「・・・、俺のそばにいてくれないか。一生大切にするから」
「劉鵬・・・」
「俺だってお前のことずっと好きだった。二人分、幸せにするよ」
「小龍・・・」
「お前のことは俺が一番よく知っている。後悔はさせないから、俺を選んでくれ」
「霧風・・・」
「ヘン、お前らよくみたいなのにプロポーズなんてするよなァ。女の子はやっぱ、メルヘンじゃないと」
三人は、ニヘラっとしている小次郎には食傷ぎみだとばかりに目をくれもしない。
ただだけを、真っ直ぐ見ていた。
「「「、俺と結婚してくれ!」」」
一度だけ
四忍もの兄弟を失いながらも今回の務めを果たし、白鳳学院から引き上げてはや半年余り。風魔の里は、一応、平穏な日常を取り戻していた。
すっかり落ち着いていたにとっては、寝耳に水だったのだ。竜魔の、
「お前もそろそろ嫁いでもいいころだな」
という言葉は。
驚きを隠し切れないに、柳生屋敷で一度聞かさせていた男たちは、それぞれの言葉で早速申し入れたのである。
「・・・えーと・・・、みんなの気持ちは嬉しいんだけど、その・・・」
真剣そのものの劉鵬・小龍・霧風を前に、は困り果て、長兄の方に目をやる。
竜魔は、軽く頷くようにして見せた。
「何も今すぐというんじゃない・・・。よく考えて、返事をすればいい」
助け舟を出したつもりの竜魔の言葉は、の胸に残酷なほど深く突き刺さった。
痛みをこらえながら、ゆっくりと顔を上げると、一つだけの眼と目が合った。
その顔には何の感情も表れてはおらず、ただじっと、見つめ返してくる・・・。
「・・・・」
もはや耐え切れない。
は勢い良く立ち上がり、駆け出した。
物も言わず、兄弟たちが止める間も与えず、屋敷を飛び出した。
「・・・」
「・・・竜魔、行ってやれ」
畳についたこぶしに目を落として、低く呟いた劉鵬は、竜魔が動く気配がないことに苛立ち、バッと顔を上げにらみつけた。
「早く行け・・・!」
常の彼にはない迫力に、これまた珍しくも押される形で、竜魔は立ち上がった。
(・・・)
痛いほどこぶしを握りこんで、眉根を寄せ前方をねめつけている劉鵬の姿に、誰もが言葉を失っていた。
風に木々そよぐ。ここはかつてが、毎日のように琳彪に稽古をつけてもらっていた場所だと、竜魔も知っている。
戦えるようになりたい、強くなりたいと、ただがむしゃらに願い木刀をふるっていた娘が、今は風の音に耳を澄ますかのようにぽつりたたずんでいるのだった。
竜魔はため息近くひとつ息を吐き、妹の背後に立った。
「、あんな態度を取るものじゃない。・・・皆、お前を大事に思っているというのに・・・」
「・・・・・」
兄の説教、いつもの。
分かっていないのか、分かっていないふりか・・・。
いっそ笑いたいような気分で、はふわっと振り向いた。
「竜魔のあんちゃん・・・」
陽の光がの髪やなめらかな肌をきらきらしく彩り、囁きに近い声すら、くっきり凛と縁取る。
「私、いつも言ってるでしょ・・・私は竜魔のあんちゃんの・・・」
真っ直ぐすぎて痛い。竜魔は表情を険しくした。
「それ以上は言うな」
「ううん。言うわ」
困らせているのは分かっていたけれど、止める気はなかった。
「だって・・・項羽も兜丸も、私に大切な想いを告げて・・・遺してくれたもの・・・」
抜けるような青い空を仰ぎ見、はやわらかに微笑む。
風の中に木々の音に花の匂いに、里のあらゆる場所あらゆる風景に、兄弟たちの面影を見ていた。言葉や言葉以外のもので伝えてくれた、たくさんのことと一緒に・・・。
そのまま、ゆっくりと視線を戻す。
前に立っている竜魔の、その存在の強さに、くらくらする心地がした。それでも嬉しくて、口もとをほころばす。
「・・・だから、私も言いたいの。ねぇもしも、明日に別れることになっても・・・」
−突然の別れは、風の一族にとっての日常だから−
「私は、竜魔のあんちゃんのことが、大好き」
顔を上げたに、すうっと風が吹き抜ける。
微笑みを絶やさず、目をそらさず。
「応えてもらえなくても・・・他の誰かのお嫁さんになったとしても・・・、大好きだよ」
「・・・・・・」
泣いてわめくなら、なだめすかして済んだろうに。
穏やかに紡がれた最上の言葉が、魂を揺さぶった。古くからの想いを、浮き彫りにするように。
を見つめながら、心が固まってしまっていることを自覚し、滅多に感じない熱の中で口を開く。
「・・・、俺は、命を削ってでも忍びとして戦い抜く・・・。長くはいられないだろう」
口をはさもうとするを仕草で止め、一歩、二歩、歩み寄る。
は口を閉ざし、竜魔を見上げた。
黒髪が風になびき、右目には優しい色が宿っている。大好きな人の素敵な姿に、見とれた。
「・・・お前を大事にしてくれる奴に嫁がせるのが、お前のため・・・。・・・というのは、建前だ」
本当の想いは秘めたまま、忍びとして生きて死ぬつもりだった。
白鳳学院での任務を通し、また小次郎の姿を見ることで、何かが変わったのか−とも思う。
己の心音が、こんなに強く速く聞こえるなんて・・・。
「本当はな・・・、早く他の男のものになって欲しかった・・・お前を諦め切れるように」
もう、手を伸ばせば触れるほど、二人の距離は狭まっている。
ひっきりなしに吹く風の中、唯一の瞳はただだけを映していた。
忍びとしてではなく、一人の男として、今竜魔はに向き合っているのだった。
「あんちゃん・・・」
吸い込まれそうなほどの双眸で、いっしんに見つめてくる。可愛らしいのに強さを秘めたそのたたずまいに、惹かれていた。
本当はもうずっと前から、愛してやまなかった−。
抑えていたのは、忍びとしての生き方をまっとうするため。長兄としての自覚と責任のため。
だけど一度だけだ。
一度だけ、自分の気持ちで動くことを、決めた。
「・・・、お前のことを、好きだ」
低い声は、風と同じほどの優しさで、の心をじかに包み込んだ。
周りの景色すら遠のき、世界にたった二人きりのような・・・。
それはまるで、夢心地。
「・・・竜魔のあんちゃん・・・」
抱きしめられてもやっぱり夢の中みたいで、こっそり自分のほっぺをつねってみる。
「もう、兄と呼ぶな」
ますます強く抱かれて、腕の中、少しずつ実感がしみてゆく。
気持ちが伝わり、想いが通じ合い・・・。
愛して、愛されている・・・。
「・・・嬉しいよ・・・」
ふわり、花びらが舞う。の心のようなピンク色の、祝福の花だった。
無数の花弁が風に乗り、もはや離れない二人を芳香と色彩で包み込む。
花霞に遮られ、口付けを交わすシルエットも朧に。
「竜魔・・・」
初めて呼んだ小さな声は、木々にも小鳥にも聞こえはしない。
ただ愛し人にだけ届き、ふっと、微笑ませた。
END
・あとがき・
リクエスト強化月間で、一番最初にリクエストくださったのが智未さんでした。ちなみに今のところ、唯一です(笑)。
大好きな竜魔で、とのことで、しかも風連ヒロインでのリク♪ 固定ヒロインが好かれているのって、親としては何より嬉しいことです。
一応、番外編として書きましたが、本編エンディングにしてもいい感じかも。何しろちゃんは、最初から竜魔のことが大好きだったもんね。
智未さんありがとうございました。誰もリクエストくれなかったら寂しすぎでした(笑)。
ひそかに裏に続きますよ・・・。
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