキャラだし、書きやすいのかな。
劉鵬にそばにいてもらえたら、本当に幸せだと思う。
お嫁さんになるっていうドリームが、このジャンルでは多いんですが・・・、風魔の里って結婚が早い気がするの、何となく。
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