「里に戻ったら、俺の嫁になってくれないか」
「・・・いいよ」
 にっこり笑うの、快い返事に、項羽はそのまま倒れそうになった。


 白羽雪花


「い・・・いいのか」
「いいよ。項羽のこと好きだから」
 あまりの可愛らしさに、理性のブレーキはたやすく崩壊した。を背後から抱きしめたまま、項羽はやや声を低める。
「じゃあ、今夜は・・・一緒にいても、いい?」
「うん。夜通し話そっか。そーゆーのって、久し振りだね」
 はしゃぐ様子に苦笑して、
「そんなの、子供のころのことだろ」
 肩を軽く押してやり、を布団の上に座らせた。
「俺たちもう子供じゃないからさ・・・」
 自分も片膝を立てるような格好で腰を下ろすと、の身体に腕を回した。引き寄せて柔らかな髪に触れ、首筋に軽くキスをする。
の花の匂い・・・いい匂い」
 さっきよりも夢中になって、香りを全身に行き渡らせるかのように、深く、息をした。
 くすぐったいのか恥ずかしいのか、はもぞもぞ動くので、少し体を離してやる。
「・・・そうだ、、花びらを出して。・・・白いのを」
「えっ?」
 突然言われてビックリしたけれど、にとっては朝飯前のこと。
「・・・うん」
 軽く目を伏せたの周りに、ざあっと吹くのは花舞の風。一瞬にして出現した無数の花びらが、えもいわれぬ芳香を振りまきながら、舞い踊る。
 項羽は微笑み、部屋中を満たす花たちを見回すと、すっと両手を差し出した。上向けたてのひらから白い羽が出現し、の花を追いかけるように広がってゆく。
 あまたの花と羽が、小さな部屋中に浮遊し交差し合って、二人の視界を白く染め替えてゆく。それはとても幻想的な光景だった。
「すごい・・・綺麗」
「・・・が一番、綺麗だよ」
 微笑んではいるけれど、いつもの冗談めかした言い方ではない。
 花びらと羽が作り出す紗の向こうの、項羽こそ綺麗で、は息をのんだ。
 普段とはまるで違う顔をして、羽使いはこちらを見つめているのだった。
「白って、花嫁さんの色だろ」
「・・・あ、だから、これ・・・」
 小さな羽と雪のような花、いずれも清廉な白さを競いながら、少女を彩っている。
 純白の花嫁は、何にも増して愛しい存在だった。
「・・・」
 項羽は無言のまま手を出すと、の小さな手を握る。指に指をからめるようにして、布団の上にともども身を横たえた。
 ふわあっと舞い上がる羽と花びらの中、固く抱きしめ合って、唇を重ねる。
「・・・なんか・・・はずかし・・・」
 昔とは違ってきた体をこれほど密着させるのには、抵抗があった。
「・・・どうして?」
 項羽は、髪を撫でながら優しく笑って言うのだった。
「可愛いよ、
 もう一度、口づけながら、左手でそっとそっと触れてゆく。
「ちょっと早いかも知れないけど・・・、夫婦になろう」
「・・・うん」
 項羽は線が細いけれど、決して頼りないといったものではなく、両腕に抱きしめられれば安心できた。
 身も心も委ねて、は瞳を閉じる。
・・・」
 項羽は、全身にたくさんキスをくれた。
 己以外の体温と心臓の音に、感覚が惑わされ、波にさらわれるように自分を見失ってゆく。
 それでもは、怖くはなかった。
 軽い羽と良い香りの花びらは、ひとつひとつ消えていったけれど、のまぶたの裏では、最後まで白羽と雪花が舞い続けていた。
 汚れないまま、眩しく輝きながら。


「・・・きっと、みんなにバレちゃってるよね・・・」
 布団の中でちぢこまっているとは対照的に、項羽は両手を頭の下に敷いた格好でのんびり天井を眺めていた。
「別に悪いことしてないだろ」
「婚前交渉って悪いことじゃないの? しかも竜魔のあんちゃんが倒れちゃって、小次郎も大ケガしてるこんなときに・・・」
 今更、色々後悔しているらしいの悩みも、項羽は笑い飛ばし、くるんと隣を向いて肩を軽く叩いてやった。
「心配するなって。小次郎はピンピンしてるし、竜魔だってじき目覚めるさ。それより、はゆっくり休んでろよ。朝メシ作るのは、俺が代わってやるから」
「・・・項羽・・・」
 安心する。大丈夫だって思える。
 悪ふざけばっかりしてる、なんて、例えば弟の小龍は眉をひそめるけれど、は項羽のこういう大らかさと、一緒にいることでこっちまで元気にしてくれる不思議な力が、何より大好きだった。
「ありがとう」
のためなら」
 満面の笑みでキスをひとつくれると、台所に立つための部屋を後にする。
 一人残されて、それでも布団のぬくもりに包まれたは、幸せでいっぱいだった。
 さっきまで項羽がいた枕元に、まだ消えずに残っていたひとひらの羽を見る。は指先でそれを拾い上げると、胸の上に重ね、微笑みながら目を閉じた。
(ずっと一緒だよ・・・項羽)
 ピンク色に染まったハートが、はじけそうなほど膨らんでいた。

「・・・昨夜は、眠れなかった・・・」
「俺もー」
 ぶつぶつぼやく兄弟たちに囲まれて、は顔を上げることもできず、ひたすらご飯をかきこんでいた。
 項羽は、といえば、どこ吹く風で左手の箸を動かしている。
「ごちそうさま・・・」
 普段の倍ほどのスピードで食べ終わったは、さっさと自分の食器を持って立ち上がる。
「早食いは体に悪いぜ、
 のんきな項羽に腹を立て、思わず「誰のせいよッ!」と叫んでしまい、真っ赤になって部屋から走り出て行った。
「・・・はァ・・・」
 劉鵬と兜丸は、明らかに女になったの様子に、深いため息をつく。
 持って行かれたのは悔しいが、が項羽を選んだのなら仕方がない。
ちゃん、どうかしたのかな」
 唯一何も気付いていない麗羅が、気遣わしげにしているのを、項羽は鼻で笑う。
「どうもこうも、昨夜・・・」
「わーっ!」
 兜丸がとっさに項羽の口をふさいだ。
「れ、麗羅、お前今日は掃除当番だぞ。さっさと食って、早く取りかかれ。後で俺がチェックするからな」
「はい、劉鵬さん」
 素直な麗羅は、残りの朝食を平らげ始める。
 兜丸は手を離しながら項羽をにらむが、項羽は相も変わらずの飄々とした態度で、ゆっくりとご飯を口に運ぶのだった。




                                                    END




 ・あとがき・

本編では切な過ぎた項羽を、番外編でハッピーにしようと、書いてみました。
もしも項羽のプロポーズが受け入れられたなら。
項羽ちょっと手が早いですね(笑)。しかもみんなにバレバレ・・・。三里先の針の音も聞き分けるくらいだから、色々聞こえていたのではと・・・(下品でスミマセン)。
項羽ってすごく痩せてる。体重50キロって・・・痩せすぎ! 近ごろの若い男は細いねぇ・・・。
ちゃんは花を使いますが、花びらが舞うさまは白羽陣に似ているだろうと。部屋いっぱいに広がったらキレイかな、というイメージで書きました。
なぜ羽も花も消えちゃうのか謎だけど、残ったままだと掃除が大変そうなので(笑)。

それにしても、項羽も、生きていて欲しかった。
生きて小龍と分かり合えたら、良かったのに・・・。




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