は、毎日、琳彪と二人きりの時間を持っている。
 といっても、単に忍びの訓練のためであり、二人の間に何らやましいことはない。
 それは分かっている。
 分かっているけれど・・・。
「・・・気に食わんな・・・」
 が戦えるようになりたいと思っていることにも、そのために琳彪に教えを請うていることにも。不満がいっぱいの兜丸だった。


 
カラフル


「お前にゃ関係ねーだろ」
 直談判に踏み切ったところ、琳彪は木刀を両肩にかついで吐き捨てた。
には才能があるんだ。俺が伸ばしてやりてえから、していることだ」
「・・・しかし、が忍びとして働くのは・・・」
 誰もが反対している。女は男のように戦うことはしないものだ。
 琳彪も当然、そういった逆風を承知していたが、ものともしない。
「俺は俺の考えで動く。誰の指図も受けねぇ」
 聞く耳持たずといったていで背を向けかける。だが思いついたように、肩ごしに振り向いた。
 その顔には、いたずらな笑みが浮かんでいる。
「兜丸、お前単に嫉妬してるだけなんだろ」
「な・・・」
 顔色が変わった。分かりやすすぎる・・・忍びのクセに。
 立ち尽くす兜丸に、今度こそ背を向け、琳彪は歩き出した。
「ま、は俺になついているし、恩も感じてるだろうから・・・、ゆくゆくは俺のものだけどな」
「・・・・」
 兜丸は何一つ言い返せず、遠ざかる琳彪の背中をただにらみつけていた。
 ずい分な自信だ、と思うと同時、自分の自信のなさにうなだれてしまう。
 奴の言う通り、何だかんだ並べ立てながらも、結局は嫉妬しているだけなのかも知れない・・・なぜなら、ずっと前からのことを・・・。
「兜丸、琳彪知らない?」
 軽装で木刀を抱えているが、タイミングを計ったような現れ方をした。笑顔を正面から見ることができず、兜丸はさりげなく目をそらす。
「・・・また、忍びの修行か・・・」
「うん」
 悪びれないの態度に、血が逆流する感じがした。思わずの両肩を掴み、
、もう琳彪に教えてもらうのはやめろ」
 と、言い募っていた。
「なーに? 代わりに兜丸が教えてくれるの?」
 はふざけて返したが、兜丸が何も言わず、しかも怒ったような顔をしているものだから、笑みも立ち消えてしまう。
「・・・女だから、って言うんでしょ」
 いつもいつもいつもいつも、耳にタコができるくらい、兜丸には言われていることだ。
 だが今日は、少し様子が違った。
「いや・・・、それはそうだけど、もっと大きい理由があるんだ・・・」
−ゆくゆくは俺のもの−
 琳彪の声が耳に残って、兜丸をせき立てる。
「・・・毎日、お前と琳彪が二人きりでいると思うと・・・、気が気じゃない。・・つまりその・・・、嫉妬、してしまうんだ」
 自分よりずっと背の高い兜丸が、真剣にこちらを見下ろしている。その目、肩に置かれた大きな手の温かさ。何よりも、告白も同然の言葉に、は声を失った。
 その反応に、兜丸は少なからず後悔を覚える。
 いつもの自分らしくもなく、先走ったことをしてしまった。
「・・・笑っていいぞ」
 触れていられなくなり、肩から離しかけた手を、当のに掴まれた。
「・・・笑わないよ。兜丸が嫉妬なんて、・・・嬉しいもの・・・」
、じゃあ・・・」
 笑顔が何よりの答えだから。兜丸はをぎゅーっと抱きしめた。
「・・・何だお前ら、うまくいっちまったのかよ」
 琳彪が来てもを離さず、兜丸は晴れ晴れとして言った。
「お前が背中を押してくれたおかげだ」
「いや別に俺、背中押したつもりなんてねーけど・・・って聞いてねェし」
 カップルになりたての二人、お互いしか眼中にないみたいに見つめ合っているものだから、面白くない。
 しかしそこで引き下がる琳彪ではなかった。
「じゃあ、今日からもう稽古つけてやらなくてもいいんだな?」
「えーっそれは困る!!」
 は目が覚めたみたいに、パッと琳彪の方を向いた。
「だって私は、もっともっと強くなりたいんだもの!」
「・・・でも、兜丸と付き合うなら、そうも行かなくなるよなー」
「ち、ちょっと待って琳彪」
 あっさり兜丸から離れて、今度は琳彪に取りすがる。
「おいそれはないだろ
 琳彪のしたり顔に気付いて、兜丸は顔をしかめた。
 そんな男たちのやり取りも知らず、必死に頼み込んでくるの背を、琳彪は軽く抱き寄せる。
、俺と付き合えよ。兜丸は何だかんだうるせーんだからよ」
「琳彪っ」
 兜丸は口をぱくぱくさせるだけだったけれど、はさりげなく、琳彪から離れた。
「いやそこはホラ・・・私の気持ちってものが」
 兜丸は見るからにホッとした表情で頷いている。
「じゃあ、強くなりたいって気持ちと、どっちを取るかだよな」
「どっちって・・・、決まってんだろ、は俺を・・・」
「でも諦め切れねぇよな。任務につけるようになりてぇんだろ?」
「・・・、どうなんだ?」
 二人に注目されて、はたじろぐ。
 兜丸のこと、ひそかにだけどずっと好きだった。
 でも、一人前の忍びになるのも、ずっと幼いころからの夢・・・。
 気がつけば並んでこっちを見下ろしている琳彪と兜丸の前で、はますます小さくなり、上目遣いになってしまう。
「・・・どっちも・・・じゃダメ?」
 蚊の鳴くような声に、二人はいっきに脱力する。
「・・・はぁ・・・」
「欲張りめ」
「だって・・・」
 恋も夢も、全部全部、自分の両腕に抱え込みたい。
 カラフルに光るシャボン玉みたいなそれらを、何一つ諦めたくはなかった。
「・・・・・」
 琳彪と兜丸は顔を見合わせ、最後には仕方ない、といった笑みを浮かべるしかなかった。
 まだ子供のままに奔放なには、これからも振り回されそうだ・・・。
「でもは、俺のものだからな」
「分かんねーぞ。いずれは俺になびくに決まってる」
 バチバチ火花を隠そうともしない二人に、は慌てながらも、ちょっと嬉しいような、くすぐったい気持ちになるのだった。


      END




 ・あとがき・

本当は兜丸お相手のドリームを考えていたんだけど、琳彪に嫉妬するという組み立てをしたら、いつの間にかダブルキャラドリームになっていました。
ま、いずれは兜丸単独ドリームも書けたらと・・・。
二人の男にこうまで好かれたら、そりゃいい気分だよねー!




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