0と1の世界、飛び交う電磁波。
デジタル時代の申し子は、ご多分に漏れずケータイを放せず、嘘と欺瞞と罵詈雑言で溢れているネットをさまよい、顔も見えぬ人物のコメントに一喜一憂、友達からのメールには、早く、早く、レスしなきゃ・・・。
call me
「メールよりも電話で連絡を取りたい」
赤外線で番号とメアドを交換したとき、闇鬼はこう言った。
「他人の手をわずらわせずに済む」
彼は両目が不自由なのだ、もっともなことだった。
動作など驚くほど滑らかで、しかもその辺の学生なんかよりもきれいな動きをするから、普段よく目を閉じていること、そしてその目が白濁しているのを見なければ、も彼が全く光を感じることが出来ないなんて、気付きもしなかっただろう。
「メールの方が気楽でいいんだけどな」
文字ばかりでやりとりしているうち、音声通話に臆病になっている自分に気付く。
だが、目の見えない人に対し言って良いことではなかった。
すまなそうに見上げると、闇鬼は困ったふうもなく、
「それなら私を呼べばいい。どこにいても、聞こえるから」
と、言った。
「・・・まさか。呼んだだけで聞こえるわけないでしょ」
軽く流しながらも、は彼に急速に惹かれてゆくのを感じていた。
長躯に長い髪、美しい所作。何よりも、声。
落ち着いた静かな声がの心に触れ波立たせる。
その日別れてからも、ずっと耳に残っていた。
高鳴る胸に大切に抱きながら、また聞きたい、ずっと聞きたい・・・と、願っていた。
最初に電話をかけたときには、手も声も震えた。
それに対して、闇鬼は変わらぬ声で、淡々との心をかき乱した。
ものすごく緊張するのに、また声を聞きたくなってかけてしまう。
毎日の日課のようになったころには、どうやら、会話を楽しめるようになってきた。
何度かデートもした。
いつしか、離れられなくなっていた。
「も、目を閉じてごらん」
囁くような声に、やっぱりドキリとする。
良い場所を見つけたと、闇鬼が連れてきてくれた丘の上に、並んで座っていたときだった。
眩しい空と緑に顔をしかめていたところなので、言われた通りすんなり目を閉じる。
光はまぶたの裏に残り、涙が出そうにしみていた。
「視覚を閉ざせば、あとは聴覚と嗅覚、視覚に味覚・・・」
「・・・うん」
闇鬼の声に繋がるように、ざざざ・・・風に木の葉が揺らされる音が聞こえてくる。
お日さまと土と草の混じり合った匂い、手に触れている草、肌に感じる陽の温かさ、頬に当たる風・・・。
こうしてみると、普段目に頼りすぎていることがよく分かる。
闇鬼に比べれば、十分の一も他の四感を駆使していないのだろう。
「・・・気持ちがいいね」
「・・・ああ」
そっと、手を握られても、は驚いたりしなかった。
自然の美しさ、世界の素晴らしさ、そして大好きな彼を、身近に感じていた。
いつの間にか、電話以外でケータイを開く時間が減った。
メールの返信も後でいいやと思えるようになったし、空き時間などには、自分のアンテナを周りの風景に向けることが多くなった。そうして見ると、ケータイの小さな画面に没頭している人の、何と多いことだろう。
ちょっと心に余裕が出来た気がして、それが嬉しかった。
そんなある日、久し振りに自分のプロフを覗いてみたら、ひどい言葉での書き込みがされてあった。
以前なら、よくあることと、それほど気にも留めなかったかもしれない。
だが、心が敏感になっていたには、鉛の塊を飲まされたかのような耐え難さだったのだ。
目を逸らした先にあったテレビは、今日起きた殺人事件を報じている。
耳をふさぎ、頭を振った。
ケータイは置いたまま、外へ飛び出した。
空の色が良くないことに気付いてはいたけれど、無我夢中で走り、あの丘へ駆け込んだ。
あの日と変わらぬ景色に安心し、目を閉じて一人きり、音と匂いと温度と風を、感じていた。
ポツッ・・・
雨粒が、頬を打つ。
見る間に雨足が糸を引き始め、ざあざあと降り始めた。
それでも、は構わず目を閉じていた。
雨の匂いも、冷たさも、濡れてゆく身体も、今は心地良い。
悲しさはなかった。さっきの傷も薄れていた。
ただ・・・。
そばにいて欲しい人のことを、想う。
会いたい人の顔を、闇の中に浮かべる。
心をただそれだけでいっぱいにして。
「・・・闇鬼・・・」
−私を、呼べばいい−
今は、ケータイもない。
「闇鬼ーーー!!」
は声の限り叫んだ。
だけど声は雨の音にかき消される。届くわけはない。の濡れた頬に、涙が伝った。
「闇鬼・・・」
「・・・ここにいる」
「!?」
背後からの声に振り向こうとするより早く、後ろから抱きしめられた。
嘘みたい、夢みたい。信じられない・・・!
「ど・・・して・・・」
「の声は聞こえる・・・どこにいても。そう、言っただろう」
嘘、じゃない。
闇鬼の声、すっぽり抱きしめてくれる優しい腕、素朴ないい匂い・・・。
「泣いていたのか?」
「別に・・・雨に濡れただけ」
強がりもバレている。
闇鬼は少し笑っただけで、黙って抱いていてくれた。
そばにいて欲しい人が、いて欲しいときにいてくれる。
なんて嬉しいことだろう。
雨に打たれるのも、二人なら、包まれているようで幸せ−。
それから部屋へ戻った二人は、交代でシャワーを浴びた。
「・・・触れても、いいか?」
Tシャツ姿にドキドキしているのすぐ隣に来て、当の闇鬼が表情も変えずに言うものだから。
は思わず赤くなって、クッションを抱きかかえ丸まってしまう。
戸惑いを感じ取り、闇鬼はふと微笑んだ。
「のことを、もっとよく知りたい・・・」
手を伸ばし、の頬に触れる。
目の見えない彼が、こんなふうにしてくるのは、初めてのことじゃない。
だけど部屋に二人きり、しかもシャワー後という状況では、いやでも全身が緊張してしまう。
「大丈夫だ・・・」
囁きの声に、背筋がぞくぞくっとして、何もされていないのに息が苦しくなってくる。
目を閉じたら、そっと唇を重ねられた。
導かれるまま、その場に横たわって。穏やかに、だけど徐々に激しく求め合う。
「・・・闇鬼・・・、私の名前を、呼んで・・・」
夢にとろっと浸ったような声音で請われて、闇鬼は愛する彼女の濡れた髪をかきやりながら、もう一度キスをした。
「・・・」
はやっぱり夢の中のように微笑むと、両腕を首にからめ、闇鬼の閉ざされたまぶたを見つめる。
「・・・もっと」
「・・・」
「・・・いい声」
「そうか?」
声などほめられたこともない。
だが、だけは、ことあるごとに声が素敵、声が好きと言ってくれていた。
こんな声でも、が好きになってくれたなら、それでいい。そう思い直した闇鬼が、触れながら服を緩めてゆくと、その下では身じろぎをした。
「・・・恥ずかしい・・・」
「目には見えていないが・・・」
「そっそりゃそうだけど・・・」
闇鬼は全てを感じ取っている。例え瞳には何も映らずとも・・・。
「・・・見せてくれるか?」
率直な申し出に、つられるように頷いた。
闇鬼になら、いい。
感じて知りたい気持ちは、だって同じだったから・・・。
「いい匂いだ、・・・」
清潔な肌に顔をうずめ、柔らかさを堪能する。
「闇鬼・・・」
「・・・綺麗だ」
その声、言葉だけで、天の上のようで。
愛する人と一つになる喜びに、身も心も震えた。
「鳴ってるぞ」
には聞こえなかったが、闇鬼の耳はバイブ音もキャッチするらしく、いち早く教えてくれた。
でもは、気にかけるふうもなく、だるい体を動かして闇鬼に抱きつく。
「・・・いいよそんなの・・・こうしていたいもん」
ケータイを手放すことまでは出来ないけれど、無機質な文字の羅列なんかよりも、もっと素敵なことを知ったから・・・。
「また呼んだら、来てくれる・・・?」
「いつでも、行くよ」
低い囁きは耳にも嬉しい。くすくすと笑うに、闇鬼は再び手を伸ばし、顔から順に触れていった。
「・・・えっち・・・」
拒みはしないまでも、くすぐったくて恥ずかしくて、もじもじする。
「・・・今更」
珍しくいたずらな調子に、ドキンとした。
じゃれ合うようにしながらも、またお互いを深く知ろうと。
貪欲になった二人は、指と指とをしっかり絡めた。
END
・あとがき・
黒澤さんからのリクエスト、闇鬼です!
闇鬼は大好きキャラですよ。何を隠そう、夜叉方で一番好きです! 役者さんも大好き。
背が高くて声が落ち着いていて、ステキ。
脚を開く立ち姿も、木刀を下の方に構えるのもステキ。
そんなわけで、リクエスト嬉しかったです。
黒澤さんも闇鬼の声に注目されていて、声にからめた話を・・・ということでしたので、声を強調して書いてみました。
呼べば来る・・・忍びにとってはそれくらい、造作ないでしょうけど。本当にそばにいて欲しいときにいてくれるなんて、何より素敵なことだと思います。
リクエストありがとうございました!
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