今日は彼氏と、ショッピングモールでデート中。はウキウキ、スキップみたいな足取りで歩いていた。
 周りの人たちがみんなこっちを見たり、ひそひそと何か話したりしているけど、もう慣れっこだ。
 彼氏の妖水・・・このハデなヘアスタイルが気にならない人は、まずいないだろう。


 
change


 妖水は黙ってについてくる。
 憮然とした顔をしているのは、カッコつけのポーズだって分かっているから、は構わず、
「この服、どう?」
「これ、かわいー」
 などと思うままを口にしながら、ショップを片っ端から渡り歩くのだった。
 そうしているうち、多くのカラフルな人たちが行き交う通路に、はふと目を留めた。
 おしゃれをした小さな女の子が、一人きりたたずんでいる。
 心細げな顔で、きょろきょろ辺りを見回して・・・。
 どうやら迷子のようだ。
 がそう思った瞬間、
「・・・ママ・・・うわーーん!!」
 女の子はにわかに泣き出した。こらえていたものが一気に爆発したように、わんわん手放しで泣き続ける。
 は思わず駆け寄った。「そんなガキ放っとけ」という妖水の言葉を背中に聞きながら。
「大丈夫? 泣かないで」
 しゃがみこんで優しく話しかけるも、子供の泣き声は一向おさまる気色を見せない。それどころか、ますます激しくなってゆくばかり。
 困ったは、後ろを振り仰ぐ。
「妖水、アレ見せてあげてよ」
 背の高い彼氏は、口をへの字にして見下ろしていた。
「・・・アレって何だよ」
「アレよアレ。あんたのお家芸」
 へたくそな手つきでマネをしてみせるに、ますます不機嫌が高じる。
「俺様のヨーヨーは、こんなガキに見せるためのものじゃ・・・」
「いいから早くっ!」
 は時々怖い。妖水はほぼ反射的に両手にヨーヨーを構えていた。
 ・・・誰もが恐れおののく夜叉八将軍なのに・・・。
 なぜかには弱いのが、我ながら滑稽だ。
 悔しさに歯噛みしながらも、
「オラー、しっかり見とけよ、俺様の技をー!」
 ヨーヨーを振り回しているうちに、いつもの高揚感に全身包まれ、高笑いがほとばしるのだった。
 周囲から、どよめきと拍手がわき起こる。
 いつの間にか妖水を囲むように、幾重もの人だかりが出来ていた。
 に抱かれた子供も、自由自在に動き回るヨーヨーにじっと見入っている・・・泣くのは忘れてしまったかのように、口をぽかんと開けて。
「どうだ! 妖水さまを尊敬したかーー!?」
 ソンケーの意味が分からなくて、女の子はまんまるい目でキョトンとしていたけれど、
「・・・おにーちゃん、すごい!」
 きらきら笑顔を弾かせて、小さな手をぱちぱち打ち鳴らした。
「じょうず! あたまはヘンだけど!」
 最後の一言に、妖水がガクッとコケ、は笑ったとき、
「ミコちゃん!」
 人垣の中から、女の子のお母さんらしき人が走り寄ってきた。
「ママー!」
 女の子はすぐにのそばから離れ、お母さんの腕の中に飛び込んだ。
 は「良かったー」と笑いながら、ヨーヨーを大事にしまっている彼氏の傍らに戻る。
「あの、どうもありがとうございました」
「おにーちゃん、ありがとう」
 お母さんに深々と頭を下げられ、女の子には笑顔で手を振られて、
「・・・いや別に」
 妖水は、ぶっきらぼうになってしまう。
 パチパチパチ・・・
 周りからも、喝采が沸き起こった。
「もう、迷子になんなよ」
 怒ったように言い捨てると、妖水はさっさと人の輪から抜けてゆく。
 照れているんだ・・・。
 可愛いなー、なんてニヤニヤしながら、も小走りに後を追った。

 また通路を二人で歩きながら、さっきの子供やママのことを、妖水は思い起こしていた。
 感謝の言葉や笑顔なんて、以前は決してもらえず、またもらおうとも思ってはいなかった。
 恐れられれば恐れられるほど、自分の強さの証だと、満足していたのだから・・・。
 隣を歩くの髪を見下ろして、妖水はくすぐったいような、変な気分になる。
 こういうのも悪くない、と思うようになったのも、と付き合うようになってからだ。
 のせいなのか、のおかげなのか。
 とにかく、このただ一人の女のために、自分は変えられてしまった・・・。
 はふとこちらを見上げ、目を細め笑った。
「さすが妖水、泣く子も笑わせちゃうなんて、ヨーヨー世界一だね!」
 明るい声に、ちょっといたずら心を刺激され、妖水はニヤリとする。
「そんな言葉だけじゃなくて、何かよこせよ」
「あ、じゃあご飯食べに行く? 特別にオゴっちゃうよ」
 無邪気なの袖を引き、柱の陰に引っ張り込む。
 向かい合う位置に立ち、顔を覗き込んだ。
「メシもいいけど、俺の欲しいの、分かってんだろ?」
「・・・え?」
 ぱちくり見上げるに、かぶさるようにしてキスを攫う。
 ほんの一瞬で離したけれど、さあっと耳まで赤くなるを、可愛いと感じた。
「な・・・何すんのよ、こんなとこで・・・!」
「誰も見てねーよ」
 ケケケッと笑いながら、物陰を飛び出した。
「さーメシメシ」
「・・・まったくもぉ・・・っ」
 赤くなって膨れるは、ますます愛しい。
 疼く気持ちが暴走しそうで、妖水はポケットの中でヨーヨーを握りつつ、の耳元に口を寄せた。
「・・・でもメシよりやっぱがいいな・・・」
「・・・バカッ」
 その単語とは裏腹に、滲んでいる甘さに、拒まれてはいないことを感じて、妖水は浮かれて歩き出した。
 ヨーヨーを離すと、手を伸ばし、彼女の手を握る。
 それは柔らかく、小さくて、何よりも愛しいものに感じられた。




      END




 ・あとがき・

去年考えた話で、ちょっと時間が経ってしまったので、どういう経緯で思いついたのか忘れましたが。
久し振りに妖水を書きたかったのかな?
妖水というと、どうしてもヨーヨーと頭と尊敬しろ、って話になっちゃうね(笑)。
そして大変ベタですが・・・。ベタベタ好きなので、自分では満足です。

ご飯よりちゃんを食べたいという妖水。
この後二人はどうなっちゃうんでしょうね・・・?




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