ようやく訪れた、里の春。
陽光うららかな中、吹く風に花が舞う。
いっせいに開いた桜が、目にも麗しく、散ってゆく。
霧隠れ
一番お気に入りの巨木のもとで、は桜吹雪を見上げていた。
真剣な面持ちで、ただじっと。
隣に立った兄弟に、注意さえ払わずに−。
「何を、しているんだ」
しびれを切らした霧風の方から問うと、やはり前方から視線を移すこともなく、は上の空で答えるのだった。
「技に、使えないかなあって・・・」
の忍術は、主に花を使う。
絢爛な桜吹雪の中に身を置いていながら、ふんわり見とれるよりも技の開発にいそしむ辺り、何ともらしいと言うべきか。彼女の頭の中は、強くなりたい、一人前の忍びとして認められたいという想いで一杯なのだ。
それがために、の意識はこちらに向かない。
いつもいるのに・・・そばにいるのに。
悔しさを自覚するのと、辺りが白くぼやけ出したのとは、同時だった。
「霧風?」
霧は花の色を滲ませる。水分を含んだ花びらは、やがて舞うことをやめた。
−霧に目隠しされ、取り残されては、もうこちらを見るしかないだろう−
「どうしたの?」
そう言いながらも、微笑んでいる。
の素直さに、なぜか泣きたいような気分になってしまうから、霧風はつとめて抑揚なく言を発した。
「濃い霧の中に、を隔離したかったんだよ・・・」
自分たちを取りまくもの全てを、見えなくしてしまうように。
お互いしか見えなくなるように−。
「そっかぁ」
花の消えた世界で、それでもはきれいに笑っていた。
「・・・霧風とだったら、いいよ」
霧を透かして尚さえざえと、霧風のたたずまいは美しく、生来の端正な顔立ちと相まってを見とれさせていた。
二人きり隠れているのをいいことに、自分から、そっと霧風のガクランにくっついてみる。
同期だからという以上の親しみを感じていた・・・前々から。
他の人にはなかなか本音を見せない彼が、自分の前でだけは打ち解けた表情を見せてくれるのを、知っていた・・・。
「例え戻れなくたって・・・いいよ」
「じゃあ、一緒にいよう」
かすかに笑って、抱き寄せる。
竜魔が片目を失ったあのときから、人との距離を置くようになったけれど・・・。
のそばに、いたいと思う。
何があっても、今度は守り抜くから。
こうしていると、幻想的な霧の中に二人溶け込んでゆきそうで。
夢の中のようにぼんやりとした視界を、はゆっくり閉ざした。
優しく触れた口づけも、そのまま受け入れて。
二人、霧の中で−。
END
・あとがき・
多分、満開の桜の下、一か所だけ濃い霧が発生しているのを、兄弟たちは「?」と思っていたでしょうけど(笑)。
今まで霧風を書いていませんでしたね、意外に。ということで初霧風ドリームです。
ホントに彼は王子様ですねー、キレイな顔立ちしてます。
クールで、いつも一人なので、ドリームでも何となく淡い感じになっちゃうかな。でも、付き合い悪い霧風も、同期でもあることだし、ちゃんには親しく接しているようです。
ちょっと、普段の彼にはない「嫉妬」というところを書いてみました。
でも人にではなく、桜の花に嫉妬、ということで。
私の住んでいるのは北国なので、今、桜が満開。
桜が大好きで、毎年、桜の話を書かないと気が済まない私です。
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