空気のひやり冷たい山中を、二人の男が歩いている。
 少し先をゆく、長身の紫髪は紫炎。ストレートの長髪は、白虎。双方、八将軍に名を連ねる夜叉である。
 ほとんど人の通らない山道も、彼らにとっては通いなれた道。やがて簡素な造りの一軒家が見えたとき、紫炎と白虎は初めて互いの顔を見合わせた。
 同期で、他の夜叉にはない絆を持つ二人には珍しい、硬い表情で重く頷く。
 無言のうち、何かを確かめ合うように。


「紫炎、白虎!」
 戸を開けたとたん、いつもの笑顔が迎えてくれる。
 二人の表情もやや緩むが、それでもには異変として映っていた。
「・・・何か、あったの?」
「いや・・・。今日は、話があって来たんだ」
 白虎は穏やかな調子でそう言って、上がりこむ。紫炎は無言で、やはり同じようにした。
 並んで座った二人の前にお茶を出すと、も普段のようには膝を崩さず、改まって膝を折った。
 幼馴染とも肉親ともいえる紫炎と白虎から、常ならぬ緊張を感じ取ったためだ。
 順番に、目を見つめることで、話を促す。
 少しの沈黙があって、紫炎が口を開いた。
・・・、俺と白虎と、どちらを選ぶ?」
 と。


 double knights



 は幼いころ、この山中に捨てられた子だった。
 夜叉に浚われ、過酷な修行の日々に身を置いていた白虎たちが、大泣きしているをたまたま見つけた。小さくて可愛い女の子を放ってはおけなく、こっそりと生活の手助けをしてやったのである。
 200人の子供たちの中で、ただ二人だけ生き残れたのも、互いの他にのおかげが大きかったといえる。をひとりにはできない・・・その想いが、二人を強くしたのだ。
 そして今、紫炎も白虎も夜叉八将軍のメンバーとなった。晴れて養える力がついたのだ、もはや年頃の娘に成長したのそばに、男は二人も必要なかった。
「紫炎と話し合って決めたんだ。に選んでもらおうと」
「心配しなくても、俺たちが憎み合うことにはならないから、正直に言ってくれればいい」
「・・・・」
 すぐには声も出せず、は二人の顔を見比べる。
 心底困った様子なのを見て取り、白虎は微笑んでみせた。
「返事は今すぐじゃなくても・・・また来るから」
 時間が取れさえすれば、揃って、また一人ずつでも、のもとを訪れている。
 捨てられた子供を憐れに思う気持ちは、一人の女性に対する恋慕に変わっていた・・・とうの昔に。
 互いにそれを感じ取り、言葉で確かめ合って、とうとう、このような結論を得た紫炎と白虎だった。
「そうだな。一生のことだから、ゆっくり考えればいい」
 今にもいとまを告げそうな彼らを、は止めた。
「待ってよ。・・・私、無理・・・どちらかなんて」
 何を言い出すのかと顔をこわばらせる二人に、は泣き笑いのような表情を見せる。
「・・・だって、紫炎のことも白虎のことも、大好きなんだもの・・・」
 大切にしてくれた。決して見捨てず、愛情をかけてくれた。
 ちょっぴり不器用な紫炎も、優しく何でもしてくれる白虎も、は同じほどに想っていた。
「・・・そう、か・・・」
 その気持ちは、何より嬉しい。
 一緒に死線をくぐり続けてきた、かけがえのない友なのだ。がどちらのことも尊重してくれるのは、有難いことだった。
「・・・だが、いつまでも三人ではいられないだろう」
 ゆっくり、白虎は諭そうとする。
「下衆だろうが・・・、お前を自分のものにしたいって、思ってるんだ・・・」
 触れたいし知りたい。それは、好きな女の子に対する、素直な願望だった。
 さすがにありていには口に出来ない紫炎に、は頷いてみせた。
 よく分かる。恋をしているのは、とて同じ。触れたい、知りたい気持ちだって。
 ただ、その対象が複数だったというのが、実のところの悩みの種だった。
「私は、欲張りだよね・・・」
 立ち上がると、二人の間に移動して、両膝を立てる格好で腰を下ろす。男たちはそれほど隙間を開けずに座っていたから、を挟んで三人、くっつくかたちになった。
・・・」
 紫炎と白虎が見下ろす先、下を向いては呟く。
「白虎のことも、紫炎のことも、大好き・・・。家族とか友達に対する好きじゃなくて」
 触れ合った腕から伝わるぬくもりが、温かな気持ちを呼び起こす。
「許されるなら、二人のものになりたい・・・どうせ戸籍もないもの私」
「・・・・・・」
 古くから温めていた、思いやりと愛情と友情が、もっとはっきりとした形を持って、それぞれの胸に根ざす。
 が顔を上げると、そのとき目が合ったのは紫炎で。
 引き合うように、初めてのキスを交わした。
 それから、白虎と。
 どちらも、ほんの短く軽いキスだったけれど、三人ともドキドキして照れくさくて、何も言えなくて。
 ずい分長いこと、そのままの姿勢で座り続けていた。

「お前をどっちが先にもらうか、今度決めてくるよ」
「ま、夜叉らしい方法で決めることにはなるだろうがな」
 カチン、カチンと紫のジッポを鳴らして笑っている紫炎を、は腰に手を当て見上げた。
「ケンカはしないでよね」
「ケンカじゃない。手合わせだ」
「まさかジャンケンってわけにもいかないからな」
「いやジャンケンの方がいいと思うよ、平和的で・・・」
 取り合わず、紫炎と白虎は玄関に向かった。も、見送るために後をついていく。
 誠士館の制服に身を包んだ二人の背中から、今までになく「男」を感じて、頼もしさと恋しさにときめく胸が苦しい。
「白虎、紫炎」
 小さく呼んで、振り返った二人に、飛び込むように抱きついた。
「・・・ありがと」
 たくさんの想いはただその一言になって、二人の少し違う感触を、体いっぱいに感じていた。
 とても、幸福な気分だった。
「・・・こっちこそ」
「ありがとうな」
 抱き返して、肩や髪に触れて、男たちもやっぱり、幸せだった。
 一般的な形ではないけれど−、これからも、一緒にいられる。
 を、守ってやれる。
 もう一度、順番にキスをして、愛情をかみしめた。







                                   END



       ・あとがき・


星矢でもデスノでもこんな話は書いていましたが、大好きなんですよヒロインに男二人。これを私はダブルキャラドリームと呼んでいます。
あ、項羽と小龍でもやりましたね。
紫炎も白虎もどっちもイイ男だから、選べないよね・・・じゃ二人とラブラブで、ってことで。
ちゃんは、先にどっちにもらわれたいかな?

しかし紫炎の紫のヅラは気になる・・・。何もあんなにあからさまなヅラじゃなくても良かったんじゃないかと思うんですが。
演じている役者さんはすごくカッコいいし、人柄も良さそうなんだけどね。
白虎は美形ですね。
紫炎と白虎は、身長差がいい感じ。二人だけで恋人同士のよう(笑)。
今度は、それぞれ単独ドリームも書きたいね。





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